身を斬るような寒風が吹きすさぶエレジタット。
現在ムロマチ軍の統治下にあるこの不毛の地へ、大陸南西部を支配する無名兵団が、新たな戦いを欲して軍を進めた。
そして荒れ果てた冬の荒野で互いに対峙する両軍との間で、今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
「闘神ウェイブ…か、まさかこんな再会になるとはな…」
先日の戦いで損耗したシンバ達の部隊に代わり総大将勤めるヒロは、配下の骸骨兵達の先頭で眼前の敵軍を一瞥する。
本来ならば自身の欲望のままに生きる無法者達でありながら、人外の君主に対する圧倒的な恐怖に統率された集団。
ヒロの冷めた視線が見つめる先、やがて彼らはザッと音を立て二手に別れると、陣中に一つの道を作り出す。
そして奥から進み出てきたボロボロの外套を身に纏った者の姿に、彼女は静かに溜め息を吐き出しつつ睨み付けた。
「残念だよ…お前のそんな姿、私は見たくはなかった…」
「ヒロ…」
化け物へ成り果てた昔の仲間に失望する彼女の姿に、凍り付いた心へ生じた衝動に動かされウェイブは足を踏み出す。
何処か救いを求めているようにも思えるその姿に、ヒロは僅かな哀れみを覚えながらも、グッと眉をしかめて叩きつけるような声で一喝した。
「近寄るなっ!!…ただ時が過ぎただけ、この出会いは運命では無…」
「ヒロ…」
胸の奥から込み上げるモヤモヤを全て吐き出すように、ヒロは遥か前方で立ち尽くす戦鬼へ淡々と語り続ける。
しかし彼女の心を表すような苦渋に満ちた言葉は、ウェイブの発した抑揚の無い一言で瞬時にして凍り付いた。
「や ら な い か ?」
次の瞬間、ぞわりと背筋を駆け上がった悪寒に本能的な危機を感じたヒロは、瞬時に背を向けると己の外套を投げ捨てるウェイブから逃げ出した。