深く微睡んだ状態から鳴海まどかは目を覚ました。目を開けてみたが周りが見えない。どうやら目隠しをされているらしい。おまけに体を椅子に縛り付けられている。手で目隠しを外そうとするが手も縛られていて動かせない。
「目が覚めましたか?」
自分に語り掛ける若い女性の声。義弟、歩のパートナー結崎ひよのの声だ。
「ひよのちゃん、どうして私こんな格好に!?」
「あら、誰がこんな事をしたか判らないんですか?まぁ睡眠薬でぐっすり眠って貰っていたから無理無いですけどね」
そう語るひよのの声は何処か嘲笑がこもった声になっていた。
その台詞を聞いてまどかは今までの出来事が脳裏に蘇った。
まどかによって久々の非番だったこの日、歩のパートナーであるひよのが家を訪ねてきた。聞くと歩のことで重大な話があるという。
客人にコーヒーを差し出し、砂糖を頼まれて取りに戻ってコーヒーを口にしてからすぐに自分の意識が遠のいてしまったことをまどかは思い出した。
「ひよのちゃん、なんで?どうしてこんな事を?」
まどかはひよのの行動が理解できず戸惑った。
「なんで?さっき話したじゃないですか歩さんのことで重大な話があるって?」
まどかは目隠しをされてはいたがひよのが歩み寄ってくる気配を感実事が出来た。そしてひよのは彼女に抱きつくような格好でまどかに体を寄せると耳元でそっと呟いた。
「まどかおねーさんが歩さんとどういう関係なのか、私知っているんです」
その言葉を聞いてまどかはギョッとした。
「何を言っているの?私と歩は義理の姉弟って…」
「(カチャッ)姉さん…」「あ、歩…」
言葉を続けようとしたまどかだったがひよのが作動させたテープレコーダーから流れてくる卑猥な会話に息を呑んだ。それは紛れもなく自分と義弟歩との性交渉を録音したものだった。
「なっ!?」
「一週間くらい前にまどかさんがいない日に来て盗聴器仕掛けさせて貰いました」
小悪魔のように嬉々として話すひよの。その一方、義弟との関係を他人に知られてしまったまどかは心中穏やかではなかった。
まどかと歩が始めて肉体関係を持ったのは清隆の失踪後しばらくの事だった。それからというもの二人はことある事にお互いの肉欲をむさぼっていた。しかし社会通念上二人の関係は許されるものであるはずもなく、二人の絶対の秘密となっていた。
「ひよのちゃん、なんでこんなことを!?」
狼狽えた声で語り掛けるまどか。秘密を知られてしまった恐怖感。だが一方でテープから流れてくる自らのはしたない喘ぎ声にまどかの体はうずき始めていた。
「なんで?まどかおねーさん、私だって歩さんの事が好きだったんです。それなのにあなたという人は、自分が義理の姉であると言うことを利用して歩さんを自分の物にしちゃったんじゃないですか!そんなの卑怯です!」
普段歩と行動している彼女とはまったく別人なひよのの言動に驚くまどか。
「ひよのちゃん…」
「そんなまどかおねーさんに『罰』を与えに来たんです。容赦しませんからね」
そういうとひよのはまどかの目隠しを外し、彼女にディープキスをした。その時まどかの口に何かが流し込まれ、まどかはそれを飲み込むしかなかった。
「ひよのちゃん、これは…!?」
「クスッ、一種の媚薬ですよ。夜はまだ長いんです。一緒に楽しみましょ?」
そう微笑むひよのの瞳の奥の冷たい輝きにまどかは背筋に寒さを感じたのだった。