人への憎しみを捨てられないジャドウ。
人への憎しみを捨てたヒロ。
四年の間に様々の想いを背負った二人は再び刃を交える。
「魔招・煉獄。」
ヒロが幾度と無く業火を浴びせる。だがジャドウには傷一つ付かない。
力の差は歴然としていた。だがヒロは諦める気にはならなかった。
父と自分の理想、そして全ての人と魔族の共存の為に。
「グァァァァァァァァァァァァァ」
だが、そんなヒロの理想を砕くかの様にジャドウが大量の巨大な氷柱を放つ。
「くっ。」
ヒロは必死に避けるが躱し切れず左腕が吹き飛ばされる。そして更に追い討ち
をかけるように死霊達が襲いかかる。ヒロは何とか残った右腕で防ぐが片腕だけ
では限界がある。次第に追いつめられていき、遂に一匹の死霊をなぎ払い無防備
になった所に別の死霊が直撃する。
「かはっ。」
吹き飛ばされ倒れるヒロ。そこに止めを刺そうと襲い来る死霊。
ヒロは自分の死を覚悟した。
「ヒロ、危ない。」
死霊がヒロに直撃しようとした正にその時、一つの影がヒロの前に立ちふさがり
死霊達をなぎ払う。
「フォルト。」
それは遅れて戦場にやって来たフォルトだった。フォルトは辺りを見回すと、
ジャドウを睨み付け力の限り叫ぶ。
「ジャドウさん。見て下さいこの惨状を。貴方は一体何をやってるんです。」
そのフォルトの言葉に我に返り、辺りを見渡すジャドウ。そこは地獄だった。
死霊に体の半分を食われた魔族の兵士、氷柱に貫かれ息絶えるゴブリン。
ジャドウの攻撃は敵だけでなく魔王軍まで襲っていた。五魔将を始め、生き残った
者もいるが、その数は余りに少なく、百にも満たなかった。
「憎しみのままに敵を滅ぼし、貴方を信じついて来た者まで滅ぼす。それが貴方
の望みですか。貴方の母親が望んでいた事なんですか。」
更に続くフォルトの悲痛な叫びがジャドウの脳裏にある記憶を思いださせる。
幼き頃の遠い記憶。魔族の自分を最後まで息子と呼んだ人間の母親の最後。
長い逃亡生活で体を壊し、今正に天に召されようとする母。それを見る事しか
出来ない自分。母をこんな目に会せた人間を、何も出来ない自分を恨み涙を溢した。
そんな自分の涙を母はそっと拭うと精一杯の笑顔を作り言った。
「ジャドウ、私の可愛い息子。ごめんね、お母さんはもう彼方の事守ってあげられ
ない。だから最後に約束して。憎しみに染まらないで。これから先、彼方はきっと
沢山の辛い思いをするわ。でもきっと彼方の事を理解してくれる人が現れる筈。
でも、その時彼方が憎しみに染まっていたらその人を傷つけちゃうわ。だからね
お母さんのお・・ね・・・が・・・・」
それが母の最期の言葉だった。
「オレハ・・オレハ・・・グォォォォォォォォォォォォォ」
甦った母の言葉に自分の過ちに気付き叫ぶジャドウ。その姿は次第に元の人の
形を取り戻し、完全に元に戻った段階でその場に倒れた。
「ジャドウ様。」
五魔将が慌てて駆寄る。
「みんな、すまない。魔王軍は降伏する。」
ジャドウはそう言って気を失う。
それはジャドウの生れて初めての謝罪の言葉だった。
「やれやれ。一時はどうなるかと思いましたがこれで一件落着ですね。」
いつの間にか戻ってきたルドーラが締めようとする。だがそれを周りが許す筈が無い。
「元はと言えば、誰の所為でこうなったんでしょう。」
「ルドーラ。テメェ、覚悟は出来てんだろーな。」
「裏切りの代償は血で償って貰いましょうか。」
「まっ、待って下さい。私は唯、魔王軍の未来を思って・・・」
言い逃れをするルドーラを暗闇に連れて行く五魔将。この後、ルドーラがどんな
目に会ったかは言うまでも無い。
フォルトは安堵の息を漏らすが、何か大事な事を忘れているような気がした。
「全く、貴様は大した奴だよ。」
ヒロが後ろから抱き付く。フォルトはとても大事な事を思い出した。
「私の想いも、ジャドウの苦悩を受け止めようとした決意も、四年前の借りも
何もかも全て台無しだ。」
フォルトに抱きついてる腕に力がこもる。
「今回の戦いでかなりの兵を失った。一度本国に戻り力を貯えねばなるまい。」
脂汗をだらだらと流すフォルト。メイマイの本国の地下室には、調教用の道具
から拷問器具、果ては処罰用の刑具まで、サディズムを満たす有りとあらゆる
道具が揃えられていた。フォルトは今更ながら、衝動的とはいえヒロを助けた事を
後悔した。
「先程の礼も込めて、逃げる気も無くなる位教育し直してやるから覚悟しろ。」
「ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ。」
フォルトは笑うしか無かった。自分のこれからの運命に。静まり返った戦場に響く
フォルトの笑いはメイマイの本隊が到着するまで止む事は無かった。
この日記を書きはじめてから二ヶ月の月日が流れた。
こうやって日記を書いてると何故か安心する。多分、昔と関係あるのだろう。
でも何故だか、昔を思い出そうとすると頭が痛くなる。そう、まるで昔を
思い出すのを身体が拒むように。もしかしたらこのまま思い出さない方が幸せ
なのかもしれない。でもそれじゃ駄目だ。たとえどんな辛い記憶であっても
思い出さなくては。僕と僕を支えてくれてるみんなの為に。
「・・・・雪か。」
日記を書き終えたフォルトが何気なく外を見ると雪が降っていた。
「ここに居着いて随分経ったな。」
降り頻る雪に溜め息を吐きながら、自分の今の環境に悩むフォルト。
「・・・・・僕は、一体誰なんだろ。」
カイゼルオーンの戦いから三ヶ月。
魔族の聖地たるネウガードの地にて、フォルトは記憶を失っていた。
二ヶ月前ジャピトス。
「あー、全く人騒がせな連中だよ。」
ラミアが部下に愚痴をもらす。ジャピトスとカイゼルオーンの国境付近でメイマイ
に動きがあり、遂に進軍するのかと思い様子を見に来てみたが、相手は少数の上
何かを探してるようでこちらに全く興味が無い。ラミアの心配は無駄に終わった。
「どうします、殺りますか。」
「止めとく。ここで争っても何の得も無いもの。それよりこっちも引き上げの準備。
あんま長くいると逆に警戒されるよ。」
メイマイの目的が進軍でない以上長居は無用。そう思いラミアは撤退の準備をさせる
だがその時、偵察に行かせていた部下が慌てて戻ってくる。
「ラミア様、大変です。崖から落ちて気絶している人間を発見しました。」
「なんだい大袈裟な。人間の一匹や二匹、構う事ないよ。」
「で、ですが、とにかく来て下さい。」
部下が余りに必死なので仕方なく見に行ったラミアだったがその人間を見て驚く。
「この変わった剣は・・・・・まさかっ。」
それは紛れもなく竜剣カシュシリアスであり、倒れている人間はその剣の持ち主
であるメイマイ唯一の男性武将、フォルトだった。
「確かにこりゃ大変だね。まっ、とにかくコイツは城まで運ぶよ。」
「ううぅ・・・・此処は。」
フォルトが目を覚ますとそこは城の一室だった。辺りを確認しようとするフォルト
だったが唐突に後ろから首筋に刃をあてられ動きを止める。
「動くな。」
恐る恐るフォルトが後ろに目をやるとそこにはスガタが剣を向けて立っていた。
「今マユラを呼んでいる。それまで少しでも怪し動きをしたら、殺す。」
強烈な殺気を放つスガタにフォルトは全く動く事が出来なかった。それから暫く
してマユラがラミアを連れて部屋に入ってくる。
「気が付いた様だな。」
「えっ、えっと、君は・・・・」
「なんだ、お前は私の顔を忘れたのか。確かにこうやって話し合うのはお互い
初めてだが、戦場で何度か顔を合わせてるだろう。」
マユラの言葉にもいまいち解らないといった顔をするフォルト。
「まあそんな事など、どうでも良い。それより何故お前はあの場所に居た。」
「えっ、確か・・・アレっ、なんでだろ。」
「貴様。真面目に答えろ。それとも今この場で首を地面に落したいのか。」
フォルトの曖昧な答えに刃を更に近づけ殺気を強めるスガタ。
「止めろスガタ。コイツはどうやら本気のようだ。・・・質問を変えよう。お前、
自分の名前は言えるか。」
「えっと、僕の名前は・・・・名前は・・・・駄目だ、思い出せない。」
真剣に悩むフォルトに途惑う一同。どうやらフォルトは本気で記憶を失ってるようだ。
「で、どうします。メイマイに送り返して恩を売りますか。」
半ば呆れたようにラミアが聞く。記憶を失っていては何を聞いても無駄だ。それなら
いっそ返して恩を売った方がましだ。だがマユラは暫し悩んだ後、何かを思い付いた
ようで笑みを浮かべる。
「いや、コイツはここで働かせよう。なあに、いざとなった時は人質にも使える。」
マユラのその発言に驚くスガタとラミア。敵軍、しかも人間を働かせるなんて。
二人が必死に思いとどまるよう説得するがマユラは決して意見を変えようとしなかった。
こうしてフォルトはネウガードに身を置く事となった。
「ああっ、激し・・・すぎるぅ・・・。」
その頃、メイマイではラトが自分のモノでエルティナのアナルを犯していた。
ラトが腰を打ちつける度にエルティナの秘所から零れ落ちる白濁液が既に何度も
交わった事を証明させる。
「あうっ、もう、ダメ、イッちゃうーーーーーー。」
一際大きい声を上げ絶頂し気を失うエルティナ。それを見たラトは僅かに舌打ち
をするとエルティナから自分のモノを引き抜き、次の相手を求める。
「随分荒れてるわね、ラト。」
少し前から事の始終を見ていたティナがラトに声をかける。既にラトの周りには
エルティナを始め、何人も女性が気を失って倒れていた。
「何言ってるのティナ。元はと言えば貴方達の所為じゃない。」
ラトが荒れているのには理由があった。カイゼルオーンの戦いの後、メイマイに
連れ戻したフォルトの相手の順番を決める際運悪く最後になってしまい、更に
自分の番直前でフォルトに逃げられてしまったのだ。
「大体、皆やりすぎなのよ。入れっぱなしで丸一日とか、親衛隊の人まで使って
100人切りさせたりとか、少しは後の人の事も考えなさい。」
堰を切ったように今までの不満をブチ撒けるラト。どうやら自分の番だけ来なかった
のが余程悔しかったらしい。
「ちょ、ちょっと落ち着いてラト。フォルトの事は私に任せて、私に考えがあるの。」
ティナのその制止にラトは不満を言うのを止める。
「信用できるの。」
「任せて。私、こう見えても友達多いのよ。」
ラトはティナの言葉の最後の意味が分からなかったが、一つだけ分かった事があった。
それはティナの顔に自信から来る笑みが浮かんでいた事だった。