スパイラル  

鳴海歩が竹内理緒との戦いに勝利した数日後、歩とひよのは束の間の学園生活へと再び舞い戻っていた。  
「今日は言っておかないといけないかもな…」  
放課後の校舎を歩は歩きながら考えていた。今回のブレード・チルドレンの一件で、ひよのには大きな迷惑を掛けてしまった。それどころか軟禁され、命さえ狙われたのだ。  
"これ以上関わると、次は本当に…"  
そこまで考えて、歩は首を振った。そうならない為にも、ここはひとつ釘を打っておかないといけない。  
新聞部と書かれた表札のある戸を二回、ノックする。  
「はい、あ、鳴海さんですね」  
中に入ってなにも喋らないうちにひよのは歩が入ってきたと分かった。ひよのはというと、パソコンに向かってキーボードを打っている。  
「ああ」  
そういうとソファにどかっと座った。ここまではいつもと同じ光景。でも、それも今日で終わらせざるを得なくなる。  
どう切り出すか。いつもの会話のように、か?軽々しく、「オレに関わるな」と言い放つのか?  
「鳴海さん」  
ふと我に帰ると、ひよのが目の前にいた。心配そうな顔で歩の顔を覗きこんでいる。  
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?汗もかいてて…」  
どうやらいつのまにか険しい顔になっていたらしく、たしかにこめかみに汗が伝っていた。どうした?なんでこんなに―  
「イヤ、なんでもない―」  
「嘘です。鳴海さん、何か隠してます」  
ドキッとした。こいつ、こういうところは妙にカンが良い。  
表情もいつのまにか真剣なものへとなっていた。  
「…ああ、この際もう話しておこうか」  
ひよのは向かいのソファに腰をかけた。数秒の沈黙のあと、歩の口は開かれた。  

「これ以上深入りはしない方がいい」  
お互いの表情は変わっていない。変化があったとすれば、膝に乗せているひよのの手が微かに動いた。  
「今回の一件であんたは殺されそうになった。原因はもちろんオレの身辺に関する事だ。あんたはオレの身内でもないし、保護者と言うわけでもないだろう。なら、選択はひとつの決定しか下さないだろ」  
「…"関わるな"ってことですか…」  
ひよのは先程より俯き加減になっている。  
これで良いんだ、これがあいつにとって最高の選択なんだ。ブレード・チルドレンに関わって無意味に死を宣告されるよりオレとの関係を断ち切ってしまえばあいつは元の生活ヘ戻れるのだから―  
「いやです…そんなの、いやです…」  
「…はあ?」  
「私は鳴海さんに頼られてるって思ったのに…たしかに最初は鳴海さんに興味本位で近づきました…でも、もうそうじゃないんです」  
ひよののスカートの裾を握る手が自然と強くなってくる。歩は黙っていた。  
「私、鳴海さんのパートナーでいたいんです。お役に、たちたいんです」  
顔を上げたひよのの瞳からは熱いものが流れ出ていた。涙。その瞬間、歩の心臓は大きく躍動した。  
なんだ、この気持ち…心が熱い、そして胸を締め付けられたかのような気分―  
「…ダメだ、あんたが何と言おうとオレは考えは変えない。こうする事が一番だと、オレは思うから」  
歩は言葉を振り絞りそれを言い放った。ひよのの顔は哀しみそのものへと変化した。辛い。なんでこんなに辛いんだ。  
歩の頬に、一筋の光る液体―歩も、いつのまにか泣いていた。  
「じゃあな」  
立ちあがり出て行こうとする歩に、ひよのが制服を掴んだ。  
「…あんた…」  
「お願いです……最後に…最後に、思い出を作らせてください…」  
ひよのの表情からは何かを覚悟したかのような決意が感じられた。言うまでもなく、その意味は歩にも理解できた。  
「…いいのか?」  
無言で、こくりと頷く。歩はそれに答える様に、ひよのの唇を自分のもので塞いだ。  

 

ひよのがソファに横になると、その上から歩が覆い被さるようになった。再び口付け。先程よりも長く、そして深い。  
「…んはぁ…」  
口を離すと、お互いの唾液が混ざり合った証のように、一本の糸が二人を繋いだ。ひよのの顔は上気して、それでいて何か恥ずかしがった表情だった。  
歩とてこういった経験があるわけではないので、つい緊張した顔になってしまう。  
「…脱がすぞ」  
歩の手がひよの服にかかった。上着から丁寧に、ガラスの工芸品を扱うかのように慎重に1枚1枚剥ぎ取ってゆく。  
ひよのも「あっ、あっ」と、つい声が出てしまう。やがてひよのは下着のみを纏った姿になった。薄桃色のキャミソール、その内に隠されている胸には白いシンプルなブラジャーが付けられ、下はいつか見た事のあるバックプリントのパンツを履いている。  
「結構着やせするんだな、あんた」  
「なっ…!」  
赤かった顔が、もっと赤くなった。ひよのが胸を隠そうとしたが、歩は腕を掴みそれを阻止した。  
「可愛いぜ」  
キャミソールをたくし上げ、白い下着をめくりあげる。外し方が分からなかったのではなく、歩も緊張しているのだろう。弾む様に、胸が露わになる。桜色に染めたかのような乳首はふるふると小刻みに震えている。  
「…怖いか?」  
「…ちょっと、怖いかも…」  
歩が顔を除くと、ひよのは切なそうな顔で上目づかいにこちらを見つめた。歩の中で、なにかが弾けた。  

「ひよのッ」  
歩がひよのの胸にしゃぶりつく。「ううんっ」とひよのが声を上げて反応する。舌の先端が乳輪、乳頭、更にほんの小さな穴を探りあて、丹念に唾液を練りこむ。  
さらに強弱を繰り返しながら、乳飲み子の様に突起を吸い上げた。  
歩の舌が先端を責める度、ひよのはぴくんぴくんと身体が動き、切ない声を上げ悶えてゆく。  
その声を聞き、歩は自分の男が高まってゆくのが分かった。  
唇を離すと、桜色だった乳首は自身を主張するかのように勃起し、唾液でてかてかと光っていた。  
「鳴海さん、赤ちゃんみたい」  
上気だち呼吸をやや荒くさせたひよのが微笑を浮かべて呟いた。  
「赤ん坊じゃないさ。少なくとも、これからする事は」  
そう言うと、鳴海は腰に巻かれた最後の一枚に手を掛けた。途端、ひよのはハッとその意味を理解し、目を瞑り体を強張らせた。  
嫌なワケではなく、これから起ころうとする行為への漠然とした不安や恐怖が、半ば反射的にひよのを操ったのだ。  
「…イヤか?」  
「ううん…いいんです…このまま…続けて…」  
必死に紡いだ、ひよのの勇気。それを反故にしない為にも、歩は無言でそれに答えた。ゆっくりと、バックプリントのある最後の砦は剥がし取られていった。  
初めて他人に見せたであろうひよのの性器は、先程の歩の愛撫のおかげで愛液によりしとどに濡れていた。  
それに気付いたのか、ひよのは気付かれないとように手で秘所を覆った。  

「お前…?」  
「あ、あの…あんまり見ないで……恥ずかしいから…」  
その意味に気付いたのか、歩はひよのの髪を撫でた。  
「うれしいよ。感じてくれてたんだな」  
ひよのは赤い顔を一層真赤にさせ何かを言おうとしたが、歩が唇でそれを塞いだ為何も言えなくなってしまった。  
済し崩し的に、ひよのは反論を止めた。やがて、歩の手がひよのの大事な部分に重なった。  
「ふぁ…」  
そのまま、女の子自身に手が触れる。  
「ふぅん…!」  
塞いだ口から喘ぎ声が微かに漏れる。歩の手が愛撫をより強めて行くのと同時に、ひよのの声も高く、そして淫靡なものへと変化していった。  
「あふ…ぁ…あ、ああ、あ、あっ、はぅぅ!…っ!…」  
次の瞬間、ひよのの身体が一気に膠着した。刹那、愛液でとろとろになった歩の手にもっと粘性の強い液体が溢れた。絶頂を迎えたのだ。  
「あ……うぁ……」  
うわ言のような声を上げて、ひよのが恍惚の表情を浮かべた。半ば失神しかけているくらいと言ってもいいかも知れない。  
「こんなこと…初めてだったから…びっくりしました…」  
「…なに、はじめて?」  
既にひよのの性器から離れていた歩の手がピクリと止まった。  

マジか。オナニーが今回初めてだったなんて…もしかしたら……  
「…大丈夫です…私、平気ですから…鳴海さんの、それ…きっと、大丈夫ですから…」  
肩を上下させ、いまだにあられもない姿をさらけ出すひよのを前にして恥をかかせるわけには行かなかった。  
最も、それは詭弁で歩自身の欲望が抑制しきれないという事もあった。本音と建前が交錯する中、歩は横になりその上にひよのを導いた。  
「…じゃあ、ゆっくり降ろすぞ…」  
期待と不安が混ざったような面持ちで、お下げの少女は頷く。膝で立った状態のひよのの腿に手を回し、なるたけスムーズになるように姿勢の位置を促す。  
やがて、二人の性器の先端同士が触れ合った。くちゅ、と、淫猥な音が号砲だった。  
「ぁ…ん、あっ…あ!」  
少しづつ、歩がひよのを貫いてゆく。その度に先程の愛撫とは比べ物にならないくらい、大きなひよのの喘声が部室中に響く。  
歩の陰茎を伝う粘液も、こんこんと流れ出していった。  
「行くぞ…っ!」  
「な、鳴海さぁん」  
懇願するようなひよのの声が耳に入ったとき、歩の性器はひよのの秘所に根元まで食らいこんだ。肉を食い破る感覚が、歩の身体を突き抜ける。  

「―――――っっ!!」  
声にならない声でひよのは喘いだ。前傾姿勢から海老が反りかえるような姿勢になり、ひよのの髪が馬の尻尾の様に大きく跳ねた。  
歩自身も、汲々と締め付けてくるひよのの中では一気に果ててしまいそうだった。  
「ひよのっ、スマン、オレ、止まらない」  
歩の腰が、止めど無く上下する。お互いの声が部屋中に奇妙なメロディーとなって流れ、身体を擦れ付け合う音がそれに加わる。二人で奏でる、音楽。  
「あっ!ああっ、あ!ああっ、なる、鳴海さん…っ!」  
ぐちゅぐちゅと、愛液とも粘液とも区別のつかなくなった水を叩きつける音がより激しくなって行く。歩もひよのも、一心不乱に腰を振っているのだ。  
「あう、ひゃうっ!わた、わたし、も、もうっ!鳴海さん!鳴海さぁぁぁん!!」  
「ひよのっ!ひよのっっっ!!」  
二人が絶頂に向かい、歩の精液がひよのの膣内に溢れるほど放たれた。そのまま、ひよのは下の歩に身体を預けた。  
気を失ったかのように呆然としぐったりするひよのとの結合部をよくよく見ると、そこには赤い鮮血が浮かび上がっていた。  
"…やっぱり、初めてだったか…"  
自分のことを棚に上げておきつつ、性交の余韻を租借しながら、歩自身もまた深い眠りに落ちていった。  

 
 

「…はめられた…」  
実際ハメたのは歩自身なのだが、今はその事ではない。ひよののもつ、一本のビデオテープの事だった。  
「確認しておきますが、この中にはさっきの一部始終がバッチリ映ってますよ〜。これを学校や警察に提出したら、どうなるんでしょうね〜?」  
ひよのはいつの間にやら、部室内に固定カメラを設置して先程の光景を撮影したと言ってきたのだ。  
交換条件として、今後も歩に付きまとっても文句も何も言わない事。これが歩の社会的地位抹殺を唯一防ぐ方法だった。  
"身の破滅だよ…"  
「しかし…」  
歩は状況を見回して、言った。  
「あんたもオレも、腰が痛くて立てない様じゃダメじゃねえか…」  
「そ、それは…歩さんがあんなに激しくするなんて…」  
「じゃあオレも他の生徒に言っちまおう。結崎ひよのは初体験でイった淫…」  
「わーーー!!歩さんのバカーーーー!!」  

夫婦喧嘩は犬も食わぬ。このまま幸せに逝っちゃってください。  
おしまい。  

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