耳のすぐ横で荒い息の音が聞こえる。
自分の上に覆いかぶさるようにしてる香介。彼の腰あたりを、亮子は両足で
はさむようにしてベッドの上に仰向けになっている。
ゆっくりとした速度で腰を動かす香介の、ひざの辺りまでおろされたズボンの
ベルトが、香介に合わせてかちゃつくのを聞きながら、亮子は緩やかな快感に
小さな声を漏らす。
言葉のない行為。
何度も体を重ねているうちに、一瞬の強い快楽より、緩やかな長い性交が二
人の交わりの楽しみ方になっていた。
亮子は香介の背にきつくまわしていた腕を、彼が突きあげるのにあわせて首
にずらしていく。
「香っ……こうす、けぇっ! ……香介……!」
両手で彼のあごの輪郭を包み込んでこちらを向かせ、唇を求める。香介はそ
れに応じながら最奥で先をおしつけたままこすった。
いきなりの強い刺激に、亮子は思わず声をあげそうになるが、舌が香介とから
みあっているせいで喉がなっただけだった。声を満足にあげられず、切なさに似
た思いが胸にこみあげて瞳がうるむ。
イキそうになる気持ち良さに耐えかねて亮子は足を香介の腰に絡めて力を入
れた。
「亮……子ぉ……」
唇をはなして香介が名を呼ぶ。そしてまぶた、額、また唇にキスを落とす。
動きを止めて、香介のやや三白眼に近い目が、亮子の目をじっと見つめた。
サインだ。
「ん……」
亮子は目を閉じて彼の視線から逃れて、来るべき刺激に香介のいる場所に
力を込めた。
ピクッと香介が震える。
「香介……?」
「亮子……イイ……」
「馬ァ鹿」
二人の間の距離が香介の分だけマイナスになっている中で、互いに絶頂を
迎えいれようとした時、悪夢のような音が聞こえた。