一瞬にして景色が変わる、見た事のある場所だが名前が思い出せない。
「ここは……何処だ?」
「アイレの丘だ、阿呆」
目の前に広がる荒野を見て呟くクリフにアルベルが答えた。
「アイレの丘ってことは、カルサアとアリアスの間か……。
おい、お前は何処行くんだ?」
「アーリグリフ城だ。」
「そうか、反対側だな。時間には遅れるんじゃねーぞ」
「フン、誰にモノを言っている」
相手に背中を向け、二人は目的地へ向かって駆け出した。
アルベルがカルサアに着いた頃、もう陽は沈みかけていた。
(ジジイの所に行くか、外で寝て凍死なんかするとシャレにならねぇからな)
アルベルがウォルターの所へ行こうと思った理由はそれだけではなかった。
死んだ父親の親友であり、自分の良き理解者でもあるウォルターには感謝をしている。
スフィア社の連中と決着をつける前に、少し顔を見ておきたかったのだ。
まぁ、彼はこんな事死んでも口には出さないだろうが
屋敷についたアルベルは、
二階のウォルターの部屋へ行こうと階段に足をかけた瞬間、
「アルベル様?アルベル様ですか?」
と後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ、アルベルは後ろを振り向いた。
階段の下には、メイド服を着た栗色の髪の少女が立っている。
知っている顔のような気もするが、思い出せない。
「…誰だ?キサマ」
「忘れちゃったんですか?ヒドいなぁ。
アルベル様が小さい頃、お屋敷に来られた時は、ずっと私が遊び相手だったんですよ。」
(あぁ、そういえば居たな。そんな奴)
父親にくっついて、良くこの屋敷に来ていた頃、一緒に遊んだ子供……。
「昔のアルベル様はすっごくヤンチャな子でしたよねぇ。
覚えてますか?ここにあった壷を割って、ウォルター様に叱られたときの事」
「そんな昔の話をするな!!阿呆」
アルベルの罵声を受けた瞬間、その少女はケタケタと笑い出した。
「……何がおかしい」
「いえ、その"阿呆"って口癖なおってないんだなぁ と思って」
(ダメだ、この女と居ると調子が狂う)
笑いすぎて眼から出た涙を拭き取っている少女をほったらかしにして、
アルベルはしかめっ面で階段をあがった。
ドアを蹴って開け、アルベルはウォルターの部屋へと入る。
「よう、来てやったぞ。ジジイ」
ウォルターは戦争の書類に判を押すために、机へ向かっていた。
顔も上げずに、こっちに声をかける。
「アルベルか……もう少し静かにせんか」
「うるせえよ。」
「それで、何の用だ?」
「今日はここに泊めてもらおうと思ってな」
「10年振りじゃな、お前がここに泊まるのは。
別にいいが……部屋には先客がおるぞ」
「は?」
口を開けて固まったアルベルに、続けて言う。
「エミリーじゃよ。戦争で両親を無くしてから、住み込みで働いておる。
あの子の父親が風雷の兵士で、小さい頃からこの屋敷に来ておったから、
お前も会った事があるはずじゃ」
(エミリー……?さっきのあの女か)
「そいつと同じ部屋って事か?」
「まぁ、そういう事じゃ。手は出してもいいがあんまり無茶はさせるなよ」
ニヤけた顔でウォルターが言う。
「なっ!そんな事するわけ無いだろ、阿呆が!」
ドアを思いっきり閉め、大きな音を立てながらアルベルは部屋を出て行った。
「ほっほっほ、若いのぉ」
孫を見つめる老人の目をして、ウォルターは呟いた。
(あんな女と一晩中一緒だと思うと気が狂いそうだ……)
額を手で押さえ下を向いていると、誰かが覗きこんできた。
「アルベル様、頭痛いんですか?」
しゃがんだエミリーが話しかけてくる。
(頭が痛いのはテメェのせいだよ……)
そう言いたいのをグッと押さえ、
「なんでもねぇ」
と言った。
「良かった、大丈夫なんですね。
それで、さっきの話聞いてたんですが、
本当に泊まっていってくれるんですか?」
「あぁ」
「へへ〜、いっぱいお話しましょうね。
ちょっとぐらいならエッチな事してもいいですよ」
そういって、エミリーが抱きついてきた。
「寄るな!触るな!!抱きつくな!!!
冗談も大概にしろ、阿呆」
エミリーを振り払い、
ドタドタと足音を立ててアルベルは階段を降りる。
その背中に向け、エミリーは小さな声で言った。
「冗談じゃ……無いんだけどなぁ」
(いくらなんでも無防備すぎだ、アレは。
いったい、どういう教育されて来たんだ?)
階段下の倉庫に入ったアルベルは、さっきのエミリーを思い浮かべ
大きくため息をついた。
まだ、腕には抱きつかれた感触が残っている。
(柔らかかったな…… って違う違う!
オレはそういうキャラじゃねぇだろ!
ったく、ジジイが変な事言うからちょっと意識しちまったじゃねぇか)
ブルブルと首を横にふって煩悩を飛ばし、
布団を奥から引っ張り出す。
そのとき、左腕の義手がカチャリと音を立てた。
それを聞いて、アルベルの表情が陰りを見せる。
左腕……焼けただれた醜い腕。
(こんな体してる奴が、女なんて抱ける訳ねぇんだよ……)
布団をかつぎ、顔をあげると窓に情けない自分の顔が映っているのが見えた。
そしてその奥には、自分の心の内と同じ、薄暗い闇が広がっている。
夜が来た。
階段をあがり、客室へ行く。
そこには、エミリーの姿は無かった。
多分、風呂にでも行っているのだろう。
アルベルは自分の寝るスペースを確保して、布団に寝転んだ。
今日はもう何も考えたくない。
エミリーが帰って来るまでに寝てしまいたかった。
しかし、その思いはこの一言で思いきりぶち壊された。
「アルベル様。まだ寝ちゃだめですよ。
今日何もしてないんですから」
「うるせぇ、糞虫。俺は疲れてるんだよ」
「え〜、じゃぁ私の夜の相手はしてくれないんですか?」
「うるせぇっつってるだろうが!」
アルベルはエミリーを床に押し倒した。
そして左腕のガントレットを外し、その中身をエミリーに付き付ける。
「テメェは本当にこんな体の男とヤリたいと思ってんのか?
この醜い、汚いこの俺と!」
「えぇ、したいですよ」
そういって、エミリーはアルベルの左腕に舌を這わせた。
エアードラゴンの炎で焼かれ、今でも高い熱を持つその腕に。
ひとさし指を咥え、そこからゆっくり丁寧に舐めながら上へと昇って行く。
「ほら、汚くなんか無いですよ。
それにアルベル様はアルベル様ですよ。
外見なんて関係ありません。
私にとってはやんちゃで優しいアルベル様のままです」
はっきりとアルベルの瞳をみすえ、エミリーは言った。
その言葉も行動も、アルベルにとっては予想外のものだった。
これを見せれば、怯えると思っていた。
この部屋から出て行くと思っていた。
自分など受け入れられないと思っていた。
けど、違った。
目の前にいる女性は自分を受け入れたのだ。
自分では好きになる事が出来ない自分を好きになってくれたのだ。
そう考えると、涙がこぼれた。
アルベルはしばらくエミリーの胸の中で……泣いた。
ひとしきり泣いた後、腕を放しアルベルはエミリーを解放した。
立ち上がり、エミリーに向けて声を放つ。
「悪い……」
「いえ、全然。むしろ嬉しかったですよ」
「嬉しい?」
「えぇ、アルベル様の涙って初めて見ましたから。
私に弱い所を見せてくれたんだなぁ って。
昔、怪我したときでも泣きませんでしたからねぇ。」
「黙れ、昔の話はするなと最初に言っただろうが、阿呆!!」
「それじゃアルベル様が黙らせて下さい♪」
「チッ」
目を閉じて待っているエミリーに、アルベルはそっとくちづけた。
唇が重なった瞬間、エミリーの方から舌を入れてきた。
緩慢でたどたどしい舌の動きだが、一生懸命さが伝わって来る。
こちらからも舌を絡ませて行く。
温かくて、少ししょっぱいキスだった。
「それじゃ、私が気持ちよくして差し上げますね。
初めてですけど頑張りますから」
エミリーがアルベルの方へ手を伸ばす。
それをそっと押し返しアルベルは言った。
「いや、いい。俺はもう十分だ」
「けど……」
「今度はオレがお前にしてやる番だ。
いいか、今から自分が気持ちよくなる事だけ考えろ。
他の事は全部オレがやってやる」
そう言ってパジャマのボタンを外し、もう1度キスをした。
アルベルはエミリーの唇から口を離し、全身にキスをしていった。
耳たぶ、首筋、鎖骨のくぼみ、張りのある双丘、
その中心に咲く桜色の突起、ヘソ、そして……
アルベルは、エミリーのズボンとショーツを同時にずりおろし、
太ももの間に顔を埋めた。
「あ、そんなところ……ダメ、です」
「恥ずかしいのは我慢しろ、じゃねぇとぶっ壊れるぞ」
ピンクの一本線を舌でなめあげながら言う。
ときに、舌先で陰核を刺激したりしながら、丁寧に愛撫した。
今度は指で秘裂をかきまぜながら、唇を下から上へと走らせる。
エミリーは足に力が入らなくなり、アルベルの肩に手をのせて
自分の体を支え、必死にその行為に耐えていた。
もう、下は洪水状態になっている。
(もう大丈夫だな)
「行くぞ、少し痛いかも知れないから覚悟しろ」
エミリーは潤んだ瞳で小さく頷いた。
壁に手を付かせて、バックの状態をとらせる。
アルベルは下半身の衣類を脱ぎ、エミリーの中へ腰を沈めた。
「あっ、ああ……」
背中をのけぞらせ、エミリーが声をあげる。
アルベルはそのままゆっくりと侵入していった。
太ももには、二人が結ばれた証である赤い血がしたたり落ちていた。
「動くぞ」
奥まで自分のものが到達した事を確認したアルベルは腰を使い始めた。
「くふっ、んっ、ああ……!」
エミリーのヒダ一本一本がブツを刺激する。
時間が経つにつれ、締め付けがキツくなっていく。
「アルベルさ……ま、私……」
イキそうなのだろう、泣き声に近い声を出す。
アルベルも限界に近づいていた。
ストロークをどんどん速くする。
そして、限界が訪れた。
「くっ、出すぞ」
「はい…… あっ!ああああああああああ……!」
アルベルは己の白い情熱を、全てエミリーの中へ放出した。
アルベルが目を覚ました時は、もう昼だった。
エミリーはまだ寝ているようだ。
その寝顔を優しく見つめ、くしゃくしゃと頭を撫でつける。
(さて、そろそろ行くか。)
アルベルは、音を立てないようにゆっくり立ちあがり、
服を着替えてウォルターの執務室へ向かった。
ドアを開けると、昨日と同じ状態でウォルターが座っている。
「もう行くのか、小僧?」
「時間がねぇからな」
「アレは危険だ……喰われるなよ」
「フン、オレを誰だと思ってる」
「ところで、エミリーに別れの挨拶は済ましたのか?」
「生きてりゃまた会える、そんなもん必要ねぇ」
「そうか」
「それで、ルムを貸してくれねぇか?さっきも言ったが急いでるんでな」
「好きな奴に乗って行け、餞別がわりおぬしにやろう」
「あぁ、恩にきる」
「生きている内にお前からそんなセリフが聞けるとはな」
「これで心おきなくあの世に行けるだろう?」
滅多に見せない笑みを浮かべ、アルベルは屋敷を出ていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アーリグリフ城の宝物庫、その奥にそれはあった。
自らの意思を持つ刀、魔剣クリムゾン・ヘイト。
アルベルが地下の扉を開けた瞬間、
クリムゾン・ヘイトの声が頭の中に響いた。
「誰だ?」
「アルベル・ノックス。前の持ち主、グラオ・ノックスの息子だ。
クリムゾン・ヘイトよ、オレに力を貸せ」
「我の力を借りたいのならば、握れ。」
そういわれてクリムゾン・ヘイトの柄を握る、
すると体が金縛りを受けたように動かなくなった。
「ほう、心に深い憎しみをかかえておるな。
それは何に対する憎しみだ?
お前の腕を焼いたものに対する憎しみか?
お前を打ち負かしたあの青髪の男に対するものか?」
「……違う。
オレが本当に憎いのは……オレが本当に嫌いなのは……俺自身だ!
協調性の無い自分。素直になれない自分。
そして、この体の事でウジウジ悩んでいた情けないあの自分。
俺は、自分自身を憎む!!」
「そうか、ならば次の問いだ。
何をする為にどれだけの力が欲しい」
「惚れた女一人守れるだけの力を」
一瞬の沈黙。
そして、金縛りが解けた。
「フッ、自分以外の為に力を使える者は好みだ。
強き心を持つ者、アルベル・ノックスよ。
我を振るえ、その命が尽きるまで」
「その言葉後悔するんじゃねーぞ、
テメェがボロボロになるまで使ってやるぜ」
〜アルベル編end〜