彼と彼女が男と女で尚且つ恋仲であり、両者のあいだに疑いようのない明確な愛情がある場合、
今のような状況――つまりは、彼が彼女をベッド上に押し倒し、見上げる彼女の視線が、これから
自分達がナニをするのかを理解し、了承しているのを物語っている――という状況は、極々自然な
流れなのだが、唯一おかしな事をあげるとすれば、はじめてである筈の少女は怯えることもなく、そ
れどころかその顔は微笑んでおり、一種の余裕さえ感じられるような事だった。
それ故に男――ギグは胸中に奇妙な焦りと戸惑いを渦巻かせていた。
ギグが彼女の乳房へそっと手を伸ばし、ゆっくりと揉み上げた。
「んっ……」
くすぐったいのか、彼女が身を捩る。クスクスという笑い声さえ聞こえてきそうな顔をしながら。
ギグにはそれが気に入らない。なんで自分のほうが必死(?)なんだ。
今度は強く、乳房を握ってみた。
「あっ!…………つぅ……」
彼女が眉を顰めたが、彼を見上げるその視線に非難の色はない。「もう、しょうがないなぁ」といっ
た感じだ。
気に入らない気に入らない。
「……おい、相棒。お前いったい何考えてやがんだ?」
彼女の耳元へ顔を近づけて低く囁いた。ここでブチ切れてこの機会を逃したくはない。
「え? えっと、今は……胸、ちょっと痛いかな。とか」
「あ、ああ……」
内心の動揺を悟られないようにと思いながらも、手をゆるゆると乳房からなだらかな肩へ。肩から
首すじを通って頬を撫でてやり、耳をふにふにと引っ張ってみる。今度は、痛くない程度に。
「んんっ……。くすぐったいよ、ギグ」
「そういう感想じゃなくてだなぁ……」
いや、どこがどんな風になっていて、どう感じているのかを言わせたり訊いたりしたくはあるのだが、
今はその段階でさえない。、もう少しコトが進んだ状況でないと。
「だから、さっきから何でニヤニヤしてんだよ」
エロイ事でも考えてんのか? 確かに今からあんな事やこんな事をするんだけれど。
「それはギグが……」
「俺がなんだってーんだよ。言えよコラ」
ギグの苛立ちのメーターがぐんぐんと伸びていっているのを見て、少女は自分からギグへ口付けを
おくる。
少女は思う。だってギグが優しくて嬉しいなんて言えるわけがない。
言えば彼は盛大に照れ隠しを行い、結果、今夜の睦まじい雰囲気が台無しになるだろう。今のこの
機会を逃したくはない。
しかし、それでも少女は思わずにはいられない。
――ギグは、優しい。
彼は普段かなり乱暴で粗雑な物言いをするが、その実、結構な常識人だったりする。
初めて出会った時も「面倒だが手順をふむ」と言って、少女にかなり譲歩したり、本当に危なくなった時は
いつだって力を貸してくれた。
その裏には、今の状況とは全く違った意味で体が目当てだったという、思惑があったのかもしれないが。
微かに震えているのではないかと感じる口付けも、躊躇い、こちらを気遣うようなその手の動きも、彼の
何もかもが愛おしい。
「ねぇ、ギグ」
「んだよ」
機嫌は回復したらしい。
「大好き。いっぱい愛してって考えてたよ」
「……………………!!!」
ギグは絶句し、たっぷり30秒硬直したあと、
「……クックック。いいぜぇ……後悔すんじゃねーぞ」
行為を再開した。
夜はまだ長い。
<了>