「ふふ……こうすると気持ちいいでしょう?」
白い指が黒光りするペニスの表面を滑る。途端に形容し難い快感が身体の芯
を走り巡った。あっという間に昇り詰めてしまいそうになる感覚をぐっと堪え、
その我慢の余りに苦しげな喘ぎを漏らしてしまう。
いつの間にか壁に追い詰められている。身体の中心を支配されたら男は何も
出来ないのだ。非力なはずの彼女に圧倒され、ベッドに接した壁に背を押し付
けていた。もうどこにも逃げられない。
目の前に甘ったるい瞳で自分を見つめる美女の顔がある。挑発的な余裕の笑
みを浮かべ、自分が優位に立つことに快感を覚えているといった印象だ。
彼女はじっと自分の瞳を見つめているが、肉棒を這う白魚のような指は男を
知り尽くしたかのように、実に巧みな快楽の歌を奏でている。
誰もが認める一級品の美女だった。男好きのする整った顔立ち。薄い紫色の
髪が滝のように背中に流れ落ちている。紫紺の薄絹を申し訳程度身にまとい、
肌の露出度はかなり高い。
自分の魅力を身体全体で主張するようなフェロモンを放っている。男ならつ
いそこに視線を送ってしまう豊かな乳房が着衣の端からその谷間を覗かせ、下
半身に目を移せばすらりと長く美しい脚をさらけ出している。足首は折れそう
なほど細いのに、太股はふるいつきたくなるほど魅力的な肉付きを見せていた。
「セリーヌさんっ……!」
圧倒されている男が美女の名を呼んだ。満足そうにセリーヌはクス、と笑う。
「あら……なかなかいい反応ですわね。大抵の男はこれでイッてしまうのです
けれど。これでもわたくし、手加減していますのよ?」
あくまでも余裕。セリーヌはただ笑いながら底を見せない。いつもの口調の
まま、翻弄するのを楽しんでいる。
「でも、もう時間の問題ですわね……そうでしょう? クロード」
自分の名を呼ばれ、金髪の青年はびくんと震えた。完全に見透かされていた。
セリーヌに主導権を握られ、射精欲が何よりも今は勝っている。
「ふふ、それではイカせてあげますわね……気持ちよくおなりなさい」
セリーヌの指がクロードのペニスに絡みつき、動き出した……。
セリーヌの指先が肉棒の裏筋を押さえ、じわじわと追い込むような愛撫から
変貌を遂げた。クロードの感じるポイントを集中的に攻め立ててくる。
「うわぁっ……!」
クロードは呻いた。これは明らかに前戯ではない。明らかに男を射精に至ら
しめるための愛撫だった。そう簡単に射精してたまるかと必死に耐えるものの、
断続的に襲いかかってくる快感がそれを許しそうになかった。
射精したいという願望と、まだ射精したくない、この快感をいつまでも味わ
っていたいという願望がクロードの頭の中でせめぎ合う。
セリーヌはそんなクロードを嘲笑うかのように……直前で愛撫を止めた。
「……なーんてね。うふふふ…」
前触れなく切断された快感と絶頂。クロードは荒い息をしながら、自分を見
下ろすセリーヌを見上げた。快感への名残惜しさから、半ば恨めしい目をセリー
ヌに向けてしまう。
(ここまでやっておいて射精させないなんて……ひどいじゃないか)
「ふふ、あと少しで射精できたのにどうして? って顔ですわね」
楽しそうにくすくすと笑いながらセリーヌはクロードの心を代弁した。
「後は自分でお抜きなさいな。ここまでしてあげたのですから、後は二、三度
しごくだけでイッてしまうでしょう?」
クロード自身をしごいていたときの、あの挑発的な笑み。優位に立っている
のは明らかにこの年上の美女だった。
「一つ予言してあげますわ。クロード、あなたは今夜、わたくしの技巧が忘れ
られなくて、わたくしの部屋に来るはずですの。そこであなたは今まで味わっ
たことのない快感を味わうことになりますわ」
セリーヌはそこで一息置くと、クロードの唇に自分の唇を重ね合わせた。
「レナやプリシスみたいなネンネちゃんには絶対できないこと、わたくしなら
教えてあげられるんですのよ……」
鼻にかかった甘い声で囁き、セリーヌは踵を返して入り口のドアを開けた。
部屋を出る前に振り返る。呆然とするクロードと視線が合ったところで、
「……くすっ」
クロードを誘うような、嘲るような妖艶な微笑を浮かべ、セリーヌは今度は
振り返らずに部屋を出ていった。
ばたんとドアを閉め、部屋の外で聞き耳を立てると、ほとんど間を置かず、
クロードがティッシュを取る音と、その直後に小さく喘ぐ声が聞こえてきた。
セリーヌは満足そうにくすくす笑ってその場を去った。
(ふふふ……今夜、シャワーを浴びて待っていますわよ。クロード……)
予言の的中率は100パーセント――どうやら今回も外れそうになかった。