水面に浮かぶ、その痛々しくも美しい姿を見てエレフの理性は完全に決壊した。
獣のような怒声をあげて、水しぶきをあげながら、ミーシャのそばまで駆け寄り、その冷たい躯を抱き寄せた。
生前はピンク色をしていたであろう唇に、震える手でそっと触れてみる。
小さく開かれた紫色の唇は、青白いミーシャの肌によく映えていた。
信じられない。
数刻まで、ミーシャは確かに生きていたというのに。
「嗚呼……」
ミーシャ、とかすれ声で、何度呼んだかもわからない、その名前を呼ぶ。
「探したんだよ……!」
細い体をぎゅうと強く掻き抱いたが、もはやその躯はぴくりとも動かない。
――遠い昔に約束を交わした。
美しい夕日の中で手をとりながら。子供の幼い口約束にすぎなかったが。
『ミーシャ!』
『エレフ、いつかわたしたち、お父さまとお母さまみたいになれたらいいね!』
『そうだね、どうしたらいいのかなぁ』
『けっこんすればいいよ!』
『けっこん?』
『そうよ。そうしたら、わたしたちきっとずっと一緒にいられる!』
『ミーシャがぼくのお嫁さん?』
『うん!』
『ぼくがミーシャのおむこさん?』
『でも、エレフはたよりないから、わたしがおむこさんになってあげてもいいよ!』
じゃれあうように笑いあった日々は、時間の向こうに、もはや、遠い。
戻りたくも戻れない、郷愁の日々。何も知らず、幸せだったあの頃。
夜も深く、涙も枯れ果てた瞳で、エレフは虚ろに闇を見つめた。
水がエレフの体温をも奪っていく。
ヒュドラが司る泉は、まるで氷のように冷たかった。
このまま、彼女を抱えたまま、同じところに行ってしまおうかとすら、考えたが、しかし、エレフがミーシャの躯を抱えなおした瞬間、自分が抱えていたミーシャの二の腕の部分だけが、ほんのり暖かいことに気付く。
「……ミーシャ」
こんなところに居たのでは冷たいにちがいない。
エレフは彼女の躯を抱えて泉から上がった。
草むらに上がり、自らの濡れたマントを絞り、水を落とす。
横たわる彼女の躯には、白い下着が張り付いていた。
荷の中から布を出して、あらかたは丁寧にふいたが、それでも濡れた服だけは仕方なく、エレフはミーシャの濡れた服を脱がしていった。
そうして現れた美しい躯に、思わずエレフは目を背ける。
白く細い手は眠っているように、腹の上で組ませた。仰向けなので、傷は見えなく、血色は悪いものの、エレフの目には生きているようにすら見えた。
なだらかな曲線を描き、小ぶりだが形のよい真っ白い胸が、横に流れている。
釘付けになる視線をなんとかそらし、エレフは自らの衣服を、乾かすために脱ぎ、枯れ枝を拾い集め火を焚いた。
ぱちぱちと火がはぜるのをなすすべもなく見つめている。
傍らに目を寄せれば、愛しい人がそこにいるのに。
エレフは、ふっと、ミーシャの顔のすぐ横に手をついて、唇をゆっくり合わせ、ひんやりつめたいそれに、おそるおそる温度を移すように、幾度も角度を変えて触れるだけのキスを繰り返した。
その唇をなぞり、小さく開かれた歯列の間から舌を差し込み、反応のない口内を蹂躙する。
「ミーシャッ……!」
はぁっと息をついて、つめたい躯に温度を移すように自らの体を摺り合わせる。
触れ合った場所が、熱く感じるのは間違いなく錯覚だろう。
胸の頂きにむしゃぶりつくと、言いようもない快楽を感じて腰を彼女の太ももにすりつけた。
「うっあ……!」
気付けば高ぶった自身から精液が吹き出して。
もう止まらない、と涙と興奮で滲む視界の中ミーシャの足を持ち上げて桃色をしたその場所に亀頭を押し当てて、一気に貫いていた。
「ごめんっごめんねっ……!」
ミーシャの中は痛いほどきつく閉まり、何かが破れるような感覚から処女であったことがわかる。
実の妹の処女を、奪ってしまったという事実に、半ば青ざめながら、彼女の最初で最後、だという事を考えると腰の動きが止まらない。
謝罪の言葉は、死した後、兄妹という禁忌をやぶってしまったことか、それとも助けが間に合わなかったということか。
エレフにはもう何もわからなかった。