夜会のざわめきが遠く聞こえる客間の一室。  
小さな明かり一つでは、室内の夜の色を払うには及ばず。しかし心地良い宵闇の中に、エリ  
ーザベトとメルツの姿はあった。  
 
「ごめんなさい、メル……貴方にまで恥をかかせてしまって」  
 
長椅子に腰掛け、申し訳なさそうに謝るエリーザベト。そんな彼女に温かい紅茶を差し出し  
つつ、メルツはいいんだよ、と柔らかく首を横に振る。  
「僕の方こそごめん、今まで連絡もしないで急に……エリーザベトが驚くのも無理はないさ  
」  
薄闇の中苦笑を浮かべる彼の顔を、エリーザベトはじっと見つめた。  
……綺麗だ、と思う。子供だった頃のまるで少女のような可愛らしさとは違う、年齢相応に  
青年らしく成長した姿。端正な顔立ちは贔屓目を抜きにしても、見惚れるほど美しい。加え  
てすらりとした佇まいに耳障りの良い声。このひとは、本当にあのメルツなのだろうか。  
いや、それは今さら疑うべくもないのだ。一目見た瞬間に確信したことなのだから。  
ただその……こうして二人きりになると、どうしたらいいのかわからなくなる。ずっと会い  
たくて、だけど無邪気な子供の頃とは違うのだということを、強く意識させられた。  
「……エリーザベト?」  
茶器を受け取ったまま口も付けずに固まっている彼女に、メルツは小さく首を傾げる。  
彼は自分を見ても何も意識しないのだろうか……、と少々恨めしい気になりつつも、誤魔化  
すように紅茶を一口喉に流し込むエリーザベト。確か以前にも何度か、彼がお茶を淹れてく  
れたことがあったのを思い出す。……ああ、あの頃と同じ味だ。彼女が好きだと言った淹れ  
方。他の誰が同じ葉を使い、同じような淹れ方をしても、これと同じ味わいになることはな  
い。  
「……美味しい。ありがとう、メル」  
「良かった。前、好きだって言っていたから」  
にこりと微笑むメルツに、思わず頬が熱くなる。やっぱり憶えていてくれたのだ。  
「メル……、やっぱり、メルなのね」  
「え?」  
「だって……私の知っているメルは小さな子供のままで……その、貴方がとても素敵になっ  
ていたから。だから……」  
勿論あの頃も素敵だったけれど、と付け加え、恥ずかしそうに俯くエリーザベトにメルツも  
頬を赤く染める。一度だけ照れたように目を逸らした後、彼はそっとエリーザベトの髪を撫  
でた。  
「……君も。すごく綺麗になった」  
言って金糸の髪を一房掬い、愛しげに接吻けるメルツ。それに、エリーザベトの顔が真っ赤  
に染まる。  
そう言えば、彼はこういうひとだった。基本的には人当たりが良くて温厚だけれど、時々驚  
くほど気障なのだ。それも無自覚に。まして今や美貌の青年へと成長し、洗練した仕草でそ  
ういうことをされると、様になりすぎていて参ってしまう。  
「メ、メル……! も、もう、子供じゃないんだから、そんなこと……」  
「そうだね、もう子供じゃあない。今度こそ……君を守れる」  
強く意志を乗せたメルツの言葉。額面通りに受け取れば、その言葉は彼女にとって喜ばしい  
ものであるはずだ。  
しかし彼の瞳の奥に覗く、深い憂いの色の理由を、エリーザベトに窺い知ることは出来ない  
。彼が自ら何を抱え、何を負っているのかなど。  
……ただ、不意に思い当たることがあった。  
彼と再会できた喜びばかりが先行して、思考の隅に追いやられていたことだったけれど……  
彼は、ルードヴィング家の嫡男、なのだ。  
 
姓が変わっていないことを考えると、もともとテレーゼがルードヴィングの血筋であったと  
いうことだろう。そんな家柄に生まれついていながら、どうしてテレーゼとメルツはあんな  
森の奥でひっそりと暮らしていたのか――メルツの特異な、白い髪と緋い瞳。晴れた日があ  
まり好きではなかった彼。今思えばいつもどこか翳りがあった賢女の笑み。全ては邪推に過  
ぎないけれども、もし、いつか耳にしたルードヴィングの醜聞が事実であったとすれば――……  
そして、それをメルツ自身も知ったとすれば。世間の悪意、世界の作為、そういったものに  
まるで触れずに育った少年が、どういった経緯かはわからないけれど貴族の世界へ足を踏み  
入れて。汚れたその裏側を見て、それでもこうして自分の前に変わらない笑顔で立ってくれ  
る――そこにいったい、どれほどの努力が隠されているのだろう?  
 
「メル、」  
「そうだエリーザベト。君に渡したいものがあるんだった」  
 
無意識にか意図的にか、彼女の言葉を遮るようにメルツはぽん、と一つ手を打つ。  
そして彼の従者から渡されていた鞄を探ると、中からは懐かしいものが顔を現した。  
「この娘は、君に返すよ」  
言って差し出されたのは、……あの日、彼女が彼に託したお人形。  
ずっと彼と一緒にいたかった、その想いを預けたもう一人の『エリーゼ』――  
「――――……」  
差し出された人形を受け取る。年月の経過に伴い幾らか色褪せてはいたけれど、汚れたり傷  
んだりしているところは見当たらない。大事にしてくれていたということなのだろう。  
成長した今となっては小さくなったように感じる人形を、エリーザベトは優しく撫でる。幼  
い頃はいつもこの娘を抱いて過ごしていた。メルツと出逢うまで、孤独だった彼女のたった  
一人の友達。  
「……貴女も……久しぶりね。また逢えて嬉しい……」  
そっと人形を胸に抱くエリーザベト。懐かしく愛しい思い出と共に、この娘が彼と共に過ご  
した日々の記憶も流れ込んでくるような気がした。きっとそんなのは、ただの思い込みに過  
ぎないのだろうけれど。  
「この娘はずっとメルと一緒にいたのね。……少しだけ羨ましいわ」  
自分で渡しておいて勝手な話だと、自分自身に苦笑しながら呟く。こんなことを言われても  
メルツだって困ってしまうことだろう。  
……だが、予想に反して彼の表情は、困っていると言うよりも……ひどく、複雑そうに微笑  
んでいた。  
「メル……?」  
「……羨ましがる必要はないよ、エリーザベト。僕たち、これからはずっと一緒だろう?」  
一度だけ瞑目した後まっすぐにこちらを見つめてくるメルツに、エリーザベトはえ、と言葉  
を詰まらせる。  
そうだ、この人形を返してくれたということは、彼は約束を憶えていてくれたということで。  
人形を抱く彼女の手に、メルツは自らも手を重ねた。  
どきん、と、エリーザベトの心臓がひときわ高く跳ねる。燭台の火が一瞬揺らめいた。  
 
「――愛してる、エリーザベト。……今度こそ、……ずっと、一緒にいよう」  
 
少しだけ緊張したような、けれど真摯な緋い瞳。  
小さく息を呑んだ声が自分自身のものであると自覚するのにも、数瞬の間を要した。  
 
結婚の申し出があって、そのために彼はこの家を訪れた。そんなことはわかっていたはずな  
のに言葉が出て来ない。代わりにすぅっと、エリーザベトの翠玉の瞳から透明な雫が零れ落  
ちる。  
 
「メ、ル」  
「……ああ」  
「ほんと、う? ……嬉しい……」  
やっとそれだけを返すエリーザベトを、メルツは優しく抱きしめた。腕の中で一瞬だけ身を  
固くした後、ゆっくりと彼の胸に体を預けるエリーザベト。耳を打つ彼の心音が、腕から伝  
わるぬくもりが、どうしようもなく愛おしい。  
互いの鼓動の音が重なるのを待つように――顔を上げた彼女と、彼の視線が交わる。そうし  
て、ただ自然に二人は唇を重ね合わせた。  
「ん……」  
ほんの一瞬の、触れるだけの接吻。  
けれども其れは確かに“永遠”が成った瞬間だった。  
「愛してるわ……メル」  
たった今触れ合った桜色の唇が、……いつか、どこかで聴いた響きを奏でる。だからだろう  
か、陶酔という名の麻薬は、意外にもあっさりと効果を失くしてしまった。  
『っ…………』  
かぁっと赤面するメルツに、釣られるようにエリーザベトも頬を染める。  
何だかとんでもなく気恥ずかしい――のだが、かと言って離れるのも名残惜しくて、見つめ  
合ったまま固まってしまうメルツとエリーザベト。柱時計の振り子の音が、やけに大きく聴  
こえる。  
気付けば時刻は既に夜半だ。彼を招いたはずの夜会も、そろそろお開きとなる頃合だろう。  
こういう時こそ自分がちゃんとしなければ。こほん、と一つ咳払いをして、姿勢を正すメル  
ツ。  
「も、もうこんな時間だね。部屋まで送るよ、エリーザベト」  
少々ぎこちないながらも優しく微笑んで、メルツは彼女へと手を差し伸べる。……しかし、  
返されたエリーザベトの手が握ったのは、彼の手ではなく服の袖であった。  
「…………いや」  
「え?」  
「ず、ずっと一緒、なのでしょう? まだ行かないで……そばにいて、メル……」  
薄明かりの中でもはっきりと見て取れるほど、真っ赤に染まった顔。俯いた瞳を縁取る金色  
の睫毛が微かに震えている。  
言葉を失い、メルツはしばし呆然とエリーザベトを見下ろした後――ゆっくりと、差し出し  
たままになっていた手を下ろした。  
「……その。……意味は……わかってるんだよ、ね?」  
「……………………」  
……こくん、と、小さな頷きが返ってくる。  
それでもなお、彼は僅かに目を逸らして迷っていたようだったが、やがてそっと息を漏らし  
て、袖を掴むエリーザベトの手を解いた。その手に指を絡めて、もう一度彼女のそばに屈み  
こむ。  
もう一方の手を熱い頬に添えて顔を上げさせれば、潤んだ瞳と視線がぶつかった。互いに何  
かを言いかけるように幾度か口を開いては閉じ、結局言葉は出ないまま、静かに唇を重ねる。  
……長い接吻け。  
躊躇いや過去も未来も、今だけは忘れてしまうまで――  
 
 
/  
 
 
燭台の灯火も消えた部屋。明るい満月の光だけが差し込む窓辺には、ちょこんと人形が据え  
られている。  
ギシ、と、寝台を軋ませ、メルツは愛しい彼女をその上に横たえた。  
 
「……恥ずかしいわ、メル……」  
 
月光に仄かに照らされた白い裸体。一糸纏わぬ姿を隠すように両腕で覆い、エリーザベトは  
ささやかな抵抗を試みる。それに小さく苦笑を漏らして、メルツはやんわりと彼女の腕を解  
いた。  
 
「そんなことないさ。……すごく、綺麗だ」  
「っ……」  
エリーザベトの頬が、ますますかぁっと赤くなる。そんな彼女に愛しげに、優しく接吻ける  
メルツ。  
「ん、ん……」  
啄ばむような接吻けを幾度か交わすうち、為すがままだったエリーザベトも徐々に応えてく  
るようになった。細い腕がメルツの首へと回され、より深く重ね合わせる。  
「んんっ……、んっ……!」  
唇の隙間から差し入れられた舌が、歯列をなぞり、口内へと潜り込んで、エリーザベトの舌  
を捉えた。ぎゅうっ、と、メルツを抱きしめる腕に力を込めるエリーザベト。触れ合った舌  
をおそるおそる絡ませていく。  
「っん……んん……ふ、っ……!」  
鼻に掛かったような吐息と、唾液が混ざり合う淫靡な音が室内に響く。だがもはや羞恥より  
も、快楽の方が勝っていた。ただ舌を絡め合っているだけなのに、信じられないほど身体が  
熱い。互いを求め合う想いと情欲が混ざり合い、夢中で唇を貪り合うメルツとエリーザベト。  
「んんん……! ぁ、はっ……メ、ル……」  
「っ……エリーザベト……」  
ようやく唇を離すと、銀色の橋が二人の間に紡がれた。  
荒く肩で息をつきながら、とろん、とした瞳で見つめ合う。誘われるように彼女の上気した  
頬へ、首筋へと唇を降らせていくメルツ。  
「あ……!」  
そのまま唇を滑らせて、鎖骨から滑らかな曲線を描く胸元へ。ところどころ赤い痕を残しな  
がら、柔らかな乳房に舌を這わせていく。先端まで到達すると、エリーザベトの身体がびく  
りと揺れた。  
「やッ……! あ、あ、メルっ……!」  
ぷっくりと自己主張する頂点を舌で転がし、もう一方の胸は手で揉みしだく。少し汗ばんだ  
肌は手のひらに吸い付くようで、たまらなく気持ちが良い。軽く力を込めればエリーザベト  
の豊かな膨らみは、彼の手の中で思うがままに形を変えた。  
「あぁ、あ、あっ……! だめ、メル……んっ……!」  
小刻みに震える身体を強張らせて、エリーザベトは甘い悲鳴を上げる。誰も聴いたことなど  
ないだろう濡れた声音が自分の名を紡ぐたびに、愛おしさでおかしくなりそうだった。今す  
ぐにでも繋がりたい欲望を抑え込んで、するり、と彼女の下腹部へ手を滑らせる。  
「メ、メル、そこはっ……」  
「うん、……足、少し開いて」  
メルツの言葉に、顔を真っ赤にしながらも、反射的に閉じてしまった足をこわごわと開いて  
いくエリーザベト。本当に少しだけしか開けてはいないが、ひとまず片手を割り込ませるに  
は充分だった。つ、と秘所に触れると、とろりとした蜜が指に絡み付いてくる。  
「……エリーザベトって……こういうの、自分でしたこととか……ある?」  
「っ……!!?! な、何を言ってるのメルッ……! ああああああるわけないじゃないそ  
んなこと……!」  
なおさら顔を赤く染めて訴える彼女に、そっか、とメルツは慌てて頷く。  
経験もないのに触れる前からこれだけ濡れているということは、かなり感じやすいのかもし  
れない。くちゅ、と湿った音を立てて、メルツはその奥へと指を埋めていく。  
「んッ……! あ、あっ……」  
 びくり、と、エリーザベトの身体が揺れる。指の半ばほど埋まったところで掻き回せば、  
甲高い嬌声がこぼれた。  
 
「ひぁぁあぁっ……! メル、ま、待って……刺激が、つよ……すぎてっ……!」  
短く呼吸を繰り返しながら、懇願する瞳を向けるエリーザベト。しかしその内部はすっかり  
蕩け、とめどなく溢れ出す愛液は寝台に染みを作っている。  
「でも、ちゃんと解しておかないと後が辛くなるよ」  
「んくっ……、で、でも、あぁぁぁ……!」  
さらにもう一本、メルツの指が彼女の中へと入り込む。さほど抵抗なく二本目の指を飲み込  
んだエリーザベトの膣内は、ひくひくと快楽に喘いでいた。  
「メル、わ、わたしっ……もう、だめぇ……!」  
接吻けをせがむように彼の首に腕を回すエリーザベト。それに応えて唇を重ね、メルツは愛  
液に塗れた指を引き抜く。  
「ん……、これだけ濡れてれば、大丈夫かな……」  
トロリと蜜の糸を引く手でメルツは固く持ち上がった己自身を取り出す。かぁっと頬を赤ら  
めるエリーザベトに苦笑しながら、ゆっくりと彼女の足を開かせた。濡れた花弁が口を広げ  
る。  
「…………挿れるよ? エリーザベト」  
「あっ……、ま、待ってメル……!」  
その入口に自身をあてがうメルツを、しかしエリーザベトは慌てて制止する。え?と困った  
ように目を瞬かせる彼に、エリーザベトはごめんなさい、と謝りながら、  
「あの、ね……その前に、お願いがあるの……わたしのこと、前のように、エリーゼって…  
…呼んでくれないかしら……?」  
「…………!」  
それは彼女にとって再会した時から、ずっと言いたかったことだった。  
公の場では仕方ないにしても、二人しかいない時であれば愛称で呼び合ったとしても構わな  
いはず。だと言うのに二人きりになった後も、メルツは一貫して彼女を「エリーザベト」と  
呼んでいた。彼女がいくら「メル」と呼びかけても。  
決してエリーザベトと呼ばれるのが嫌なわけではない。ただ「エリーゼ」は特別なのだ。彼  
だけが呼ぶ名前、メルだけのエリーゼ。  
そんなささやかな願いに、しかし、メルツは返す言葉を失う。……彼にとっても、『エリー  
ゼ』は特別であるがゆえに。  
エリーザベトを愛している、その想いが揺らぐわけではない。しかしだからこそ、その響き  
で彼女を呼ぶことには抵抗があった。そう呼んでしまった瞬間、自分は、いつかと同じ過ち  
を繰り返してしまいそうで―――  
「……それは……駄目だよ、エリーザベト。僕にとって……『エリーゼ』は、小さな子供だ  
った君のままだ。今、一人の女性として愛している君を、同じようには呼べないよ」  
「……………………」  
彼女までもを傷付けてしまうわけにはいかない。  
置き去りにしてきたモノに、せめて報いるためにも。  
彼の言葉をエリーザベトがどう受け取ったかはわからない。ただ彼女は少しだけ恨めしそう  
な目で、ちらりと窓際に座る人形を見遣った後、拗ねたように彼を見上げた。  
「……やっぱり、あの娘はずるいわ……いつの間にかメルの『エリーゼ』は、私じゃなくて  
あの娘になってしまったのね」  
 
当たらずとも遠からず。……女の勘、というヤツだろうか?  
苦笑しながら、メルツはエリーザベトの頬にちゅ、と接吻けを落とす。  
「ごめん。……でも、君が誰より大切なのは本当だよ」  
「うん……私もよ、メル。……あの娘だったら許してあげる。だから……」  
続けて。  
恥ずかしそうにそう言って、今度はエリーザベトの方から彼の頬へと接吻をする。うん、と  
頷き、もう一度自らを彼女の蜜口へあてがうメルツ。  
「努力はするけど……その、我慢できないくらい痛かったら言って。僕は男だから平気だけ  
れど……」  
「えぇ、……大丈夫。来て……メル」  
期待と不安で揺れる瞳の、その瞼に接吻けて、メルツはゆっくりと彼女の中に男根を埋めて  
いく。  
「っ……!!」  
まだほんの少し入ったばかりだと言うのに、背中に回されたエリーザベトの手が、ぎゅっと  
服を握った。  
初めて異性を受け入れる内部は狭く、侵入して来るモノを拒んでいるようにさえ思える。そ  
の中を出来る限り優しく――彼女を怖がらせないように、押し進めていくメルツ。  
「ひ、あっ……あぁぁあッ……!」  
「……力、抜いて。余計、辛く、なるから……」  
ぷちぷちと処女膜を破る感触が下腹部から伝わってくる。破爪の痛みに耐える涙を唇で掬い  
、メルツはさらに深く腰を落としていく。血と愛液でぬかるみながらもきつく締め付けてく  
る膣内は、彼女の痛みに反してどうにかなりそうなほど気持ちが良かった。自身が全て彼女  
の中に納まると、メルツはそこでいったん動きを止め、はぁ、と大きく熱のこもった息を吐  
き出す。  
「っ……、大丈夫? エリーザベト……」  
「え、えぇ、だ、だいじょうぶ……っ……!」  
大丈夫なわけはないだろう、メルツが僅かに身動ぎをするだけでも、エリーザベトの口から  
は悲鳴にも似た声が漏れた。点滅する理性を繋ぎ止めて、そのまま彼女が落ち着くまでしば  
し待つことにする。  
いや、あまりにも痛がるようなら、やはりもうやめた方がいいのかもしれない。自分の方は  
何とか処理してしまえばいいし、自慰すら経験のない彼女に最後まで、というのは無理があ  
るだろう。これからきっと機会はいくらでもあるのだ。今夜は繋がれただけでも、充分すぎ  
る幸福だ。  
「だ、だめ……! ちゃんと最後までして、メルっ……」  
しかしそんな彼の内心を悟ったのか、懇願して来たのはエリーザベトの方だった。  
彼女はふるふると首を横に振って、きゅっとメルツを抱きしめる。  
「痛いけれど……いたくて、いいの。だってその方が、貴方と一つになれたんだって実感で  
きるもの……貴方が、ちゃんと、ここにいるんだって……感じられるもの……  
だから、わたしは平気……幸せ、なの。……貴方はそのまま、好きなように……動いて……」  
そっと彼の頬に、エリーザベトの手が添えられた。どこか煽情的に潤んだ碧い瞳と甘く誘う  
声音にくらりとしながら、彼女の額に接吻けるメルツ。  
「……わかった。それじゃ……動くよ?」  
小さく頷きが返って来るのを見届けてから、メルツは少しずつ注挿を開始する。  
 
気を抜けば快楽のまま突き上げてしまいたくなる衝動を堪えて、彼女に負担をかけないよう  
出来る限り優しく。それでもエリーザベトの表情は苦しげなものだったが、せめて痛みの声  
だけは上げまいとしているのか、口許を押さえて耐えているようだった。そんな彼女がいじ  
らしく、唇を重ねて舌を交わらせる。  
「んんんっ……! ん、ちゅ、っ……ふぁ……!」  
少しは痛みも紛れるのか、積極的に応じてくるエリーザベト。彼の唾液を飲み込んで、代わ  
りに自身のそれを流し込む。溢れ出た唾液が細い顎を伝って垂れた。  
「……く、ぅんっ……メル……メルぅっ……!」  
そうしているうちに、エリーザベトの様子にも変化が現れてきた。表情からは幾らか苦痛の  
色が和らぎ、声には甘い響きが混ざり始めている。メルツが少しだけ動きを大きくすると、  
明らかな嬌声が唇からこぼれた。  
「ひぁぁぁんっ……! やっ……あ、あぁ……! メル……あ、あつい、のっ……!」  
結合部がじゅぷじゅぷと卑猥な音を奏でる。メルツが腰を動かすたびにエリーザベトは豊満  
な乳房を揺らし、汗ばんだ身体を仰け反らせた。苦痛と快楽が交互に駆け巡り、抗い難い波  
となって彼女の理性を浚っていく。  
「エリー……ザ、ベトっ……」  
「わ、わたし、メルっ……おかしく……なりそう……でっ……! っ……ぁ、ああっ……!」  
強張る両脚を押さえ付けて、メルツはさらに深く奥を突く。限界が近いのは彼も同じだった  
。熱に浮かされるように彼女を求めて、一気に昇り詰めていく。  
「だ、だめぇぇッ……! メル、わた……っし、もうっ……!」  
「ッ……僕もだ、エリーザベト……!」  
言うと同時にエリーザベトの最奥まで突き上げるメルツ。意識が白く染まり熱が弾けるのと  
共に、エリーザベトもまた絶頂を迎えた。  
「あっ……あぁぁぁああぁぁぁあぁあっ!!」  
がくがくと身体を痙攣させた後、くたりっ、と、彼女の身体から力が抜ける。  
エリーザベトの中ですべて吐き出し、荒い呼吸を少しだけ落ち着けると、メルツもどさりと  
彼女の横に倒れ込んだ。  
「…………エリーザベト」  
そのまま、隣に伏せる彼女を抱き寄せるメルツ。愛しい腕に抱かれて、エリーザベトは夢見  
るように甘やかな微笑を浮かべる。  
……幸せだった。メルツと再会できただけでも奇跡のようなのに、こうして想いと身体を重  
ねて……本当に、何だか出来すぎた夢のようにも思える。けれどもこの確かなぬくもりは、  
彼女を抱きしめる腕の力強さは、決して夢などではないのだから。  
「……愛してるわ、メル……」  
「僕もだよ、エリーザベト。……愛してる」  
こつん、と額を合わせ、二人して小さく微笑い合う。  
愛情、後悔、懺悔、切望……様々な感情が複雑に入り混じった、祈るような「あいしてる」  
。胸の内に秘めたものはそれぞれ違えたとしても――いや、だからこそ誓おう。健やかなる  
時も病める時も、死が二人を別つまで。  
心地良い疲労感と安堵から、エリーザベトは穏やかに微睡みの中へと落ちていく。  
 
 今なお眩い、あの日々さえも色褪せるほど。  
 鮮やかな未来(ひかり)を夢に見て――――  
 
 
* * *  
 
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!