「よし!これで完成だわ!」
この私が一年かけて作り上げたダイブゲームの改良版。
これさえあればあのドームの様な設備がなくても地上へ行ける。
私はこの日をどれだけ待ち望んでいたか。
生のトモくんに会える。最初はその目的でこの装置を作った。
だが今はそれよりも大きな目的がある。
それはトモくんに近寄る女どもの撃退だ。
まずは私を助けるためにと送った娘たち。
トモくんと私は恋人。だからあの子たちにとってトモくんは父親同然。だから懐くのも無理はない。
でもさすがにキスはいけないと思うの。そうしたいと思う事も同罪だわ。
だからあの子たちにちゃんと教えてあげないといけない。
トモくんを好きになるのは家族としてまでだって。
次に幼馴染と言う彼女。名前は……なんだったかしら?
とにかく、あの子にははっきりと言わないとだめね。いろいろと。
そして最後にはやっぱり……風音日和。
彼女は私よりも先にトモくんに告白しただけじゃなく、彼の唇までも奪った過去がある。
娘なら百歩譲って許せたけど、他は絶対にダメ。
キツイお仕置きが必要ね。
「……早く準備しなくちゃ」
彼女たちの事を考えていたら、一刻も早く出発しなければいけない気がする。
とりあえず何を持っていこうかしら?
まずはベータにも気付かせないくらいのジャミング装置。後は……
「何か大事な物を忘れて―――あ、そうだわ!」
危ない危ない。私とした事が一番大事なものを忘れていたなんて。
「あは♪トモくん♪」
ダイブゲームと並行して作っていた携帯型地上監視用TV。録画機能付き。
「これがないとトモくんを24時間監視できなかったわ」
生活に必要なものはトモくんの家にあるものを使うとして、とりあえずこれくらいでいいかしら。
「今行くからね。待っててトモくん」
「ここがトモくんのいる『学校』という所ね」
ふふ、私がいきなり現れたらトモくんはどんな反応するのかな?
いきなり抱きついて来るかな?「会いたかったよ」とか言ってくれるかな?
そうしたらずっとこの地上で暮らすのもいいかもしれない。
いや、ここは敵が多すぎる。それよりもトモくんをシナプスの私の家に連れて行った方が―――
「あの〜すみません、おたくはどちらさんですか?」
………………なんだこの禿?私とトモくんのらぶらぶライフの妄想を邪魔するなんて。
「ワンピース一枚、しかも裸足でうろつくなんて怪しいですな」
「あなたこそ誰なの?」
「私はここの数学教師の竹原だ!あなたこそ誰なんですか!」
あ〜そういえばトモくんに数学を教えていた奴ね。数学なら私が教えてあげるのに。あ、そうだわ!
「ねぇ私に数学の先生やらせてくれない?」
「は、はぁ!?何を言って―――うっ!」
……ふぅ。やっと静かになったわ。とりあえずコイツはダイブゲームでアイツのいるところでも連れて行けばいいわね。
それより次のコイツの予定は……ビンゴ!トモくんのクラスだ!
「はあ……ラストは数学か……」
数学は特に嫌いなんだよな……
竹原の奴、毎回毎回訳分かんねえ問題出しやがって。だれが答えられるかっつーの。
あーもう寝よーっと。
―――キーンコーンカーンコーン
―――ガラッ
早っ!チャイムと同時に入って来やがった!どんだけ気合入ってんだ今日の竹は―――
「みなさんこんにちは。今日から竹原先生に変わりまして、数学を教える事になったダイダロスです。よろしくお願いします」
……………………………ア、アレ?アレレ?
「ではさっそく席替えをしましょう。そうですね、まずは桜井君は先生の前の席に移動しなさい」
「ちょ、ちょっとまてっ!!ツッコミどころがありすぎだろ!!」
「つべこべ言わない。それでその周りを男子が囲むようにして座りなさい。女子は後ろで」
それ何て地獄!?先生の前は俺の成績が悪いからとして、どうして女の子を俺から遠ざけるの!?
いや、何より、
「あんた一体ここで何してんだーーっ!!」
コイツってあいつだよな!?俺の夢に出てくる羽の生えたあの子だよな!?ちゃんと羽もあるし!
「ねぇトモちゃん……あの人、トモちゃんの知り合いなの?」
「あ、あぁ……まぁ知り合いと言うかなんというか……」
夢に出てくる女の子ってだけで、それを知り合いと言っていいのか?
「おいイカロスとニンフ!どうせあいつもお前らの知り合いだろ!一体どうなってんだ!」
「いえマスター……私は……あの人が誰か……分かりません…」
「どこかで見た覚えがあるんだけど……なんでかアクセスできないの」
こいつらが知らないってことはエンジェロイドじゃないのか?でも羽はあるし……
クッソゥ!どんだけ未確認生物が増えれば気が済むんだよ!
「そこ、何をしゃべっているの?今は授業中です。それから桜井君の隣に座っているあなた。名前は?」
「あ、はい!見月です!」
「そう、見月さんって言うの。あなたは一番後ろの列の隅っこに行きなさい」
「えっ……?」
な、なんかあの子、そはらに対して冷たくないか?言い方というか態度というか。
「さ、みんなも早く席を移動しなさい。あとは好きにすればいいから」
……もうちょっと皆の気持ちも考えてあげてほしいな?グレちゃったらどうするの?
「それじゃあ授業を始めるわね。と、その前になにか先生に質問はありますか?」
質問だらけだが、さっきから目をぎらつかせている奴らに譲ってやるか。
確かにかわいいけど、コイツは羽生えてんだぜ?お前らはそれでもいいのか?
「先生は独身ですか!?」
「独身です。が、もうじき結婚します///」
へぇ〜結婚すんのか。未確認生物にもそういうもんがあったのか―――ってなんでコイツは俺を見てんだ?
「俺がどうかしたんスか?」
「……もういいですっ!!」
な、なに怒ってんだよ!俺が何かしたのかよ!
「先生が結婚する相手とはどんな方なんですか」
「背はとてもちっちゃいんだけど、見た目はかわいい人よ。でもここぞという時はビシッ!と決めてくれる格好いい面もあるの」
ふ〜ん、何となくおもしろくないな。
結局、格好いいから好きなのかよ。
「さっき言っていたここぞって何があったんですか!?」
女子たちも格好いいって言葉に反応しやがって!
モテ男なんか爆発しろ!どうせそいつもイカロスの元マスターみたいにろくでもない奴に決まってる!……ぐすっ。
「そうね、彼は私の娘達の命の危機を救ってくれたり、悪い奴らに捕まっていた彼女たちを解放してくれたりもしたわね」
「え……?」
「娘?」
コイツ、子供がいたのか?
でも結婚はまだしてないって……
何だか複雑な事情があるように思うのは俺だけか?
「ふふ、みんな驚いているようね。確かに私は結婚はしてないけど3人の娘がいるの。どの子も私の自慢の娘よ」
3人もいんのかよ!
おい!その子の父親!ちゃんと責任とれよな!そういうのは子供が一番可哀そうなんだぞ!
……やっぱコイツの子供達って羽が生えてんのかな。
青い髪に羽、そしてあのかわいそうなおっぱい。あれ?もしかしてコイツの娘って―――
「……何を考えてるのかしら?」
「……何考えてるの?」
先生もニンフさんも落ち着いて下さい。
決して悪い事は考えていません。
なので笑顔で見えない針を飛ばすのはやめて下さい。
「それじゃあ次で最後にしようかしら。桜井君、何かありますか?」
なぜ俺!?
「……あ〜……ならどうしてこの学校に来たんですか?」
未確認生物の間ではこの町が流行ってんのか?
もしそうならもっと胸の大きな奴が来てくれよ。
「よく訊いてくれました!それは私の婚約者がこの学校の生徒だからです!」
「「「「「「「「!」」」」」」」
な、何ーーーー!!
すげーなそいつ!14、5才にして未確認生物の嫁と三人の子供を養っていくのか!
一体誰だ!?
可能性としては先輩か……?
でもそうだとすると会長が黙っちゃいないだろうしな。
背が小さくて、コイツの娘を救出した過去があって、多分ニンフがその娘で、この学校の生徒で―――
……ん?……んん??
「〜であるから、ここは等しいことが証明され……」
へ〜、教えるのうまいのな。俺でも理解できる……気がする。
みんなもいつもと違ってちゃんとノートを取ってるし、このままずっと数学の先生をやってくれてもいいかも。
イカロス達と違ってまともそうだし。
「―――次の問題です。3×4は?桜井君」
「……12」
「さすが桜井君!大正解です!」
……やっぱり訂正だ。コイツもまともじゃねぇ!
それともこれはある種のイジメなのか?
「では√6×√145を答えて、見月さん」
「ええっ!?……わ、わかりません…………」
「はぁ…こんな簡単な問題もできないなんて。少しは桜井君を見習ったらどう?」
席替えの時といい、そはらには冷たいな。
そはらが嫌われる理由……やっぱ胸に対する嫉妬か。
「なんか桜井にだけ妙に優しくないか?(ヒソヒソ)」
「確かに。そう言えば先生の結婚相手、この学校の奴で身長が小さいって言ってたけど……まさか?(ヒソヒソ)」
聞こえてるっての。せっかく考えないようにしてたのに。
言っとくけど、俺はプロポーズと子供を……その……作るような行為をした覚えはないからな。
……まさか夢で、とか言わないよね?
「ハイ。答えは約30。正確には29.4957……」
さすがニンフ。やっぱ頭いいな。と言うかこんな問題に答えられるのって未確認生物しかいねーだろ!
あ、未確認生物でも俺以下のバカがいたんだった。
「正解です。ニンフさんは桜井君並みに見所がありますね」
俺が答えた問題とニンフが答えた問題にはかなりの大きな壁が存在すると思うんですけど?
「まるで双子の兄妹みたいですね。それともカップルかしら」
「ちょっ、何言ってんだよ!」
やめろよな!こういうのって違ってると余計に恥ずかしいんだからな!
「ななななななななななんで私がトモキなんかと!冗談じゃないわ!」
…………さすがに一緒に住んでる奴からこう言われると結構へこむな。
帰るのが気まずくなったじゃないか。
「せんせー!『かける』ってなんでしょーか!『るーと』ってなんでしょうか!」
アストレア……お前って奴は……
「デルタ……」
あ〜あ、先生すら嘆いてるじゃないか。
あと今なにげにデルタって呼んだな。
「ごめんなさい!まさかここまでだったとは!謝って済む事じゃないけど、本当にごめんなさい!」
なんでコイツが謝んの?アストレアがバカなのは生まれつきだろ?
……三人の娘がいるんでしたっけ?もしかしてアストレアも?
なら父親の条件に前代未聞のバカって言う条件が加わ……ふぅ。考えるのはよそう。
ハハハ、今日もいい天気ダナ〜
「それじゃあ最後にアンケートを配りますので、今すぐに全問回答して提出して下さい」
アンケート?一体何のだ?
え〜となになに……
第一問 あなたの名前を記入しなさい
こういうのって普通は無記名じゃなかったっけ?しかも問題じゃねーし。
第二問 あなたは好きな女性がいますか?いるならその人の名前を書きなさい
は、はぁ!?なんでそんなこと聞くわけ!?
しかも自分の名前を書いた後で好きな人の名前なんか書けるわけねーだろ!
あとこれって女の子は違うアンケート配られたのかな?
第三問 ダイダロス先生の事をどう思いますか?
……嫌な予感はしていたが、やっぱりコイツが作ったものだったのか。
それにしても自分をどう思うか聞くなんて、何か悩みでもあんのかな。
第四問 イカロスさん、ニンフさん、アストレアさんの内、彼女に選ぶとしたら誰?
うおーーーーいっ!なんつーぎりぎりな質問してんだよ!
イカロス達が顔を真っ赤にしてるだろ!ってかこのアンケートは男女共通だったのか!
……あいつらが俺を見ているのはどうしてだ?
第五問 あなたは正常(貧乳派)ですか?それとも異常(巨乳派)ですか?
おい。胸の大きい女性が好きな奴は異常みたいな書き方すんな。
むしろ逆だろ。普通の男は胸が大きければ大きい方が好きに決まっている。
第六問 桜井智樹君の事をどう思いますか?
………………………………とりあえず最高に格好いいって書こっと。
第七問 あなたが思う桜井智樹君に一番お似合いな女性(頭脳明晰で控えめな胸を持っているのは前提)を一人挙げなさい。
ナンダコノシツモンハ?
マッタクモッテイミガワカラナイゾ?
「―――終了〜。それでは後ろの人はアンケートを集めて下さい」
やっと終わった……ほとんど書いてないけど。
結局これは何のアンケートだったんだ?
「はぁ〜……やっと一日が終わったな……」
今日はいつも以上に疲れたな……
「マスター……帰るのなら私も……後……少し聞きたい事が……」
「なんだ?」
「さっきのアンケートで……その……」
なんか言いにくい事なのか?もしかして巨乳好き=異常を気にしているのか?
あんなもんは嘘っぱちだ。
だから心配しなくても、お前を好きになる奴は正常だから―――
「マスターは……第四問で……何と答えたのですか?」
第四問……ってなんだっけ?
「私とニンフと……アストレアで……その……誰が……」
「っっ!?」
思い出したー!
「な、何も書いてねーよ!書けるはずないだろ!」
俺はお前らの誰が一番だなんて考えたことないし、誰か一人を選ぶなんてできねーよ!
だから俺に聞いても……アレ?
「イカロ……ス……?」
「うっ……ううっ……マスターは……私たちの事が……好きではないんですか……?」
「ちょっ、何言って……?」
「……さっき言った事ほんと?何も書いてないって、書けるはずないって……」
「バーカバーカバーカ!!」
お前らもいたのか!?
ニンフ落ち込みすぎだろ!それに書けるはずないって言ったのは、お前らを順位付けするみたいで嫌……って何で俺が言い訳してんの!?
あとアストレアは彼女って言葉の意味理解できてんのか?なんか勘違いしてそうなんだけど。
「マスター……」
「トモキ……」
「バーカ!」
やめろ!そんな切ない目をされたら俺に気があるのかもって勘違いしちゃうだろ!
「分かったよ!言えばいいんだろ言えば!」
クッソゥ、お前らがそんな気にさせたんだからな!ちゃんとフォロー考えとけよ!「私そんな気ないから」とか言うのだけはナシだからな!
「お、俺が彼女にしたいのは―――」
「あ、いたいた桜井君」
……これはタイミングがよかった……んだよな。
でもこの残念な気持ちはなんだろう?
「先生、あなたのアンケートを見てがっかりしたわ。ほとんど空欄じゃない」
あんなアンケート書けるはずないだろ!
ってか皆はきちんと埋めたのかよ……アレ……
「桜井君には教育が必要の様ね」
「はぁ〜……補習スか?」
「いいえ、もっと効率的な事よ」
効率的?何か嫌な予感が―――
「今から桜井君の家に家庭訪問します」
……は?
終わり