空鐘小ネタ。
「小休止としましょう。お二方ともずいぶん上達しました」
馬上のウルクとリセリナにディアメルが後ろから声をかける。
「うんうん、俺は横乗りは判らないけど、安定するようになったよ」
馬場を一周する間、ずっと隣に馬を並べていたフェリオが同意した。
フェリオはウルクに乗馬を教える約束を反故にしたわけでは無い。
馬の背を跨ぐ普通の乗馬はフェリオが教えている。
今日は「乗馬服の乗馬」でなく「スカート姿での乗馬」、脚を馬体の左側に揃えて横座りする
いわゆる「女乗り」をディアメルが指導し、フェリオはそれに付き添っている。
ただしリセリナもウルクもスカート姿では無い。綿入りの乗馬服に胸当て、腰当てを付けて
肘や膝も同様に固めた姿だ。
「二人とも良く似合う」とはこの暑苦しい格好をさせたフェリオの言葉。
「私は降りてお茶を用意しますから、一周していらしてはどうでしょう?」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
ウルクが言うとリセリナは素早く姿勢を変えた。
「では用意……はいっ」
土埃を蹴立ててフェリオとリセリナが走り去る。
馬体をまたぎ、鞍から腰を浮かせて前かがみの姿勢で走る二人を見送る。とてもウルクには真似が出来ない。
姿勢だけ真似をしたとしても、今リセリナがやっているように馬体の上下を膝で受け止めて体を安定させるなど
絶対に出来そうに無い。
馬を並べて猛然と走る二人の足腰の上下はぴたりと揃っていて……。
「ウルク様、やはり暑いですか?準備は私がしますから、木陰へ」
ディアメルの何気ない言葉にウルクは大急ぎで思念を打ち消した。
たぶん顔が真っ赤になっているだろう。とんでもない連想をしてしまった。