少女は数分の逡巡の後、意を決したようにドアノブを回した。  
 薄暗い部屋の中には、ガマのような顔をした年輩の将軍が椅子に腰掛けて待っていた。  
「これはこれは、ミュラ姫。お久しゅうございます……幾つになられましたかな」  
 ガマ将軍は醜く太った体をゆすって嫌らしく笑った。  
「お陰さまを持ちまして、先月14になりました」  
 少女はうつむいたまま、消え入りそうな声で回答する。  
「で、ご決心のほどは。よろしいのですな?」  
 数秒の沈黙の後、力無く頷く少女。  
「その代わり、私に兵力をお貸し下さるという約束は……」  
「ふむ。じゃが、なにぶん人手不足の折り。余り多くのことは期待せんで頂きたい」  
 ガマ将軍は返事もそこそこに、少女のドレスを脱がせに掛かる。  
 ドレスの下から幼い顔に似合わぬ豊満な胸が、すっきりと引き締まった腰が、そして下着の下からは申し訳程度の柔毛に飾られた秘密の丘が姿を現せた。  
「うぅっ、これが魔導世紀257年より脈々と続く名家の玉門……たまらんっ」  
 ガマ将軍はざらつく舌を伸ばして少女の全身を舐めに掛かった。  
「うぐぅ、この味……何よりの若返りの妙薬よ」  
 勃起力を失って久しい老将軍は、獲物が失神するまでクンニを止めない変態であった。  
「はあぅぅっ。そっ、それで……お貸しいただける兵力は……如何ほどに」  
 少女は苦しげな息の間から必死で問い掛ける。  
「それは姫のお心掛け次第じゃが。割ける物資は、まず30人分といったところ」  
 ガマ将軍は、少女のピタリと閉じた太股の付け根が描き出す、逆三角形の隙間に舌を差し入れる。  
 快感からか、それとも嫌悪感からなのか、少女の体は一瞬ビクンと震えた。  
「うくっ……さっ、30人では私の大望が……しかも、兵は自分で集めろと……それでは余りに……あふぅっ」  
「人手は割けんと申し上げたばかりではないか。強情を張っておられると、それすらままなりませんぞ」  
 老将軍の脅しに、少女は僅かながら足に込めた力を緩める。  
 
「悲観せずとも良い。一騎当千の者を30人集めれば、3万の軍勢に匹敵するではないか」  
 老将軍の無慈悲な台詞に、固く閉じられた少女の目から涙が一筋こぼれ落ちた。  
                                 ※  
 東の食料庫と呼ばれるボローニャは、東国同盟による反攻作戦の拠点となった。  
 魔王軍による侵攻は、軍事的には弱小なこの国にも及び、国土は戦禍に巻き込まれたが、広大な穀倉地帯の広がるカシナンティー平原は点と線を侵されたに過ぎなかった。  
 東国の食糧事情に多大な影響力を持つボローニャの解放は、反攻を開始したばかりの東国同盟にとってまさに今後の死命を制するツボと言えた。  
 外交感覚に秀でたボローニャ国王はこの状況を巧みに利用し、以後の食料の無償供出を見返りに同盟軍司令部を抱き込むことに成功、同盟軍による総攻撃の末にボローニャは人類の手に戻った。  
 ボローニャの豊富な物資を背景に、魔王軍に対する本格的な反攻作戦が可能となった同盟軍司令部は、戦力増強のため各地に義勇兵を募った。  
                                 ※  
 カシナンティー平原の一角、戦火により焼け野原となった農場跡地に、本日新規に編成される部隊へ、入隊を志願しようという腕自慢が集まっていた。  
 幔幕の前に置かれた無人の台座を中心に、集まった強者は200といったところか。  
 ほとんどの志願者が家督の相続権を持たない市民の次男三男か、戦功を上げて都市に住むための市民権を得ようという浮浪の徒である。  
 城塞に囲まれ、安定した生活を保証される都市に住むということは、この大陸のほとんどの者にとって一種のステータスなのである。  
「これが新たに編成される最後の部隊だからな。何としても入隊させて貰わなくっちゃ」  
「けど、この部隊に入れるのは30人程度だっていうぜ」  
 事情通の男が訳知り顔で仲間に説明する。  
「なんでも本隊が侵攻する前に、敵地に乗り込んで情報収集に当たる斥候部隊って噂だ」  
「そりゃヤベェんじゃねぇか」  
 余りに高い競争率と任務の危険性を知らされ、集まった男たちの間に動揺が走る。  
 少し離れた大木の幹にもたれて座った一人の男が、その様子を不機嫌そうに見ていた。  
 
「残り30になるまで、全員で殺し合いをさせればいい。それで真に役立つ30人が残る」  
 人員整理と実力判定を同時に行う、極めて合理的な入隊試験を頭に描いている男は、傭兵の仕事を求めてこの地に流れてきたザーフラクであった。  
 そのザーフラクの耳に不愉快なバカ笑いが飛び込んできた。  
「ガハハハッ、ぬしら怖じ気づいたのなら帰るがよいわ。ワシらストーンカ人が大陸一番の戦士であることを証明する良い機会ぞ」  
 自分の手下と共に、入隊枠を独占しようという積もりなのか、原始人そっくりのストーンカ系の戦士が周囲を威嚇するように棍棒を振り回す。  
「貴様ら腰抜けなど、戦場では足手まといにしかならんわ。帰れ帰れっ」  
 余りに品のない連中の態度に、ザーフラクの堪忍袋の緒が切れかけた時、別の男の胴間声が上がった。  
「いるわいるわ、こりゃすげぇや。フーリュン人にボローニャ人……おほっ、ゴリラまでいるぜ」  
 声の主は酒の入った瓢箪を背中に担いだ大蛇丸であった。  
 しばらくの間、ムロマチに居られなくなった大蛇丸は、暇つぶしの大陸見物にと、この地を訪れていたのである。  
 ゴリラ呼ばわりされたストーンカ系のボスが、顔を紅潮させて大蛇丸に詰め寄ってくる。  
「ぬしゃぁ、誇り高きストーンカの戦士をつかまえてゴリラだとぉ」  
 ボスは黄色い歯を剥き出しにして大蛇丸に凄んでみせる。  
「悪ぃ、謝るよ……ゴリラの方にな。お前らと比べられたんじゃゴリラが気を悪くするぜ」  
 ハナから喧嘩を売る積もりでいる大蛇丸は、怯えるどころかヘラヘラ笑いを止めない。  
 グビグビと酒をあおるムロマチ人をザーフラクは醒めた目で見ていた。  
「バカか、この酔っぱらいは」  
 ストーンカ人たちの傍若無人さにはザーフラクとて腹が立つが、かといって見も知らずの田舎者の助太刀をするほどお人好しではない。  
「ふんっ。ここはゴリラ共の手の内を見せて貰うとするか」  
 ザーフラクは唇の左端だけに冷酷そうな薄笑いを浮かべた。  
「何を騒いどるかぁーっ。全員整列っ。ボヤボヤするなぁーっ」  
 一触即発の険悪な雰囲気を、一瞬で霧散させるような鋭い掛け声が周囲を制した。  
 振り返った一同は、台座の上に立った1人の戦士の姿を目にする。  
「ミリオン……ありゃ、ミリオンだぞ」  
 
 志願者達の中からどよめきが生じる。  
 勇魔戦争の緒戦から、各戦線において魔族と互角以上の戦いを繰り広げた英雄の名は、大陸広くに知れ渡っていた。  
「諸君。人類共通の敵、魔族を討つ戦いに身を投じるため、国家間の枠組を越えてよくぞ集まってくれた。礼を言う」  
 ミリオンは台座の前に集まった志願者を見回しながら叫んだ。  
「ただ残念ながら、この全員を連れては行けない。噂で聞いているとは思うが、我が隊は主力部隊による決戦を有利に導くため、味方に先んじて敵地へ侵攻し、敵の指令中枢を叩いておく先行遊撃隊である」  
 ミリオンの言葉に一同は静まりかえる。  
「斥候部隊じゃないのですか……」  
 恐る恐るといった風に1人の男が質問する。  
「保秘の都合から強行偵察隊とは銘打っているものの、事実上は特攻隊と思って貰いたい。移動時に目立つのを避ける必要から、部隊は30名程度の少数精鋭をもって編成する」  
 思っていた以上に過酷な状況に、集まった志願兵たちは色を失う。  
 味方の主力部隊が戦場に到着するまでの間、下手をすればたったの30人で1000人規模の魔族を相手にしなければならないのである。  
 誰もが青ざめ、逃げ出したい感情に包まれるが、臆病者のそしりを受けたくないという戦士の矜持が、それを実行に移すことを阻んでいた。  
 ボスゴリラも落ち着き払った外見とは裏腹に、内心では逃げる口実を探していた。  
「それでは我々の指揮官を紹介しよう。ミュラ殿」  
 ミリオンの呼び掛けに応えて幔幕の向こう側から姿を現したのは、まだ10代半ばに見える少女であった。  
 尊大そうなお付きの中年男が、ミュラを台座に上がるよう促す。  
 ミュラの明るいブラウンの髪は素直なストレートで肩下まで流れ、前髪はヘヤーバンドを兼ねたティアラで軽く押さえつけられている。  
 整った顔の造作は彼女の出自の高貴さを感じさせたが、ただ表情が全くないため、見る者に美しい少女人形を連想させた。  
「ミュラ殿は西国のさる王家の出身であられるが、人道主義の見地から義憤に駆られ、この度、自ら全人類の先頭に立って戦われることになった」  
 
 お付きの男が葉巻を燻らせながら、少女指揮官を皆に紹介する。  
 ようやく目を開けたミュラは、祈るような視線を志願兵たちに向ける。  
「ぬしらは、誇りあるストーンカの戦士を愚弄するかぁっ。我らを指揮するのが、ションベン臭い小娘などと……はっ、話にならんわいっ」  
 ようやく逃げる口実を見つけたストーンカ戦士のボスは、喚き声を上げて部隊からの離脱を表明した。  
 すると堰を切ったように我も我もと、その場から離れていく者が続出する。  
 彼等は口々に悪態をつきながらも、その表情は安堵感に満ち溢れていた。  
 今にも泣き出しそうな表情になり震えているミュラと、好対照にサディスティックな薄笑いを浮かべているお付きの男。  
「何がそんなに嬉しいのか。マーロン殿」  
 薄笑いを見咎めたミリオンが葉巻の中年男、ニール・マーロンを詰問する。  
「元々こういう顔なんでね。しかし契約前に、奴らが役立たずと分かっただけでも良かったではないか」  
 元は滅びた小国の参謀という触れ込みのマーロンは、煩わしそうに葉巻の煙を吐き出す。  
 ミリオンはこの男の尊大さが嫌いであり、境遇を同じくするミュラが同情心から彼を雇おうとした時にも反対している。  
 そもそも国が滅びたのは、マーロンが魔族と秘密裏に手を結んだためとの噂もあり、そんな男はミリオンにとって心許せる存在ではなかった。  
「へへっ、泣き顔はなかなかチャーミングじゃねぇか。感情が無いんじゃないかって、心配したぜ」  
 ミリオンが我に返ると、1人の男がミュラに近づき、無遠慮に彼女の顔を覗き込んでいるところであった。  
 見知らぬ男に顔を寄せられて、怯えたミュラは思わず後ずさる。  
「おい、お前っ。無礼であろう」  
 しかし男はミリオンの叱責など耳に入らないように目尻を下げて笑う。  
「でも笑顔はもっと可愛いんだろうな。よぉ〜し、決めたっ。アンタの笑った顔を見るまで、ついていくぜ。俺は大蛇丸ってんだ。よろしく頼む」  
 大蛇丸の不埒な申し出に、ミュラは目を丸くして驚く。  
 見渡せば大半の志願者が去った後にも、まだ数名の男が残っている。  
 
「ようっ、アンタも居残り組なんだろ」  
 大蛇丸は頭陀袋を背負った若いフーリュン人に声を掛ける。  
「当たり前だ。男が一度決めたことをあっさり撤回出来るもんか」  
 如何にも正義感の強そうな目をしたこの若者の本名は後世に伝わっていない。  
 ただ家督を継げば襲名することになる『7代ハマオウ』の名は、後に『拳聖』の異名と共に広く世に知られることになる。  
                                 ※  
 数日前の事、7代ハマオウはラコルム宗家の寺院で、1人の老人の前に膝を折っていた。  
 70を越えてまだ矍鑠とした先々代、つまり5代ハマオウの腰は曲がることを知らず、背筋はピンと伸びている。  
 いきなり祖父から手合わせを申し込まれたハマオウは、枯れ木のような老人を相手に、遂に手を触れることさえ出来なかったのだ。  
 かつては拳豪と呼ばれた5代ハマオウといえど、第一線を退いてからかなりの年月が流れている。  
「じっちゃんに怪我をさせる訳にもいかないし。適当にいなして、お引き取り願うか」  
 心にゆとりを持って始めた手合わせだったが、結果は無惨であった。  
 自ら敗北を認めて、その場にしゃがみ込んだハマオウに老人は声を掛けた。  
「若さも力もあるお前が、何故勝てなんだか分かるかな?」  
 その答えが導き出せず、ハマオウは黙ったままうなだれていた。  
「お前も成人すれば、この国を背負って立つ身。まぁゆっくりと考えるが良かろうて」  
 老人はそう言うと、若い孫をその場に残して立ち去っていった。  
                                 ※  
 やがて降り始めた雨に濡れて、ハマオウの体は冷えていった。  
 ふと気付くと、幼なじみのマリルが朱色の傘を差し掛けてくれていた。  
「ようやく分かったよ。何が何でも、とにかく勝とうという気持ちが僕には無かったんだ」  
 ハマオウはゆっくりと立ち上がりながらマリルに向かって呟いた。  
「幾ら正義を唱えようとしても、敗者には語る権利さえ与えられない」  
 しばらくの間、傘を打つ雨音だけが辺りを支配する。  
「実際、今の僕がどこまで戦えるか試したい……少し旅に出るよ」  
「……待ってる」  
 
 再び静寂が若い2人を包み込んだ。  
                                 ※  
 そんな経緯で旅に出たハマオウだったが、これまで天才拳法家の名を欲しいままにしてきた彼にとって、遠慮無しに戦える相手など、そうは存在しなかった。  
 結局、彼が辿り着いたのが魔族狩りである。  
 魔族が持つ、単体で村一つを壊滅させる事の出来る戦闘力と、女子供でも容赦しない残忍さは、正義のラコルム拳法完成の踏み台として申し分なかった。  
「この部隊なら魔族を探して回る手間が省けそうだな」  
 ハマオウは一も二もなく、ミュラの先行遊撃隊に入ることに決めた。  
「アンタはどうするんだい」  
 大蛇丸は馬に跨ったままの美貌の青年に声を掛けた。  
「私は只の旅の者なのですが、女性が困っておられるのを、黙って見過ごす訳にはいきませんからね」  
 青年は馬から降りると、ミュラに向かって礼儀正しく挨拶した。  
「私は魔族の研究をしているキャメロンと申します。貴女のお力になれれば幸いです」  
 魔族の存在意義を探求するため旅に出たキャメロンが、この場に居合わせたのは全くの偶然だったのだが、儚げなミュラの姿は、彼の騎士道精神を掻き立てるのに充分であった。  
「アンタ学者先生かい。こいつはいいや、俺たちゃ魔族については何にも知らねぇからな」  
 大蛇丸が差し出した右手をキャメロンは握り返す。  
「そっちのアンタも居残り組かい」  
 大蛇丸は続いて大樹の根元に座っているザーフラクに向かって話し掛けた。  
 そのザーフラクはふて腐れたように目を瞑ったまま、返事も寄越さない。  
「なんだ、内気な奴だな。集団の中じゃ、引っ込み思案は損するぜ」  
 しかしそんな態度とは別に、ザーフラクの頭脳は目まぐるしく回転していた。  
「味方の人数が少なければ、それだけ個人の活躍を派手に宣伝出来るというもの。小娘の指揮権など、いつでも取り上げてくれるわ」  
 ミュラは思った以上に惨めな現実を前に、台座に乗ったまま小刻みに震えていた。  
「例え少数でも腕に覚えのある強者を探し出すには、この手しかなかったのです。やはり提示した条件が厳し過ぎたのでしょうか」  
 
 今やバンパイア共の跳梁跋扈する悪の巣窟と化した祖国シルヴェスタを奪い返すのは、クリアスタ王家の正統後継者の自分に与えられた使命である。  
 その思いがあればこそ、流浪の苦しみにも耐えることが出来た。  
 先行遊撃隊の指揮権を手に入れるためとは言え、同盟軍司令部の老将軍による辱めを受け入れたのも、父の仇バイアード13世を討ちたいという一念があったからである。  
 大望を抱いたミュラとしては、出発点から頓挫する訳にはいかなかった。  
 ミュラの憂いに満ちた目が、今1人の陰気そうな顔をした若者の目と空中で合わさる。  
「オ、オ、俺……」  
 若者は武者震いしているのかガタガタ体を震わせていた。  
「こ、こ、こんなのだから俺は……」  
 その青年、ジェイクは故郷を出奔する前日に起こった出来事を思い出していた。  
                                 ※  
 大陸西部における対魔族反攻の拠点は神聖皇国軍擁するコリアスティーンであり、その戦力の中心は騎士団シリニーグであった。  
 騎士団シリニーグは、コリーア信者の少年なら誰でも一度は憧れる夢の存在である。  
 若き騎士見習いのジェイクは、先のガッツォ戦役で知り合いになったばかりの聖光騎士リガインと共に、団長グリーザの元を訪れた。  
「リガインの推薦となれば、腕前の方は期待出来そうだな」  
 聖神の白き獅子と呼ばれ、この時代屈指の武人であるグリーザに正面から見据えられると、気弱なジェイクはそれだけで身震いを始める。  
「どう思う、シャロン?」  
 グリーザは傍らにいた赤毛の神官兵に顔を向ける。  
「ふぅ〜ん」  
 シャロンはジェイクの前に進み出ると、値踏みするようにジロジロと睨め回す。  
「ダメね、これは。聖光騎士団に入るには精神力が不足してるみたい」  
 小娘の下した遠慮のない評価にジェイクは鼻白む。  
「もしグリーザ様がドリファン帝を討てとお命じになったら、あなたに出来て?」  
 コリアスティーンの君主にして、コリーア教徒の頂点たる法王でもあるドリファン帝を手に掛けることなど、ジェイクには想像もつかない事であった。  
「出来ないでしょ。それがあなたの限界なのよ」  
 
 そう言い残すと、シャロンはグリーザを促してその場を立ち去った。  
「悪いな、せっかく来て貰ったのによ。まぁ、気を悪くしないでくれや」  
 ニヤニヤしたリガインの顔を見ていると、彼が自分を笑いものにするためだけに呼び出したのでは、という妄想すら掻き立てられるジェイク。  
「畜生、見てろよ小娘。俺だって……俺だって」  
                                 ※  
 夢への架け橋を、後一歩と言うところで外されてしまったジェイクの怒りは凄まじく、彼等を見返す戦功を立てようと東へ旅に出たのである。  
 先行遊撃隊とやらの任務は危険極まりなく、生還は万に一つもなさそうに思われた。  
 しかし人を見下すようなシャロンの目を思い出した途端、彼の震えはピタリと収まる。  
「俺も連れてってくれ」  
 ジェイクは真っ青になりながらも、自分の意思でハッキリと入隊希望を口にした。  
「大丈夫かよアンタ。自殺志願者なら他の方法を当たってくれよ」  
「うるさいっ。俺は行くと言ったら行くぞ」  
 大蛇丸の茶化しにも負けずにジェイクは言い放った。  
「残ったのは、結局5人だけのようで。これでは諦めるしかありませんな、ミュラ殿」  
 薄笑いを浮かべたニール・マーロンが、ミュラに葉巻の煙を吹き掛ける。  
「聞いての通りだ。諸君の勇気には……」  
「みなさん。みなさんの勇気に感謝します」  
 マーロンの言葉を遮るように、初めてミュラが声を上げた。  
「私は、今は亡きクリアスタ王家の王女ミュラです。この度、私が起った本当の目的は、人類愛の発露などではなく、王家の復興と祖国シルヴェスタの奪還にあるのです」  
 共に命を懸けようとする仲間たちへの礼儀として、ミュラは包み隠すことなく、正直に自らの胸中を語った。  
「どうか王家の名誉回復のために力を貸してください。大願成就のあかつきには、クリアスタ王家の秘宝をもってみなさんの勇気に報いるでしょう」  
 しばらくの間、沈黙が辺りを支配した。  
「『私をシルヴェスタに連れてって』か。いいぜ、どうせ暇な身だから。お供しましょ」  
 最初に口火を切ったのは、やはり大蛇丸であった。  
「ご先祖のお墓参りも出来ず、王女様に罰が当たっては気の毒だしな」  
 
 義理人情を重んじるハマオウも、照れ臭そうに初志貫徹を宣言した。  
 キャメロンとジェイクも、それぞれ無言の首肯で賛意を表明する。  
 結局、可憐な美少女の、涙混じりのお願いを無視出来るような勇者は居なかった。  
「慣れないもので、いたらぬ点も多々ありましょうが、よろしくお願いします」  
 苦々しそうな表情を浮かべたマーロンをよそ目に、ミュラは深々とお辞儀する。  
「正気ですか、ミュラ殿。死にに行くようなものですぞ」  
 マーロンは怒ったようにミュラに詰め寄る。  
「これは私に課せられた使命なのです。例え行くのが私1人でも、止める訳にはいかないのです」  
「ほう。ミュラ殿はご自分の大望のためなら、他人を巻き添えにしても良いとお考えか」  
 マーロンはミュラに食い下がり、あくまで作戦の中止を進言する。  
「相手が魔族1000匹などと考えるから、話がおかしくなる」  
 それまで無言であったザーフラクが口を開いたのはその時であった。  
「我らが敵とするは魔王軍の軍団長と、その側近のみであろう。残りのスケルトン雑兵など、主力部隊とやらが相手をすればよい」  
 ザーフラクは事も無げに言ってのける。  
「その軍団長1人は999人の雑兵より危険なんだぞ。根拠のない自信は無謀と同じだ」  
 あくまで反対するマーロンだったが、ザーフラクの虎の目に一睨みされて黙り込む。  
「自信が無くてこんな酔狂に付き合えるかね。一緒に行くのが嫌ならアンタは残るんだな」  
 大蛇丸の一言がマーロンに最後の止めを刺した。  
「決まりのようだな。ミュラ殿、良かったですなぁ」  
 ミリオンが自分のことのように喜ぶと、ようやくミュラは一瞬口元をほころばせた。  
 しかし直ぐに厳しい顔に戻り、西の空を睨み付ける。  
「お父様、お待ちになっていて下さい。今ミュラが参りますから」  
 ミュラは父の亡骸が眠るシルヴェスタに思いを馳せ、魔王軍打倒の決意を新たにした。  
(『出撃!遥かなるシルヴェスタ』編につづく)  
 

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