「なあ、いつまでこんな事続けなくちゃいけないんだ?」
アキラはテーブルの上に肘を乗せ、
ウンザリだという顔しながら愚痴をこぼしている。
「まあまあ、イイじゃん。こーいう話を聞くチャンスって滅多にないんだからさ♪」
向かいに座っている緑髪の少女・・・ナギが、
意気揚々としながら、メモにペンを走らせている。
「ちょっとお腹空いたね、何か頼もっか。」
ナギはペンを置くと、店員を呼んだ。
アキラは何も応えない。
「えーと、コレとコレと・・・あ、後コレもお願いね。アンタは?」
ナギは注文をし終わると、アキラに聞いてくる。
「・・・いらない。そんな気分じゃない。」
「あ、そ。じゃあ、以上で。」
店員はメニューを回収すると、行ってしまった。
「言っとくけど、割り勘だかんね。」
ナギは水を飲みながら呟いた。何勝手に決めてんだコイツ・・・。
席を立とうと思ったが、疲れて力が出ない。
「はぁ・・・もう勘弁してくれよ・・・。」
アキラは大きく溜め息をついて、テーブルに伏せてしまった。
ここはとある街のレストラン。
値段は手頃でボリュームは豊富。
その上味も最高と、実に文句のつけようがない超人気の店だ。
中でも、この店自慢の特製シチューが絶品・・・
と、そんなことはアキラにとってどうでもよかった。
朝早くにいきなり部屋に乱入してくるや否や、
叩き起こされてから、今までずっとここで、
元の世界である地球に関することを、根掘り葉掘り聞かれている。
マンガのネタにするんだかなんだか知らないが、迷惑な話だった。
こっちは連日の戦闘続きで、疲れているというのに。
っつーか、なんでこんなに元気なんだコイツは。
「で、その・・・『ばいく』だっけ?どんな乗り物なの??」
熱々の特製シチューを啜りながら、ナギが聞いてくる。
「どんな、って・・・こーいうの。」
アキラはポケットの中にあった、バイクのキーを取り出し、
それについていたバイクのキーホルダーを見せた。
「ふーん・・・カッコイイじゃん?」
「わかるのか?」
少し驚いた。移動手段がもっぱら馬であるこの世界に、
『バイク』の良さがわかる奴がいるとは。
「なんとなく、だけどね。格好とか。よく乗ってたの?」
「この世界に来る前は、一日中乗り回ったモンさ。」
「一日中も?」
「ああ。俺には、こいつしかなかったからな。」
アキラはキーを見つめながら、しみじみと語り出す。
「嫌なことがあっても、走り始めたらそれが嘘みたいに全部吹き飛ぶんだ。
まるで、風と一体化したみたいにね。でも今はこの状況だからな。
いつか元の世界に戻って、もう一度乗ることが出来るか・・・って、あ。」
「・・・。」
アキラはいつの間にか席を立って、熱弁していた。
周りの客の視界も、こちらに集中している。
「・・・悪い。」
それに気付くと、急に恥ずかしくなってきた。
軽く咳払いをし、ゆっくりとまた席に座る。
「(最悪だ・・・俺ってばなんてガキっぽい事を・・・。)」
アキラはしまったぁ、という感じで頭を抱えた。
笑われる、と思った。しかし・・・
「安心したよ。」
彼女の口から出た言葉は、全く予想外のモノだった。
「・・・は?」
アキラはポカン、と口が開いた。
「いつもバツが悪そうな顔しててさ、暗い奴だな、って思ってたけど・・・
アンタも、そーいう顔が出来るんだね。」
「笑わないのか・・・?」
恐る恐るアキラは聞く。
「イイじゃん、なんかさ。
その人の自分が好きなことをしてる時や、語る時の・・・なんていうのかな。
楽しそうな顔ってゆーか、輝いている瞬間ってゆーか・・・。」
ナギは手元のシチューを、混ぜながら語り出し・・・やがて手を止める。
「・・・アタシは好きだな。そーいうの。」
「っ!」
一瞬、アキラは胸が苦しくなった。
顔が一気に真っ赤になってゆくのを、自分でも感じた。
「な、ななな・・・なに言い出すんだよいきなり!ら、らしくないぞ!!」
あまりの意外な発言に、アキラは戸惑いを隠せなかった。
同時に、バイクのキーホルダーを落としてしまう。
「アハハ!何、赤くなってんだよ。全く、免疫が無いヤツだなぁ。」
ナギはアキラが落としたキーホルダーを拾う。
「ね、これ借りても良い?この乗り物、今度のマンガに出してみたいんだけど。」
「か、勝手にしろよ!俺はもう宿に戻るからな!!」
ガタッと勢い良く立ち上がると、アキラは颯爽と店から出て行ってしまった。
「やれやれ・・・割り勘って言ったのに。」
一人店に残されたナギは、仕方が無いと言った感じで首を振ると、
再びシチューを啜り始めた。
食べ終わると、例のキーホルダーを見つめながら手に取り、
そっと指でなぞりながら呟いた。
「ま、アタシも免疫は無いけどね・・・。」
ナギ自身も、胸の高鳴りを抑えされるのはそこまでだった。