──魔導世紀999年。  
 
ネバーランド大陸北西の一角。大魔王ジャネスの娘、ヒロ率いる新生魔王軍は、ヒロの兄、ジャドウの襲撃を受け壊滅した。  
ジャドウは新生魔王軍の領土であったネウガードの地を手中に収め、新たに『魔王軍』を設立した。  
ジャドウと、彼の擁する『五魔将』──ザラック、ゴルベリアス、ルドーラ、バイアード13世──はの絶大なる力は、近隣諸国のみならず、大陸中の国々に恐怖を与えた。  
 
しかし、五魔将の全てが本心からジャドウに付き従っていた訳ではなかった。  
例えばゴルベリアスは、一度は滅した己を蘇らせたジャドウに敬意を払っている様子すら無く、  
バイアード13世やルドーラは、強制的に各々が治める地や国、一族より引き離された。  
 
しかもルドーラは、エレジタットの地を離れる前に、側近のイルハートに兵を預け、『冥府兵団』を任せていたのだが、  
翌魔導世紀1000年。そのイルハートはルドーラを裏切り、彼の追放と自国の旗揚げを宣言し、  
エレジタットの地と冥府兵団をその手に収め、ネバーランド大戦に参戦した。  
 
イルハートの望みは二つ。  
一つは、自らを生み出したルドーラへの復讐。  
もう一つは、己にとって不快でしかない世界、ネバーランドの破壊であった。  
 
 
「クッ…」  
深夜、エレジタット城のバルコニー。  
魔族と鳥人の両翼に夜風を受けながら、イルハートは満点の星空を眺めていた。  
多くの人間やエルフ、魔族さえもが美しいと称するその光景さえも、彼女にとっては不快な存在でしかなかった。  
「この目に映るもの、その全てが汚らわしい……感じるもの全てが、私を不快にさせるのだ…」  
 
だから彼女は願う。  
 
「フフッ……さあ…復讐の始まりだ…」  
 
全てへの復讐を。  
 
「私に生きる苦しさを与えたあの者へ……私を苦しめる…この世界に!  
満たされる事は無い……憎い……私を苦しめる、この世界が!!」  
 
そして全ての破壊を──。  
 
 
だが、そんな考えで戦乱の世を渡っていける訳が無いのである。  
 
「ああもう、不愉快だね!」  
 
──同年2月。  
前月に徴兵や商人との取引で軍備を整えたイルハートが次にした事は、“お勉強”であった。  
戦乱の世に於いて、小国であるエレジタットはいつ他国に攻撃を受けるか判らない。  
復讐を果たす前に討ち果てては元も子も無い。イルハートは不本意ながらも城の蔵書を引っ張りだし、治世、交渉、世界情勢等を学んでいき、  
知識を付ければ付ける程、自国の状況が果てしなく劣悪である事を悟っていった。  
国力は低く、城は小さく、自分以外に『武将』と呼べる存在もいない。  
雑兵はどうしても雑兵。500人いた処で領土の開発も対外交渉もできないし、そうした役目を果たし得る人材を探す事すらもできなかった。  
「ネバーランド軍とやらにはかのアゼレアが参入したと言うのに…!(※プレイ事実)」  
その一方でわれらが冥府兵団はと言うと、ノーリュ独立部隊のサスティの引き抜きに失敗し(※プレイ事実)、  
牙兵ドラコニアンとの同盟に失敗し(※プレイ事実)、  
武将を探索するも全て空振りに終わる等、けんもほろろな有様であった(※プレイ事実)  
 
せめてもの救いは、同年11月。カエルフォースが統治する北のベルヌーブを攻撃・撃破し、彼の地を領土とした事だろう。  
尤も、カエルフォースの武将達は誰一人彼女の配下となる道を選ばなかったので首を捌ねざるをえなかったのだが(※プレイ事実)  
「やれやれ…いきなり荷が重くなったな…」  
新たな領土に精通した武将も増えぬまま、治世の要が二倍になったイルハートは頭を痛めていた。  
 
そしてそのまま月日は経ち、1001年2月某日夜。  
一日の政務の締めとして報告書に目を通していたイルハートの目に、ふとその内の一枚が目に止まった。  
それによると、最近、領内の数少ない高級住宅街に正体不明の盗賊が出没していると言うのだ。  
(ふむ…近く対策を講じねばならないかな)  
私掠を得手としないイルハートにとって、街の財産や領内の資産は軍資金とイコールで結ばれる。  
故に、街の財産が奪われる事は軍資金が減る事になる。  
ベルヌーブを併合したとは言え、まだ「地方の小国」に過ぎないエレジタットにとって、それはゆゆしき事態であった。  
(明朝一番にも自警団と言う奴を組織してみるか…)  
そんな事を考えながら、イルハートは報告書の束を執務机に放り込むと、小さな欠伸を漏らしながら寝室へと向かった。  
 
ただ、彼女は知らなかった。  
上流階級の人間にありがちな「体面を取り繕う」という習性の為に、件の報告は遅れに遅れていたものであるという事を。  
そして、調子に乗った盗賊は、大抵近辺で更に大きな獲物を狙うという事を。  
故に、  
 
──ガチャ  
 
「…は?」  
「あ……」  
 
故に、ルドーラに生み出されし“偽りの存在”、魔導人形イルハートと、  
ドウムの科学を使いこなす、蒼髪の盗賊の少年フラットのこの出会いは、必然であったのかも知れない。  
 
 
──深夜。冥府兵団本城、イルハートの寝室内で、二人は僅かの間固まっていた。  
お互いに現状を正しく把握できていないが為である。  
その二人とは、片や冥府兵団の君主にして、エレジタット、ベルヌーブの二国を治める魔導人形イルハート。  
片やドウムの“科学”を独自に扱う盗賊の少年フラット。  
 
数秒。  
「離脱っ!」  
先に動いたのはフラットだった。  
それなりに豪華な寝室の、それなりに豪華な燭台を一つだけ手に取ると、自身が開け放った窓から一気に跳び降りた。  
「なっ…待て、このコソドロ!」  
一瞬遅れてイルハートも動く。  
この寝室は四階にある。普通に考えれば、こんな高さから跳び降りれば無事では済まないはずだと思いながら、イルハートは窓の外を見下ろした。  
「なっ…」  
果たしてそこにあった光景は、足の裏から──正確には鉄製の靴の裏から火を噴いて浮遊するフラットの姿だった。  
「悪いね女王サマ。これはもらってくよー!」  
イルハートの方を見上げてフラットはそう叫ぶと、最後ににこりと微笑んで見せて、瞬く間に彼方の森へと姿を消した。  
「っ……逃がすかッ!」  
不埒な盗賊を逃がすまいと、イルハートも執務服をその場に脱ぎ捨てると、黒白の両翼を目一杯に広げ、開け放たれたままの窓から飛び出していった。  
 
 
「いやー、危なかった危なかった。ちょっと調子に乗りすぎちゃったかな」  
“冥府の門”の影響か、エレジタットの宵の闇は深い。  
月の光すら射さぬ森の中を、フラットは帽子に取り付けた照明器の薄明かりを頼りに低空飛行で進んでいた。  
魔法の代わりとして軍事方面に特化したドウムの科学を、フラットは盗賊業の助けになるようにと研究し改良していた。  
エイクス以外の国では非常に馴染みの薄い科学を以て行われた彼の技に、並の人間や魔物の警備など無きに等しかった。  
故に、フラットは悠々とこの地で盗みを繰り返し続けてこれたのだ。  
 
あくまで、並の人間や魔物相手には、だが。  
 
「見つけたよ、人間!」  
「うえっ!?」  
突然背後から響く女の叫びにフラットが慌てて振り返ると、どうにか照明器の光の届く距離に辛うじて、  
山吹色の髪を靡かせた、裂帛の表情のイルハートが見えた。  
明らかに怒っている。  
しかもそのスピードはフラットの飛行速度よりも遙かに速い。  
このままだと間違い無く、さして経たぬ間にフラットは彼女に捕まるだろう。  
「しつっこいなぁ、もう!」  
フラットはイルハートの姿を認めると、ピュウッ、と口笛を吹いた。  
 
途端、周囲の枝葉や下草がガサガサと音を立て、次の瞬間には、首輪を付けた狼が数頭そこかしこから跳び出し、一斉にイルハートに襲いかかった。  
「軽く足止めするだけでいいからねー。怪我させちゃダメだ「「「ギャウンッ!!」」」………え?」  
そう言って、狼に後を任せて場を退散しようとしていたフラットだったが、  
背を向けた瞬間に聞こえてきた狼達の悲鳴に、再びその場で固まってしまった。  
急な事態に直面した時に固まってしまうのが彼の欠点だろうか。少しして背後に振り向いた時には、  
ぐったりとした狼達の首根っこを、まるでわらしべでも扱う様に束ね持ったイルハートの姿が眼前にあった。  
 
・・・・・  
上半身だけの。  
 
「ひ……っ!」  
一竦み。その僅かな間に、イルハートは狼達を放り投げ、今度はその手でフラットの襟首を捕まえた。  
「フフ……怯えてるのかい?」  
その問いかけにフラットは答える事ができない。  
だが、彼の未知の恐怖に震える様子は、充分に彼女の問いに肯定していた。  
「まあ無理も無い事だけどね……普段はこの姿は服や鎧で隠してるし」  
イルハートの手に込められた力が、言葉と共に少しずつ強くなる。  
「さて…どうしてやろうかね」  
 

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