『……バレンタィン?』  
「ゥ、ゥム」  
 眉をひそめた従者達の表情を見て、タナトスは後悔した。  
 先日もクリスマスを西暦後の祝いだからとスルーされた事を思い出したのだ。  
 案の定、今回も気のない返事が返ってくる。  
「ァレハローマ帝国以降ノ習慣デ、神話時代ノ私達ニハ、関係ァリマセン」  
「ソレハ……ソゥダガ」  
 予想はしていたがバッサリ切られ、タナトスは少し落ち込む。  
「……折角ノ愛デァゥ日ナノニ……」  
 そんな主の姿に、冥府の双子は顔を見合わせ、小さく溜め息をついた。  
「……ワカリマシタ」  
「?」  
「チョコハァリマセンガ……バレンタィンノ気分ダケデモ」  
「ゥム?」  
 首を傾げるタナトスの前で、μとφはおもむろにドレスの裾をまくりあげた。  
 黒い絹靴下とそれを留めるガーター、仄白い腿が露わになる。  
 
「フフ、中世流デスワ」  
「チョコデハナク、靴下留メヲ贈ルソゥデスヨ」  
二人は艶やかに微笑み、レースがふんだんにあしらわれたガーターに手をかけた。  
「……待テ」  
「? 御気ニ召シマセンカ?」  
「ィヤ……中世流デ良ィノダガ」  
「タナトス様? キャ!?」  
 タナトスは二人を抱きよせ、腕の中に閉じ込めると、ぽつりと呟いた。  
「……我ハ、輪ヨリモ中身ノ方ガィィ」  
「……ソレジャ、普段ト変ワラナィジャナィデスカ」  
「気分ダケデ良ィノダ」  
「モゥ……タナトス様ッタラ」  
「ゥフフフ」  
甘い笑い声にくすぐられながら、タナトスは二つの贈り物を美味しくいただくべく、  
胸元の包装へと手を伸ばした。  
 
HAPPY Valentine Day !!…END  
 

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