ある日の夜。フォルトはいつもの様に軍の雑務をこなして部屋に戻った。
あとは日記を書き寝るだけ。いつもと同じ変わらぬ行動。
だがその日は少しだけ違った。
「随分遅かったな。」
なんと、マユラが部屋の中心に置かれたテーブルでフォルトを待っていた。
何故マユラが自分の部屋でイスに座っているのか。フォルトは状況が飲み込めず
その場で固まってしまった。
「どうした。座らないのか。」
それに対しマユラはいつものように冷静だった。フォルトはそのマユラの言葉で
我を取り戻すと、途惑いながらもマユラの向かいに座った。
「僕に何の用ですか。」
フォルトが問うが、マユラは黙ったままフォルトを見続ける。
部屋を重い静寂が包み込む。
「・・・・お前は、記憶が戻ったらこの国を去るか。」
永遠に続くかと思われた静寂だったが、マユラがそれを静かに打ち破る。
「えっ、僕は・・・。」
フォルトは返答に困ってしまう。記憶を戻す事を考えてばかりで、そんな事を
考えた事も無かった。聞いた話では自分は敵国であるメイマイの武将らしい。
それなら記憶が戻ったらメイマイに帰るのが普通だ。だがそれは同時にマユラ達
を裏切る事になる。
過去の自分と今の自分。両方からのジレンマに陥り、フォルトは下を向いたまま
黙ってしまう。
部屋に先程より重く静かな静寂が流れる。
「・・・・私は、十四の時に母親を殺した。」
静寂を打ち消すように放たれたマユラのその言葉は、
余りに唐突で、衝撃的だった。
マユラは更に言い続ける。
「私の母は氷の魔女と言われるほど強力な魔術師だった。そんな母を私は尊敬
していた。母の様になりたかった。だから魔法を必死で勉強した。七歳の時に
ガジュウの力をこの身に宿す事も躊躇わなかった。けれど、母にとって私は魔王
を倒す為の道具でしか無かった。私はそれを知った時、家を出た。それから歳月
が経ち、私が十三になった頃、私の前に初めての刺客が現れた。差し向けた
のは母、目的は力の強まった私を連れ戻す事だった。私は戦い、それを退けた。
それから何度も刺客が現れ、その度に戦い、勝利していった。そんな生活が続き、
私が十四になった時だ。等々、母自ら私の前に現れた。目的は連れ戻す事では
無く私の命。だから私は・・・母を・・・・殺した。」
マユラは最後まで冷静に語った。だがその顔からは、その時の悲しみや苦しみが
伝わってくる。
「私は、私はもう嫌なのだ。私の大切な者が、私から去って行くのが。」
そう言った後、マユラはその場で震えてしまう。それは普段の冷静な彼女からは
想像も出来ない姿だった。
マユラの悲痛な想い。それを知ったフォルトはゆっくりとマユラの手の取り、
震えを止める。
「大丈夫、大丈夫だから。僕は黙って去ったりはしないよ。」
「フォルト・・・・。」
二人の視線が交わる。自然と二人の唇がゆっくり近づいていく。
次第に近づく両者の顔。そして今正に二人の唇が触れようとしたその時、
フォルトの頭の中を、一部の知らない過去が黒い衝撃と共に駆け抜ける。
フォルトはおもわずマユラを突き飛ばしてしまう。
「一体どうした。」
「ご、ごめん。何故か身体が勝手に・・・・。」
自分でも何がなんだか全く分からないフォルト。ただ以前、似たような場面に会い
酷い目にあった。そんな気だけがした。
「そうか。予想の範囲内だな。」
フォルトの言葉を聞いていつもの様に冷静な姿に戻るマユラ。どうやら彼女には
心当たりが有るようだ。
「出来ればベットまではこのまま行きたかったが、こうなっては仕方が無い。」
「えっ、何の・・・・うっ」
何か言おうとしたフォルトだったが突如、巨大な氷塊が頭に直撃する。
フォルトはそのまま気を失ってしまった。
暗闇の中、六人の女性達が見える。
彼女達は手に怪しい道具を持ちながら近づいてくる。
恐怖に駆られ逃げ出そうとするが身体が動かない。
彼女達との距離は次第に無くなっていき終に・・・・・
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫び声と共に夢から覚めたフォルトは体を反射的に起き上がらせようとする。
だが身体が動かない。フォルトの身体はベットに四肢を鎖で繋がれた上、裸だった。
フォルトが唯一自由に動かせる首を使って辺りを見渡すと少女が好きそうな大きな
ネコとカエルのぬいぐるみが見える。
どうやら気絶している間にマユラの部屋に運ばれたようだ。
(マユラがその顔や性格とは対称的に少女のような趣味を持っている事は、
キース同盟軍の武将の間では既に公然の秘密となっている。)
「目が覚めたようだな。」
ぬいぐるみに気をとられていたフォルトに部屋の主であるマユラが声をかける。
マユラは既に衣服を脱ぎ捨てており、テラスから差し込む月光も相俟って、
彼女の裸体は神秘的に輝いていた。その姿にフォルトも思わず見とれてしまう。
だが直に気を取り戻してマユラに問う。
「マユラ。これは一体どういう事だい。」
「簡単な事だ。」
フォルトの言葉にマユラはそっけなくそう答えるとゆっくりベットに近づき、
フォルトの腹部に馬乗りになる。マユラのひんやりとした腿の体温がフォルトに伝わる。
「夜中に男女が裸で二人きり。これからする事が解らぬ程、お前は馬鹿ではあるまい。」
マユラが妖しく微笑んだ。
「そんな。こ、こんなの、間違ってるよ。」
このままでは逆レイプされる。そう思ったフォルトは必死に抵抗しようと身体を
動かすが、四肢を鎖で繋がれているため思うように動けない。
「それから、言い忘れたが。」
マユラのその言葉と同時にフォルトの顔の直横に氷柱が突き刺さる。
「私は雰囲気を大事にする方だ。これ以上騒ぐなら今度はそれを尻の穴に挿すぞ。」
その言葉にフォルトの動きが止まる。
「そうだ。それでいい。」
フォルトが抵抗しなくなったのを確認するとマユラは自分の秘所をフォルトの顔に宛がう。
「舐めろ。」
威圧的なその言葉と先程の脅しに、フォルトは震えながらマユラの秘所に舌を這わせる。
「あっ、流石に上手いな。それにしてもこの様なこのような状態で感じているとは、
おまえは本当の変態だな。」
フォルトの舌戯を堪能しながら、マユラはそう言って氷の様に冷たい手で、フォルトの
そそり立ったペニスを掴む。
「ち、違う。僕はそんなんじゃ・・・・」
「誰が舌を休めて良いと言った。いいや違わないさ。その証拠にお前のここは喜んでいる。」
フォルトのペニスを掴んでいた手がゆっくり上下に動き出す。
「お前は、自由を奪われて、脅されて、攻められて、快楽を感じているんだ。」
ペニスをしごく手が次第に早くなっていく。
「違う。違う。違うぁぁ、ああぁぁ」
ついに快楽に耐え切れなくなったフォルトは大量の精液を辺りに飛び散らす。
「凄い量だな。それに濃い。ふふっ、二ヶ月も溜めれば当然か。」
飛び散った精液を指ですくって舐めるマユラ。
その顔はフォルトへの達成感と征服感でどこか満足げだ。
「あれだけ出しても全く萎えていない。これなら直にでも本番も出来そうだ。」
いまだに起ち続けるフォルトのペニスを見て、マユラの欲望の炎が再び燃え上がった。
「うぅ・・・ぅ・・・・ふぅ。」
ゆっくりとマユラの秘所がフォルトのペニスを咥えこむ。
マユラの膣は氷の様に冷えた身体とは裏腹に熱く火照っていた。
「全部入ったな。喜べフォルト。男のモノを入れたのはお前のが初めてだ。」
嬉しそうにマユラが話し掛けるが、フォルトの耳には届かなかった。
あれっ、何だろう。前にもこんな事があったような。
それがフォルトの頭の中を過ぎった最初の感覚だった。
あれは確か・・・・・
「痛っ。」
そこでフォルトの思考が中断する。マユラがフォルトの胸板を引掻いたのだ。
「他の事は考えるな。今は私との事だけを考ろ。」
思考の戻ったフォルトにそう言い聞かせると、マユラはゆっくりと腰を動かす。
「うぁぁ、あっ。」
「感じているな、フォルト。私もだ。お前のモノは随分と良いな。」
更に腰の動きを早めるマユラ。その熱くうねった膣がフォルトのペニスと擦れあう。
「はぅ・・あぁ・・・もう・・駄目だ・・・我慢・・出来ない。」
とうとうマユラの快楽のボルテージが限界に達しフォルトのペニスを極限まで締め付ける。
「ふあっ、ああああああああ・・・。」
フォルトもそれに耐え切れず、マユラの膣に全てをぶちまける。
「うああああぁぁぁぁぁぁぁ。」
その瞬間、フォルトの頭の中を電撃が駆け抜ける。
次々と甦る過去の映像。フォルトは全てを思い出した。
「そ、そうだ。僕は・・・・」
「ほう、どうやら記憶が戻ったようだな。」
マユラはそう言ってフォルトの記憶が戻った事を確認すると、
ゆっくりとフォルトのペニスを引き抜き、着替え始めた。
「私はこれから最後の仕上げをしてくる。直に戻るからそれまで大人しく待っていろ。
もっとも、その状態では動けないだろうがな。」
着替え終わったマユラはそう言い残して部屋を去っていった。
下の階から戦の音が聞こえる。
恐らくマユラの言っていた最後の仕上げとはキース同盟軍を裏切る事だろう。
そしてここにマユラが戻って来た時自分はメイマイに連れ戻される。
それだけは絶対嫌だ。
そう思ったフォルトは、何とかこの場から逃げようとするが四肢を繋ぐ鎖がそれを拒む。
けれども逃げようと必死にもがくフォルト。だが結局どうにもならず時間ばかり過ぎていく。
そうこうしている内に、部屋のドアが開かれた。
自分の運命を呪い諦めるフォルト。だがドアを開けた人物はマユラでは無かった。
「やっぱりこっちに来て正解みたいだったね。」
それは、キース同盟軍の武将の一人であるラミアだった。
ラミアは先程まで戦っていたらしく所々に怪我を負っている。
「いやー、まさかマユラがあんなに強いとは思わなかったね。それにメイマイの軍も
迫ってるみたいだし、ここももう終わりだね。」
独り言の様に話しながらラミアはフォルトに近づいていく。
「でもこのまま負けっぱなしじゃ気に食わないから、最後に嫌がらせでもしとかないとね。」
持っていた剣を思いっきり振り上げるラミア。
フォルトはこれから訪れるであろう自分の死に覚悟を決め目を閉じた。
パキィ。
「あれっ。」
聞きなれない金属音と共に自分の意識がある事にフォルトは驚いた。
恐る恐るフォルトは目を開けると、ラミアの剣は自分の首では無く、
四肢の鎖を切断していた。予測していない出来事に途惑うフォルト。
「おやっ、何で殺さないのって顔してるねぇ。確かに殺した方が一番と
手っ取り早いだろうけど・・・・お互い少し長く一緒に居過ぎたね。」
そんなフォルトに笑って答えるラミア。今のフォルトにとってそんなラミアの
笑顔がこの上なく嬉しく感じられた。
「だから逃がしてやるよフォルト。解ったらさっさと着替えな。」
「そこで何をしている。」
突如部屋に響き渡る声。それは二人にとって絶望をもたらす声だった。
「・・・随分御早いお帰りで。アンタが戻ってきてるって事はスガタはもう。」
「安心しろ。スガタには眠ってもらった。殺してはいない。残るは、貴様だけだ!!」
言い終わると同時に氷柱を飛ばしてくるマユラ。
ラミアはそれを素早く避ける。それと同時にフォルトを掴むとテラスまで駆け出した。
「上手く避けたな。だがもう逃げ場はないぞ。」
じっくりと距離と詰めていくマユラ。確かにマユラの言う通り二人に逃げ場は無かった。
「もういい。マユラ、僕は投降する。だからラミア達だけは助けてくれ。」
観念したフォルトは、せめてラミア達だけはとマユラに交渉を持ち掛ける。
だがラミアの目は諦めていなかった。
「待ちなフォルト。まだ逃げ場はあるさ。・・・・フォルト、アンタちょっと素敵だったよ。」
ラミアはそう言って笑った後、フォルトをテラスから突き落とした。突然の出来事に驚くフォルト。
だがその直後一匹のワイバーンが空中でフォルトを拾い上げた。
「じゃあねフォルト。アンタはアンタの好きに生きな。」
「待って。君はどうするんだ。」
「あたしもホントはそっちに乗る予定だったんだけど・・・。」
その言葉を遮るようにマユラが氷柱をワイバーン目掛けて飛ばす。
だがラミアがそれを途中で打ち落とす。
「こういう事だから無理。だからアンタだけ逃げて。」
ラミアが言い終わると同時にワイバーンが全力でテラスから離れ遠くへ飛び立った。
「・・・・僕は、何て無力なんだろう。」
空を駆けるワイバーンの背で、フォルトは一人己の無力さを嘆いた。
その後、メイマイ軍の突入によりキース同盟は滅びた。
だがフォルトの姿だけは最後まで見つけられなかった。