「おはよう」
四係に入ってきた石田にみんなは挨拶を返した。
石田は周りを一瞥して室内の時計を見上げた。
「笹本はまだなのか?」
尾形も部屋にいなかったが、デスクの上に散らばる書類を見るとどうやら出勤はしているようだ。
みたいですねーと山本は言った。井上は石田の方に体を向ける。
「今日はアレが酷いらしいっすよ」
アレって何だ、と聞きそうになって石田は口を噤む。
代わりにそうか、と答えた。
「アレって何だよ」
山本は不服そうに井上を見る。
石田はため息をついた。
そのとき尾形が戻って来た。挨拶を交わす。
「今日は笹本は体調不良で休みだ」
デスクに腰掛けながら尾形は言った。
わかりました、と返事をして石田は違和感を覚える。
井上、と声をかけた。
「お前何で知ってるんだ」
井上は石田を見上げた。
「笹本さんが教えてくれんで」
あと、と言葉を続けようとしたときに原川が茶を持ってきた。
石田は湯呑みを受け取って一口飲んだ。口と喉に暖かさと香りが広がる。
ガンっと音がなった。
原川が井上の湯呑みを荒々しくデスクに置いたようだ。
中身はこぼれなかったものの、井上はビクリとした。
ありがとうございます、と小さく呟くと原川は去っていった。
相変わらずだな、と石田は思った。
「井上、さっきの」
続きなんだが、と言いかけて石田は一つの結論を導き出す。
不思議そうに石田を見上げる井上に首を横に振る。
「いや、何でもない」
この会話を続けるととんでもないことを井上は言うかもしれない。
石田は心の中で笹本に同情した。