「なんか閉まってるし……」
乙がバロウ神父の寝室から戻ってくると、冬真の部屋の扉には鍵が掛けられていた。
がちゃがちゃとドアノブを動かすが、押しても引いても開かない。
気づけば後ろにいたはずの雛の姿も見えず、どうやら乙一人だけが完全に締め出された状況だ。
「せっかく薬もってきたのに」
ロリポップをがじがじと噛み砕く/不貞腐れ、憮然とした表情。
薬を持って戻ってくるまでの僅かな時間で、まさか寝入ってしまった訳でもないだろう。
だいいち来たときは開いていたのに、どうして今になって扉の鍵を閉ざしてしまうのか。
それらしい理由が、まったく思いつかなかった。
「おーい! 雛ァ!冬真ァ! なにしてんのー?」
ドンドン!/扉を壊してしまわないように、控え目にノックする。
どたどたどた!/すると今度は部屋の中から、急に慌しい騒音が聞こえてきた。
やっぱり中に居るのだ。たぶん二人とも。
なんだか分からないが、自分だけが仲間ハズレにされている。
まるでイジメられている子供みたいで、面白くない。
「鍵閉めちゃったら、薬もってこれないっしょー!」
ドンドンドン!/さっきよりもちょっと強めなノック。
「あ、ご、ごめん! ちょっと、ちょっと待って!」
慌てた冬真の声/明らかに動揺している。
続けて、再びどたどたとした騒音が聞こえる。
まるで急に大掃除でも始めたみたいな慌しさ。
腰に手を当ててしばらく待っていると、数分後ようやく扉が内側から開いた。
隙間から何かに怯えているかのような、冬真の青い顔が覗く。
「ご、ごめんね。乙ちゃん」
「いったいなんなのさ」
部屋の中を見渡しても、さっきまでと変わった様子は特に見当たらない。
どこに行ってしまったのか雛の姿が見えないものの、その他は机も椅子もベッドも異常無し。
冬真の顔色も相変わらず悪いままだ。
「お腹の薬ってこれでいいの?」
黄色いパッケージに包まれたプラスチックの瓶に、
日本語と思われる漢字三文字で薬の名称がデカデカと書いてある。
古くは旧日本軍の装備品として重宝され、効能あらたかと今日でもアジア圏では知名度が高い妙薬である。
――と以前、バロウ神父から教えられた説明を思い出す。
「う、うん、間違いないと思う。ありがとう」
いそいそと薬を受け取る冬真。蓋を開け、薬瓶を傾けると、乙にとっては物珍しい丸薬が数粒転がり出てくる。
「そういえば、冬真。雛どこ行ったか知んない?」
改めて部屋の中を見渡すも、影も形も無い。
「え? あ……ト、トイレとか、じゃないかな?」
どもり気味な声/背中を冷や汗がつたう。
嘘を吐くことにも人を騙すことにも不慣れなせいで、いちいち挙動が不審になってしまう。
まさかクローゼットの中で体育座りしています――なんて言える訳がない。
丸薬が冬真の手の平の上でころころと転がっている。
なんとはなしにそれを見つめながら、乙ははたと気付いた。
「あ!」
思わず声を上げる。
「な、なに!?」
冬真がビクッ!と過剰に反応する。
「水もってこないと」
何かが足りないと思っていたのだ、とでも言うようにぽんっと手を叩く。
「今コップに水入れてくんね!」
スカートとツインテールを翻し、乙が軽い足取りで部屋の前から離れて行く。
「あ、ありがとう……」
背中に向かって小声で感謝を示し、そっと扉を閉じる。
すぐにクローゼットに駆け寄り左右に開くと、ダンゴ虫のように丸くなった雛がそこに居た。
両手で抱えた足の間に埋めた顔/金髪のショートヘアーにはまだ拭き取り切れなかった精液が付着している。
両膝の間から覗く、琥珀色のうらめしげな瞳/こんな状況であってもどこか愛嬌がともっている。
「きゅ、急にこんなところに押し込んじゃって、ごめんね」
なんだか今日は謝ってばかりだな……思わず、ため息が漏れる。
「狭いのとか、暗いのとか、嫌い」
むすっと栗鼠のようにほっぺたを膨らませる。
「で、でも、もうすぐ乙ちゃんが水を持って戻ってくるから、早く髪とかきれいにしないと」
――雛ちゃんも困るでしょ? と言おうとしたのだが、依然雛は不服そうな顔で見つめ返してくる。
「つづき……しないの?」
上目遣いのまま、ぽつりと呟く。
「つ、つづきって……」
――なんのつづき? もちろん“アレ”のつづきに決まっているのだが、
混乱しっぱなしの頭には咄嗟に浮かんでこなかった。
「冬真は僕じゃ……嫌?」
縋るような、小動物めいた大きな瞳。その中で琥珀色の虹彩が儚げに揺れていた。
「えっと、それってつまり……うわっ!」
雛が冬真の下半身に顔を埋めている。
服の上から冬真の性器に唇で触れる。
唇の上下をペニスの形をなぞるようにしきりに動かす。
「ちょ、また……」
一瞬にして性器が固さを取り戻していくのが分かる。
雛が学童服をたくし上げ、冬真のペニスを握る。
「今度は、こうしてあげるね」
そして、ゆっくりとその小さな口に咥え込んだ。
「また閉まってるし……」
乙がコップいっぱいに入った水を持って戻ってくると、またしても扉は閉ざされていた。
一度ならず二度までも――明らかに不可解だった。
「ひょっとして雛と二人でなんか隠しごとでもしてるんじゃ」
ロリポップの一部を噛み砕きながら、不敵な笑み。
「そっちがその気なら相手をしてやるっしょ」
試しにドアノブに触れると、今度の鍵は掛かっていなかった。
突然何かが飛び出してくる/殺傷能力の低い爆発物が爆発する
――とりあえず考えうる罠の可能性を考慮にいれながら、ゆっくりと扉を開いていく。
だが、なにごともなく扉はすんなりと開いた。
開いた扉の先から室内を覗くと、ベットの向こう側――クローゼットのある部屋の隅の方で、
冬真と雛がごそごそとなにやら蠢いている。
どちらかといえば雛が冬真を押し倒しているような形で、冬真を拘束しているようにも見えた。
そんな積極的な雛の姿など乙ですら初めて見る光景で、一瞬我が目を疑った。
「本当になにしてんだろ……」
扉を開け、とりわけ気を遣うわけでもなく二人に近づいて行く。
ほとんど目の前まで近づいても、まだ二人が気が付く様子がないので
そこでようやく乙は声をかけた。
「二人ともなにやっての?」
とはいえ、乙の位置から見れば現状は一目瞭然だった。
雛に押し倒された冬真が股間も露わに広げ、しかもそこに生えているものを咥えられている。
そういった知識の少ない乙にだって分かる、それは明らかに“性行為”と呼ばれる行動の一種だった。
「あ……いや、これは、その……」
この後に及んで、まだ言い訳を試みようとする冬真。
「乙ちゃんも舐めるぅ? 冬真、面白いよ?」
反面、雛は普段と何も変わらない口調、態度だった。
「………………」
逆に表情豊かな乙が、無言で無表情を保っている。
その姿を見て、冬真の背中を幾筋もの冷や汗が伝った。
「あ、その、僕は、こんなつもりじゃ、あ、でも雛ちゃんのせいってわけでも……」
「冬真? ぼく、男の子だよぉ?」
雛が訂正を求めるが、そんな場合では無い。
するとしばらく口を閉ざしていた乙がゆっくりと口を開いた。
「雛ぁ?」
「……?」
「それって、甘いの?」
そのとき、冬真の背筋を今までとは違う戦慄が走ったことはいうまでも無い。
率直に言って、その快感は想像を遥かに超えていた。
限界まで膨張した性器を、二人の少女にこれでもかとしゃぶられ/舐められ/弄くられる。
まったく未知の感覚に剥き出しになった欲望だけが、かろうじて現実との接点を保っている。
乙がそのやわらかな手で冬真のペニスを握り、コップといっしょに台所から調達してきたのか、
メープルシロップを先端から滴りかける。
「あ、はあ! うう……」
それをシロップごと、丹念に乙の舌が舐め上げていく。
雛はといえば、冬真の乳首にまるで赤ん坊かのように吸い付いている。
こちらには雛が常に持参しているレモンリキッドがたっぷりと塗りつけられている。
「冬真ァ……美味しい」
それはどちらの言葉だったか。
冬真の欲望も、もう限界値をとっくに突破していた。
少女のうちのいずれかを押し倒し/蹂躙し/今度は自分自身が貪り尽くしたい衝動に駆られる。
> 乙をシロップ漬けにしてむさぼり尽くす
雛をレモン漬けにして舐め回す