アルベルと分かれてから5時間。
すでに陽は沈み、辺りは夜の闇に覆われていた。
今、クリフはシランド城の前に立っている。
「ハァ……ハァ……やっと つい……た」
目的地に着いたという事で、
張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れる。
足の力が抜け、膝から下はいう事を聞かなくなる。
バタンと大きな音をたてながらクリフは石畳に倒れ込んだ。
(アレ?体がいう事きかねぇわ)
ストリームについてから一睡もしてない状態で、
ずっと体を動かし続けていたのだ。
いくら常人以上の体力を持っているとはいえ、流石に辛いだろう。
頬に冷たい感触を感じながら、クリフはゆっくりと意識を失っていった。
カーテンの隙間から指し込む光が朝を告げる。
「ん……ここは?」
目を覚ましたクリフは自分の状況を確認する。
自分の下にあるのは冷たい道路では無く、ふかふかのベッドだった
(確か、城の前まで来て……それで━━━)
(ん?)
ドアの向こう側に人の気配を感じる。
どうやら誰か来たらしい。
「おや、ようやくお目覚めかい」
ドアを開けて入って来た人物は━━━
「ネル……か?」
「ちょっと会わないうちに人の顔も分からないぐらい馬鹿になっちまったのかい、アンタは」
部屋に入って来たネルは、あきれた顔をして椅子に腰を降ろした。
「昨日任務から帰ってきたら
アンタが階段の下に倒れ込んでたからさ、ビックリしたよ」
(そうか、昨日あのまま……)
「私が居なかったら絶対風邪ひいてたよ。
感謝するんだね」
口の端を軽く持ち上げいたずらそうな笑みを浮かべる。
「そうだな、感謝してるよ」
ネルの瞳を見つめそう言うと、一瞬驚いたような顔を見せた。
「アンタが素直に礼をいうなんて珍しいじゃないか」
「そういうときだってあるさ」
おどけたように手を上げながら言う。
「そうだね。そういえば皆はどうしたんだい?」
「こっちに居るのは俺だけだ。皆色んな場所に行ってる」
「ふぅん…… それでどのくらい居られるんだい?」
「明日の朝が限度だな」
「そうか、じゃ今日は空いてるんだね」
「まぁ、そういう事だ」
「ならちょっとペターニまで行かないかい?
今日は休暇貰って暇だったんだよ。
話したい事もたくさんあるし、あんたがここまで来た理由も聞きたいしね」
「別にいいけどよ、ペターニまで行かなくてもいいんじゃねぇのか?」
「女にデートに誘われたら、男は黙って付いてくるモンだよ」
そういって差し出された手を、握りかえしてクリフはベッドから起きあがった。