彼は見ている。私は見られている。  
 
彼はいつも見ている。  
例えば自分の部屋の隅で。道の影で。  
教室ではいつも頭をぶつけているのに、何故皆、誰も気がつかないのだろう。  
 
そして陽が傾くにつれ現れるもう一人の私。  
 
『彼女』は彼を誘う。  
 
 
「……」  
私に比べて何倍も背の高い彼に、しがみつく形で抱き付く。何の匂いもしない。けれど確かな死の温もり。  
私の舌は彼の先端を行ったり来たり。けれど気持ち良いのか分からない。彼の指も、私の下着の上を行ったり来たり。その動きに合わせて私も腰を動かす。彼とは違い、自分でも濡れて来るのが分かる。次第に下着を剥いで、蜜の滴る溝を指が犯す。  
「……ぁ…は…っ…」  
「気持チ良サソゥダ」  
「そっちは……どうなの…」  
「我モダ。眠ッテシマィソウダ」  
「マ…ッサージじゃないんだからぁ……」  
 
くちゅっ、くちゅっと水音の粘度が増して来た。  
「濡レルノガ早ィ」  
指の力が強まって一点を重点的に責める。往復の速度も早まり、快感が溢れ出す。  
「…はうっ…ん…」  
私も負けじと変則的に舐めるが、屹立からは一向に噴水は出ない。息一つ乱さない。  
「指、挿レルゾ」  
常人より遥かに長い節くれた指。私の蜜壷はあっさりと付け根まで飲み込んだ。  
間髪入れずじゅぽじゅぽと出し挿れする。蛇の様に動き回り翻弄され、快感に呑まれて舌の動きもままらない。  
 
「あぁぁぁ……!」  
「……」  
 
無言で私をひょいと持ち上げて、騎乗位を取らせた。彼と一ミリの隙間無く、胸板と膨らみがくっつく。  
ゆっくりと亀頭が侵入してくる様子が露になっている。  
 
「…っ…人は等しく愛でるんじゃなかったの……」  
理性が少し残っている内に意地悪な事を言ってみる。彼は紫色の薄い唇を歪めて嗤った。  
 
「前ハソゥダッタ」  
「…っ……だった…?」  
「死神モ学ンダ。貴方ヲ他ノ人間ト同ジヨゥ二愛ソゥトハ思ワナィ」  
 
彼の総てが収まった途端、激しく腰を動かし始めた。溢れる愛液。  
 
「や…あっあああん…っ…」  
「…本当ハ」  
そこで言葉を切り、何故か顔を背けた。  
「直グニデモ貴方ノ顔二カケテ、出シテシマィタカッタ……ダガ、貴方ヲ汚シテシマイソウデ、出来ナカッタ……ッ」  
びくんと身体が跳ね、白濁が発射された。  
広がる絶頂感に包まれて、私は彼に微笑んだ。届かなかったので、胸元に接吻を贈る。  
 
「意外と……弱虫なのね、冥王様」  
 
涙が一筋頬を伝った。  
 
『あの子、自分で指挿れてるの』  
『ァノ子?』  
『昼間の、もう一人の私』  
 
お互いを見つめて私の事を話す二人は、未だ身体を繋げたまま。  
『彼女』の味わう快感が欲しい。彼等の交わる夢を見ながら自分を慰める。  
 
『彼女』は、朝起きて彼の姿を見掛けたら、私がどんなに駆け寄りたい衝動に駆られるのか、よく知っている。それが出来ないことも。  
 
分かっていて、『彼女』は囁く。私を抱き締めた耳元で。  
 
『もがいているの?苦しんでいるの?』  
ここで終わらせてあげる、と。  
 
彼と自分そっくりの彼女が愛し合っているのを、間近で見ることしか出来ない。  
 
嗚呼、お願い。  
もう終わらせて。  
 
 

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