「笹本さん、今日何の日か知ってます?」
「さぁ。あんたの誕生日ではないと思う」
世間はバレンタインデーで、恋人達は盛り上がっているが笹本には関係ないらしい。
「そうっすよね…。」
今日は笹本と警護者が違うため、朝しか顔を合わせない井上は落胆の表情を浮かべた。
本当は仕事が終わった後で会いたかったが、今日の予定では無理。
ため息をつきながら井上は突っ伏した。
「なんだ、義理チョコ期待してたのか」
そんなやり取りを笑いながら眺めていた石田は、励ますように教えてくれた。
「警護課には、義理チョコというものは存在しないからな」
確かに少ない女性課員が義理チョコを用意するのは大変だ。
だけど笹本さんは本命にも用意してないんですよ、という言葉を飲み込み拳銃保管室へ向かった。
任務が終わり、帰庁したのはまもなく日付が変わる頃。
腕時計を変えるために開けた引き出しには、小さなメモが貼られ包装された小箱が入っていた。
「井上へ
義理の塊を用意してやったから、よく味わって食べろ。
あと、引き出しの中は整頓しておくこと。」
−−笹本さん、ちゃんと用意してくれてたんだ。
ニヤニヤしている井上に、尾形が訝しい目を向ける。
「お先に失礼します」
「ああ、お疲れ」
警護課を出てすぐにメールを打つ。
「本命チョコ、ありがとうございました。
すごいうれしいです。
もったいなくて食えないです。
ホワイトデー、期待してて下さいね」
笹本が喜ぶものは何か考えながら、井上は家路についた。