「あけまして」
「おめでとうございます」
僕が寝床からリビングへと向かうとそこはいつものそこではなく、床には畳が敷き詰められ、窓枠には障子が貼られ、上から垂らされていたシャンデリアは取り払われ代わりに何とも和風なあんどんが部屋に置かれている。
「…これはまた。」
僕は驚愕を覚え、微苦笑を浮かべた後に畳へ上がる。
「ああ、ムーシュー、靴をお脱ぎになってください!」
水色の着物を身に纏ったオルタンスが慌てたように注意する。
僕もそれを思いだし、慌てて靴を脱ぎきちんと揃える。
僕があらためて座る(正座している二人の手前、正座せざるをえない。正直、痛い。)とヴィオレットは小さく咳払いして、では改めて…と呟き
「「あけましておめでとうございます」」
声を揃えて深々と礼をした。
「うん、二人ともあけましておめでとう。今年もよろしくね。」
二人に倣い礼を返すと、二人は優しく笑んだ。
「…しかし今年は手が凝ってるね…昨日の挽には何も無かったからてっきり忘れてるのかと思ってたよ。」
僕の感嘆に応えたのはオルタンスだった。
「ヴィオったら、こっそり用意してムーシューを驚かせようって言うんですもの。」
口元をおさえくすくすと笑うオルタンスにヴィオレットは顔を赤らめる。
「そ、そんなこと言ってませんわ! たまたまムーシューが眠った後に明日が元旦だと思い出しただけですわ!」
そっぽを向いてしまったヴィオレットにオルタンスは
「クリスマスの時も同じことを聞いた気がしますけども」
なんて追い討ちをかける。
「お、オルタンス!!」
「ふふふ、ムーシュー、ヴィオは素直じゃないんですよ。」
「みたいだね。あはは!」
「む、ムーシューまで!!」
そんな事を言って一通り彼女をからかった後で、むきになったヴィオレットがぷんぷん怒りながら餅を焼きに行った。
「こんなんならしなければよかったですわ…。」
「あはは、ゴメンゴメンヴィオ。ありがとうね。」
「…まぁ、ムーシューがよろしいならいいですけども。」
口を尖らせる彼女が可愛く思えて、彼女を撫でてあげることにする。
「わ、ちょ、ちょっとムーシュー! 火を取り扱ってる時は危ないですわ!」
撫でた瞬間にビクリと震えた彼女はそう僕をとがめると、その瞬間オルタンスが
「あー! ヴィオだけムーシューに撫でてもらってずるいですー!」
そう叫びながらすっ飛んできた。
「オル、着物が乱れるよ。」
「あ、あう…。す、すいません…。」
「オルはお転婆だなー。」
いつもの髪飾りの代わりに簪を付けている彼女の頭を撫でてやると、彼女は猫のように目を細めた。
「えへへー! ムーシューの手、温かくて私大好きです!!」
「そうかい?」
「………。」
ちなみに沈黙の方に目をやると、焼いているお餅以上に頬を膨らますヴィオレットがいた。