「あけましておめでとうございます、マスター」  
やはりイカロスは予想通り、智樹の部屋にわざわざ新年のあいさつを告げに来た。  
「あぁ、そういや、もう12時なんだな…。おめでとう、イカロス」  
智樹にとっては新年というものは幼い頃ほど興奮するようなものではなかった。当時では数少ない親公認の夜更かしも、今となっては好き放題にできる。  
「そうだ、ニンフにも言わなきゃな」  
「はい、マスター、あの…地上では年越しそばというものの存在をそはらさんから…」  
 
イカロスがそう言いかけた時だった。  
 
「おそば食べられるんですかぁーーーッ!?」  
 
窓が豪快に割れる音とともに、澱みのない金色の髪をなびかせながら  
「師匠から聞きました!新年になるとおそば食べられるんですよね!イカロス先輩!」  
アストレアが飛んできた  
 
智樹としては新年早々窓ガラスを豪快に割られ、その上その破片が体にいくつか刺さっている状況は大変赦しがたい。  
「くぉらーーー!!新年早々騒がしい入り方すんなーーー!!!」  
 
しかし、年の初めに激昂するのもなかなかいたたまれない。気分をとりなおし、そばを食べることにしよう。  
 
「イカロス、じゃ、年越しそば頼むわ」  
「はい、マスター」  
居間に行くと、ニンフが年越しの特番と煎餅にかじりついていた。  
「おめでとう、ニンフ」  
「おめでと!トモキ」  
 
新年の挨拶というものは、人間であれエンジェロイドであれ、昨年の無事を祝う点では変わらない。  
そう、無事。智樹がそもそもイカロスとインプリンティング、ニンフの保護、そしてアストレアとの出会いがなければ、彼のモットーである『平和が1番』はより強固なものになった筈である。  
しかし、それでは彼女達は今頃…  
 
「出来上がりました」  
 
イカロスは長い間自分の要求に嫌な顔一つせず従ってくれる。それが逆に困りごとでもあるが  
 
「わぁー海老天だぁー…!」  
ニンフにとっては今年は辛い年だっただろう。空のマスターからの虐待を受け、羽根も失った。しかし彼女は今こうして笑顔で蕎麦をすすっている。  
 
「イカロス先輩!おかわりありますー?」  
正直イカロス、ニンフに続いてアストレアまで来た当時は落胆したし、今となっては互いに罵りあう仲である。しかし、それも一種のコミュニケーションだと互いも気付いている。『自分で決める。』これが3人の仲で1番にできたのは、彼女がバカだからだろうか?  
 
「マスター?」  
 
しばらく3人の顔を眺めて考え込んでいると、イカロスが智樹の顔を不思議そうに眺めてきた。  
 
「イカロス、ニンフ、アストレア」  
 
確かに3人のせいで自分のモットーは大きく揺らいでしまった。  
しかし、自分の中だけの平和だけではなく、この3人の平和を望むこと。これが新年を迎えた桜井智樹と昨年の正月の智樹との違いである。  
特にイカロスは、マスターである自分がしっかりと幸せにしてやるべきだろう。  
 
「今年も、よろしくな!」  
 
「はい、マスターっ」  
 
「う…うん、…トモキ…//」  
 
「…バーカ…//」  
 
 

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