「……」
夜の窓の外の景色を白く染め上げる雪が、しんしんと降り注いでいた。
暗い部屋に木霊するのは、布団で眠る少年の規則正しい静かな寝息。
そんな智樹が眠る隣で、その様を一対の翠の瞳がじっと見つめ続けていた。
両足を綺麗に折畳み、膝に手を載せ、背筋を伸ばした姿勢でイカロスは微動だにせずに智樹の枕元で控えていた。
そして、それからどれだけの時間が過ぎただろうか。いつの間にか窓の淵に白い層が出来ていた頃、不意に部屋に小さなくしゃみが零れた。
「あ……」
目を遣れば布団に包まれていた智樹の体が僅かに震えている。
布団を足そうと立ち上がり、イカロスは最近押し入れの中身の大部分が流れていった事を思い出した。
つまりは、今智樹が包まれている布団が布団の全てである。
おろおろと右往左往するイカロスに、一つの天啓が降りてきた。
「マスター……」
ぱさりと、身に付けていた装備を脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になると、イカロスは眠る智樹の布団を捲って作った隙間に自身を滑り込ませた。
「失礼します……」
より効率的に熱を伝える為に、イカロスは正面から丸まって寝ていた智樹の脇の下に腕を通して背中を抱き、太腿で股を割り開かせた足に自身のそれを絡めて体を密着させた。
動力炉から生じた熱が伝わったのか、智樹の体の震えが収まり、心無しか寝顔が穏やかになったように見えた。
その様子に、イカロスの僅かに目元が下がる。
智樹の役に立つ事が出来た事。智樹の傍にいる事。
それだけで十分だった。
が、
「ん、うぅ……」
「あ……」
再び丸くなろうとした智樹の四肢が、今度はイカロスの体を抱き締めた。
「……」
そんな無意識の智樹からの抱擁に、イカロスは動力炉の出力が跳ね上がったような錯覚を覚えた。
制御が利かない動力の溢れた熱量に中てられたのか、イカロスの頬が朱に染まる。
やがて熱量が臨界に達したのか、どこか潤んだ目をしたイカロスは、
「わたしは……」
智樹に告げるように、
「マスターの……」
智樹に誓うように、
「お傍に、いたいです……」
自分の胸で眠る智樹の唇に、イカロスは自分のそれをそっと重ね合わせた。