スターオーシャン  

その日、クロードは暑苦しくて中々寝付けなかった。  
隣で大げさにいびきをかいて寝ているボーマンを見ると、本当に気楽な人だな、と思う。  
ついこの前エクスペルがなくなったと言うのに、彼らの立ち直りは早かった。新たな目標ができたからとはいえ、  
少し感心する。とことんまで前向きに生きる彼らは、正直凄い。エクスペルとはほとんど関係のない自分でさえ  
かなりのショックを受けていたのだから。  
(だけど)  
レオンは、プリシスはどうだろう。まだ子供の二人にとって、大切な人が、たとえ戻すことができるとわかっていても  
、いなくなるのは相当なものだろう。事実、レオンは最近元気がない。  
クロードの右側のベッドでレオンは寝ているが、毛布を被って時たま泣いているのも、気づいていた。  
なんとかしてやらないといけないのかも知れない。パーティの、仮にもリーダーを務めている自分が。  
そう思いつつも、ようやく閉じてきた瞼がクロードの視界をさえぎることに少し安堵する。  
意識が少しずつ遠くなっていく。  

だから、気がついたときは全身が痙攣した。穴から落ちたような浮遊感が滝のごとく流れる冷や汗とともに消失する。  
嫌な夢を見た。  
すぐ寝ようとして、気づく。薄い布団を跳ね除けると、ベッドから降りた。  

 

・・・  
(レオン?)  
隣のベッドに、レオンはいなかった。  
といっても、大した用ではないだろう。夜中に一人で出歩くほどの度胸は、はっきりいって無いだろうし。  
クロードは部屋を出て、階下の便所へと向かった。  
冷や汗が乾き、すこし涼しくなったのが心地よい。階段を下りると、左手に通路を曲がった。  
ぶつかった。  
「おっ」  
胸の高さに額が当たり、薄暗いカンテラの明かりの中、顔を見上げるレオンがいた。  
「レオ、」  
彼は息が弾んでいた。顔が上気していた。鎖骨の辺りに汗をかいていた。  
少し内股で、腹の下を両手で押さえていた。  
「ン?」  
頭を抑えようとして(別に意味は無い)耳に触れたとき、レオンの体がビクッと跳ねた。  
「・・・おにいちゃん」  
レオンは顔を真っ赤にすると、クロードの横を抜けて階段を駆け上っていった。  
取り残されたクロードは、一人頭をかく。  
(・・・そうか)  
これは・・・対処しづらいことになったかもしれない。  

暗闇の中、ベッドに座ったレオンは右手を見ていた。  
疲れた。しかも・・・熱が出た。  
何か出た。気持ちよかった。  
(・・・なんだろう)  
ほとんど無意識のことだったのでよく覚えていないが、クロードとぶつかったとき、恐ろしく恥ずかしかった。  
してはいけないことのような気がして、ほとんど何も言わないまま逃げてきた。  
怪しんでる。絶対に。  
もう止めておこう  
(・・・止めていられるかな)  
汗がようやく乾いてきた。同時に、クロードの物と思われる足音が階段を上ってくる。  
顔は、合わせたくない。レオンは布団にもぐると、クロードを背中で感じつつ、ゆっくりと眠りに落ちていった。  

 
 

朝食を作る料理人が風邪を引いて休んでいるとのことで、朝食はレナとアシュトンが作ることになっていた。  
クロードが席に着いたときは既にボーマン、プリシス、セリーヌがいたが、レオンはまだ来ていなかった。  
「おはよう、クロード」  
料理を出しながら、レナ。  
「おはよう」  
受け取る。いい匂いがした。  

レオンが食堂に姿を現したのはその少し後だった。  
ふと、クロードは、いや、その場の全員が異変に気づく。  
「レオンおはよー」  
プリシス。レオンは少しうつむくと、  
「あ、うん・・・おはよ」  
白衣を着ていなかった。  
珍しい、とにかく珍しい。何故脱がないかは知らなかったが、昨日の深夜でさえ纏っていたというのに。  
「レオン、白衣どーした」  
同じく・・・白衣を着ているボーマンにちら、と目を向けて。  
「たまにはね」  
少しふてくされて、プリシスの横に座った。  
「レナお姉ちゃん、喉渇いた」  
「はいはいっ」  
レオンの前に料理を置いたレナは、すぐさま厨房に戻っていって、ガサゴソと漁る。  
野菜ジュースが無い、と聞こえた。  
「ごめんね、野菜ジュース切れちゃってた」  
と、パックを持って戻ってくる。牛乳。  
「これで我慢して頂戴」  
ついだ。レオンの顔に火がついた。  
ボッ。  
「うっ」  
呻く。呻こうとして途中で止まった感じだった。  
両手で牛乳のつがれたコップを握り締めて、硬直している。  
「・・・レオン?」  
「ぅ、ぅ・・・」  
やばい、と思った。重症だ。  
「うわああぁぁぁぁっ!」  
叫んだ。隣でスープを飲んでいたプリシスがぶっ、と吹いた。  
「ちょ、ちょっとレオン!」  
「・・・・・・・」  
「レオン、大丈夫!?」  
レナが顔を掴んで目をあわせる。それは錯乱した動物を正気に戻すための方法であったが、  
効いたようだ。ただし、レオンは真っ赤になっていたが。  
「レオン・・・熱、あるの?」  
「いや・・・・あ、うん。ちょっと、か、風邪気味みたい、で」  
ギクシャクした動きでレナの手をのけると、レオンは食堂から出て行った。  
残ったクロードは、頭を抑えるしかない。  

「出発、もうちょっと待ってくれないかな」  

どうしたんだろう。  
いや、どうしたかはわかっている。一瞬、牛乳を見間違えただけだ。  
ただ、プリシスがそれを飲んだ。少し前に見た。  
・・・・まずいよ。熱い。  

「レオンのヤツ」  
ボーマンがドアの前でニヤニヤと突っ立っていた。  
「ボーマンさん」  
げんなりと、クロード。  
「なんだそのツラは。もっとこう、祝福みたいな感じで」  
「どこが祝福ですか」  
「へ、俺にもあんな初心者の頃があったと思うと」  
「あったようには思えませんけど、絶対」  
「んだと。まぁいいさ」  
と、ノブに手をかける。  
「ちょ、ちょっとボーマンさんっ」  
「ん」  
「なにしてんですかっ」  
「決まってんだろ。レオンに生物学の講義をしてやるんだよ。リンガ大学じこみだぞ」  
「だめですって」  
「駄目じゃない。旅しててあーいった系の本が買えないレオンとしては  
 生きた教科書の俺が手本を見せてやらねばなるまい。セリーヌちゃんとかで」  
「生々しいこと言わないで下さいっ」  
ガチャ。  
「あ」  
二人の声が重なった。  
レオンが立っていた。  
「だから白衣は嫌なんだっ!」  
叫んで、バタンとドアを閉める。  
「・・・意味、わかったみたいだな」  
ドン、と内側からドアを殴る音。  
「ボーマンさん・・・・」  

(・・・なにしてるんだろ僕)  
昨日から、というかあのことがあってからおかしいのはよくわかる。  
さっきボーマンが言っていたこともなんとなくわかる。  
だけど、肝心なところがわからない。  
溜息をついた。ついてどうにかなるものでもなかったが、つくしかない。  
しばらく脱力したまま、ぼんやりと宙を眺める。  
だから、ノックがしたとき、体が妙に弾んだ。  
「レオーン」  
プリシスの声だった。知らず、顔が熱くなる。  
(・・・姉ちゃんのせいだ。熱っぽいのは)  
「レーオーン」  
「い、いないよ」  
「いるじゃん、ねー、開けてよー」  
「なんの用さ」  
「い、い、か、らー」  
「一人になりたいんだ」  
「開けてってば」  
無視。  
「・・・うーっ」  
しばらくの間。  
いきなり、ドアが吹き飛んだ。  
「・・・ぇ?」  
プリシスがそこに立っていた。  
「ほら、行くよ」  
「な、なに考えてんだよっ」  
ただ、プリシスの歩みに合わせて慌てて後じさりするのは、怖いからではない。  
彼女が、妙に綺麗に見える。  
壁にあたった。これ以上下がれない。プリシスがベッドの横に立った。  
耳をつかまれ、顔を引き寄せられた。  
「かいもの」  
ほんの数センチの距離。彼女の吐息が顔にかかった。  
耳が張った。体が小さく震える。  
「いくよ」  
「う、う・・・うん」  

プリシスが先立ってどんどん歩いていく。  
レオンが後ろをテクテクとついていく。無人君が間をチョロチョロと走り回る。  
「末期症状か?」  
「とゆーか恥ずかしがってますわね、絶対」  
ボーマンとセリーヌが脇から覗いていた。  
相変わらずのにやけ顔と、普段生意気なレオンの違った面が見れると興味津々の二つの顔が並んでいるのは  
どこか異様である。クロードは彼らをさらに覗きながら思った。隣にはレナ。  
「あの人達も末期症状なんだよな」  
「なんの?」  
「人の不幸を喜ぶことの」  
「・・・・」  

「おねーちゃーん」  
いい加減一緒にいることに耐えられなくなってきた。なにしろ、体のいろんな部分がむず痒い。  
「ん?」  
「早く買うものかってかえろーよ。なんか・・・変な気分」  
「え、具合悪いの?」  
「う、うん・・」  
「なんだ、朝のてっきり仮病かとおもってたよ」  
「仮病って」  
プリシスは少し考えて、  
「じゃ、買い物やめよっか」  
「え」  
別に止めるほどじゃない、といいかけて、止められる。  
笑っていた。  
「ご飯食べいこ」  
これだから、僕は変になる。彼女は顔が赤くなっているのに気がついているだろうか。  

「・・・おかしいな」  
「道が違いますわね」  
プリシス御用達のいつもの店とは別の場所へ続くわき道へと入る二人。  
レンガの壁から顔を覗かせていたボーマンとセリーヌは、いまだ二人をつけていた。  
「喫茶店じゃないか? あそこ」  
「うん、プリシス言ってたもんね、ケーキが美味しいって」  
そこに、にゅっと顔を出すクロードとレナ。  
「喫茶店か・・・ん?」  
ボーマンははたと気づくと。  
「なにしてんだお前ら」  
「ボーマンさん達こそ」  
「・・・・・」  
「・・・・・」  
先回り。  

「ここすっごくケーキ美味しんだぞー」  
前を歩くプリシスに半ば見とれていたレオンは、彼女に言われてようやく目的地に着いた事を知った。  
見上げる。素朴(むしろ地味)な看板には  
「・・・やまとや?」  
と書かれていた。  
「うん、やまとや」  
はいろ、とレオンの手を掴むプリシス。  
「うっ」  
突然のことに、体がつい強張った。いきなり、手を。  
「どしたの?」  
「・・・ううん、なんでもない」  
そのまま引っ張られて入る。ハーブの香りが広がった。ほのかに甘い。  

 

人はあまりいなかった。昼食には少し早い時間だからだろうか。カウンター前の相席に促される。  
向かい合って座る形になった。向かい合うということは、嫌がおうにも顔を見る、ということだ。  
(見れる訳無いじゃないか)  
見たら変な気分になる。体温が上がって、関節がギシギシと動きにくくなる。  
何故だかはわからないが。  
「何頼む?」  
こちらの困惑など素知らぬ顔で聞いてくる。笑顔で、危険だ。  
「・・・じ」  
「ん?」  
「ジュース、でいい」  
顔を上げられない。よってメニューが見れるはずも無い。  
「お姉ちゃん頼んでよ」  
「ん、いいの?」  
「う、ん」  
「んー・・・じゃね」  
ちょうどいい具合に・・・つまり二人の会話を聞いていたのだろう・・・ウェイトレスが歩いてくる。  
「ご注文はお決まりでしょか?」  
プリシスは少しメニューと睨めっこをして、  
「うーん・・・あ、この《愛のときめき》一つ」  
「はい《愛のときめき》ですね」  
そして、下がる。  
「・・・・あれ」  
あっけに取られたようなプリシスの声を聞いて、レオンはまた嫌な予感がした。  
「あたしの分・・・」  
つまり、二人でも一つでいいということだ。  

 

というか、目の前に実物が現れたときは驚いた。  
心の準備はできていたはずなのに、  
大方予想はついていたはずなのに、  
悩んでいたときに垂れていた耳が跳ね上がるほど。  
「・・・・」  
さすがのプリシスも、絶句。  

「うわ」  
思わずもらしてしまったクロードは、二階席に座っていた。レナも、もちろんボーマンとセリーヌも。  
「うわ」  
三人も、もちろん。  
一階席のレオンとプリシスの間に置かれた《愛のときめき》は確かにジュースであった。  
そして、確かに二人分あった。  
ついでに、一つのコップにストローが二つささっていた。  

「・・・・うぅ」  
どう対処してよいかわからないレオン。  
「・・・」  
ただただあっけに取られているプリシス。  
どうにもしがたい状況であった。飲むのは・・・しかし飲まないのはやはり店員に悪いようで。  
「どーしよ」  
どーしよ、と言われても。何とかして顔を上げると、  
なんと。  
(・・・顔、赤い)  
恥ずかしがっていた。  
恥ずかしがっているのだ。  
少し、嬉しくなった。  
そして・・・もっと恥ずかしくなった。  

「ご注文は?」  
つまり喫茶店と言うものは名が示すように食べ物やなわけで。  
クロード達も何か注文しないといけないのであった。  
「どれにする?」  
メニューを見ながら、レナ。  
実はこのときクロードの心情はレオンと大差ないわけであったが、  
「僕らも《愛のときめき》たのもっか」  
「あはははは、クロードったら冗談好きなんだから」  
「・・・・」  
「じゃぁ、私はチョコレートケーキと紅茶を」  

三分ほど、二人は動かなかった。  
ただ二人で、顔を赤くしながら中点にある特大のグラスを眺めていただけである。  
《愛のときめき》は済んだピンク色で、どうやったらこんな色が作れるかは謎である。匂いもすこしきつい。  
サクランボが二つ入ってて、縁にもそれぞれレモンが一切れ。  
そして二人分の派手なコップ。  
《恋人用》です、と言わんばかりの甘ったるさだ。  
そのいかにも、な雰囲気が二人の緊張を生んでいる。  
特にレオンは十秒前から机の下に視線を下ろしっぱなしだった。  
(これ・・・間違い、かな。いや間違いに決まってるんだけど・・・だって不思議がってたし、でもあぁ)  
もしかすると、万が一。  
「あ」  
体が凍りついた。微動だにしなかったプリシスが、なにか言った。  
「これ、おいしいじゃん」  
え。  
「レオンもほら、なんか甘くていーよ」  
顔を上げる。  
飲んでいた。  
「せっかくだよ、飲も」  
そういうプリシスの顔は、やはり恥ずかしそうで。  
レオンと視線を合わさないようにコップを押し出してくる。  
「このまま座ってるほうが恥ずかしいよ、早く飲んで出るよ」  
・・・あ、  
「う、うん。わかった」  
そのまま成り行きで、ストローを咥え・・・・  
プリシスがほんの五センチ先で同じ動作をしていた。  
「・・・・」  
口に、目が吸い寄せられた。なんか、綺麗だ。  

ボーマンがちらりと階下を見た。気づかれないようにすぐ引っ込む。  
「なんか、プリシスが積極的だな」  
「そうです、ね。いつもよりも」  
不思議、不思議と頭をつき合わせている。  
二人とも知らなかった。セリーヌがプリシスに、ジュースと偽って媚薬を飲ませていたことを。  
そして・・・《愛のときめき》にも媚薬効果があることを。  
敏感になっているレオンが、それだけでも強く反応することを。  

「・・・・ふぅ」  
なんとか、飲みきった。物凄く甘くてネットリとした感触がまだ口内に残っていたが、  
不思議と不快感はない。  
「おいし・・・かった、ね?」  
「まぁまぁ、だね」  
多分、プリシスと飲んだからだろう。多分。  
「じゃ出よ、おごったげる」  
「僕が出すよ」  
「なに見栄はってんの」  
「べっ」  
見栄じゃない、と言おうとしたが駄目だった。さっさとカウンターにいって財布を取り出している。  
それに、なにか体が熱くなってきている。今日は風邪を引いたように一日中熱い。  
頭はやけにはっきりしてきた。風邪のように熱くても、不思議と気だるさはない。  
むしろ体を動かしたくて、たまらない。  

「あ、出るぞ」  
「なんか言われたな、レオン」  
「頑張って・・・って」  
「頑張って?」  

頑張って、といわれた。  
「もう、帰る?」  
プリシスが振り向いてたずねてきた。どう答えればいいだろう。  
「まだ、いいよ」  
「・・・だいじょぶ? 顔、赤いよ」  
姉ちゃんの所為だよ、多分。言おうとして、すごく大事なことのような気がして、いえなかった。  
「ちょっと、熱い・・・」  
「だろうね、じゃ」  
またもレオの手を引っ張って。  
「公園にいこー」  

多分、プリシスが好きだ。  
レオンはそう思った。あくまで、多分だけれど。  

 

「なんか、大詰めっぽいね」  
レナは何故か興奮していた。  
「・・・・レナ」  
「黙ってて」  
「・・・」  

ベンチに二人が並んで座っている。  
二人ともほのかに顔を赤らめているのは、まぁ今までの要素が全部つめられているから、と考えていい。  
特に、レオンは。  
「今日ね」  
プリシスが口を開く。  
「朝、レオンおかしかったじゃん」  
おかしかった。まぁ、否定はしない。  
「だからね、ちょっと元気付けようとおもったの」  
ふと。元気付けようと?  
「そとにでてパーッと、ね」  
「・・・うん」  
「どう?」  
「え?」  
「元気、でた?」  
元気、というか。  
「あ、えーと」  
答えにくい。  
「うん、た、多分出た」  
「多分」  
フーン、とプリシスは空を見て、  
「朝、どしたの?」  
ドキ。  
「クロードに聞いたよ、夜からおかしかったって」  
ドキ。  
「えっと・・・もしかすると・・・病気・・・っぽい、かなぁ」  
「病気・・・そうなの?」  
「あ、えーと。うん。なんか昨日や、やけに体が熱くなって」  
「うん」  
「それで、し・・・し・・・」  
「し?」  
「・・・・ぃ、のが出て」  
「・・・・なにが?」  
「・・・ぃ、の」  
「い・・・」  
彼女はしばらく考えた。  

彼女は考えてわからなかったようだが、顔を真っ赤にしてうつむいているレオンをちら、と見て。  
ようやくわかったようだ。火がついた。  
「ばっ」  
声も出ないようだ。  
「何言ってるかわかってんの?」  
「・・・え?」  
「だから、あの、その」  
しどろもどろ。  
「そ、そ、それから、なんだ。おかしいの」  

「ははーん、レオン、昨日初めてだったんだな」  
草葉の陰に、四人。ボーマンは目を光らせて、  
「なるほど、快感覚えたから本物とヤりたくなったんだな」  
三人の鉄拳に沈んだ。  

「朝は、牛乳を見間違えて・・・その」  
言って、プリシスは思い出したようだ。顔をしかめる。  
でも、  
「お姉ちゃんのせ、せいなんだよ」  
「・・・え?」  
いま、体が解けそうに熱いのも。  
「お姉ちゃんがなんか、変にあの」  
あの・・・・・  
「き、綺麗に見えたりするから」  
そこで、限界だった。口も震えて、出る音は言葉にならない。  
恥ずかしかった。  
だから、少しだけ背の高いプリシスが肩に両手を乗せたとき、少し全身が震えた。  
「あ・・・ありがと」  
少しだけ顔を上げられた。上目遣いの感は否めなかったが。  
プリシスもうつむいていた。恥ずかしさが少し強調された不器用な顔で、うつむいていた。  
「あの、お姉ちゃん」  
「待って」  
「え?」  
「今は・・・ね」  
「・・・今は?」  
「今度ゆって」  
じゃないと、プリシスは言った。恥ずかしさに耐えられそうにないから。  
だけど、言いたかった。  
「今言う」  
「え?」  
「お姉ちゃん、あの」  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

いえなかった。  
まぁ、こんなオチだ。  

 
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