勇者になりたかった。ただそれだけだったんだ。
魔王がいるから人々が苦しむ。だから魔王を倒した。
なのに何故争いが続く。なぜ平和な世界は来ない。
なのに何故みんなは去っていく。たった一人、僕だけを残して。
「んん・・・ああぁ・・・・・」
シフォンの舌が肌に触れる度にエルティナは声をあげる。
エルティナ。
シフォンの幼馴染み。
友も、師も、全てを失った彼にとっての最後の支え。
「愛してるわシフォン。」
彼女のその一言は空になった心の全てを満たしてくれる。
しかしそれは同時に己が咎に突き刺さり罪悪感をも掻き立てる。
「エルティナ、僕は・・・・・」
懺悔の言葉を言いかけたシフォンの口を自分の唇で塞ぐエルティナ。
一分、二分、三分経ってようやくエルティナが唇を離す。
「もういいの、もういいのよシフォン。彼方は十分にやったわ。だからもう苦しむ必要は無いのよ。」
そう言ってそっと優しく微笑むエルティナ。
一番言ってほしかった言葉。自分を最も理解してくれている言葉。シフォンは自然と涙がこぼれ落ちた。
「エルティナ!エルティナ!」
「シフォン・・・・・きて・・・」
シフォンはそのままエルティナを抱き寄せると、本能のままにエルティナの中に自分のモノを挿入していく。
「あぁ・・・エルティナの中・・・・とても温かい・・・・・」
「シフォン・・・・・」
そのまま二人は相手の身体を愛し合ってゆく。互いの愛を確かめるかのように・・・・・。
「ねえシフォン、勇者になんてなれなくたっていいじゃない。故郷に帰ろう。そして二人で静かに暮らしましょう。」
「うぅ・・・エルティナ・・・・」
朝特有の気だるさの中シフォンは目を覚ます。
一人きりのベット。直ぐ横の鏡に写った皺だらけの顔。枯れ木の様な自分の手。
そこでようやく現実に引き戻される。
「夢・・・・・か。年を取ると昔の夢ばかり見るようになるというのは本当の様だな。」
自嘲気味に笑うシフォン。このところ昔の夢ばかり見る。
ライバル達とモンコンで競い合い毎日が楽しかった幼少の頃。
勇者を夢見て修行に明け暮れた輝かしい青年時代。
そして・・・・・
「女々しい物だな。昔を望んでも時は戻らぬというのに・・・」
「シフォン様、シフォン様。」
「・・・ヨシュアか。」
「魔皇軍と解放軍の連合が迫ってきてます。直ぐに迎撃の御準備を。」
「その必要は無い。」
「なにを言って・・・・・・」
その瞬間、ヨシュアの身体をシフォンの剣が貫いた。
「な、なぜ・・・」
「己の業と決着を着ける時が来たのだよ。」
そう言い残しシフォンはその場を後にした。
(みんな、もう直ぐ行くよ。)
かくしてかつての勇者は歩みだす。虚構と偽りの玉座へと。
己が業を終わらせる為に。