着替えを終わらせ、イカロスを伴って部屋を出ると、ばったりニンフと出くわした。
ニンフもすぐにこちらに気付いたようで、挨拶の言葉を投げてくる。
「あら、トモキ。おは……よぅ……っ!」
「ニンフ、おはよう」
しかし、声をかけてくる最中で言葉に詰まり、智樹の後ろを見て目を見開くニンフ。
視線を辿ってみれば、部屋から出てきたイカロスがいる。
先ほどまで智樹と深いキスをして、上気した顔のイカロスが。
智樹は、ニヤリと笑いながら顔を戻す。
「おはよう、ニンフ」
「……ッ! ふん!!」
ニンフは首まで赤くしてそっぽを向いた。
あからさまな「不機嫌アピール」だが、それでも一階に下りるのに付いてくるあたり、ただ恥ずかしがっているだけなのだろう。
朝食の仕度があるイカロスとは台所の前で別れ、智樹とニンフは洗面所へ顔を洗いに行く。
ニンフはまだ赤い顔でそっぽを向いたままなので、先に智樹がじゃぶじゃぶ、ばしゃばしゃと顔を洗う。
蛇口をひねって水を止め、顔を拭こうとタオル掛けに手を伸ばし……空振り。
顔を洗う前には確かにタオルがあったはずなのに、ぶんぶか手を振ってみてもタオルの気配がない。
一体どうしたことか。
「ん」
「……ありがとう、ニンフ」
答えは、ニンフの手の中に。
智樹が顔を洗っている間にタオルを取り、ニンフが手ずから渡してくれた。
思わずニヤける顔を、ふんわりとやわらかなタオルで隠しながら水気をふき取っていく。
拭き終わり、次はニンフに渡すべきかと考えながら、しかし智樹はあることを思いついた。
ニンマリと笑いながら、タオルの乾いたところを探しつつニンフが顔を洗い終えるのを待つ。
「んん〜、っふぅ」
ほどなく、ニンフも水道を止めて顔を上げる。
つやつやした頬の上を水滴が珠になって滑り落ちていく。
「ニンフ」
「ああ、トモキ。タオル貸し……わぷっ!?」
タオルを受け取ろうと、目を閉じたまま顔を上げたニンフの手をかいくぐり、タオルを持った両手でニンフの頬を包み込んだ。
「ちょ、ちょっとトモキ! なにすんのよ!」
「んん〜、タオルとってくれたお礼?」
ぱたぱたと手を振り回して抗議するニンフの声は軽く聞き流してニンフの顔の水気を拭っていく。
ぽふぽふ、と優しく触れるようにしてゆっくりと拭いていると、そのうちニンフもじっとされるがままになってくる。
目を閉じて、目蓋や頬や唇にタオルが触れるたび、「ン……」と声を漏らしながら、ぴくぴくと震えが走るのが面白い。
あらかた拭き終わっても、智樹は手を離さない。
タオルでニンフの頬を包んだまま、じっとニンフを見つめ続ける。
「……? トモ……んんぅっ!?」
拭きもしないのに離れもしない智樹を不審に思ったニンフが目を開けて問いかけてきたのを見計らい、ニンフの唇を奪った。
タオルをそこらへんに落として直接ニンフの頬に手を沿え、とんとんと胸を叩いて離れようとしても気にせず唇を吸う。
ニンフは何につけても優しくされるのが好きなので、無理矢理抑える、というほどの力は加えず、そのかわり唇で触れて離れてを繰り返し、なんどもニンフと唇を重ねる。
そうしているうちにニンフの手は止まり、智樹の首筋に回されしっかりと抱きついてくる。
身長差の関係で智樹の首にしがみつくような形になったニンフの腰に手を添え、優しく抱きしめながら舌を差し込んでいく。
ちなみに、このとき調子に乗って尻に手を添えようとしたら本気で赤くなったニンフにぶっ飛ばされるので注意が必要だ。
それ以上のこともしているというのに。
不思議でしょうがない。
「ちゅっ、ちゅく……んんっ、ぷぁっ……んふぅぅ〜……」
そんなことを考えながらも、ニンフとのディープキスを楽しんでいく。
イカロスのときと違い、弱めの力で抱きしめながらゆっくりと舌を絡めあうと、うっとりとした吐息が漏れ出てくる。
喉を反らし、智樹にしがみついてキスを求めてくるので、自分の口の中に入ってきた舌を吸ってやると、手を回している腰がびくびくと震えた。
足に力が入らなくなってきたのか、だんだんと首に力がかかってきたのでそのまま体をかがめて床に腰を降ろしてやり、ニンフの口の中にたっぷりと唾液を流し込んでから唇を離す。
「あ……は……んっ……んくっ」
しばらく弛緩したように口を開いていたニンフだったが、智樹の唾液をこぼすようなことはなく、口を閉じてうつむいて、味わうように飲み込んでいく。
ニンフの顔を覗き込んでみると、赤い頬に惚けるような表情を浮かべ、口元は幸せそうに綻んでいた。
「ニンフ」
「ひゃっ!? な、なに? トモキ!?」
ためしに声をかけてみると、面白いほどに驚いてくれる。
ついさっきまで娼婦もかくやというほど蕩けていたのに、今はもう見た目相応の少女らしい初々しさを見せている。
「全部、飲めた?」
「……ッ! あー、ん……」
ついでなので、唾液を飲み込んだか聞いてみると、目を閉じ、口を開いて見せてくれる。
真っ赤な小さい舌がふるふると震えている口内には、智樹が注ぎ込んだ唾液の様子もない。
全て綺麗に飲んでいる。
返事を返したときからわかっていたことではあるが、そんなイタズラ地味たやり取りも、ニンフは嫌いではないようだった。
「おはよう、ニンフ」
「……おはよっ、トモキ。フン!」
またそっぽを向いてしまったが、ぶっきらぼうながら今度は挨拶が返ってきた。
赤くなった横顔は、どこか笑っているようにも見えた。
と、こうしてニンフを弄るのも智樹の欠かせない朝の日課である。