若きウェルテルの悩み ロード・オブ・ザ・ライトマン
ファンシティの惨劇から四日が過ぎた。十賢者の力を予想以上のものとして重く見たネーデ軍は戦闘の
準備を始めると共に、クロード達『異星人』の治療を急いだ。
ザフィケル戦で無理をしたクロード以外は宿が潰れた時の傷があまり状態に影響しなかったこともあり、
順調に回復してきている。特に早いのはボーマンで、ミイラになってうめき声も上げられなかった頃がうそ
のように元気になっていた。
だから、プリシスの遺体を確認したのもボーマンだった。
プリシスの詞を聞いた彼の顔は鳩が豆鉄砲を喰らったようで、ラクアの非常遺体安置室から出てきて、
階段に座っているレオンの前を通った彼の顔はレオンから見れば深い心の奥底に慟哭を押し隠しているようであった。
読み取れたのは彼がボーマンと似た心境であったからだろう。傍から見ればボーマンはあまりにも無表情
で飄々としていて、ベッドから起き上がったときと全く変わっていなかったからだ。
レオンはプリシスを見ていない。死様があまりにも無残なためだ。ボーマンも賛成のようで、代わりと
いっちゃあなんだが、アシュトンにまだ会ってないだろ、そういった。
アシュトンは綺麗だった。クロードが目覚めるまで保存するようで、薬が腐敗を止めていると説明された。
レオンが上半身を覆っている布を剥ごうとしたら、ボーマンが制した。
「どうなってるかわかってんだろ」
うん、心の中でつぶやく。だけど、今のままだと僕には死んでるようには見えない。
「見間違いかも」
「馬鹿野郎」
ボーマンの手に髪の毛をガシガシと掻かれる。
「こいつだって覚悟はしてたんだ。名誉の傷を無かったことにしてやるなよ」
わからんでもねぇけど、と付け足す。
「腹くくらねぇとな。今まで一番お前を守ってたの、こいつだった」
そう言われて、なんだか実感がわいた。アシュトンも、ギョロも、ウルルンも、動かないのだ。多分いつまでも。
プリシスも。
レナは部屋から出てこないで、まぁ、セリーヌも似たような状況だといえる。少し違うが。チサトがナールの前に
座っているのは結局、彼女が一番正気を保っていられたからだった。それでもショックを受けているのは傍目にも明らかだったが。
「クロードさんが回復しだい、フィーナルへの攻撃を開始します」
予想通りで定石通りでぐぅの音も出なかった。ザフィケルを倒した今、十賢者の残りが同様しているのは用意に
考え付くことで、それと同じくらい、すぐ攻めてくる確率も高いのだ。
「バリアを破壊しなければなりません」
その問題が付きまとうこともわかりきっていた。ネーデの大群をまさか泳がせるわけにも行くまい。海の深くまで。
「レアメタルを取ってきました」
チサトは目を見開いた。レアメタルを取ってきた。バークを殺してきた?
「説得したのです」
なんと言った、考えて、すぐに彼女は結論にたどり着いた。
「バークはわかったくれました」
チサトは溜息をついた。ネーデ人であるからこその溜息。
博士にも知らせなければなるまい。事情によっては、レナにも。
「我々が宇宙を救うことができるのです」
「レオン君」
部屋に入ってきたのはチサトだった。突然で、ノックなしで。故にレオンはかなり驚いた。壁際でコーヒーを飲んでいたボーマンも。
なに、と訊こうとしてそれより早く肩を掴まれる。
「あなた、大砲作ったことあるって言ったわよね」
大砲。
ラクールホープ。のことだろう。
「力を貸して」
「いいよ」
即答だった。二つ返事をいぶかしんだボーマンが声をかけると、
「・・・わかってるよ」
とだけ言った・・・わかっているのだ。
ボーマンの問いには、ナールは何も答えなかった。
「・・・これ」
レオンがそう呟いたのは、目の前に山と積まれた深蒼色の岩があったからだ。
チサトを見た。彼女は目を合わせないようにしているようだった。それ故にレオンにはわかった。
「なんで」
言いようの無い焦燥と困惑がこみ上げてくる。なんだこいつら。一体なにやってんだ。
「研究員が二百名つくわ。これは最後の手段よ」
「何で殺したんだ!」
怒りなのか。むしろ迷いが強かった。一番信じていたものが崩れていくような
「訊いては駄目」
気がする。
「絶望するから」
ファンシティの使者は数百人。平日だったこともあり、ファンシティの規模にしては幸運だったといえる少なさだった
ようだ。問題は、その数百人の中にアシュトンとプリシスが入っていることだった。数学的思考は不確定だが残酷で
、つまり今のペースでは十賢者が全員を倒す前にこちらが全滅してしまう、ということだ。
ナールは何も答えなかった。ボーマンが僅かに覗いた部屋では山と積まれたレアメタルの前でレオンと科学者達
がめまぐるしく動いていた。
チサトはどこにもいなかった。恐らく、ラクアにはいないのだろう。ノエルも。
こんなにムシャクシャしたのは初めてだ。何の説明も無いままただ時が過ぎるのを待つだけとは。仲間の全員
が音信普通なのがきつい。特に、同じ施設の中で、というのが。
ネーデ軍は着々と準備を進めている。なんの準備なのだろう。バリアの内側に行く手段を見つけたのだろうか
、それとも迎え撃つためか。
連絡は一向に入る気配が無い。
夕方になり。
疲労困憊のレオンが食堂に戻ると、レナがいた。
今日始めて会った。
彼はレナの顔を極力みないように保冷庫へと向かった。チラリと見えたレナの顔は真っ青で、目だけが赤く腫れて
とても痛々しかった。慰める言葉も見つからない。慰めて効果があるとも思えない。第一、慰めるられる程元気ではない。
緩やかに時間が過ぎていき、ジュースを飲むレオンの一挙一動の一音一音がやけに大きく響いた。レナはピクリ
とも動かず、テーブルを見つめている。
プリシスが死んで、四日が過ぎる。時間は気楽なものだ。何もかもを無感動に引きずって、ただただ前に進むだ
けなのだから。
。
彼は目線を下げた。ズボンが少し膨らんでいた。
情けなさに腹が立った。頭は今までのいつよりも冷静に現状を分析していた。ようするに、目の前のレナに欲情しているのだ。
もし、レナがレオンの顔を少しでも見上げたのなら、涙を必死に我慢して、それでも目尻が濡れているのが見て取れただろう。
レナの横を、レオンが足早に通り過ぎて外に出た。
レオンにぶつかった。
「あら」
真正面から突っ込んだ形になっていた。セリーヌが見下ろすと、レオンは彼女の豊満な胸の下から見上げ返して、脇を抜けていった。
セリーヌは薄暗い廊下に消えていくレオンの後姿を見送った。考えればどうということの無い、
左太股に残った感触。
三日後。
クロードが目を覚まし、動けるようになった。まだ激しい運動はできなかったが、完全に回復するのもそう遠いことではない。
そして、それと比例するようにレオンが疲労し始めた。目の下のクマが、彼の白い顔で一際目立っていた。
連れて、ボーマンの機嫌も悪くなっていった。皆の目の前では努めて平静を装っていたが、セリーヌがたまたま見た
彼の目が異様に黒く見えた。最悪クロードもそうなってしまうかもしれない。なぜなら、
クロードにはまだ伝えていないからだ。
レナはクロードが笑った途端全てを取り戻した。ので、セリーヌから見ればパーティの雰囲気は−2ほどだ。
ただ、セリーヌは考えていた、ボーマンの機嫌はすなわちパーティの機嫌であるといっても過言ではない。最
年長の彼は他の誰よりも頼りになる存在であるし、同時に戦力でもある。
だからセリーヌは突き止めることにした。ボーマンの機嫌の原因がレオンにありそうなことは確かだった。なぜかは知らないが、とにかく。
トップシークレットと冠された部屋で、どれほどの激務をこなしているのか、
レオンは何も言わないので。
レオンは自分の部屋に入り込むなりベッドに倒れこんだ。疲労どころの騒ぎではなかった。
ネーデの人間には大砲という知識が全く無かった。戦争など、何百年も前に消えたのだそうだ。だからレオンは全てを一から説明し、指導し、製作せねばならなかった。
冗談でなく、死ぬ。このまま眠ったら二度と目が覚めないかもしれない。それはある意味でとても魅力的だ。
そうだろうか、反論も白く濁って消える。頭が働かなくなり、体を重い膜のような疲れがベッドに押し付けてくる。
このまま意識が消え、たとえばプリシスの夢なんかを見て
痛い。
一気に覚醒してしまった。まただ。毎日だ。
仰向けになって、ズボンを押し上げているそれをレオンは見下ろした。毎日だ、本当に毎日。しかも、欲求は強くなってくる。右手を添えたいという衝動に駆られる。だが、だが。
その何十倍もの理性が頭から叩き出す。これは戒めだ。緊張を持続させるための。
静まるまで待てばいい、そう考えて目を閉じようとして。
ドアが開いていたのに気づいたのは、ドアが閉まったからだ。ガチャ、と音を立て、部屋が真っ暗になった。
誰かが入ってきたような気がする。
その途端、ズン、と体の上に何かが覆いかぶさってきた。驚いた。冗談でなく、一瞬死んだ。
目が慣れていないのが悔しかった。誰なのか、その前に何なのかさえ全くわからない。胸板に押し付けられる圧迫感。異様にやわらかい。
彼の口は反射的に紋章術を唱えていたが、封じられていることがわかった。封じられている。
彼がもがいている間に上の生き物がゴソゴソと動いて、そして、
ズボンの中に手が入ってきた。
「っ!?」
下着の上で何度か撫でられ、突然の困惑で元に戻っていた彼のペニスが再び硬くなった。
情けなかった。どこの誰かも、なにかもわからないのに。
振り払おうとしても駄目だった。相手の両膝が股の内側に入っていて更に体が密着しすぎているため
押しのけるほどに力が入らない。密着。相手の両胸が押さえつけてくる。
女。
グッ、と手が掴んだ。体が硬直した。他人が触ったのは、物心ついてから初めてだ。
背中を悪寒が走った。
「・・・で・・・」
この感じは今までに四回、内、そのいつでも『出て』いる。
彼がその衝動を激しく否定しようとすると、手がいきなり前に・・・つまり、レオンの体の方に動いた。持ったまま。
皮が
レオンは反射的に体の上の女性の肩を両腕で掴んだ。どうしようもない、のだ。
「ひっ!」
そんな、小さい悲鳴が漏れた。握っていたペニスが握ったまま何度も脈動し、ズボンの中に精液を撒き散らした。
多かった。レオンの両手に力が込められた。闇の向こう側で、八の字に力の入っている眉と半開きになった目と、小さく震えて声を漏らすまいと奮闘する口と、抗いようも泣く火照って赤くなっている、ような気がする、頬。
精を出し終えた後も、握ったままの彼のペニスは小さく、小刻みに脈打っていた。
つまり、原因はこれだ。
思わず息を吐き出して、今までずっと止めていたのに気づく。それからは激しく呼吸せざるを得なかった。
興奮が募って募って仕方ない。そう、握られたままは、あぁ、まずい。非常に。
やめて、と言おうとした時、胸の重みが取れた。目の前の顔らしき黒い影が消えて、少し安心・・・
ズボンが下ろされた。もちろん、下着も一緒に。
死んだほうがましだった。とても恥ずかしくて、しかし脱力感が強くて腕を動かすのでさえ気だるい。抗う気もしない。
いや、レオンは思った、もしかしたら望んでいるのかも。これからの展開を。
彼のペニスは再び硬くなりつつあった。ほとんど暴走状態の頭がイメージを浮かばせる。相手がプリシス
だったら。やけに敏感になっていて、刺激が加わるごとに体全体が震える。ペニスに連動しているかのように
震えるのだ。声も漏れているような気がする。
それは突然だった。皮の剥けた、その先を舐められた。
強烈だった。腰が跳ね上がった。また来た。二度目の絶頂。彼はまた射
「我慢」
精しそうになるのを堪えた。声に従ってしまった。歯を食いしばって、シーツを握り締めて、全神経を集中して押しとどめた。
並大抵ではない。射精を覚えて二週間も経ってなかったし、我慢したことなど一度も無かったのだ。やっ
と力を抜いた彼は、小指も動かせない体の重みの中勝手に跳ねているペニスと、そしてそれを握っている手
と近くに見える顔を見下ろした。目が慣れたせいか、うっすらと輪郭が見えた。
声で見当はついたが、一応言った。
「セリーヌ、さん」
彼女はまっすぐにこちらを見ていた。睨んでいる気さえした。睨んでいる、その通りだ。
怒っている?
「私」
親指で、裏筋を扱き上げた。
「いっ」と声が漏れた。血が集まっていくのがわかる。まただ、また大きく。反り立つ。
「とても困惑していますの」
彼女は三度剛直を取り戻した彼のそれを見て呟いた。元気ですわね。やけに感情が無い。
「プリシスとアシュトンが死んで」
ナニ言うつもりだ、ヤケクソ気味な問いが浮かんで、一瞬で消える。
「チサト、ノエルが消えて」
僕に何の関係が。
「それでも、一番不可解なのは貴方」
「・・・ぇ」
「私の思うところ」
一体なんなんだ。なにが来るんだ。お願いだから掴みっぱなしは。ロクに物が考えられない。
セリーヌはしばらく無言だった。なにを言うか考えてる? レオンが顔を下げると、彼女は直立したまま
のペニスをじっと見ていた。
「これのせいですわね」
そして、レオンを見る。
次に、痛みにも似た激しい快感がレオンを襲い、突然のことの驚きと一気に絶頂へと駆け上るひの疾駆に鳥肌が立った。
「う、うぁっ」
耐え切れず声が出た。セリーヌはペニスを扱き始めた。激しく、速く。今迄など序の口の序の口だ
った。レオンの腕が何かを抱きたがって、何も無かったので自分の両肩を抱きしめた。脚の全てに力が入って緊張した。
一度出たら、声は止まらなかった。彼は始めての『空を飛ぶ』快感をあえぎながら求めた。