「そう言えば、イカロスセンパイもニンフセンパイもアイツの事好きなんですか?」
「――っぶぅ!? ケホッ、ケホッ……! い、いきなり何を言いだすのよ、デルタ」
後輩エンジェロイドの突拍子も無い言葉に、昼ドラを観ていたニンフは啜っていた茶を思わず吹き出した。
「……マスターを、ですか?」
「はい」
ニンフの零した茶を拭きながら確認するように呟いたイカロスに、アストレアがこくりと頷く。
「まぁ、アイツがマスターなイカロスセンパイは兎も角として。ニンフセンパイはどうなんですか?」
「……あ」
何かを言い掛けたイカロスに気付かず、アストレアは興味津々といった様子でニンフに言い寄った。
「わ、わたし?」
質問をぶつけられたニンフが思わずたじろいでいると、
「そうですよ。だって、この前アイツに抱き付いてたじゃないですか」
婉曲の無い直球なアストレアの台詞に、一気に赤面したニンフが湯呑みでテーブルを叩いた。
「ち、ちょっと! もっと他に言い方があるでしょ!」
「あれ? アイツから抱き締められたんでしたっけ?」
「だーかーらー! この前のはそんなのじゃないってば! そう言うデルタはどうなのよ? まさか、そっちから訊ねておいて自分は答えないなんてないわよね?」
「え? わ、わたしですか?」
狼狽えたアストレアに、今度はニンフが不敵な笑みを浮かべて詰め寄った。
「と、友達としてなら好きですよ?」
「わ、わたしもそんなトコロよ」
アストレアの逃げに、ニンフも落とし所を見つけて一息を吐いた。
「……あの」
「はい?」
「どうしたの? アルファー?」
テーブルを拭き終えたイカロスが、じぃっと二人に向き合う。
「……ニンフ、アストレア。『好き』とは、一体どのような感情なの……?」
((お〜っと、これははまた難しいだわ))
真顔で質問してきた空の女王に、ニンフとアストレアが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「……?」
そんな二人の反応に、イカロスは器用に頭上に「?」の擬態を浮かび上がらせた。
「まぁ、それはアルファーが自分で知る事よ。こればっかりは教えて知るものじゃないもの」
「大丈夫ですよ。わたしだって分かったんですから、イカロスセンパイもきっと分かります」
「って言うか、アルファーは気付いてないだけで本当はもう知ってるかも知れないわよ? これは『そう言うもの』なんだから」
「あー……。そうかも知れませんねー?」
「……?」
視線だけで笑い合う二人を眺めながら、イカロスは無意識に胸の動力炉の上に手を乗せるのだった。