・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・  
 「私のマスターに・・・何をしているのかと聞いているんです・・・!」  
 あたりの木々が吹き飛ぶ。  
 「ど、どうしよう姉さん!?」  
 「どうしようもクソも・・・ここでマスターをあきらめられるか!!」  
 「そうだね・・・散開して戦おう!!」  
 久々に気のあったハーピィ達は一目散に散開した。  
 そして左右に散った後、例のプロメテウスを構えた。  
 「「喰らえっ!!」」  
 秒速4`の弾道がイカロスを襲う。  
 ドーン!!  
 「死ねよ、この悪魔!!」  
 ドドドドドーーーーーーンンンっっっ!!!  
 次から次へとプロメテウスを射出するハーピィ達。  
 「イカロスーっ!!」  
 一瞬の出来事に反応が遅れた智樹はイカロスの名前を叫んだ。  
 しかしその時すでにあたりは爆風と煙で何も見えなくなっていた。  
 唯一の頼りの耳には、ハーピィ達の狂喜の笑い声しか聞こえない。  
 (おい・・・まさか・・・)  
 智樹の考えが徐々に悪いほうへ行ったとき、視界が開けてきた。  
 そこには・・・先ほどとまったく同じ姿勢のイカロスがいた。  
 しかも無傷。  
 この瞬間ハーピィ達は悟った。  
 「・・・姉さん・・・」  
 「みなまで言わなくても分ってるわよ・・・」  
 自分たちに完全なフラグが立ったことを。。。  
 
 そしてついにイカロスが一歩左に踏み出した。  
 「「「っ!!」」」  
 ビクッ!!  
 それだけなのになぜか智樹を含めた三人は恐怖で体が震えた。  
 「こ・・・こうなりゃ手は一つだな」  
 「!?まだ秘策が?」  
 散開してから一分もたたないうちにハーピィ達は集合した。  
 ごにょごにょごにょ・・・  
 耳打ちするハーピィ1。  
 「・・・たしかにその方法が一番生き残れる確率が高いかもね。でも・・・それでも成功する確率は低いわ。それに下手をするとウラヌス・クイーンの怒りをさらに買うことに・・・」  
 「あの悪魔の目を見ろ。もうすでに引き返せないところにまで来たんだ。こうする以外にない」  
 「・・・そうね・・・ねぇ姉さん、もし・・・もしもうまくいったら今度は喧嘩しないでマスターにキスしよう?」  
 「そうだな・・・お互い順番にな!」  
 そうする間にもゆっくりと、しかし確実にイカロスはハーピィに近づいてく。  
 そのイカロスを見て二人はお互いに頷いた。  
 きっとうまくいく・・・そう信じて・・・  
 
 二人は智樹の後ろに降り立ち、作戦を実行した。  
 智樹の袖をぎゅっ、とつかみながらか細い声で告げる。  
 「「お願いですマスター・・・私たちを助けて下さい」」  
 これが二人の考えた作戦だった。  
 突然のことに驚いた智樹は首を振りハーピィ達の顔を見た。  
 まるで捨て犬のような顔。  
 (こいつら・・・)  
 そんな様子に智樹は決心した。  
 こんな怯えきって震えている女の子(?)を見捨てるなんて俺にはできない!!  
 「大丈夫、俺に任せな」  
 「「マ、マスター!!」」  
 爽やかな笑顔の智樹に感動する二人。  
 「私・・・マスターのエンジェロイドになれて本当に幸せです!」  
 「私もです!」  
 「おまえら・・・」  
 三人がいい雰囲気に浸っているとすぐそばから声がした。  
 「・・・マスター・・・」  
 智樹はとっさに首を戻して正面を見た。  
 目の前にはイカロスの顔がいっぱいに広がっていた。  
 「あ、あのさイカロスこれには深いわ「マスターは・・・彼女たちの・・・マスターになったのですか?」っ!?」  
 イカロスの突然の質問に絶句する智樹。  
 「マスターは・・・彼女たちの・・・マスターになったのですか?」  
 質問を繰り返すイカロス。  
 (あ、あれれ?イカロスさんマジでキレてません!?)  
 イカロスの目はニンフ救出時とは比べ物にならないくらい赤に染まっていた。  
 智樹は口をパクパクするだけで何もしゃべれなくなった。  
 「私たちはサクラ「黙りなさい」イっ!?」  
 ハーピィに睨みをきかすイカロス。  
 辺りが完全に沈黙した。  
 「マスター・・・もう一度だけ・・・聞きます。マスターは・・・彼女たちの・・・マスターになったのですか?」  
 「い、いえ、インプリンティングもしていないので、マ、マスターになっていないと思われます、ハイ・・・」  
 なぜか敬語で話す智樹。  
 「分りました・・・」  
 イカロスはそういうと今度はハーピィに対して質問をした。  
 「あなたたちはなぜ・・・マスターの事を・・・マスターと呼ぶのですか?」  
 まるで智樹のことをマスターと呼んでいいのは自分だけとでも言いたいような目を向けるイカロス。  
 「お、お前には関係ないだろ!?」  
 智樹がらみのことなのに関係ない。  
 そう言われたイカロスは眉をピクリとさせて  
 「私は・・・マスターのエンジェロイド・・・関係ないのは・・・あなた達の方・・・」  
 完全に敵対心をむきだした。  
 ウラヌス・クイーン相手にはどんなエンジェロイドも敵わない。  
 そんなことは百も承知だったが、ハーピィ達は一歩も引かなかった。  
 「ふん、ならお前はマスターにキスしてもらったことはあるのか?」  
 「っ!!」  
 「さっきも見たと思うが私たちはもう何回もしてもらったぞ?」  
 黙って下を向いているイカロスにハーピィ達はあることないこと言い放った。  
 「マスターったら積極的で・・・」  
 「もうやめてっていってるのに・・・」  
 「お、おい、ちょっとまてっ!!」  
 智樹はこの状況でこの発言はかなり、いや非常にまずいとおもいハーピィ達の口を止めようとしたが彼女たちは口撃をやめなかった。  
 「あら?マスターまだたりなかったの?」  
 「もう、マスターったらしかたないわね・・・」  
 再びキスをするハーピィ達。  
 
・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・  
   
 イカロスは一呼吸置いてから顔をあげた。  
 その顔を見た瞬間、智樹はデジャブに似た感覚がした。  
 (あれ?この顔・・・確かどこかで・・・??)  
 どこだったっけ?  
 (あ、そうだ!!更衣室でパンツ化したのがそはらにばれたときの・・・って、え??)  
 智樹の背筋が凍った。  
 さすがのハーピィもその顔を見た瞬間、自分たちがK点を突破したことに気付いた。  
   
 ハーピィはわき目も触れずに全速力でシナプスに向かって飛び去った。  
 (助けることができずにすまん!!)  
 せめて無事に逃げてくれ、と智樹は心の中で願った。  
 しかし智樹の願いもむなしく、今回のイカロスはハーピィ達を逃がす気がまったくなかった。  
 智樹の首を捻り、痛めつけた事。  
 智樹のことを智樹のエンジェロイドでもないのにマスターと呼んだこと。  
 そしてなにより・・・自らの目の前で何度もマスターの唇を奪った事。  
 すでにイカロスの感情制御機能は崩壊していた。  
 「・・・アルテミス(永久追尾空対空弾)発射」  
 数にしておよそ100発のミサイル。  
 ハーピィ二体は100近いミサイルと共に空高く飛んでいき、数秒後爆発音とともに星になった。  
 しかも念のためとばかりにアポロンを上空に向けてブッ放った。  
 「や、やりすぎだろっー!!」  
 「いいえ、彼女たちは嫌がるマスターに対し無理矢理キスをしました。マスターは大変傷ついたと思われます。なのでエネミー(敵)と見なし確実に排除いたします。」  
 いつもとは違い淡々と話すイカロス。  
 「それとも・・・マスターは嬉しかったのですか・・・?」  
 イカロスからものすごいプレッシャーが来る。  
 「えっ!?あ、あ〜・・・え〜と・・・」  
 (まぁ実際は嫌な気にはならないよな〜・・・ちょっと気持ちよかったし///)  
 しかし今この状況でそんなことを口にしていいのか・・・  
 智樹は考えてみた。  
 
 〜正直に答えたとき〜  
 智樹「まぁ俺も男だし嬉しかったかな〜・・・なんちゃって」  
 イカロス「・・・カオス・・・」  
 智樹「はっ?カオス?」  
 イカロス「・・・マスターは泳ぎが得意・・・でも・・・あなたは泳げるの、カオスっ!!」  
 智樹「ってちょ、どこ連れて・・・お、おい・・・やめろ・・・マジで・・・ギ、ギャーーーーーーーーーーっっ!!」  
 ・・・ブクブクブク・・・  
   
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 「いや、まったくっ!!俺にはイカロスだけだっ!!」  
 「っ!?」  
 ボッ!!  
 イカロスの顔が急激に赤くなる。  
 「マ、マスター・・・それは・・・あの・・・どういう・・・///?」  
 先ほどまでの禍々しいそはらオーラが消えて急にしおらしくなるイカロス。   
 智樹はここぞとばかりにイカロスの機嫌を取りまくった。  
 「俺がキスしたいのはイカロスだけだってことさ!!」  
 「かわいくてスタイルも良くてやさしくて料理もうまいし!!」  
 「それに強くて頼りにもなるから!!」  
 最後のは少し微妙な気もするが智樹は思いつく限りの褒め言葉を叫んだ。  
 それを聞いたイカロスは耳(?)からプシューっと蒸気的なものを噴出した。  
 そしてへなへなと座り始めた。  
 
 おかしい・・・  
 あのイカロスがまるで普通の女の子みたいだ・・・  
 ここまできてようやく智樹は今朝のニンフとのやり取りを思い出した。  
 (もしかして・・・これってモテ男ジャミングの効果?だからアストレアやハーピィ達がおかしかったのか・・・!!)  
 そう考えると辻褄が合う。  
 だが本当にこれがモテ男ジャミングの効果なら新たな疑問が湧いてくる。  
 (たしかモテ男ジャミングって人間にしか効果がなかったよな・・・まさかアイツ失敗したのか?)  
 過去にダイブゲーム智樹の夢になかなか入れなかったニンフ。  
 しかしその時は智樹の夢にプロテクトが掛けられていたためであって、電算能力の優れたニンフが何かを失敗したことはこれまで一度もなかった。  
 そんなニンフが失敗したとなると余程のことである。  
 (もしかしてアイツ、あれでもまだ相当我慢してた状態だったんじゃないか?)   
 そんな考えが浮かぶと本当に心配になってきた。  
 「なぁイカロス、ニンフに早く薬を届けに行ってくれないか?なんだかアイツ相当弱ってるみたいだから・・・」  
 座り込んでいたイカロスを引き上げて智樹はお願いした。  
 「はい、かしこまりました///」  
イカロスは顔を赤くしたまま飛んで行った。  
 それを確認して智樹は再び八百屋に向かって歩き出した。  
 (そっか・・・モテ男ジャミングか・・・でももう他のエンジェロイドに合うことはないだろう)  
 しかし智樹はまたしても重大なことを忘れていた。  
 昨日のニュースでやっていた東京湾で大量の深海魚の死体が発見されたことを・・・  
 そしてエンジェロイドにとって東京ー福岡間は数分で行けるということを・・・  
 

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