ムロマチを出てから二ヶ月程立った。  
あの後、行き倒れになった僕を助けてくれたガルカシュの人達には今でも  
感謝している。彼等と遊牧民の暮らしをしている内に、このまま何もかも  
忘れてこのまま遊牧民として生きていくのも良いなと思い始めた。  
 
 
「フォルト、居る。」  
フォルトのテントに静かにマリルが入ってくる。  
「あっ、マリルどうしたんだい。」  
フォルトは日記をしまいながら振り返る。思えばメイマイからの持ち物は  
竜剣カシュシリアスとこの日記だけだ。  
「今日のフーリュンとの同盟会議、私の代わりに出てってクルが・・・」  
そう言うマリルだったが、その顔はどこか浮かない。  
「解った、今用意するよ。」  
 
「現在、メイマイはムロマチ、ボローニャを侵略して東を全て支配しました。  
次の目標は間違いなく我々でしょう。」  
フォルトは今日の同盟会議で現状を述べが場の空気は重い。  
現在この場にガルカシュ側からハン・デ・クルとフォルト、フーリュン側から  
ハマオウ、ザンゲキ、フェイフが代表として居る。  
フーリュンとガルカシュは昔からの同盟を組んおり仲もよかった。  
しかし今、両者の関係はとても悪く、君主であるクルとハマオウに至っては  
にらみ合ってさえいる。  
「やれやれ、国の事よりまずこちらを解決せねばなりませんな。」  
溜め息をつきながらザンゲキが言う。  
「何の事です。」  
フォルトが問う。フォルトはまだこの国に来て日からが浅いため  
事情を知らなかった  
「マリル殿の事です。」  
 
ザンゲキの話を要約するとこうだ。  
マリルは元はフーリュンに居たが、今はガルカシュに居る。  
フーリュンはマリルの帰還を求めるがガルカシュはそれに応じない。  
「マリルはおまえ達にさらわれたんだ。マリルを返せ。」  
ハマオウが叫ぶ。ハマオウはマリルに幼なじみ以上の感情を持っていた。  
「それは出来ない。マリルがここに居るのはマリルの意志だからだ。」  
同じく、マリルに想いを寄せるハン・デ・クルも言い返す。  
「ならば何故、マリルをここに連れてこない。彼女が自分の意志で来たのなら  
ここに連れてきても平気なはずだ。」  
「マリルが君達に会いたくないんだ。だからフーリュンを黙って去ったたんだ。  
そんな簡単な事も解らないのか。」  
両者は一歩も引かず、言い争いは加速していく。  
「お止めなさい。二人とも。」  
ザンゲキが一喝し周りが静まりかえる。  
「このままでは埒が開きません。如何でしょう。ここは一つ、両者で戦って  
勝った方のマリル殿を任せるというのは。」  
更にザンゲキは提案を出す。  
「面白い。俺もこいつとはいつか決着を付けねばならないと思っていた所だ。」  
「いいでしょう。僕もこの勝負、受けて立ちます」  
その提案に両者は納得する。  
「決まりましたね。勝負は明日の午後。立会人はここに居るものにマリル殿を  
加えた四人のみにしましょう。」  
こうしてこの日の同盟会議は幕を閉じた。  
 
その日の夜。フォルトは、ふと目を覚ました。何故だか酷く目覚めが悪かった。  
気分転換のため水でも飲もうとテントから出たフォルトだったがそこで怪しい  
人影を発見する。こんな夜更けに誰だろう。そう思いフォルトは呼び止めた。  
「そこで何をしている・・・、ってマリル、どうしたんだいそんな格好で。」  
それはマリルだった。しかもマリルはこれから旅に出るような姿をしていた。  
「フォルト・・・。お願い。何も見なかった事にして黙って私を行かせて。」  
マリルはいきなりフォルトにそう頼み込んだ。目には涙さえ浮かべている。  
「落ち着いてマリル。とりあえず場所を変えよう。」  
フォルトは只ならぬ事態を感じた。  
 
 
フォルトのテントの中。そこでフォルトはマリルに事情を聞いた。  
「・・・・・要するに君は、自分のせいで両国の関係が悪化している事に  
罪悪感を感じて今日の内にこの国を去ろうとしたわけだ。」  
フォルトが確認するとマリルはそれに黙ってうなずく。  
「確かに、君が去れば全て丸く収まるかもしれない。けれどそれが、本当に  
ハンやハマオウ、そして何より君自身の為になるのかい。」  
フォルトのその言葉にマリルは黙ってうつむいてしまう。  
マリルだって本心は出て行きたくなど無かった。だが自分にはこうするしか  
方法が思い浮かばなかった。  
「マリル。君はとても強い女性だ。けど弱い一面もあるのを僕は知っている。  
気丈に振る舞うのもいい。だけど周りに助けを求める事も必要だよ。」  
今にも泣き出しそうなマリルに、フォルトは優しく語りかける。  
その言葉にマリルは勇気付けられた。  
「あはっ、私何て事考えてたんだろ。ありがとね、フォルト。みんな心配する  
から私、もう戻るね。」  
そう言うとマリルは立ち上がりテントから出ていった。  
「フォルト。貴方、とても優しいのね。」  
「マリルも素敵だよ。ハンやハマオウが夢中になるのも分かる気がする。」  
去り際に自分を誉めたマリルにそう返すとフォルトはベットに戻った。  
目覚めの悪さは既に消えていた。  
 
次の日の午後。  
遊牧民の集落から少し離れた草原で決闘は行われようとしていた。  
「この勝負、俺が勝ってマリルを連れ戻す。」  
「僕だって、マリルの為に負けない。」  
両者も既に戦闘態勢に入っている。  
「勝負はこのコインが落ちると同時に開始。勝敗は一方の降伏か戦闘不能。  
二人とも・・・、覚悟はいいですね。」  
フェイフが決闘のルールを説明する。ザンゲキとフォルト、そしてマリルは  
黙って開始を待つ。降伏か戦闘不能と言っても、絶対に降伏はしないだろう。  
更に両者は名のある武将だ。戦えば必ずどちらかが死ぬだろう。  
周りが不安に見守る中、コインは投げられる。  
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」  
コインが落ちると同時にハマオウが仕掛ける。拳聖と呼ばれる程の武術で  
次々と打撃を繰り出し、クルに確実にダメージを与えていく。  
「はっ、とう、やぁ!」  
対するクルも攻撃を巧みに躱しながらハマオウに斬撃を放つ。  
両者の力が互角なため、中々致命傷となる攻撃が決まらず戦いが長引く。  
「お願い。もう止めて。」  
耐えられなくなったマリルが叫ぶ。だが二人は止まらない。  
「死ねえぇぇぇぇぇぇ!」  
ハマオウの渾身の一撃が放たれる。  
「どりゃぁぁぁぁぁぁ!」  
クルも最高の一撃を撃つ。  
マリルはおもわず目をつむった。  
 
轟音と共に静寂が流れる。マリルは恐る恐る目を開けるとそこには、  
両者の攻撃を受け止め大怪我を負ったフォルトが居た。  
「二人とも、いい加減にしろ。マリルは本当はとても繊細な女性だ。  
そんなマリルが、こんな事で決めて喜ぶとでも思っているのか。」  
フォルトはそう叫んだ後倒れた。  
「フォルト!」  
慌ててマリルはフォルトに近寄る。周りもそれに合わせて駆け寄った。  
「僕は大丈夫だ。それよりマリル、勇気を出して。」  
自分の怪我よりもマリルの事を心配するフォルトにマリルは決心がついた。  
「フォルト、みんな、私が臆病なばっかりに迷惑をかけてごめんなさい。  
でも私、決心がつきました。本当の気持ちを伝えます。」  
 
「私が本当に好きなのは、フェイフ。貴方なの。」  
そう言ってマリルはフェイフに抱きついた。  
「えっ、ええっ、アタシィ?」  
あまりの出来事に驚くフェイフ。  
「そうよ、貴方なの。私、貴方の事忘れようとしたわ。その為に国も捨てた。  
だけど、どうしても貴方の事が忘れられないの。」  
マリルがそう告白する。以外な結末に周りはまだ事態を理解しきれていない。  
「ごめんなさい。アタシ、心に決めた人がいるの。だから、あなたの想いには  
答えられない。」  
マリルの告白をフェイフは断る。普通に考えれば当たり前だ。  
「そんな・・・・。それじゃ、フーリュンで私を後ろまで愛してくれたのは  
嘘だったの。貴方は私の身体だげが目的だったの。」  
マリルが衝撃の発言にクルとハマオウは固まった。  
「ごめんなさい。アタシ、寂しかったの。ラトお姉様がアタシを置いて旅に  
出ていってしまって。今はアナタにした事をとても後悔してるの。」  
どうやらフェイフの想い人はラトらしい。そう言えば以前、ラトは修行の為に  
世界を回っていた事をフォルトは思い出した。  
「そんな、嫌。私、性奴隷でも肉便器でも貴方が望むならなんでもするから。  
だからお願い。私を捨てないで。」  
自分の弱さをさらけ出しフェイフに迫るマリル。だが、フェイフの答えはノー  
だった。因みに、この時点でクルとハマオウは真っ白に燃え尽きていた。  
「結局、僕のした事って・・・・。」  
フォルトは自分のした事に後悔しながら意識を失った。  
 
「ここは・・・」  
フォルトは気がつくと馬車の中にいた。  
「あっ、良かった、目が覚めたのねフォルト。」  
そこにはマリルが居た。驚いたフォルトは起き上がろうとするが体中に激痛が  
走る。  
「動かないで。まだ傷が塞がってないんだから。」  
マリルの説明に、意識を失う前の記憶が蘇る。  
「あれからどうなったんだ。」  
フォルトはマリルに聞く。それがとても気がかりだった。  
「今、私達はメイマイに向っているの。そこで全てを決めるわ。」  
「マリル、そろそろ待ち合わせの場所だから出てきて。」  
マリルの答えと同時にフェイフの声が聞こえる。  
「それじゃ、私行くから、くれぐれも動かないようにね。」  
そう言ってマリルは馬車の外に出た。  
 
 
「ラトお姉様、会いたかった。」  
待ち合わせ場所でラトと再開したフェイフはいきなりラトに抱き着く。  
マリルはそれを殺意の篭った目で見る。  
「いろいろ話す事もあるけど、その前にフォルトが居るって本当。」  
「はい。今この馬車の中にいます。」  
ラトの質問に、自信満々にフェイフは馬車の扉を開けるがそこには、  
既にフォルトとフォルトの荷物一式が消えていた。  
 
その後、一時期、ガルカシュの君主とフーリュンの君主が同性愛に走ったと  
風の噂が流れたが真偽のほどは定かではない。  
 

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