風神の怒り。全てを引き裂く嵐。それは私から兄を、彼を、全て奪った。  
あの日から、私の目は光を映さない。  
そして、今。私はここレスボス島で星女神の巫女として生きている。  
「ミーシャ。これより星女神の寵愛を受けた勇者が来られます。くれぐれも失礼のないようにね」  
「はい、ソフィア様」  
勇者。その言葉から連想したのは、幼き日の小さな恋。一度だけの契り。  
彼は今―――どうしているのだろう。風の噂ではどこぞの武術大会で優勝したとか、捨てられた王子だったとか、  
あれこれ囁かれているけれど、今一つ信憑性のないものばかり。  
会いたい。兄の次―――いや、もしかしたら同じくらいに、彼は私にとって大きな存在だった。  
カツン、カツン。足音が近づいてくる。ソフィア様が頭を下げる気配を感じたので、私もそれに倣う。  
「勇者様。ようこそ星女神の神域へ」  
「お構いなく。いやーこんな美しい女性二人に出迎えていただけるとは、私感謝感激で涙チョチョギレンスキー  
であります!」  
―――勇者という割には、なんだか軽薄な口ぶり。けれど、不思議と不快ではなかった。  
それどころか。何でだろう?  
懐かしさと、愛しささえ覚えるような―――  
「特にそちらの巫女さん!もしかしてあなた、以前私とどこかでお会いに―――」  
<勇者>は、言葉を切った。タッタッと、何故か私の方に駆け寄ってきた。そのまま肩を掴まれ、私はビクッと  
身を震わせる。  
「あ、あの…」  
「ミーシャ?お前、ミーシャなのか?」  
「え?なんで」  
私の名前を。そう訊こうとして、やっと気付いた。この、人は。  
「おいおい!覚えてねーのかよ、この俺のハンサム顔を!ほら、しっかり目を開けて―――」  
彼はその時、悟ったようだった。私の目に、光がないことを。  
「ミーシャ。お前…目が、見えないのか?そんな!嘘だろ!?なんでそんなことに―――」  
「オリオン」  
私は彼の問いには答えず、ただ、彼の名を呼ぶ。とうの昔に枯れ果てたはずの涙が溢れるのを感じていた。  
「オリオンなのね―――あなた」  
 
―――ひとしきり再会を喜び合い、二人は身を寄せ合って神殿の泉のほとりに座り込む。  
ソフィアはいつの間にかいなくなっていた。気を利かせてくれたというところだろう。  
「そう…エレフはまだ、見つからないのね」  
「残念ながらな。あの野郎、今どこで何してやがるのか」  
オリオンはしかし、にやっと笑った。  
「けど、俺もお前もこうして生きてまた会えたんだ。あいつもきっと生きてるさ」  
「―――そう思いたいわ」  
「…おいおい。さっきからお前、暗いじゃねえか。そりゃ、色々大変だったのは分かるけどよ」  
その言葉の、どこが気に障ったのかは分からない。けれどミーシャは気付いた時にはオリオンに対して怒鳴り声  
を上げていた。  
「分かる…ですって?あなたに何が分かるのよ!」  
オリオンはミーシャの剣幕に驚き、思わず仰け反った。  
「お、おい、ミーシャ…!」  
「エレフともあなたとも離れ離れになって―――全部失くして!目も見えなくなって!暗闇の中で私は生きていく  
しかなくなった!ほんのわずかな光も、今の私は感じられない!」  
ミーシャの叫びを、オリオンはただ、黙って聞く他になかった。  
「辛かった!痛かった!悲しかった!苦しかった!生きることなんて―――やなことばかり!」  
悲痛な声。オリオンは自分がミーシャのことを、何も分かっていなかったことに気付いた。  
一見しただけでは、そうとは理解できなかったけれど、彼女は、あまりにも傷つきすぎていた。  
彼女は―――世界そのものに怯えていた。  
「ソフィア様はそれすら受け入れる女になれと仰った―――だけど、私にはどうしても、そんな風に思えない!  
こんな残酷な世界なら、私は―――生まれなければよかったんだ!」  
パシン!  
小気味いい音と共に、ミーシャの頬に残る微かな痛み。オリオンがミーシャを引っぱたいたのだ。勿論オリオン  
はほとんど力を込めていない。けれど、ミーシャにとっては、今までの何よりも、痛く感じた。  
「言うなよ、バカ」  
オリオンの声は静かだった。  
 
「生まれなきゃよかったなんて、言うな」  
「…だけど…」  
「少なくとも俺は、お前が生まれてきてくれたことを感謝してる。お前がこの世界にいてくれたから、俺は人を  
愛するって気持ちを知った」  
オリオンはミーシャの華奢な身体を、きつく抱きしめた。  
「オリオン…」  
「お前にだってあるだろうが。大事な奴や、大切にしたい思い出が。この世界を否定するってのは―――  
そいつらまで否定することだ」  
「…………」  
「それでも―――それでも、お前がボロボロに傷ついて立ち上がれないのなら…お前を傷つけるモノ全てを、俺は  
絶対に赦さない」  
「…………」  
「お前を害すモノは全て―――この腕で退ける。お前が憎むモノは全て―――この腕で滅ぼしてやる」  
オリオンはミーシャを強く抱きしめたまま、語る。  
「そして、お前の辛さも痛みも悲しみも苦しみも、背負いきれない分は俺が一緒に背負ってやる。だから―――  
頼む。生きることに、絶望なんかしないでくれ」  
「…っ!」  
ミーシャの目から零れ落ちる雫。オリオンはそっと、彼女の顔を自分の胸に押し付けた。  
「ほれ、我慢せずに泣け。今なら再会記念で俺の服をどんだけ汚しても笑って許すサービス実施中だ」  
「えぐ…ヒック…ヒック…オリオン…オリオン…!」  
今まで堪え続けてきた全てを流すように泣きじゃくるミーシャ。オリオンはもう何も言わずに、彼女が泣き止む  
まで、その小さな頭を撫でてやった。  
 
「…ん」  
「よお、起きたか?ネボスケちゃん」  
どうやら泣き疲れたあげくに、眠ってしまったようだった。周囲の気配からすると、もう陽が暮れたのだろう。  
「ごめんね。ずっと、側にいてくれたんだ」  
おう、と短く答えるオリオン。それがミーシャには嬉しかった―――が、次のセリフで台無しになった。  
「だからお前が寝てる間になんかムラムラして乳とか尻とかしこたま揉みまくったのは勘弁してくれ」  
「お逝きなさい、仔等よ」  
数年ぶりに、鉄拳が火を噴いた。オリオンは血反吐を吐きながら天高く舞う。月夜を翔ける彼は美しかった。  
「お…お嬢ちゃん…相変わらずいいパンチだぜ…やはり世界を獲るのはお前しかいない…」  
「うるさいうるさいうるさい!このバカオリオン!」  
「へへ…ちっとは元気出てきたか?」  
「あ…」  
こんな風にはしゃいだのは本当に久しぶりだということに、ミーシャは気付いた。オリオンは自分を元気付ける  
ために、わざとバカなことを言ってみせたのだ。  
「まあ揉んだのは本当なわけだが。いやあ、あんまり立派に育ってたので、つい…」  
「神域思いっきり穢してるじゃない、あんた!」  
星女神の神域で、眠っている巫女に対してセクハラ行為!今すぐ天罰が下っても不思議ではないというかむしろ  
このバカが未だに無事な方が不思議だ!  
「…悪かったよ。けど、その…俺も健全な男ですから。好きな女が目の前にいて、我慢できなくなったというか」  
「ふんだ。色んな女の子に同じようなこと言ってるんじゃないの?」  
ぷいっとそっぽを向こうとするミーシャの顔を、オリオンはぐいっと自分の方へ向かせた。そしてそのまま、彼女  
の唇に口付けする。  
「…ごめんな。今も、我慢できない」  
そのままミーシャの身体をそっと押し倒した。  
「ここで、お前のこと、抱きたい」  
「ちょ、ちょっと…オリオン、それは…」  
拒むような言葉とは裏腹に、ミーシャは抵抗しない。分かっている。自分だって―――オリオンを、狂いそうな程  
求めていることを。自分が巫女であることも、ここが神域ということも、何も気にならなくなるくらいに。  
「ミーシャ…これだって儀式だよ。俺とお前の愛の儀式なんだ。星女神だって赦してくれる…多分」  
「最後に多分って言った!?…あんっ!」  
 
胸をまさぐられ、はしたない声を上げる。目が見えないミーシャには、オリオンが次に何をするのか分からない。  
それが更に、彼女の興奮を煽るのだった。  
そのままオリオンは巧みにミーシャの服を剥ぎ取ってしまう。当たり前だが子供の頃とはまるで体型が違う。  
大きすぎず、かといって小さすぎない形のいい胸。腰から尻にかけてのラインは、理想的な曲線を描いている。  
素晴らしい眺めに、オリオンは胸を高鳴らせた。  
「しかしお前、本当に大きくなったなあ…色んな意味で」  
「バ、バカ。何を感慨深げに言ってるのよ」  
「いや、あのツルペタ幼児体型がこんな立派になるとはミラすらも分かるまい!貧乳好きの俺ではあるが、こうして  
たわわに実った果実もまた素晴らしい!何というかこう、放流した鮭の稚魚が成長して河に戻ってきた気分だ…」  
「もう一発私の鉄拳が火を噴きそうなんだけど、おかわりいかがかしら?」  
「すいません調子乗りすぎました勘弁して俺のライフはもう0よ今度喰らったらマジ冥府へヨゥコソしちゃう」  
凄い勢いで土下座するオリオン。かっこつかない男だった。  
「全くもう。あなたってほんと、子供の頃から成長してないわね」  
「おいおい、そりゃ失礼ってもんだぜ。俺だって大きくなったさ。身長だって今はお前より頭一つ分は高いぞ?」  
ミーシャはくすっと笑う。  
「私が言ってるのは中身のことよ。全然変わってないわ、あなた」  
「ちぇっ。すっかりバカにしやがって」  
「あら、褒めてるのよ?安心したもの、あの頃と変わってなくて…」  
「そっか…けど、お前は変わったよな」  
「え?」  
「綺麗になった…すっげーいい女になったよ」  
「…ありがとう」  
ミーシャはオリオンを見つめる。けれど―――やはりその目には、何も映さない。  
「今のオリオンは、どんな顔してるのかな…」  
「…………へっ。見せてやれねーのがもったいないくらいのハンサム様だよ」  
オリオンはわざと軽口で答えた。ミーシャはかすかに笑い、その手でオリオンの顔を撫でる。  
そのまま手を滑らせるように、胸元に細い指先を這わせる。  
「私…オリオンのこと…もっと知りたい」  
 
ミーシャは頭をオリオンに押し付けて、クンクンと犬のように鼻を鳴らしながら、オリオンの身体をまさぐる。  
「く、くすぐってえよ、ミーシャ。お前、何やって…」  
「じっとしてて…」  
盲目であるミーシャはオリオンを見ることができない。だからそれ以外の全てで、オリオンを感じようとしている  
のだ。ミーシャの手が胸から腰、そして下腹部に伸びていく。  
「あ…もうおっきくなってるよ?」  
「しょうがないだろ…お前、すごい可愛いんだもん」  
「ふふ、ありがとう。じゃあ、もっと気持ちいいことしてあげるね」  
手探りでオリオンの服を脱がして、露出したそれに舌を這わせる。  
「くぅっ…」  
「はむ…んっ…あ、そうだ、オリオン」  
「何だよ?」  
「今度は子供の頃みたいなバカなこと考えないでね?」  
「…根に持ってたのか、あれ」  
詳しくは、前回を読んでちょうだい。  
「当たり前でしょ。あれだけは本当に最悪だったわ」  
「悪かったよ。じゃあ…今度は、ちゃんと最後まで気持ちよくしてもらっても、いいか?」  
「うん…」  
ミーシャは唾液と先走りで濡れた亀頭を、ゆっくりと可憐な唇でくわえ込んでいく。粘膜と粘膜が擦れあう感覚  
に、オリオンはこみ上げるものを感じた。情けないがこのまま続けられたら、すぐにでも放ってしまうだろう。  
そうしている内にもミーシャは口内で一物をグチュグチュと刺激し、舌をねっとりと絡ませる。技術はないが、  
一生懸命オリオンを気持ちよくさせてあげようとしているのだ。オリオンはもうその快感に抵抗するのをやめた。  
「ミーシャ…そろそろ、イクぜ。口の中で出していいだろ?」  
「ちゅう…クチュッ…ジュプッ…」  
返事の代わりに、より一層口の動きを激しくするミーシャ。そして、限界が訪れた一物の先端から、白く濁った  
液体が勢いよく噴出す。ミーシャはそれに驚き、咄嗟に口から一物を離してしまう。  
 
「あ…」  
当然の結果として、顔に容赦なく襲い掛かる熱い液体にミーシャは呆然と…あるいは、陶然とする。ようやく  
射精が収まった時、彼女の美しい顔は精液で塗りたくられたようになっていた。  
オリオンは射精の余韻に浸る間もなく、慌てて脱ぎ捨てた自分の服でミーシャの顔を拭ってやる。  
「ミ、ミーシャ!すまん、その、俺もこんなに出るなんて思ってなくて…」  
「ううん。私こそ、ごめんね。ちゃんと口の中で、全部出させてあげるつもりだったのに…」  
「バカ。そんなん謝らなくてもいいよ…ほら、取れたぞ」  
服はもうまともに着れる物ではなくなってしまったが、自業自得だ。ひとまず精液は全て拭い取れた。  
やっと一息ついたオリオンに、ミーシャが何だかモジモジしながら訊ねる。  
「…ねえ、オリオン。あのね…こんなに出しちゃったけど、まだ、できるかな…?」  
「え?」  
「だから、ね。次は、私も気持ちよくしてほしいな…って…きゃあっ!」  
言葉を最後まで待たずに、オリオンはミーシャを押し倒した。口元には主役サイドの人物とは思えないような  
下卑た笑みが浮かんでいる。  
「誰かからひでーこと言われてる気もするが…いいとも、ミーシャ!俺なら全然OKだ!なんならいっその事  
このORIONと繋がったままレスボスを練り歩いて、道を往く皆さんに頭がフットーしそうなミーシャを見て  
もらうというのは…」  
「そ、そこまでしてなんて言ってないでしょ!」  
ミーシャは半ば本気で身の危険を感じていた。テンションの上がったこのバカなら、やっても不思議ではない。  
「冗談だって…つーかお前、マジで俺をそんなことやらかす鬼畜だと思ってたのかよ…」  
「だって、オリオン、意地悪なんだもの…」  
「あのなあ、ミーシャ」  
オリオンは口を尖らせる。  
「俺の意地悪は、好きだからやっちまうという類のものだ。鬼畜と一緒にされちゃあ困る」  
「一応、意地悪という自覚はあるのね…あ…!」  
オリオンの指が、ミーシャの最も敏感な部分をいじくる。そこは既に熱い蜜で満たされていた。  
「その意地悪にいじめられて、濡らしてるのは誰だっての。じゃあ、ミーシャも我慢できないみたいだし―――」  
オリオンはとっくに回復していた一物を、そこにあてがい、一気に突き入れた。  
「あ、やっ…待って、まだ、準備できてな…」  
「嘘つくなよ。ほら、こんなにあっさり、俺のが入っちまったぜ」  
 
事実、ミーシャの身体は言葉とは裏腹に、完全にオリオンを受け入れていた。経験としてはまだ二度目ではあった  
が、苦痛はもうないようだった。  
「んっ…!どうだ、ミーシャ。気持ちいいか?」  
「はあっ…あんっ…気持ちいいよ、オリオン…私、おかしくなりそう…ううんっ!」  
「へへ…ガキの頃はお前は処女で、俺もすぐにイッちまったからな…今回は、約束通りに、ミーシャも気持ちよく  
してやるからなっ…!」  
「やく…そく…あっ…!」  
ミーシャは思い出していた。あの初めての情事の後で、次はちゃんと、二人で気持ちよくなれるようにする、と。  
二人で笑いながら、冗談交じりに口にしていた。  
そんな些細なことを覚えていてくれたことが、なんだかミーシャには嬉しかった。  
「うん…もっと…もっと気持ちよくしてっ…!」  
オリオンはもう返事をしない。ただ雄の本能のままにミーシャを貫き続ける。ミーシャもまた雌の本能のままに  
それを受け入れる。  
月と星の光の下で絡み合う二人。それにもやがて、最後が訪れた。  
「―――っっ!」  
声にならない喘ぎと共にミーシャが達し、続けてオリオンが胎内に精を放った。  
全てをぶつけ合って、二人は声も出せずに、互いの熱をただ感じていた。  
「なあ…ミーシャ」  
情事のあとの気だるい空気の中、オリオンがそっと囁く。  
「エレフの奴も見つけたら…この島で、一緒に暮らそうぜ」  
「三人で?」  
「ああ、三人一緒だ。みんなで笑って喜んで楽しんで、時々は泣いたりもして」  
「…素敵だね、それ」  
「そんで、エレフも誰かを好きになって、いつかは俺たちやエレフの子供もできたりして―――」  
 
「そして、みんなで幸せになろうぜ」 「うん」  
二人はまた、唇を合わせた。  
 

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