「お帰り。愛らしい小鳥よ」  
教授は狂気を孕んだ視線を向けた  
「さあ、そんな不粋な衣は棄てなさい」  
呪いのように、頭に染み込む言葉  
自らの意志を麻痺させ、勝手に動きだす手指  
いつしか、バネ男の装束を引きはがしていた  
少年のような半スボン姿があらわになる  
「おお、その子に借りたのかね」  
教授の視線に驚喜が混ざった  
「その姿も残さねば」  
教授が写真機を取り出す  
「動かないで」  
言魂に捕われるかのように、呪縛される  
少女は心まで凍りついた  
何枚か湿版を替えながら写していく  
しかし……  
「確かにその格好も悪くない」  
 
危険の前触れをひしひしと感じながら、少女は一切の反応が出来なかった  
「だが、それは君の真実の姿とは言えない」  
教授が言葉を継ぐ  
「さあ、君の美しい今を  
直ぐにも消え去ってしまうかもしれない真実の美を晒しなさい  
私が永遠に残してあげよう」  
狂気に圧され、操られる自覚もなく、シャツのボタンに手をかける  
白いシャツの下から、それ以上に白い肢体があらわになった  
しなやかに引き締まり、それでいてみずみずしい丸みを帯びる  
その胸は僅かに膨らみ初めていた  
その頂点の突起は、小さなルビーを思わせるアクセントとなる  
 
染み一つないキメ細かい少女の肌  
女でも子供でもない、少女にしかありえないはかない美が、卑しい男達の眼前に晒された  
「オオッ」  
思わず漏らされる歓声  
突き刺さる視線を感じ、嫌悪により取り戻した正気が、少女の手を一瞬止めた  
「イヤッ!」  
悲鳴をあげ、胸元を細い腕で隠す  
白い肌に恥辱の緋色が溶け、更なる色気をかもしだした  
「どうしたのかね  
まだ、残ってるじゃないか」  
非情な狂人が、音だけは優しげに聞こえる声をかけるキッ!  
少女は反射的に睨み返す  
しかし、それは更なる呪縛の罠であった  
「さあ、続けたまえ」  
 
狂人と目をあわせた瞬間、少女の瞳から勝ち気な光が消える  
「美しい蝶には、醜い皮など必要ない」  
自分の言葉に酔うように、話し掛ける  
己が華奢な身体を隠した腕を解き、再度肌をあらわにしながら、ゆっくりとスボンに手をかけた  
サスペンダーを外すと、細い腰はスボンを保持しない  
スルリと滑り落ちる  
借り物の下着を着ける気はしなかった  
それが少女の最後の衣服  
全てを捨て、全てをさらけ出した少女は、ただ立ち尽くしている  
「素晴らしい!」  
狂人は感極まった呻き声をあげた  
「偉大なる神の造形物の全てを、全てを残さねばならない」  
 
 
それから、長い時間が過ぎていった  
少女は教授に言われるままに、ありとあらゆる姿を晒した  
ただ立っただけ、座っただけの姿を回り中から撮られた  
腰かけて足を開いた姿を、腕を広げ身体をよじった姿を、寝転がったり四つん這いになった姿を撮られた  
疲労と興奮に力を奪われた少女は、いつしか意識を失った  
   
闇のなか目覚めた少女は、己が姿に気付いた  
『何か着ている』  
軽い手触りが、上等の生地であることを知らせる  
細かいレースもふんだんに使われているようだ  
頭にも何か被せてあるし、手袋までしていた  
「お目覚めかね」  
 
不意に明かりが燈され、少女の目を眩ませる  
「君の美は余す所なく写しとった  
全ての瞬間が、永遠に残るだろう」  
悦にいった教授の声の響くなか、少女は周りの様子に気付いた  
壁中に光る硝子が取り付けられているのだ  
「イヤッ」  
その硝子板一枚一枚に、彼女の身体を写しとられていた  
全てをさらけ出した自分の姿に囲まれた少女は、それから逃れるようにうずくまる  
「だが、この芸術はまだ完成していないのだよ」  
教授の声が、いっそうの狂気を孕む  
「さあ、来たまえ」  
入り口のほうに声ををかけると、数人の男が部屋の中に入ってきた  
 
 
「ウヒョ〜、スゲェ」  
「エレぇ格好だな」  
男達は壁の写真を見ながら、口々に囃し立てる  
「イヤッ!見ないでっ」  
少女は男の一人に飛び掛かるが、簡単に取り押さえられた  
「おら、お嬢ちゃん  
芸術鑑賞の邪魔すんなよ」  
男は一枚の写真に近寄りながら、  
「これなんてスゲェじゃねえか」  
嘲るようにいった  
「イヤッ〜!」  
そこには四つん這いの自分を、後ろから撮った姿があった  
肩から背中のなだらかなラインが薄い尻まで流れる  
立てた膝を開き、ヴァギナもアナルも晒していた  
振り向いた顔は虚ろに紅潮し、誘っているかのようだった  
 
「ガキのくせにたいしたもんだ」  
暴れる少女を押さえ込みながら、小さな胸に手をまわす  
「まあ、そんな格好してるんだ  
大人の付き合いをしても、いいってこったな」  
言われた少女は、初めて自分の姿に気付いた  
白いドレス、白い長手袋、レースのベール  
ウエディングドレスだ  
混乱の中、教授が不機嫌に怒鳴る  
「勝手な真似をするな」  
男は慌てて手を離した  
床にへたり込む少女を尻目に、教授は指示を出す  
「さっさと連れてきたまえ」  
男達の一人が部屋から出る  
「君の美を、私の芸術を完遂する為に、まだしなければならない事がある」  
 
戻ってきた男は、少年を連れていた  
少女が巻きこんだ男の子だ  
『そういえば、あいつにも全部……』  
この屋敷に飛び込んだときから、一緒にいたのだ  
教授に搦め捕られたときも、意識の外だったが、確かにいた  
「少年よ  
彼女をどう思うかね」  
教授が少年に問い掛ける  
「綺麗でした」  
夢現の様子で少年は応えた  
「今の彼女は?」  
再び、教授が問う  
「きっ、綺麗です」  
「嘘だな」  
同じ応えを返した少年に対し、教授は即座に断定した  
「君は先程の彼女を、完璧なる美を目の当たりにしたのだ」  
教授の狂気が、少年の耳に染み込んで行く  
 
「あの時の彼女こそ真実だと思わんかね」  
立ち尽くす少年  
「あの時の彼女を永遠とする為には……」  
教授に吹き込まれたか、それとも自ら育てたか、少年の中の狂気が膨れ上がる  
「今の彼女を……」  
ふらふらと少年は少女に近付いた  
「汚すしかない」  
純白のドレスの胸元に手をかけ、一気に引き千切る  
下着もつけていない少女の美しい身体が、再び晒された  
教授の虚言は少女にも影響していた  
今の身体は汚されるべき  
汚されてこそ終わり、終わってこそ永遠となる  
そのための花嫁衣装であり、逆説的な喪服でもある  
少女を終わらせる為の……  
 
少年は少女を貧り、奪っていった  
小さな唇を舌でえぐり取るようなキス  
唾液を啜り、また顔中に舐め広げた  
首筋や肩の至る所に吸い付き、また歯を当てた  
きつく噛みつき、滲み出た血を舐め取り飲み下す  
有るか無いかの胸乳を、撫でさすりわし掴む  
指先で小さな乳首をつまみ擦りあげる  
反対側の乳房に舌を這わせ、乳首に吸い付く  
滑らかな背中を撫で下ろし、まだ薄い少女の尻を揉みしだく  
ズボンの中の幼い膨らみを、少女のささやかな割れ目に押し付け、擦りつけるように腰を振った  
少年は少ない性知識の中から、思いつくままに少女を喰らう  
 
狂ったような少年の動きが不意に止まった  
ガクガクと小刻みな痙攣  
「へっ、いっちまってるぜ」  
「だらしねえガキだ」  
「旦那、俺達にヤラセておくれなさいや」  
口々に勝手なことをいうゴロツキ達に、教授が怒鳴りつけた  
「黙れ!  
先程の指示に従うのだ」  
狂気を滲ませた声に、異常なまでの支配力  
ニヤついてた男達が、操られるかの如く従う  
少年の服を脱がし、ソファーに座らせた  
ぐったり力無く座り込む少年  
その精液に汚れた淫茎のみ、雄々しく漲っている  
「さあ、今より自らを汚したまえ」  
まがまがしい狂人の命令に、少女が反応した  
 
「まずは彼の元へ  
犬のように這っていくのだ」  
全裸の少女はゆるゆると四つん這いになる  
薄い尻の、その奥にある小さなアナルまでさらけ出した  
誘うように揺れる白い尻の中心に、引き締まったアナルが歩を進める毎に引き攣れ動く  
「正確に動きたまえ  
犬は膝をついたりしない」再度、卑しい指示がとぶ  
少女は着いてた膝を伸ばし、両手と爪先で身体を支えた  
アナルは天を向き、股間がさらけ出される  
一本の淫毛も生えてない子供の股間  
そのヴァギナは、ただ一筋の割れ目でしかない  
淫唇も淫核もその中に隠れている  
閉じられた聖なる裂け目  
 
清らかな少女を唯一裏切って、愛液が雌を主張している  
ほとばしるように零れたそれは、膝まで垂れていた  
全てをさらけ出しながら、少女は少年に近寄る  
その鼻先に、少年の器官があった  
「さあ、その汚れを取り込め  
その口で、舌で、唇で、喉で味わうのだ」  
狂人の指示か、少女の意志か、青臭い汚汁を小さな口が舐めとり始める  
下腹部から内股まで、タップリ濡らした精液をこそげ落とし、口中にジュルジュルと吸い上げた  
ギンギンに隆起したペニスが頬にあたる  
髪がかかり、敏感な少年を刺激した  
「ううっ」  
だが、少年は一切動けない  
 
ただ、膨れあがった幼い股間に、凄まじい焦燥感を感じていた  
神経も  
血液も  
意識まで、すべて凝縮されていくような……  
知ってか知らずか、少女の口は焦らすかの如く、ゆっくり這い進む  
周囲の汚れをすべて拭い取ると、見せつけるかのように、口腔を開く  
クチュクチュと舌を動かし、唾液と混ぜ合わせた後、たっぷりと溜まったその汚汁を飲み下した  
白く細い咽が、嚥下のうごめきをみせる  
「ホウッ」  
口中の汚れを片付けた少女は、小さくため息をついた  
熱い吐息が、少年自身に吹きかかる  
「アアッ、ボク、ボクッ……」  
もどかしげに訴える少年  
チュッ  
今度は、猛り切ったペニスの先端に唇をあてる  
そのまま滑らかな亀頭をなぞり、雁首を軽く歯で挟んだ  
そして舌先は、幼い鈴口をチロチロと刺激する  
「アアッ」  
ビュッ、ビクビクッ  
もはや、限界だった  
少年は、再度の絶頂に到る  
ビュクッ、ビュクッ!!  
陰茎が暴れ、少女の口から解放された  
乱暴に引き抜かれたシャンパンのような勢いで、飛び出す汚汁  
少女の顔面を、瞬く間に覆いつくした  
長い長い射精を、虚ろに眼を開いたまま受け切る  
むせ返るような、青臭い臭い  
……ヌルリ  
無意識に、両手を顔に当てた  
大量に浴びたそれを、塗り広げるように撫で下ろす  
ピチャ、ツツツ……  
細い首を通り、浮き出た鎖骨を越え、小さな胸にたどり着いた  
「フウッ」  
まだタップリ残る汚汁を、青く固い胸乳にまで擦りつける  
ユルユルと外側から中心に向け……  
いつしかそれが、自らを慰める行為に変わっていった  
ヌルヌルとぬめる掌で、膨らみかけた胸を、搾るように揉み上げる  
なだらかな曲線をすべり、頂点まで……  
「クヒィッ!」  
乳首に触れた瞬間、落雷のような衝撃が、少女を襲った  
興奮に小豆粒ほどに膨らみきった乳首は、痛みとまごうほどの快感を与える  
その刺激が逆に、少女に正気を取り戻させた  
周りを取り囲む卑しい男達の視線  
取り分け、異常に輝く教授の邪視  
そして、あの気弱そうな少年の……  
「イッ、イヤァー!!」  
 
自らの行為を思い出した  
いや、元々忘れていた訳ではない  
省みたとなるのか  
信じない  
信じたくない  
あんな……  
 
この部屋に飛び込み、すぐに呪縛され、服を脱ぎさった  
教授に言われるまま、淫らなポーズをとり、それを余さず写された  
気を失ってる間に着替えさせられ、写真で囲まれた  
一緒に来た少年に、身体を貧られた  
ケダモノのように這い、少年の股間に吸い付いた  
少年の汚汁を飲み込み、顔面に受け、身体に塗り廻した  
胸をまさぐり、淫荒に耽った  
そして、そのすべてをこの男達に、教授に、少年に見られたのだ  
 
「違う!  
違うの、私はそんなっ…」  
「何が違う」  
錯乱しかけた少女の逃げ場を塞ぐかのように、教授の声が響いた  
「それが事実だ」  
「イヤッ!!」  
激しく頭をふり、耳を塞ぐ  
教授は、顔を伏せる少女の髪を掴み、飾っている写真に突き付けた  
 
「見たまえ  
これこそが、汚れを知らなかった純粋な美だ」  
「アアッ」  
髪を引っ張られる苦痛に呻きながら、己を写し撮った写真を目にした  
綺麗だった  
虚ろな目で表情を消している自分は、まるで見覚えのない他人のようだ  
第三者の目で見ると、あんなに破廉恥に見えた姿が、別物に見えてきた  
「しかぁし」  
写真に魅入っていた少女は、不粋な狂声に引き戻される  
「今の君はどうだ  
その淫らで賎しく浅ましいその姿は!」  
「イヤッ!  
言わないで!見ないで!」  
口元から胸にまでこびりつかせた少年の精液  
さらに、股間からは自分の流し出した粘液が、膝まで濡らしている  
いや、外見などではない  
本当に汚れたのは心だ  
何をしたかはっきり覚えている  
どんな気持ちでそれをおこなったか……  
「汚れてしまったものは、もう戻ることは出来ないのだよ」  
打ちひしがれた少女の耳に、狂人の声が染み込む  
「ならば、いっそ汚し尽くしなさい  
それこそが、唯一の美を守る手段だ」  
狂気に満ちた理論を振りかざす男  
しかし、少女には逃避が叶う、唯一の出口であった  
悪魔に意思を委ねた少女は、再度少年に近付いていった  
朦朧と動かない少年  
しかし、その性器だけは少年の限界を越え、天に向かってそそり立っている  
フラフラッ  
力無く揺れる身体  
己の意思によるものか、それとも狂人の強制か  
少年に跨がった少女は、ユルユルと膝を落としていった  
……クチュ  
ついに、聖なる入口に、汚れた牡を迎え入れる  
 
「ヒギィッ〜〜〜!」  
まだ少年の、未熟な肉棒ではあった  
しかし、限界を越えて膨れ上がったソレは、一気に少女を切り裂き、熱い膣内に潜り込む  
「アッ、アアッ……」  
被虐の快楽に浸っていても、物理的に小さい身体には、堪え難い苦痛が少女を襲った  
腰を落としたまま、身動きひとつ出来ない  
だが……  
グイッ  
「ヒイッ!!」  
突如、埋め込まれた肉棒に突き上げられた  
凶暴なソレは、小さな子宮にドスドスと打ち付けられる  
「イッ、イタイの  
ヤメッ……」  
息継ぎさえ辛いなか、懸命に哀願する  
しかし、少年は細い身体のどこに残していたのか、凄まじい力で腰を動かし続けていた  
ガクッ、ガクン  
色欲に狂った少年は、何かを求めるかのように手を伸ばす  
少女にはそんな余裕は無い筈なのに、その意図を悟ってしまった  
激痛に反り返った身体を前に倒して、少年に与える  
空をまさぐっていた両手に、少女の胸乳が、荒々しく掴まれた  
「アアッ」  
まだ固い蕾を、乱暴に揉み消しだかれ苦痛にあえぐ  
しかし、激しい痛みの中、別の感覚が芽生えてきた  
それは、快感だった  
酷い責め苦が裏返り、すべてが快楽へと変わり始める  
乳首や淫核を、千切れるほど摘ままれた  
乳房や尻たぶを、握り潰す勢いで掴まれた  
舌や耳たぶを、引き抜かん力で吸われた  
肩口や首筋に、血が滲むほど噛み付かれた  
肛門に何本も指を捩じ込まれ、引き裂かれん勢いで抉じ開けられた  
子宮を叩き潰す勢いで、淫茎を突き上げられた  
そして、腹がはち切れるほど、精液を流し込まれ続けた……  
 
「今、確かに少女は死んだ  
ここにいるのは、ただのメスだ  
これにて、私の芸術は完成されたのだ」  
狂気の教授が驚喜する  
媚声をあげ続ける少女に、狂暴な男達が殺到する  
狂気に彩られた饗宴はいつ果てること無く続けられた……  
 
 
 
 
 
 
 
 
「恥ずかしいとは思わないのですか」  
ビクン  
言われるままに、襟元に手をかけた少女の耳に飛び込んできた一言  
その叱責の相手は、少女ではなかった  
気弱で頼りない筈の少年が、卑劣な教授に啖呵を切る  
暴力にも一歩も引かず、堂々と渡り合い少女を支えた  
そして、  
「あきゃきゃきゃきゃ……」  
甲高い笑い声  
物語は、その幕を閉じた  
 
 
エピローグ  
 
あの白昼夢は、なんだったのだろうか  
教授の卑劣な催眠術の効果か  
それとも、私の心に潜む、淫な願望だったのだろうか  
冒険は終わり、退屈な日常に戻る  
でも、あの事件は私に幾つかの変化を残した  
 
一つは、大切な人  
勿論、階級の違う彼とは逢うことを許されない  
そこで、もう一つ  
バネ男ジャックの装束  
退屈な鳥かごからも、これを着ければひとっ飛び  
でも、今は誰もジャックとは呼ばない  
 
漆黒の装束は、私を夜空に溶け込ませた  
屋根から屋根に跳び移る  
フワリ  
時折、気まぐれな風に翻る外套  
月の光をピンスポットに、素肌の私を晒す  
 
『私を見て』  
 
変わってしまった最後の一つ  
 
 
 
19世紀、ロンドン  
遥か天空に現れる、白く輝く少女の裸身  
フライングフェアリーの噂が街に広まっていった  
 
 
 
終  
 
 

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