復讐よりも忘却を選んだはずだった。
実際、親のない子供にしては上等な道を歩んでこられたと思う。
学校も出て。友人もいて。彼女も作っちゃったりして。
そして今は、
信頼で結ばれた仲間が、いる。
井上は、自分が笑っていることに気づいた。
暗い笑いだった。
すべてを失おうとしている自分への。
引き金に指をかける。
これで終わる。
終わった後のことなど、よぎりもしない。
ただ解放への期待が井上を熱くさせた。
と、
視線の端で動いたものがあった。
笹本だった。
同僚たちが呆然と立ち尽くす中で、
ただ一人、こちらに銃を構える。
視線が、絡んだ。
――ああ泣きそうな顔してんな
見開かれた大きな瞳は凛々しかった。
けれどもこの人は、自分を撃ったら泣くだろうと思った。
うぬぼれた。
泣きたくなるほど都合のいい妄想だった。