「ソフィアー、居るか?」  
そう言いながら、僕はコンコンとドアを叩く。数秒待ってみたけれど返事はなかった。  
 
 ここはペターニの宿屋。  
昨日、セフィラを入手し、モーゼル遺跡に向かう事になった僕達は、ペターニまでやってきた。  
そして、“こうやって普通に過ごすのも最後になるかもしれない”ということで、今日1日を自由行動にしようと決めた。  
それで僕はソフィアと話でもしようと部屋の前に居るのだった。  
ハイダでの約束もあるし、それにソフィアと再会してからは忙しすぎてまともに話す機会も無かったから、せめて今日ぐらいは、と。  
 
「入るぞー、いいのかー?」  
ドアノブを回す。鍵はかかってなかった。  
中を見ると、ソフィアはベッドの上ですやすやと寝息をたてていた。  
(無用心だな……それに、何もかけないで寝たら風邪ひくぞ)  
苦笑しながら、足元にたたんであるタオルケットをかけてやる。  
僕はベッドの横に椅子を置いて、背もたれを抱き、またがるように座った。  
ちょうど真下にソフィアの顔がある。少し前より痩せたように見えた。  
(やっぱり、無理してたんだなコイツは)  
ソフィアは本当に普通の女の子だ。  
クリフやスフレみたいに戦闘に秀でた種族という訳じゃない。  
ネルさんみたいに戦闘訓練を受けてる訳でもないし、僕やマリアみたいに得意な武器がある訳でもない。  
ここ最近の戦闘続きはかなり無茶してたんだと思う。  
「昔っから辛い事とかあっても何も言わないんだよな、お前は」  
くしゃっと頭を撫でてやる。懐かしい感触だった。  
もう1度そっと頭を撫でる。  
ソフィアが「……ん」と声を出したが、起きた訳ではないみたいだ。  
ほっと胸を撫でおろす。もう少し、この寝顔をみていたかった。  
 
 そういえば、いつからだっただろう。  
ソフィアを“幼なじみ”や“妹のような存在”から一人の女性として見るようになったのは。  
今、手を伸ばせば簡単に触れる事の出来るこの少女の身体を抱いてみたいと思うようになったのは。  
「はぁ……近すぎるってのもやっかいだな」  
今までずっと傍に居たから、改めて思いを伝える事なんてできやしない。  
もう少し、この微妙な距離を保っていよう。  
この気持ちは……おくびにも出せない。  
「さて、と。起こすのも悪いしそろそろ行くか」  
僕は椅子から立ち上がり、彼女が目を覚まさない事を祈って、そっとソフィアの頬に口づけた。  
「おやすみ、ソフィア」  
─終わり─  

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