「いたぞっ、こっちだぁ」  
「逃がすなっ」  
 霧がたちこめた幻想的な樹海の中を、一団の兵士達がシルエットとなって走り去る。  
 出し抜けに連続的で軽快な破裂音がしたかと思うと、直ぐに金属同士がぶつかり合う乾いた響きへと変わり、やがて静寂が訪れた。  
 水を蹴散らしながら走る足音と共に、霧の中から現れたのはエルフの女王、アゼレアであった。  
 アゼレアの薄汚れた頬はゲッソリとやつれ、目だけがギラギラと殺意に満ちた輝きを放っている。  
 泥にまみれたドレスのあちこちには血が滲み、裾はノコギリの様にささくれだっていた。  
「ふぅぅぅ〜」  
 アゼレアは血脂が巻き、刃がボロボロにこぼれた金砂地の太刀を見つめて、大きく溜息をついた。  
 フェリアスの樹海に入ってから何回目の夜なのか、今斬った兵士が何人目の餌食になるのかすら覚えていない。  
 林檎の樹を見つけたアゼレアは、果実をもぐと幹にもたれ掛かって小休止に入った。  
 野生の林檎は、いつもプリエスタの城で食べている献上品に比べて、水分も糖度も少なかった。  
 大木の根元にへたり込んだアゼレアは、まどろみながらフェリアスに乗り込んできた時のことを思い出していた。  
 
                                 ※  
 
 シーフタワーを制したその夜、たった1人で宿を抜け出したアゼレアは、馬を飛ばしてフェリアスとの国境を越えた。  
「みなさん、黙って出ていったりしてごめんなさい。これから先は個人の戦いなのです」  
 世界の緑を守り抜くことを自らの使命として課しているアゼレアは、どんな危険が待ち受けていようともドウムの暴挙を食い止めなければならなかった。  
 ストーンカ文化の特徴が色濃く残るフェリアス城に君主トリック・ブルーを訪ねたアゼレアは、同国内に建設されたドウム前線基地攻撃の助力を求めた。  
「お話は理解出来た」  
 腕組みをしたトリック・ブルーは、無愛想な顔のまま頷く。  
 
「では・・・」  
 アゼレアは目を輝かせながら身を乗り出す。  
 しかし返ってきた答えはアゼレアが望んだものではなかった。  
「だが、今の我々には国力を高めることが先決。とてもドウムを相手に戦う余裕などない」  
 トリック・ブルーは真っ直ぐにアゼレアを見つめながら呟いた。  
「それに南の森を、半ば強引に貸与させられているのは確かに気に食わぬが、森から外へは出ないという約束は今のところ守られている」  
「ですが、ドウムの所業はこの大陸に住む全ての者にとって、良からぬ結果を生み出すのですよ。今叩かなければ必ず後悔することになるのは、火を見るより明らかです」  
 アゼレアは諦められずに食い下がる。  
「あなたはそれで良い。だがあなたが去った後、本腰を入れて侵攻してくるドウム本国部隊を追い返す力は、今の我々には無い」  
 トリック・ブルーは重々しい口調で続ける。  
「私を信じてついてきてくれる同志のためにも、無理は出来ないのだ。はっきり言って、こうして助力を乞われただけでも迷惑千万。我らを攻撃する口実をドウムに与えかねん」  
 トリック・ブルーはそう言うと、傍らで青ざめているアナベルをいたわるように見つめる。  
 そう言われると、もうアゼレアに語る言葉は無かった。  
「では、私がここを訪れたことを、ドウム側に通報するのですか」  
「ああ、悪いがそうさせていただく・・・」  
 眉一つ動かさずに言ったトリック・ブルーの言葉に、アゼレアは身を固くする。  
「だが、次回ドウムの使節がこの城に来るのは来週の予定だ。連絡はその時にしよう」  
 トリック・ブルーの告げた二の句に、アゼレアよりも喜びの表情を見せるアナベル。  
 こうしてフェリアスの通行権だけは何とか手に入れたアゼレアは、孤独な戦いへと突入していった。  
 
                                 ※  
 
 フェリアスは樹木の鬱蒼と茂る湿地帯と湖沼群で構成された古代都市国家であり、数多くある湖の中でも、ジャネスが放った魔法により作られたという魔弾湖は最も有名な観光スポットであった。  
 かつて貴族達の避暑地として風光明媚を誇ったこの地も、相次ぐ戦乱の余波を受けて今や往年の栄華は見る影もない。  
 
 そして今、南方から国境を割って進出してきたドウム戦闘国家は、南東部のジャングル地帯に前進基地を建設し、この国に新たな火種を起こそうとしていた。  
 シュラク海に面した東海岸沿いに南下すれば危険は少ないが、一刻を争うアゼレアは敢えて人の手の入らないジャングル地帯を中央突破する事を選択した。  
 ジャングルに踏み込んで3日目の朝、ドウムの張り巡らせた哨戒線に掛かったアゼレアは敵のゲリラ兵と最初の遭遇を果たした。  
「無益な戦いは望みません。黙ってここを通しなさい」  
 アゼレアの丁寧だが厳しい口調の警告に、ドウム兵士は火力をもって返答した。  
 超音速で飛来した金属の粒が、空気を切り裂きながらアゼレアの体を掠めていく。  
「口で言っても、分かっていただけないようね」  
 アゼレアは腰に下げた金砂地の太刀を抜くと、敵の銃列を目掛けて突っ込んでいった。  
 横一文字に太刀を構えて直線的に突っ込んでくるアゼレアに向け、ゲリラ兵の持つ10丁以上の制式拳銃が火を噴いた。  
 アゼレアはこの日のためにと、今まで使わずに蓄えていた魔力を解放する。  
「癒しの光、今ここに導かん、月の女神よ我らの願い、聞き届けたまえ。ムーンセイバー!」  
 火薬の爆圧を利用して高速を得た銃弾は、アゼレアが張り巡らせた絶対防壁に遮られ、あらぬ方向に弾き返されてしまう。  
 狼狽えるゲリラ兵の真っ只中に突っ込んだアゼレアは、鉈とも見まがう幅広の太刀を振るって敵を血祭りに上げていった。  
 
                                 ※  
 
 それから更に4日後、南部地域に到達したアゼレアは、目の前に広がる見るも無惨な光景に呆然としていた。  
 そこには既に生は存在しておらず、ただ葉っぱ1枚付けていない枯れ木だけが無限に続いていた。  
 その光景はさながら無名兵士の眠る墓石群のようであった。  
「・・・こんな・・・」  
 地面には枯れ葉に混じって鳥や小動物の死骸が点在している。  
 アゼレアの耳には彼等の苦悶の声が聞こえてくるようであった。  
 想像していた以上に惨い有様に、言葉無く立ちつくすアゼレアの目から止めどなく涙が溢れてきた。  
 
                                 ※  
 
 囓りかけの林檎を手にしたまま、仮眠を貪るアゼレアの瞼の隙間から涙が筋を引くように流れ落ちる。  
 あれから枯れ木地帯を南に抜け、再びジャングル地帯に入ったアゼレアは、数度に渡りドウムの防衛ラインを突破していたが、心身の疲労はピークに達していた。  
 更に悪いことには女性特有の生理機能のサイクルが、彼女の体に一層の負担を掛けようとしている。  
 まさに満身創痍のアゼレアだったが、ドウムに対する怒りの感情だけが、今の彼女を動かす原動力になっていた。  
 
                                 ※  
 
 けたたましい水鳥の叫び声と羽ばたきの音がアゼレアの意識を現実に引き戻す。  
 アゼレアの超感覚は、濃霧に紛れて四方から迫りつつあるドウム兵士の存在を捉えた。  
「まずい・・・数が多いわ」  
 足音の数から敵の人数を正確に割り出したアゼレアは、最も手薄な東側のラインを強行突破する策に出た。  
 この濃霧の中では、敵は互いの連携が取れず、数の優位を活かせない。  
 一方、アゼレアにとっては自分以外は全てが敵であり、乱戦になっても同士討ちのおそれはない。  
 アゼレアは無言のまま駆け出すと、太刀を振るって敵集団の真っ只中に飛び込んでいった。  
「ギャッ、出たぁっ」  
 急に目の前に現れたアゼレアに逆奇襲を受け、ドウム兵士は無様なまでに狼狽えた。  
 敵より遙かに夜目の効くアゼレアは、逃げ腰の敵兵達に的確な斬撃を浴びせていく。  
 しかし血脂と刃こぼれのため、既に斬る機能を喪失していた太刀では全員に致命傷を与えられず、アゼレアは生き残った数人の敵兵を尻目に濃霧の中へ逃げ込もうとした。  
「逃がすなっ。ネットガンを使えっ」  
 軽傷の打ち身を負っただけの兵士が、太い筒状の銃器を構えてアゼレアに狙いを付ける。  
 圧搾空気を利用して筒先から発射されたのは、しなやかな繊維で作られた投網であった。  
 飛び出した投網は、狙い違わずアゼレアの全身を包み込む。  
「あぁっ」  
 
 体のバランスを崩したアゼレアは、湿地に転倒して激しく水柱を上げた。  
「やったぞ。捕らえろっ」  
 アゼレアは直ぐに立ち上がろうとしたが、手足が目の粗い網に絡まってしまい自由が利かなくなる。  
「うぅっ・・・」  
 家畜のような扱いにアゼレアは歯ぎしりするが、網を作っている繊維は鉄線のように丈夫であり、彼女の力では切れそうにない。  
 水たまりの中で惨めに藻掻き続けるアゼレアに、拳銃を構えた2人の兵士が迫る。  
 兵士達はアゼレアの太刀を奪い、彼女の両手両足に鎖のついた枷を取り付けると、ようやく網を取り除いた。  
「よし、ゆっくりと立て」  
 拳銃を突きつけながら命令する兵士に対し、アゼレアは言葉が分からない振りをして、呼吸を整えるための時間を稼ぐ。  
「立てと言っているんだ。解らないのか?」  
 金砂地の太刀を持った兵士が不用意に近づいてくるのを待って、アゼレアはいきなり体を逆立ちさせた。  
 呆気にとられた兵士の首に、アゼレアの両足を繋いだ鎖が巻き付けられる。  
 アゼレアと兵士はもつれ合って湿地に倒れ込み、水しぶきが上がった。  
 次にアゼレアが立ち上がった時、その手には奪い返した金砂地の太刀が握られていた。  
「無駄な抵抗はやめろ。大人しく降伏せよ」  
 1人生き残った男は太刀の間合いから離れた距離で拳銃を構え、アゼレアに投降を迫る。  
 アゼレアは女王の誇りに掛けても、宿敵ドウムの捕虜になることなど出来ない。  
「いやぁぁぁぁーっ」  
 掛け声と共に走り始めたアゼレアに非情の銃口が突きつけられる。  
 トリガーに掛かった指がまさに引き絞られようとした時、頭上の枝から1羽のフクロウが兵士目掛けて急降下した。  
「うわっ、くそ。やめろっ」  
 フクロウの鋭い爪と嘴に襲われた兵士は、防戦に追われて拳銃を撃つどころではない。  
 がら空きの胴にアゼレアの太刀が深々と突き刺さり、兵士は敢え無く絶命した。  
「ありがとう」  
 
 アゼレアの差し出した腕にとまり、誇らしげに胸を張るフクロウ。  
 森の中でアゼレアと戦うということは、森そのものも敵に回さなければならないということを、ドウム軍は知っておくべきであった。  
 
                                 ※  
 
「間もなく夜が明けるわ」  
 しらみ始めた東の空を見上げてアゼレアが呟く。  
 太陽が昇り、日の光を受けた森の木々が息吹を蘇らせれば、衰えたアゼレアの気力体力もかなり回復できるはずである。  
 アゼレアは手足を繋ぐ枷と鎖の重さに耐えながら、茂みの中を移動していく。  
「ねっ・・・眠いわ・・・」  
 アゼレアに回復の時間を与えないようにと、計算されたドウムの波状攻撃は確実に効果を上げていた。  
「少し・・・だけ・・・」  
 茂みの中に身を横たえて、半ば失神するように仮眠に入るアゼレア。  
 
                                 ※  
 
「重りを付けた体で、そう遠くへは行けないだろ。辺りに潜んでやがるに決まってる」  
 アゼレアの心地よいまどろみを邪魔したのは、近くを捜索していたドウム軍兵士の会話であった。  
「忌々しい樹海だぜ。こんな時のための新兵器だろうによ」  
「物騒なこというな。今使われたんじゃ俺達までお陀仏だぜ」  
 茂みの中のアゼレアは、遂に辿り着いた敵の新兵器の情報に身を固くする。  
「それにアレはまだ開発中の試作品だから、サンプルはもう数発しかないって話だしよ」  
「今日明日にも、学者の先生がこれまでの開発データを持って本国へ帰るって聞いたぜ。アレさえ量産出来りゃ、深緑エルフなんざ目じゃねえよ」  
 兵士達はぼやきながら見当違いの方向へと去っていった。  
「もう時間がないわ。今日中に前進基地を攻撃して、開発データとやらを破壊してしまわなければ」  
 先を急ぐアゼレアを更に焦らせるように、別の一団が東から近づいてくる。  
「いいか、日が昇れば雌エルフの力は倍増する。それまでに必ず捕獲するのだ」  
 アゼレアは無駄口を叩きながら接近してくる兵士達を見て青ざめる。  
 
「まずいわ。奴らケルベロスを連れている」  
 兵士達は超感覚を持つアゼレアに対抗するため、嗅覚の優れた魔狼ケルベロスを先頭に立てて捜索をしていた。  
 如何にも凶暴そうな魔狼は、鼻先を地面に擦りつけるようにして辺りを窺っていたが、やがてエルフの臭いを探り当てたのか、身を低く構えて唸り声を上げ始める。  
「ゲッ、近くに潜んでるのか。犬を放せ」  
 鎖から解き放たれて自由の身となった巨大な魔狼は、アゼレアの隠れている茂みに向かってまっしぐらに走り始めた。  
「やっぱり見つかってる」  
 獣の鼻の前には、茂みに潜み続けることなど無意味だと悟ったアゼレアは、兵士達とは反対方向へと駆け出した。  
「出たぞっ、各班に通報。包囲しろ」  
 必死で湿地帯を走るアゼレアだったが、手足にズシリと掛かる枷の重みが邪魔になり、思うように動けない。  
 それでなくても追跡者の運動能力はアゼレアを凌駕していた。  
 絶滅危惧種として知られるケルベロスが、只の野犬や狼より遙かに攻撃力や敏捷性に富んでいるのは有名な事実である。  
 ほんの50歩も走らないうちに、背後から強烈な体当たりを食らったアゼレアは無様に転がる。  
「乱暴はお止めなさい」  
 どんな動物とも意思を疎通させて、仲良しになれるアゼレアだったが、そのケルベロスは薬物でも打たれているのか目の色が普通ではなかった。  
 荒々しい息遣いと共に、牙を剥き出しにした口からは涎が垂れ流しになり、股間では生殖器官がビキビキと音を立てんばかりに膨張している。  
「何を考えているのですっ。バカなことはお止しなさい」  
 魔狼の意図を察知したアゼレアは真っ青になって後ずさる。  
 しかし魔狼の態度に、説得は不可能と判断したアゼレアは、身を翻して逃げに掛かる。  
 逃げる獲物に対し、ほとんど本能的に飛び掛かったケルベロスは、アゼレアを背後から噛み伏せる。  
「キャアァァァーッ」  
 
 悲鳴を上げて前のめりに倒れたアゼレアの下履きが、無慈悲な牙に掛かって引き裂かれた。  
 狂える魔狼は剥き出しになったアゼレアの秘所に鼻先をあてがってむしゃぶりつく。  
「いやぁっ、臭いを嗅いでるぅっ。やめてぇぇぇっ」  
 この数日、沐浴する暇もなかったアゼレアは、羞恥の余りに絶叫する。  
「雌エルフの奴、お犬様とお楽しみのようだぜ」  
 追いついてきた兵士達がアゼレアの痴態を遠巻きに楽しみ始める。  
 暴れ回る舌先から逃れようと必死で尻をくねらせるアゼレアだったが、魔狼の力の前には無駄な足掻きで、兵士達の目を楽しませるだけに終わった。  
「流石はエルフの女王様、下にも緑のジャングルをお持ちだ」  
「お犬様は雌エルフの臭いが、ことのほかお気に召されたようだな」  
 下品な野次につられて下卑た笑い声が辺りを包み込む。  
「ひぁっ・・・くぅぅぅ・・・」  
 敏感な秘所の奥まで出入りするざらざらの舌に、アゼレアは声を漏らせてしまう。  
 やがてアゼレアの味を堪能し尽くした魔狼は、組み敷いた彼女にのし掛かった。  
「やめてっ、お願い。やめてちょうだい」  
 アゼレアの哀願も興奮しきった野獣の耳には届かない。  
 固く膨張したケルベロスの生殖器官がアゼレアの秘裂に押し当てられる。  
 折しも昇ってきた朝日に照らされて、隠しようもないアゼレアの痴態を前に、ドウムの兵士達はズボンの前を膨らませながら生唾を飲み込んだ。  
 
                                 ※  
 
「はっ・・・力が・・・湧き上がってくる・・・」  
 日の光を受けて長い眠りから覚めた森の木々が、一斉に新たな息吹をアゼレアの体へ送り始めた。  
「お願い緑の精霊達、私の呼びかけに応えて。グリーンノア!!」  
 地形にも天候にも制限されることのないアゼレアの専用グリーンノアは、人間が放つそれより数段高い効果を示す。  
 一瞬で体の毒素を排出させられた魔狼は、アゼレアに挿入する一歩手前で我に返った。  
 アゼレアの体から降りた魔狼は、憎しみの籠もった目でドウムの兵士を睨み付けると、牙を剥いて彼等に襲い掛かった。  
 
「ヒィィィッ」  
「ギャァァァッ」  
 兵士達の逃げ込んだ森のあちらこちらで悲鳴が上がり、完全に静けさが戻るのに1分を要さなかった。  
 やがてアゼレアの元に戻ってきた血塗れの魔狼は、申し訳なさそうにうなだれて鼻を鳴らす。  
「もうあなたは自由なのです。お好きにしなさい」  
 全ては彼に薬物を投与したドウムのせいであり、アゼレアには、むしろ犠牲者とも言える魔狼を恨む積もりはなかった。  
「えぇっ、もう人間から逃げるのには疲れた。私を主人として仕えたいですって?」  
 魔狼の急な申し出にアゼレアは戸惑う。  
「駄目です。私はこれからとても危険な所に行くのです。あなたを連れて行く訳にはいきません」  
 アゼレアにキッパリと拒絶されションボリとなる魔狼。  
 それでも魔狼はせめてものお詫びにと、アゼレアの手足の枷を噛み砕くと、名残惜しそうに何度も振り返りながら森の中へ消えていった。  
「良い主人に巡り会うのですよ」  
 アゼレアは不幸な魔狼を見送りながら、そう祈らずにはおられなかった。  
 
 
 目指すドウム前線基地まであと僅かというところまで来たアゼレアだったが、熾烈を極める敵の最終防衛ラインに行く手を阻まれていた。  
 目の前に広がる平原を見てアゼレアが歯噛みする。  
「私一人を倒すためだけに、何万本もの木を・・・」  
 ドウムは基地周辺の森林を切り開き、広大な不毛地帯を設けることにより、森の聖女のホームグラウンドで戦う愚行を回避したのだ。  
「何の音?」  
 前進を阻まれ、平原に孤立したアゼレアの耳に、聞き慣れない物音が飛び込んでくる。  
 金属が軋むような走行音を立てながら、向こう側の森から姿を現せたのは、ドウムが新たに開発した毒殺弾道砲であった。  
 ちょっとした家屋ほどもある巨大な自走砲は、二本のキャタピラで地面を掻きながらゆっくりとアゼレアの方に迫ってくる。  
「何なの・・・あれは?」  
 砲車の見るからに禍々しいデザインは、見る者にドウムという国家の思想そのものを具現化したような印象を与える。  
 敵愾心を激しく掻き立てられたアゼレアは、金砂地の太刀を振りかざして砲車目掛けて突進していった。  
「タァァァァーッ」  
 虚空へ飛び上がったアゼレアは砲車の装甲に対し、太刀を思い切り叩き付けた。  
 次の瞬間、度重なる酷使に金属疲労を起こしていた太刀は、柄の辺りからポッキリと折れてしまった。  
 唖然とするアゼレアに向けて、砲車の機関銃が火を噴く。  
 我に返ったアゼレアは転げ回って射界の外に逃れると、全速力で走り、一旦敵との間合いを取る。  
「何て固い殻なの」  
 アゼレアはまだ痺れの残る両手を擦り合わせながら息を吹きかける。  
「エルフの女王さんは毒殺弾道砲の怖さを知らないらしい。一発お見舞いしてやれ」  
 砲車の砲塔でドウム軍の兵士がアゼレアの無知を嘲笑する。  
 砲塔を独立して動かすことのできない自走砲は、キャタピラを唸らせながら車体を旋回させてアゼレアに照準を合わせる。  
 
「よし、撃て」  
 車長の命令でトリガーが引かれ、閃光と共に砲身から金属製の砲弾が飛び出した。  
「当たらない」  
 ドウムの使う銃器類の攻撃は、速度はあるものの直線で飛来するため、むしろ魔法攻撃よりも見切りやすい事をアゼレアは既に理解していた。  
 目測通り、砲車の放った砲弾はアゼレアの頭上を越えて後方に着弾した。  
 しかし炸裂した砲弾が衝撃波と共に、高圧の白煙を周囲に撒き散らせることまではアゼレアの予測には入っていなかった。  
「あぅっ・・・ゴホッ、ゴホッ」  
 突然後方から襲い掛かってきた衝撃波に、前のめりに吹き飛ばされたアゼレアが白煙に巻かれて激しく咳き込む。  
 途端にアゼレアの目の前の風景がグニャリと歪み、手足から力が抜けていく。  
「如何かな。人間の運動神経を一瞬で麻痺させる、ドウム特製の毒殺弾のお味は」  
 してやったりとほくそ笑む砲車の車長。  
 しかしエルフは、並みの人間よりも遙かに強靱な肉体を誇る優れた種族である。  
 アゼレアは消え入りそうになる意識を何とか現実に繋ぎ止めると、自らにグリーン・ノアを施し、体内に吸収した神経毒を一瞬で無効化させた。  
「恐ろしい敵・・・仕方がないわ」  
 アゼレアは両手を組み合わせると、自らの意識を大地の思念に同調させた。  
 生きながら切り倒された数万本もの樹木の怒りが、地面を突き抜けて地上へと一気に湧き上がる。  
 ドウム科学の粋を集めて作られた毒殺弾道砲は、目に見えない力に突き上げられたかのように大きく傾き、次の瞬間、大爆発を起こして四散した。  
 魔法の攻撃範囲に居合わせた兵士の一軍が、巻き添えを食らってゴッソリ吹き飛ばされる。  
 アゼレアの誇る数々の魔法の中でも、唯一攻撃専用に特化したトリフィード・ウィップの威力は絶大であり、余程の場合でない限り使用されることはない。  
「これで敵が引いてくれたら」  
 その思いを乗せて放ったトリフィード・ウィップだったが、アゼレアの思いは叶わず、敵側の森の中から新たに3台の自走砲が姿を現せた。  
 
「また破壊されると分かっていながら・・・ドウムは自軍の兵士を何だと思っているのっ」  
 アゼレアは敵のやり方に嫌悪感を覚えながら、背後の森へと一旦退却することにした。  
 ガスマスクを着けたドウムの正規兵部隊がアゼレアの後を追って森に突入する。  
「およしなさいっ。無駄に命を散らすだけです」  
 アゼレアの警告を無視した兵士の一団が、大地の波動に突き上げられて消し飛ばされた。  
 たじろぐ後続部隊とアゼレアとの間に一瞬の間隙が生じ、沈黙が辺りを包み込む。  
 その静寂を破ったのは、空気をつんざいて飛来した1発の砲弾であった。  
 森の上空まで到達した砲弾は、粒弾の代わりに液体の飛沫を上げながら炸裂した。  
「・・・・・」  
 呆然として空を仰ぐアゼレアとドウム正規兵の頭上に、黒い雨が降り注ぎ始めた。  
「ギャァァァァッ」  
「ヒィィィッ」  
 黒い雨の正体を知るドウムの兵士たちが悲鳴を上げて混乱状態に陥る。  
 全身を黒く染めて藻掻き苦しむ兵士たちの顔や手がみるみる爛れていった。  
 アゼレアの体にも黒い雨は容赦なく降り注ぎ、彼女の体から気力体力を根こそぎ奪っていく。  
 視覚が、次いで聴覚が失われ、平衡感覚までも喪失したアゼレアの体は、いつしか地面に横たわっていた。  
 
                                 ※  
 
 アゼレアは薄暗い洞窟の中を一人で歩いていた。  
 何故こんな所にいるのか、どこへ向かって歩いているのか自分でも分からない。  
 アゼレアの傍らをヌイグルミを抱えたスタリナが駆け抜けていく。  
「待って、危ないから。スタリナ」  
 アゼレアは走り去るスタリナを追いかけようとするが、思うように足が動かない。  
 気ばかり焦るアゼレアを、今度はルーチェとラトが何やら楽しく話ながら追い越していく。  
「ルーチェさん、ラト。スタリナを止めて下さい。あの子ったら、こんな暗がりを走ったりして・・・」  
 しかし、2人はアゼレアの呼びかけになど気付かぬように通り過ぎていく。  
 更にハン・デ・クルとマリルが、シオンとアーマリンがそれぞれ互いを愛しむように歩いていくが、アゼレアの事など誰も気にする素振りは見せない。  
 
「どうして・・・」  
 置いてけぼりを食らったアゼレアは寂寥感に包まれて泣き出しそうになる。  
「よう、どうした。アンタらしくもないな」  
 突然の呼び掛けにアゼレアが振り返ると、そこには笑顔の大蛇丸が立っていた。  
 大蛇丸目掛けて走り出そうとしたアゼレアだったが、何故か急に足が動かなくなる。  
 訝しげに足元を見たアゼレアは悲鳴を上げる。  
「ヒィィィッ、いやぁぁぁっ」  
 何と彼女の足には何匹もの毒蛇が絡み付き、斑の浮いた体をうねうねと蠢かせていた。  
 毒蛇の群はいつの間にか全裸になったアゼレアの足に絡みながら這い上がってくる。  
 そして2匹の毒蛇が鎌首をもたげて無防備な秘門玉門に狙いを付けると、一斉攻撃を掛けてきた。  
 必死の抵抗も虚しく、2匹の毒蛇はもの凄い力で太い頭部をアゼレアの体内にめり込ませていく。  
「あひぃぃぃっ」  
 今まで味わったことのない強烈な刺激に、アゼレアは身を仰け反らせて悲鳴を上げる。  
 前後の秘所に潜り込むことに成功した毒蛇は、体をのたうちさせながらアゼレアの奥へ奥へと侵入していった。  
「かっ・・・かはぁぁぁ・・・」  
 だらしなく開ききったアゼレアの口の中に別の毒蛇が入り込み、喉の奥へと侵入を図る。  
「うげぇっ、ゴホゴホッ」  
 急に喉の奥を刺激させたアゼレアが激しく咳き込み息が詰まる。  
 本能的に毒蛇を掴んだアゼレアの右手の二の腕に一匹の毒蛇が噛み付いた。  
「痛っ」  
 毒牙を受けた二の腕に激痛が走る。  
 
                                 ※  
 
「マイーラウ様。どうやら意識を回復させたようです」  
 白衣を着た眼鏡の男が、モニターから目を離しながら呟いた。  
「流石はエルフの女王というところかしら。デスオキシンを浴びて失神してから、まだ3日目というのに」  
 マイーラウと呼ばれた女は何の感情も帯びていない声で返答した。  
 
 モニターに写るアゼレアは、意識を取り戻したものの、まだ自分の置かれた環境が理解しきれずに惚けた表情を浮かべている。  
「本日の採血を開始します」  
 リモコン式のマニピュレータを操る技師が上司に伺いを立てる。  
「体液のサンプルは混同しないように、整理と管理には万全を期しなさい」  
 マイーラウは冷たく命令を下す。  
 
                                 ※  
 
 アゼレアは右手の二の腕に突き刺さった注射器のシリンダーに、真っ赤な鮮血が満ちていくのをぼんやりと見ていた。  
「蛇は・・・どこへ・・・」  
 アゼレアは首を巡らせて自分の体を見回す。  
 しかし蛇はどこにも見当たらず、代わりに股間に差し込まれた2本のパイプと、体のあちこちから伸びた色とりどりのコードが目に入った。  
「痛っ」  
 腕から注射針が引き抜かれる時の痛みが、アゼレアを夢の世界から現実に引き戻した。  
 意識がはっきりすると、アゼレアは自分が拘束台に仰向けに寝かされ、身動き出来ない状態にあることに気付いた。  
 両足は分娩ベッドの開脚台のような物に乗せられた上で固く縛られ、ひっくり返ったカエルのような惨めな姿を強いられている。  
 両手は頭側の金具によって固定され、文字通りお手上げ状態にあった。  
 更には腰の辺りも革製のベルトで幾重にも縛られ、身悶えすることすら許されない。  
 抗議の声を上げようにも、口にはゴム製のパイプが喉の奥まで通されており、声にならない喘ぎが漏れるだけである。  
 アゼレアがパイプに噛み付いてみても一向に歯が立たず、どうやら自殺防止用の猿轡を兼ねているようであった。  
 アゼレアの周囲には正体不明の機器が所狭しと積み上げられており、無言の圧迫感を与えている。  
 
                                 ※  
 
「意識が戻ったのなら、流動食のパイプはもう必要ありませんか」  
 栄養担当の技師が主任技師に伺いを立てる。  
 
「いや、栄養摂取はこのままで続行する。均一の質、定まった量の合成食料を与え続けてこそ、消化器系統の正しいデータが取れるのだからな」  
 心拍計と脳波計をチェックしていた主任技師が答える。  
「やはり意識を取り戻したことで、体温と心拍数が飛躍的に上がったな。アルファー波の出も低下してきおったわい」  
 主任技師は眼鏡を光らせて熱心にデータを解析していく。  
「排卵促進剤の投与ですが。本日から経口薬をやめて、注射に切り替えます」  
 マイーラウを振り返った主任技師は、今後の作業予定について説明をする。  
 ドウム戦闘国家の中央審議会の役員として国家の運営を担う1人であるマイーラウは、アゼレアの検査データに目を通しながら頷いた。  
「強大な魔力を秘めたエルフの女王の卵子を持ち帰って、オーガプロジェクトの実験体に応用するマイーラウ様の計画。ずばり成功しそうですな」  
 主任技師は指先で眼鏡を持ち上げながら、女上司へのお追従を口にする。  
「しかしデスオキシンの枯葉剤を餌に、女王を誘き寄せて生け捕りにする実行部隊の方は、とんだ計算外の犠牲を払わされましたが」  
 ヘラヘラとおべっかを使う主任技師にマイーラウの冷たい視線が浴びせられる。  
「こっ・・・これは・・・余計なことを」  
 冷や汗をハンカチで拭いながら恐縮する主任技師。  
「もっとも簡単に捕まるような女王様なら、こちらとしても最初から用はないけどね」  
 モニター越しにアゼレアの姿を見ながらそっと呟くマイーラウ。  
 
                                 ※  
 
 アゼレアが拘束台の上で意識を取り戻してから数日が過ぎた。  
 その間、体液の採取や怪しげな薬の投与などの人体実験が繰り返された。  
「ダメだわ・・・魔法が発動出来ない」  
 アゼレアがどれほど意識を集中させても、実験室に張り巡らされた電磁波に干渉を受けて四源精霊の召還が阻害されてしまう。  
 術者の魔力を電磁界で封じておいて、科学力で一方的に攻撃するというドウムのアウトレンジ戦術は小規模ながら既に実現していたのだ。  
 裸に剥かれてモルモットのように実験を繰り返された上、栄養補給や排泄までがパイプを通じて強制的に管理される生活に、アゼレアのプライドが耐えられるはずはなかった。  
 
「何とかしなければ。こんな奴らを野放しにしておけば、世界がどうなるか・・・」  
 そんな事を考えているうちに、いつもの通りマニピュレータが作動して、アゼレアの陰部を大きく広げる。  
 4本の鉗子が膣口をX字に掛けられ、それぞれ斜め方向に大きく広げられる。  
「くぅっ、いつもよりきついっ・・・全部見られてるわ」  
 アゼレアの顔が羞恥に歪む。  
 思えばアゼレアは基地に連れ込まれてから只の1人も人間の姿を見たことがなかった。  
 ドウム戦闘国家とは人間の国ではなく、実は機械の帝国ではないかとアゼレアは疑うが、幾人もの見えない視線を感じたりしているのも事実である。  
 
                                 ※  
 
 惨めなアゼレアの姿をモニター越しに見つめていたのは、勿論マイーラウおよび主任技師以下の特務研究員たちであった。  
「それでは採卵に入ります」  
 技師の1人がリモコン式のマニピュレータを慎重に操り、採卵用の細長い針がついた注射器をアゼレアの膣道に挿入する。  
「綺麗な色してるわね」  
 マニピュレータに取り付けられた超小型カメラが送ってくる膣内の画像を見て、マイーラウが鼻で笑った。  
 
                                 ※  
 
「痛っ」  
 卵管に異物を突き込まれてアゼレアの下腹部に激痛が走る。  
「くっ・・・くぅぅぅっ」  
 アゼレアの下半身で唯一自由になる爪先が虚しく宙を掻く。  
「なっ・・・何をしてるの。痛ぁぁぁーっ」  
 何をされているのか分からない不安はアゼレアを恐怖に駆り立てる。  
 やがて作業を終えたのか注射器が膣から抜き出され、ようやく激痛から解放されたアゼレアは全身の力を抜いて深く息を吐いた。  
 天井の穴に収納されていくマニピュレータを、アゼレアはぼんやりとした目で見送った。  
 
                                 ※  
 
「卵巣内より、卵子15個の回収に成功しました」  
 技師の1人が、採卵器の中身を培養液の入ったシャーレに移し替えながら説明する。  
「新開発の排卵誘発剤を投薬した甲斐があったわね。これで今回の作戦は終了したわ。明日にもこの卵子を本国に持ち帰り、オーガプロジェクトの核とする第2段階に入ります」  
 マイーラウは口元を僅かに弛めて微笑む。  
「驚異の魔法力を誇るエルフの女王の遺伝子は、必ずあなたのご栄達に役だってくれます」  
 主任研究員はすかさず女上司のご機嫌をとる。  
「全てはドウムの真理のために」  
「全てはドウムの真理のために」  
 女上司に倣って、技師たちが一斉に挙手の敬礼を行う  
「もう女王様には用はないわ。明日の出立前に処刑して、ホルマリン漬けにでもしておきなさい」  
「やはり、生かしたまま本国に連れ帰ることは・・・」  
 異議を申し立てようとした主任は、マイーラウの殺気のこもった視線を受けて黙り込み、いそいそとモニター室を出ていった。  
「この雌エルフを、中央審議会のオヤジ共の前に連れて行きでもしようものなら・・・」  
 これまで築いてきた自らの立場と権限を危うくするような要因は、全て排除しておくに限る。  
 モニターの中でだらしなく全裸の体を弛緩させて、それでも決して損なわれていないアゼレアの美しさに、マイーラウは嫉妬の目を向ける。  
「安心して死んでちょうだい。あなたの赤ちゃんは、私が代わりに生んであげるから」  
 
 
 その夜のこと、アゼレアが収容された特殊実験室に忍び寄る2つの影があった。  
「犯りもしないで殺っちゃうなんて、勿体ない話だぜ」  
「小うるさい女上司をオカズにするのも、すっかり飽きちまったからな」  
 まだ若い2人の技師は、ギラギラした欲望に期待とズボンの前を膨らませながら、特殊実験室のドアロックを解除に掛かる。  
 事前に入手していた6桁の数字をパネルに入力すると、油圧式のドアは自動に開き、隙間から殺菌済みの清浄な空気が洩れ出してきた。  
 2人は周囲を確認してから実験室へと侵入し、中からドアを閉める。  
 ひんやりとした実験室は2人が入るともう手狭であった。  
「おいっ」  
 1人が指差したベッドにはM字開脚を強いられたアゼレアが仰向けに横たわり、所々に点けられた赤い非常灯がその体を幻想的に浮かび上がらせていた。  
 もう栄養を与える必要がないため、喉に差し込まれていたゴム製のパイプは取り除かれている。  
「ゴクッ・・・」  
 なだらかな曲線を余すことなくさらけ出したアゼレアを前に、技師達は生唾を飲み込む。  
「ホントに犯っちまっていいのか」  
 圧倒的なエロティシズムを持って目に飛び込んでくるアゼレアのヌードに、2人の欲望はかえって挫けそうになる。  
「このンヶ月ご無沙汰だったんだ。それにこれだけのいい女、この次いつお目に掛かれるか分かったもんじゃねえよ」  
 年上の技師が勇気を振り絞り、アゼレアの胸の隆起に震える指先を伸ばす。  
 仰向けになっても重力に逆らうかのように、容積を失わない盛り上がりは、技師の指先に触れるとプリンのように柔らかく弾んだ。  
 一旦ビクッと引っ込められた指は、再び前進を開始し、桜色をした突起に触れる。  
 技師が思い切って摘んでみると、その部分はコリコリした感触を指先に伝えてくる。  
「おっ、俺も」  
 2人掛かりで左右の乳首を弄っていると、桜色は色味を増し、徐々に固くしこってきた。  
「寝てても感じるのかよ」  
 やがて2人の手は山の頂を離れ、円を描くようにしながら、裾野へと降りていった。  
「うふぅぅ〜ん・・・」  
 敏感な肌へのソフトタッチに反応して、眠ったままのアゼレアが甘えたような鼻息を上げてしまう。  
 
 たまらず左右から乳房を揉みしだき始めた2人。  
 2人の手の動きは興奮度に比例して、徐々に荒々しくなってくる。  
「うぅぅ〜ん・・・」  
 乳房の荒っぽい扱いは、アゼレアの意識を覚醒へと導いた。  
「・・・はっ?」  
 欲望に濁った男達の目と、アゼレアの澄んだ緑の双眸が空中で絡み合う。  
「イヤァァァ〜ッ」  
 いきなり上がった悲鳴に驚いた2人は、反射的にアゼレアの口にてのひらを押し当てる。  
 これまで意識の無かったアゼレアを貴重な美術品のように扱ってきた2人だったが、彼女が声を上げたことにより、いきなり遠慮のたがが外れた。  
「雌エルフ風情が、いっちょまえに悲鳴なんか上げるんじゃねぇ」  
「どうせこの部屋は完全防音よ」  
 猛り狂った男達はアゼレアの乳房を左右から鷲掴みにすると、乳首にむしゃぶりついた。  
 身内に見つかれば処刑されるという危機感も手伝ってか、異常なほど興奮した2人はアゼレアの乳首を唇で挟んで舌で転がし、更には荒っぽく歯を立てたりする。  
「痛ぁっ。やめなさいっ・・・あぁっ」  
 2人掛かりの執拗な責めから、何とか逃れようと必死で身悶えするアゼレアだったが、頑丈な拘束具からは離脱出来ない。  
「このデカパイ、全然飽きが来ねぇや」  
 年上の技師がアゼレアの胸の上に馬乗りになり、貧弱ながらもいきり立った分身を胸の谷間に埋没させる。  
 男はアゼレアの両胸を上から鷲掴みにし、中央に寄せてペニスをきつく挟み込むと、腰を前後に揺すり始めた。  
 男の尻に肺の拡張を妨げられて、呼吸困難に陥ったアゼレアの顔が苦痛に歪む。  
「うぐぅ・・・くっ、苦しいっ」  
 眉間に皺を寄せて喘ぐアゼレアの顔に、白濁色の粘液が降り注ぐ。  
「くはぁっ。たまんねぇぜ」  
 溜まりに溜まった男のモノは、1回の絶頂では全く衰えを見せない。  
「くそっ、俺も」  
 乳房を先輩に独占された年若い技師は、開脚台に固定され、閉じることの出来ないアゼレアの股間に顔を寄せた。  
 
 そして男は指先で秘密の包皮を剥き、アゼレアの股間のルビーをさらけ出させた。  
「こいつが全エルフを統べる女王の宝玉か」  
「いやっ、やめてっ・・・イヤァァァ〜ッ」  
 哀願を繰り返すアゼレアを無視して、男の舌先が彼女の最も敏感な部分に触れる。  
「あぐぅぅっ」  
 体の奥底から無理矢理に快感を呼び起こされて、アゼレアが複雑な悲鳴を上げる。  
「ヘヘヘッ、感じてるのか?」  
 技師がアゼレアの反応を楽しみながら問い掛ける。  
「だっ、誰がっ。あなた達も恥という物を知りなさいっ」  
 アゼレアは歯を食いしばりながら厳しい口調で言い放つ。  
「それはどうかな。今から確認してやるよ」  
 技師がアゼレアの頭部に接続された脳波計のスイッチを入れてみると、シーター波の波形が激しい揺れを示しながら上昇しているのが確認された。  
「やっぱりエルフでも人間でも、ここは共通の泣き所みたいだな。機械は騙せないぞ」  
 男が小刻みに振るわせる舌先は、剥き出しの肉芽を容赦なく責め立てる。  
「あふぅぅぅ・・・」  
 アゼレアは駄々っ子がイヤイヤをするように激しく首を振り、不当に与えられた快感に耐える。  
「こっちはどうかな?」  
 若い技師はアゼレアの肛門から伸びている強制排泄用のパイプを握ると、小さな円を描くようにグリグリと回し始めた。  
 軟質パイプの表面にビッシリと付いている脱落防止用の逆鉤が、アゼレアの直腸壁を掻き回す。  
「かはぁぁぁ・・・そっ、そこぉぉぉ。だっ、駄目ぇぇっ・・・」  
 開ききったアゼレアの口から涎が垂れ、黒目が瞼の裏に潜り込み掛ける。  
「女王様は後ろの方も開発済みらしいぜ」  
 若い技師は意外そうに呟きながら、排泄パイプを強引に引き抜く。  
「アヒャアァァァッッ」  
 脊髄を走り抜けた快感に、アゼレアは思い切り首を後ろに反らせて悲鳴を上げ、足指が内側へときつく折り畳まれる。  
 同時にシーター波の出力は計測可能値を振り切り、アゼレアはめくるめく快感の波に飲み込まれていった。  
 
                                 ※  
 
 アゼレアが意識を覚醒させると、年長の技師が股間の花弁に舌を這わせているところであった。  
 本人の知らぬ間に股間を濡らせてしまった液体は、決して彼の唾液だけではなかった。  
「いやぁっ」  
 狼狽えたような悲鳴を上げるアゼレア。  
「気が付いたかい女王様。あんたのは極上の蜜の味だぜ。しかしこの量は・・・」  
 アゼレアの秘所から溢れ出た蜜は、既に肛門までベトベトに濡らせていた。  
「あぁんっ・・・へっ、変だわ。体の奥がぁぁぁ・・・」  
 下半身を包み込む異常な快感に、アゼレアは不自然さを感じる。  
「新開発の発情剤はたまらないだろ?寝てる間にタップリと嗅がせてやったからよ」  
 若い技師が手に持った携帯スプレーの缶を、これ見よがしにブラブラとさせる。  
 性欲、というより種の保存本能に直接的に作用する薬剤に、アゼレアは正常な判断力を失いかける。  
「この発情剤とデスオキシンの枯れ葉剤を使えば、プリエスタ攻略など朝飯前ってモンよ」  
 技師が何気なく発したこの台詞が、我を失い掛けていたアゼレアを現実に引き戻した。  
「そうだわ。私が苦労してここに来たのはドウムの野望を砕くためだったはず」  
 今回の冒険における当初の目的を思い出し、アゼレアの意識が完全に鮮明になった。  
「何としてでも、ここを脱出しなければ。恥ずかしいけど・・・仕方ないわ」  
 アゼレアは意を決すると、熱っぽい目で技師達を見つめて媚態を演じる。  
「ねぇ・・・お願い・・・」  
 2人の技師は、してやったりと互いの目を見合わせる。  
「何をお願いしているのかな?」  
「はっきり言ってくれないと分からないなぁ」  
 2人はにやついた目でアゼレアを見下ろしながら、垂れかかった涎をすする。  
「お願い・・・あなた達のを・・・早くぅぅぅ」  
 アゼレアは切なそうに眉間に皺を寄せて熱い吐息を漏らした。  
「俺達の御珍宝様をどうして欲しいんだ?」  
 年上の技師がねちっこく質問を続ける。  
「あなたの・・・御珍宝様を・・・アゼレアの・・・アッ、アソコにぃぃぃっ」  
 目の前の超美人の口から出た卑猥な台詞に、今度は男たちの心のたがが吹き飛んだ。  
 
「たまらねぇっ」  
 先輩の特権を利用して、年上の技師がアゼレアの股間に割って入る。  
 しかし男の腰を受け入れるのには、アゼレアの開脚度は浅すぎた。  
 年長の技師は、すかさず開脚台のロックを解除して、アゼレアの足を大きく開く。  
「ちょっと待ってくれよっ。何であんたが先なんだ」  
 後輩の技師が血相を変えて、先輩に食って掛かる。  
「俺だって、もう我慢出来ねぇんだよ」  
 後輩の語気に危機感を感じた技師は一計を案じる。  
「だったらお前は後ろを使えばいいだろ。こっちだって、なかなかのモンだぜ」  
 先輩技師は露わになったアゼレアの肛門を広げてサーモンピンクの中身を晒させる。  
「2人同時って訳か」  
 独立した生き物のようにヒクヒクと痙攣するアヌスを見て、後輩技師は生唾を飲む。  
「どっちにしたって仰向けのままじゃ無理だ。ロックを解除して四つん這いにさせろ」  
 若い技師がコンパネを操作して、アゼレアの自由を奪っている戒めを解除した。  
 次の瞬間、体の自由を取り戻したアゼレアはベッドを蹴って宙に跳んでいた。  
「ギャッ」  
 完全に虚を突かれた年長の技師は、アゼレアの爪先に喉笛を砕かれて卒倒する。  
 続いて繰り出された右回し蹴りが若い技師の左側頭部に炸裂し、脳漿を激しく揺らせる。  
「まっ、待ってくれ。俺がいただこうとしたのはケツの穴の方だし・・・」  
 男は意味の分からない言い訳を口にしながら後ずさる。  
「そっ、そうだ。どうせ今のアンタは卵巣が空で、超安全日なんだしよ」  
 壁際まで追いつめられた技師は許しを請うこともせず、必死で言い訳を続ける。  
「どういう事なの?」  
 アゼレアは男の言葉に、先刻の怪しげな実験を思い出す。  
「アンタの卵子を本国へ持って帰り、体外受精させて実験体を作る積もりなんだ」  
「なんですって。エルフの血統を悪魔の実験の道具なんかに・・・」  
 逆上したアゼレアの膝が男の睾丸を蹴り砕いた。  
 
                                 ※  
 
 私室のシャワールームを出たマイーラウは、姿見に映った自分のヌードに酔いしれていた。  
「うふふっ、デスオキシンの開発に成功した上、アゼレアの卵子も手に入ったわ。こんなに計画通りに事が運ぶなんて、怖いくらい」  
 
 マイーラウは満足そうに微笑むと、手にしたシャンパングラスを煽った。  
「これで作戦の第2段階が上手く行けば、私が審議会の議長になるのもそう遠い未来の話じゃないわ」  
 女の身でドウムの中央審議会の一員となったマイーラウだったが、これまでの道程は決して平坦なものではなかった。  
 無論色仕掛けも使ったし、賄賂にも手を染めた。  
 しかし彼女に今日の地位を築かせたのは、ひとえに有り余る才能と血の滲むような努力、そして何より人並み外れた向上心である。  
 それだけに無条件でかしずかれる女王などという存在は、彼女にとっては許し難かった。  
 マイーラウは棚の引き出しを開けると、光沢を帯びた黒革のベルトを取り出し、手早く下半身に装着する。  
 股間にそそり立つ、禍々しい形の張り型。  
「処刑の前に、こいつでタップリとお仕置きしてあげるわ」  
 マイーラウは愛おしそうに作り物のペニスを扱きながら、鏡の中の自分にうっとりと見惚れる。  
 マイーラウの私室のドアが荒々しく開かれたのはその時であった。  
「マイーラウ様っ、大変です」  
 リビングに転がり込んできた主任技師は、女上司の異様な格好を目の当たりにして呆気にとられる。  
「ノックもしないで。何事ですかっ」  
 手早くガウンを纏ったマイーラウは無礼な部下を叱りつける。  
「そっ、そうだ・・・アゼレアが脱走しました。今、警備隊が第4ブロックに追いつめているところです」  
 
                                 ※  
 
 アゼレアは技師から奪った短い白衣だけを身に着けて、警報ランプの明滅する廊下を走っていた。  
「いたぞぉ、撃てっ。撃てぇっ」  
 雨霰と飛来した弾丸は、アゼレアの体に到達する遥か手前で方向を逸らされ、天井や壁を蜂の巣に変える。  
 電磁波が張り巡らされた実験室を一歩出た瞬間から、アゼレアの魔力は自動的に復活していた。  
 
「げぇっ、銃が通用しない?」  
 目の前で起こった奇跡に、科学至上主義に凝り固まった警備隊の面々は呆然となる。  
「お下がりなさいっ。私に殺されたくなければ」  
 アゼレアの一喝に怯みを見せた警備隊だったが、それでも勇気を振り絞った何人かが白兵戦を挑むべく突っ込んでくる。  
 その一団が見えない力に突き上げられて壊滅すると、アゼレアの行く手を止めようとする勇者はもういなかった。  
 敵のボスを捜すため、捜索を再開したアゼレアだったが、その時実験室で感じた異様な失調感に包まれた事に気付いた。  
「お待ちなさい、エルフの女王」  
 スピーカーから聞こえてきた女性の声に、アゼレアは咄嗟に身構える。  
「あなたがドウムのボスね。姿を見せなさい」  
「女王様らしく、森の中で大人しくしていればいいものを。ノコノコこんな所までやって来て罠に掛かるとは・・・世間知らずにも程があるわ」  
 アゼレアの呼びかけを無視したマイーラウの声が嘲笑に変わる。  
「私はエルフの女王だから、エルフの民に対する責任を果たしているだけよ。指導者の権限と言うものが、それに伴う責任の上に成立している事くらい、あなたも承知しているでしょうに」  
 権力志向の女ボスは痛いところを突かれてヒステリーを爆発させた。  
「そんな綺麗事は聞きたくないわっ。さっさと銃殺してしまいなさい。電磁界の中では、その雌エルフも魔力を使うことは出来ないから」  
 我に返った警備隊の兵士たちは銃を構え直すと、アゼレアに向けて照準を合わせる。  
「うぅっ・・・こんな所で死ぬ訳にはいかないのに・・・」  
 魔力を封じられたアゼレアは背後の壁に追いつめられ、逃げ場を失ってしまう。  
「打ち方用意」  
 指揮官の手が真上に上げられ、数十丁の銃が一斉にカチャリと音を立てる。  
「みんな・・・ごめんなさい・・・」  
 覚悟を決めたアゼレアは静かに目を瞑り、胸の前で手を組み合わせる。  
「撃てっ」  
 閃光と共に落雷のような銃声が鳴り響き、兵士たちの耳を聾した。  
 
 もうもうと立ち込めた煙が排気され、視界が回復した時、兵士たちがそこに見たものは、穴だらけになったコンクリート壁であった。  
「消えたっ。消えてしまった・・・森の聖女が、また奇跡を起こした・・・」  
 
                                 ※  
 
「起きなさい、アゼレア。目を覚ますのです」  
 何者かの呼び掛けに瞼をそっと開けてみるアゼレア。  
「こっ、ここは?」  
 確かドウムの基地内にいたはずなのに、アゼレアは自分が何故か柔らかい光に満ちた空間にいることに気付いた。  
「天国でないことは確かですよ」  
 横手から話し掛けられたアゼレアは、声の主を知って驚愕の悲鳴を上げかける。  
「あなたは・・・ルドーラ」  
 相手が自分を執拗につけ狙う魔族と知ったアゼレアは、手早く体のあちこちを改める。  
「これは、ずいぶん嫌われたものですね。貴女には指一本触れていませんからご安心を」  
 アゼレアは上辺だけは紳士的なルドーラを不審の目で睨み付けた。  
「私にも自分で決めた順番というものがあるのですよ。こんな絶好の機会を逃すのは惜しいのですが。貴女の番までには後4人程、間に予定が入っていますので」  
「なぜ私を・・・」  
「フルコースの前菜を食べている間に、メインディッシュを他人につまみ食いされるのは面白くないですからね」  
 アゼレアの質問にクスクス笑って答えるルドーラ。  
「私をどうするつもりなのです」  
 ドウムの科学をも超越する強大な魔力の持ち主を相手に、アゼレアの緊張は高まる。  
「私は新しい魔王の呼び掛けに応じて、北へ急ぐ途中なのです。貴女は取り敢えず仲間の所に運んであげましょう」  
「仲間の所?」  
「極東の飛竜たちが近くまで来ています」  
「大蛇丸が」  
 その名を聞いて思わずドキリとするアゼレア。  
「ただこれだけは言っておきましょう。エルフと人間では生きる時間の流れが違い過ぎるのです。どんなに人間を愛しても、それが結局、貴女を苦しめる事になるでしょう」  
 
 ルドーラの言葉に、アゼレアは改めてシオンとアーマリンの強さを思い出す。  
「では、聖女アゼレアよ。また会う日まで」  
 ルドーラが手を振ると同時に光の渦がアゼレアを包み込み、再び意識が事象の地平へと飛ばされた。  
 
                                 ※  
 
「おいっ、しっかりしろ。おいって」  
 頬に走る痛みで意識を取り戻したアゼレアは、自分が大蛇丸の腕の中に倒れ込んでいることに気がついた。  
 離れた森の中に、ドウムの前進基地が半球型の屋根だけを覗かせている。  
「おっ、気がついたかい。遅くなって悪ぃ。途中でドウムの本国軍に邪魔されてな」  
 人懐っこい笑顔を見せる大蛇丸に、アゼレアはほとんど反射的にしがみついていた。  
「違うのです、ルドーラ。時間が無いのは、私の方なのです。1人残されて苦しむのが自分なのであれば、幾らでも耐えて見せましょう」  
 アゼレアは心の中でルドーラに呼び掛ける。  
「しかし愛した人の思い出の中で、相手を苦しませる種として生きていくのは・・・やはり、耐えられそうにありません」  
 アゼレアは今更ながらに緑の守護者、エルフの女王としての運命を呪う。  
 その時アゼレアは大蛇丸にしがみついた自分の体が、異様に濡れていることに気付いた。  
 見れば着ている白衣が真っ赤な液体に染まっている。  
「血っ?・・・あなた怪我を」  
「あぁっ?そういや、ドウムの奴ら・・・やたら激しく撃って来やがったからなぁ」  
 彼が先を急ぐ余り、ドウムの銃火の中を強行突破して来たことは明白であった。  
 強引に服を脱がせると、大蛇丸の体は銃創だらけであり、生きているのが不思議なぐらいであった。  
「こんなになってまで・・・あなたは、どうして・・・」  
 アゼレアは感極まったように絶句する。  
「へへっ。そりゃ1回お前さんを抱くまでは、なっ」  
 大蛇丸は弱々しく笑いながら、ひねくれた返事を寄越した。  
「1度だけ・・・ですよ」  
 しばらく続いた沈黙を破るように、アゼレアが静かに、しかしキッパリと言った。  
 
「へっ?何が」  
 大蛇丸は意味が分からず思わず聞き返したが、アゼレアは怒ったように真っ赤になってだんまりを続けている。  
「ええっ?お前さん本気か」  
 ようやくアゼレアの言った意味を理解した大蛇丸は、かえって心配顔になる。  
「訳あって今なら、赤ちゃんの心配はしなくてもいいのです。けど、この1回で私のことは忘れると約束して下さい」  
 アゼレアの真剣な表情に、大蛇丸は只ならぬものを感じた。  
「嫌だ。そんな約束は出来ねぇな。1度やったばかりに、かえって忘れられなくなることだってあるんだ」  
 大蛇丸の台詞に誠意をはぐらかされたようになったアゼレアは、逆上してヒステリーを起こす。  
「私がすると言ったらするのですっ。ついでに今後一切エルフの女の子に手を出さないって、誓いなさいっ」  
 アゼレアはフンドシの上から大蛇丸の逸物をムンズと掴む。  
「おいっ、俺は出血がひどくて・・・あがぁっ?」  
 少なくなった血液が多量に海綿体へと流れ込んだため、大蛇丸は脳貧血を起こしかける。  
「あなたは動けないのだから、私が上になります」  
 アゼレアは充分に隆起した大蛇丸の逸物から手を離しながら言った。  
 2人の名を呼ぶ複数の声が聞こえてきたのは、まさに大蛇丸に跨ったアゼレアが逸物の上に腰を下ろそうとした時であった。  
 
                                 ※  
 
 茂みの向こうから姿を現せたのは、不如帰に先導された3勇者、ラト、それにイヌオウに背負われたスタリナであった。  
「みんな、来てくれたのね」  
「ガールフレンドの恩人を見捨てるぐらいなら、勇者の称号は返上しますよ」  
 シフォンが頼もしい台詞を口にする。  
「大蛇丸さん、どうかしたんですか。キャァッ」  
 裸で横たわった大蛇丸が、フンドシの前を勃起させたままでいるのに気付いて、ランジェが小さな悲鳴を上げる。  
「こっ、この人・・・私が治療をしていたら、いきなりおっきくして・・・」  
 
 咄嗟に苦し紛れの嘘を口にするアゼレア。  
「うわっ、大蛇丸さん。僕はあなたを軽蔑するぞ」  
「無節操だとは聞いてたけど、これじゃ犬並みじゃんか」  
 シフォンとラトの厳しい非難を受けても、アゼレアの立場を考えた大蛇丸は一言も言い訳をしなかった。  
「殿・・・来るタイミングが悪かったですかな?」  
 あくまで無表情の不如帰が主人を見下ろしながら冷ややかに言い放つ。  
「いやっ、むしろ絶妙だった・・・礼を言う」  
 大蛇丸は複雑な表情のまま臣下に頭を下げた。  
(後日、アゼレアはこの間の出来事を、全て事前に吸わされた発情剤のせいだと、ドウムの科学力を自己正当化の道具に使った)  
「アゼレアッ」  
 イヌオウの背中からダイブしたスタリナがアゼレアとしっかり抱き合う。  
「心配かけてごめんなさい。でももう安心ですよ」  
 スタリナを固く抱きしめながらアゼレアが優しく言った。  
「それがそうも行きそうにないぜ。フェリアスからの脱出経路は、すっかりドウム野郎に押さえられてしまったんだ」  
 ほんわかムードに水を差すようにイヌオウが言う。  
「まだまだ、勝負はこれからです。この際、ドウムが井の中の蛙に過ぎないことをタップリ教えてあげましょう」  
 アゼレアが不敵な笑みを漏らす。  
「その前に、今度の旅の目的をこれから果たします」  
 アゼレアはドウム前進基地に向かい、両手を大きく開いて大地の精霊の力を呼び込む準備をする。  
「目覚めよ! 大いなる息吹!古の木根を解き放ちて、汝が敵を討ちなさい!」  
 アゼレアの思念が大地の波動と完全に一致する。  
「トリフィード・ウィップ!」  
 一瞬の間を置いて、特徴のある半球形の屋根に亀裂が入ったと思った次の瞬間、そこから紅蓮の炎が吹き上がった。  
 安全なはずの地下に動力室と弾薬庫を設置していた事が仇となり、ドウム前進基地は1人の女性委員の野望もろとも、跡形もなく四散した。  
(『女王の凱旋』編につづく)  
 

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