「リリー、リリーはいないのですか?」
ネバーランド大陸の南東部に浮かぶ巨大な島、トライアイランド。
その南半分を占めるプリエスタ国の主城にあって、緑に囲まれた屋上で日光浴をしていた女王アゼレアは、親友でもある側近のリーガルリリーを呼びつけた。
アゼレアはビーチチェアの背もたれを起こして深く座り直すと、サイドテーブルからミネラルウオーターのグラスを取り、口と喉を潤す。
「アゼレア様、またこんなところで・・・。お肌にシミが出来ても知りませんよ」
城内から眩しいテラスに出て来たリーガルリリーは純白の水着に身を包んだアゼレアの姿を見て眉をひそめる。
胸元と背中が大きく開き、大胆なハイレグカットを施されたその水着は、品のない者が着ようものならたちまち下劣さを強調しかねないデザインであったが、アゼレアの優美な体のラインには違和感なくマッチしていた。
「やっぱり敵わないな」
美の女神も嫉妬しようかというアゼレアのボディラインを前に、リーガルリリーは改めて思う。
世が世ならダークエルフ軍を統べる一方の女王であったリーガルリリーも、アゼレアが持って生まれた女王の気品と風格を認めざるを得ない。
「あなたはもう耳にしていますか?ドウム戦闘国家が新たに開発した新兵器の事を」
グラスをテーブルに戻しながらアゼレアが憂いを帯びた顔でリリーに問い掛ける。
「あのドウムが、科学とやらでまた何かを?」
ドウムの名を聞いたリリーの顔も急激に曇る。
毒水と呼ばれる液体を用いた独自の魔法−−科学−−で富国強兵を敷くドウム戦闘国家は、自然の破壊者として全てのエルフ族にとって忌避すべき存在であった。
毒水を燃焼させる事によって発生するガスは、河川を汚し森林を枯死させ、自然にとって取り返しのつかない悪影響を及ぼす。
これまでに何度も繰り返し発せられたアゼレアの警告は、その度ドウムを指導する中央審議会の前に無視されていた。
そればかりか中央審議会はプリエスタのドウムへの隷属を強要し、アゼレアの身柄を要求してくる始末であった。
通常の魔法などは意に介さぬドウムの指導者達も、ずば抜けて高い魔力を誇るアゼレアには興味津々であるらしかった。
「なんでも森をあっという間に枯死させてしまう兵器とか。森を味方とする敵を一気に葬り去るのが目的でしょう」
「つまり我々を?」
リリーの言葉に深く頷くアゼレア。
「その兵器が完成する前に叩く必要があります。これから私は城を抜けて海を渡ります」
「そっ、そんな危険過ぎます。第一お兄様・・・アイスバーグ様がお許しになるはずがありません」
女王自らが敵陣に単身で殴り込むという異常さにリリーは激しく首を振って諫める。
「もう決めたことです。それに誰かがやらなければならないことなら、やはり女王の私がやるべきでしょう」
アゼレアの決意を秘めた深い緑の目で見据えられるとリリーも反論出来ない。
「けど、みながアゼレア様の留守を知ったら大騒ぎになります」
リリーは事情を知ったエルフ軍がアゼレアを追ってエイクス方面に進出する事により、結局ドウムとの全面戦争に発展してしまう事になりはしないかと危惧する。
「私が何の考えも無しにおおっぴらに日焼けなどしていたと思っているのですか」
アゼレアは褐色の肌をしたリーガルリリーの顔を意味ありげに見つめる。
「それじゃ私が・・・?」
「しばらくお城を頼みます」
アゼレアは精巧に作られた緑色のヘヤーピースをリーガルリリーに差し出しながらにっこりと微笑んだ。
時に魔導世紀990年代後半、ネバーランド大戦勃発間際の事である。
※
それから3日後、北航路の船で大陸への移動を果たしたアゼレアは、ロギオン半島の中央部に位置するバウラス・ヌイにその記念すべき冒険の第一歩を記した。
「どうしてお船でエイクスまで行かないの?」
只1人アゼレアに同行を許されたスタリナが、大きな欠伸をしながらもっともな質問をする。
秘密のはずの計画も動物と心を通わせる事の出来るスタリナには筒抜けだったらしく、出発間際になって騒ぎ立てる彼女の口を封じるためには同行を認めるしか手がなかったのだ。
「ドウム戦闘国家のあるエイクスは鎖国をしているから直接船では行けないのです」
幼いスタリナにも真面目に返答してやるアゼレア。
「周辺国の港にもドウムのスパイがいつも目を光らせているから、万が一を考えると遠回りでも陸路が一番安全なの。それに・・・」
南回りでシュラク海へ入るためには途中エレジタットを経なければならず、かの国を治める君主はアゼレアを異常な執念でつけ狙うルドーラなのである。
心理的なおぞましさを考えればアゼレアが陸路を選んだのも無理はなかった。
「エルフのお姉ちゃん、どこまで行くんだい?乗ってかないか」
陽気な声に振り返ると、バウラス・ヌイの有力な特産品であるヤギを駆動力として用いた車屋の姿があった。
※
「ゴルデンとの国境までって、お姉ちゃん達は旅行者か何かかい?」
話し好きな性格なのか、車屋は後ろの有蓋車に乗り込んだアゼレア達を振り返りながら気軽に喋り掛けてくる。
「ええ、西へ急ぐ旅なのですが。フラウスターの支配下に置かれているゴルデンなら治安も保たれているでしょう。この国の暮らしは如何なのですか」
他国の事とはいえ、アゼレアは自らも一国を統べる君主として、市井の民草の暮らしぶりには興味があった。
「この国はダメでさぁ。特にマハラージャ様が君主になられてからは・・・。元々人身売買を本業としていたお方だから、国民のほとんども一見善人ぶっちゃいるが一皮剥けばゴロツキばかりでさぁ」
車屋の言葉に引っ掛かるものを感じたアゼレアは、おそるおそる車のドアノブを引っ張ってみたが、ドアは外側からロックされていた。
「全くこの国のゴロツキときたら女子供にも見境無し、っていうか・・・女子供の方が高く売れるから重宝するんだけどよぉ」
振り返った車屋の顔からは先程までの陽気な表情は消え、欲に眩んだ外道な性格が色濃く出ていた。
車屋の合図で木々の後ろに身を潜めていたゴロツキ仲間達が一斉に飛び出てきて車を取り囲む。
「最初から私たちの身柄が目的だったのですね」
アゼレアは怯えるスタリナを庇いながら車屋をキッと睨み付ける。
気品のあるアゼレアの一睨みに気圧され一瞬たじろいだ車屋だったが、直ぐに立ち直り子分達に合図を送った。
車から乱暴にひりずり降ろされたスタリナは、子分達の手慣れた連携でアゼレアと引き離されてしまう。
「その子に乱暴をすると承知しませんよ。私たちをどうするお積りですっ」
アゼレアは両手をそれぞれ2人掛かりで掴まれたまま警告を発する。
「お前さんほど上玉の雌エルフならマハラージャ様が高く買って下さるわい。君主様はエルフとの交尾も殊の外お好きであられるからな」
自分を動物扱いするような下品な台詞に、誇り高いウッドエルフの女王は忍耐という言葉を忘れて激昂した。
何とか男達の手を振り解こうと藻掻くアゼレアだったが、荒くれ男4人の力の前には無駄な努力であった。
「生意気に服なんか着てんじゃねぇよ」
子分の1人がアゼレアの服に手を掛けて一気に引き裂いた。
たちまち露わになった豊かな胸の膨らみに、男達の下卑た笑いが浴びせられる。
「このままじゃアゼレアが・・・ヤギさん、お願い」
スタリナの必死の願いを聞き入れた2頭のヤギは、固い角を振り立てて日頃自分たちをこき使ってくれるゴロツキどもに突っ込んでいった。
「うわぁっ」
「こいつらどうしたんだぁっ」
家畜の突然の反乱に反応出来なかったゴロツキはアゼレアの腕を放して逃げまどう。
「今だわ」
手近な木に飛びついたアゼレアは枝に巻き付いていた蔓を引きちぎって地面に降り立った。
「そこに直りなさいっ。あなた達にお行儀を教えてあげます」
言うが早いか、アゼレアは蔓をムチ替わりに振るってゴロツキどもの頬を強かに打ち据えた。
「ギャッ」
「痛てえぇぇぇっ」
鋭いスパンクにゴロツキ達は情けない声を上げながら、顔を覆って転げ回る。
「内懐に飛び込めっ」
ムチの弱点を突くように間合いを詰めてくるゴロツキどもだったが、アゼレアの振るうトリフィード・ウィップは生き物のように自由な伸縮を見せ、次々に男達を打ち据えていく。
「そこまでにして貰おうか。このお嬢ちゃんがどうなってもいいのなら話しは別だが」
卑怯な車屋は担ぎ上げたスタリナを盾にとると、ナイフを突きつけてアゼレアに武装解除を迫った。
「スタリナ・・・あなた達、恥を知りなさいっ」
歯噛みして悔しがるアゼレアだったがスタリナの命には代えられず、やむなく緑のムチをその場に捨てる。
「この野郎っ、よくもやってくれたな」
急に勢いづいたゴロツキどもは無抵抗になったアゼレアに飛び掛かるや、残る衣服を引き裂いて地面に押し倒した。
泥にまみれたアゼレアの高貴なボディラインを前に、最初息を飲んで見守るしかなかったゴロツキどもに、徐々に嗜虐的な欲望が湧き上がってくる。
「乳搾りの時間だぜ」
アゼレアの胸に飛びついたゴロツキは、芸術的な曲線で作られた乳房がいびつに変形するまでに激しく揉みしだき、乳首に歯を立てて食らいついた。
「うぅぅっ・・・」
余りに乱暴な扱いにアゼレアの噛みしめた歯の隙間から押し殺したような悲鳴が漏れる。
「その位にしとけ。商品に傷を付けたらマハラージャ様がご立腹なさる」
ボスの制止にようやく乱暴を止め、名残惜しそうにアゼレアの体を離れるゴロツキ達。
アゼレアの戦闘力を身をもって知らされたゴロツキどもは、鎖のついた頑丈な枷を手足にはめて彼女の運動の自由を奪う。
そして手に入れた商品2つを改めて車に押し込めると、マハラージャの城を目指して出発させた。
※
マハラージャの城に連れ込まれたアゼレアは水風呂に叩き込まれ、体に付いた泥と汗を洗い流される。
「さあキレイキレイしましょうねぇ」
下卑た笑いを浮かべた男達は寄って集ってアゼレアの体に石鹸を擦りつけると、乱暴だが不必要なまでに丹念に素手で擦り上げる。
「不埒者っ。私に無礼は許しませんよっ・・・あぁっ、どこ触ってるのですか・・・ヒィィッ・・・」
これだけの上玉におさわり出来る機会は、下っ端にとって滅多に無いことであるからアゼレアの抗議など聞く者は誰もいない。
「止めねぇか、お前らに任せていたら壊されちまわぁ。ルーチェ、先輩のお前が面倒見てやりな」
ボスの命令に手下どもは渋々と引き下がり、替わって悲しそうな顔をした金髪の娘が風呂場に入ってくる。
「貴女は?」
「元は宮廷詩人としてこの城に連れてこられた者です。君主マハラージャを讃える詩を作れと言われ、断ったところ・・・」
そこで一旦言葉を切ったルーチェの顔が曇る。
「お腹立ちでしょうが、あなたも今は我慢なさって下さい。いずれ東から良い風が吹くこともあるでしょう」
ルーチェはアゼレアの体に残った石鹸の泡を丁寧に流しながらそっと囁いた。
「東から?」
「占星術・・・星がそう告げています」
風呂から上がったアゼレアに新しい衣服が渡される。
水着というには余りにも扇情的で全裸より遙かにエロチックな2点の衣服は、胸の突起と股間の恥ずかしい部分を申し訳程度に覆うだけの面積しか無い。
少しでも無理な動きをすれば隠している部分が露呈しそうなほどであった。
それら僅かな布きれの表面には大小様々な色の宝玉が散りばめられており、ギラギラと輝くさまが一層の妖しさを演出していた。
「こんな・・・お尻なんか全部出てしまっているではありませんかっ」
アゼレアは後ろを振り返って、割れ目に沿って縦紐一本が貼り付いているだけのお尻を確認して激怒するが手足を縛る枷に邪魔されて抵抗もままならない。
「アゼレア。あんまり動くと見えちゃうよぉ」
サイズは小さいが同じデザインの水着を着せられたスタリナがおてんば女王をたしなめる。
スタリナを盾に取られ、ようやく大人しくなったアゼレアは首輪の鎖を引かれながら謁見の間に引き立てられて行った。
ほどなくして銅鑼の音と共に君主の来室が告げられ、マハラージャがその巨躯を現した。
「その方が今度ワシのハーレムに加わりたいと申しておるエルフか?」
大層な動作で玉座に座りながらマハラージャが面倒臭そうに口を開いた。
「誰が、そんなこと・・・」
後ろ手に縛られ四つん這いにさせられたアゼレアが真っ赤になって反抗しようとするのを女衒のボスが押さえ込んで黙らせる。
「君主様、なにとぞお許しを。田舎暮らしが長く、まだ人間社会のしきたりに疎いので」
金を貰うまでは君主にご機嫌を損ねて貰っては困るボスが恭しく礼をする。
「うわっはっはっはっ、活きがよいのぉ。よいわ捨て置け、捨て置け」
一目でアゼレアを気に入った変態君主は早くもベッドでの痴態を想像して豪快に笑う。
「アゼレア、怖いよぉ」
マハラージャの馬鹿でかい笑い声に怯えたスタリナがアゼレアにしがみつく。
「ん・・・アゼレアじゃと?」
スタリナの呼んだ名前に記憶巣を刺激されたマハラージャは改めて目の前の女エルフの顔をまじまじと見つめる。
「アゼレア・・・プリエスタの・・・エルフの女王様か?」
奴隷の格好をした女と高貴な女王の像がマハラージャの脳裏で合致する。
「うわっはっはっはっ、これは気が付かなんだわい。まさか気位の高いエルフの女王様がこの様な格好をなさっておられるとはな」
遂に正体を見抜かれてしまったアゼレアの背中に冷たいものが走る。
「いや、ワシもその節は身の程をわきまえずご無礼で御座った。うわっはっはっはっ」
先年、王位についたばかりのマハラージャは、天下に隠れ無き美女との噂の高いアゼレアに婚姻と両国の合併を申し込んで一笑に付された過去があった。
誉れも高き天下の美女を手中に収めたとなると、その使い道はいかほどにもある。
プリエスタの属国化は当然として、彼女の身柄を欲している国は幾らでもあるから経済効果も計り知れない。
現にドウム戦闘国家の中央審議会はアゼレアの死体にすらバウラス・ヌイの国家予算の2年分の値をつけてきた。
それを生け捕りにしたともなると、報賞金の額はどれだけになるか想像もつかない。
「うわっはっはっはっ。その前に、昔年の恥を雪がせて貰うぞぉぉぉっ」
雄叫びを上げながら欲望全開でアゼレアに飛び掛かるマハラージャ。
のし掛かってくるマハラージャの下腹部に両足の裏を押し当てたアゼレアは、変則的な巴投げで中年男の巨躯を投げ飛ばした。
「スタリナ。逃げなさい」
自分の存在がアゼレアの邪魔にしかならないと状況判断したスタリナは素直に部屋を走り出る。
「うわっはっはっはっ。少々抵抗された方が燃えるわい」
後頭部をさすりながら立ち上がったマハラージャの前にルーチェが立ち塞がる。
「君主様、お止め下さい。プリエスタを敵に回して勝ち目のないことは、ご自身がお分かりのはず。犠牲になる国民の事をお考え下さい」
理を説くルーチェにマハラージャの平手打ちが襲い掛かり、か細い彼女の体は壁まで飛ばされ床に転がる。
「奴隷の分際が君主に逆らった罪で処刑してやる」
目を血走らせた醜い中年男は剣を抜くと失神したルーチェに歩み寄っていく。
「お止めなさいっ」
勢いをつけた体当たりでマハラージャを前のめりに跪かせたアゼレアは、自分の両手を繋ぐ枷の鎖をその首に巻き付けると渾身の力で締め上げた。
「うがぁっ」
呼吸と脳への血流を強制的に止められたマハラージャの顔が醜く歪む。
「くっ、君主様が」
大事なスポンサーの危機に際しても、キレたアゼレアの恐ろしさを身を持って知っている女衒のボスは手をこまねいて見ているだけである。
「うぅ〜んん・・・」
マハラージャを屠る最初で最後のチャンスを失うわけにはいかないアゼレアも、剥き出しのヒップを振り乱しながら歯を食いしばる。
「不死身のマハラージャ様を・・・舐めるなよぉぉぉ」
首に食い込んだ鎖を手探りで掴んだマハラージャは最後の力を振り絞って引きちぎった。
「キャアァァァーッ」
弾き飛ばされたアゼレアのビキニの紐が反動で千切れ飛び、無数の宝玉がバラバラと音を立てて床に散らばる。
「脱がす手間が省けたわ」
マハラージャはアゼレアの両足首を繋ぐ鎖を手に取ると、あたかも紙テープのようにあっさりと引きちぎってしまった。
恐るべき怪力にアゼレアも息を飲むばかり。
「夢にまで見たお前の御満腔、遂に見てやったぞい」
マハラージャは怪力を使ってアゼレアの両足を左右に大きく開かせながら叫んだ。
「うぅっ・・・ダメッ、凄い力だわ」
内股に筋が浮き出るまでに開かれたアゼレアの両足がピクピクと小刻みに痙攣を始めた。
※
「誰か、誰か呼んでこないと・・・アゼレアが殺されちゃう」
城の建物から逃げ出て植え込みに潜り込んだスタリナは、半泣きになりながら味方になってくれそうな人物を捜した。
しかし城壁の内側にたむろしているのは、女衒一味より更にガラの悪そうなゴロツキばかりであった。
絶望感に打ちひしがれたスタリナが城門へ目をやると、丁度1人の男が門を潜って敷地内に入ってくるところであった。
年の頃なら20を過ぎたばかりであろうか、異国情緒溢れるゆったりとした黒の上下に赤い手甲と帯を着けたその男は、左の肩当てを除いて甲冑らしい甲冑を身に着けていなかった。
染め上げたものであろうか、所々黒が混じった金色の長髪は無造作に括って後ろに流されており、少々垂れ気味の双眸は激しさと優しさの入り交じった複雑な輝きを放っている。
男は右手に束を握った細身の長剣を肩に担ぎながら、何が面白いのか笑みを絶やすことなく城内に入り込んだ。
猛るでもなく、臆するでもない余りに自然な男の歩みに、城内の誰もが自軍の兵士と勘違いをしたのも無理はなかった。
只1人スタリナだけは男の発する気が、そこら辺にたむろしているゴロツキ兵と決定的に違っていることに気が付いていた。
「この人だ・・・この人しかいない」
敵味方を的確に嗅ぎ分ける自分の本能を信じた妖精スタリナは、泣きじゃくりながら男の胸に飛び込んでいった。
(『おてんば女王の出撃』終わり、『東から来たドラゴン』につづく)