いつから、彼女のことが好きになったんだろう。  
心の中に壁を作り、誰とも相手する事の無かった僕に対して  
その壁を思いっきり壊し、土足で踏み込んできた彼女。  
「放っておいてくれ」とあしらっても、決して僕から離れる事の無かった彼女。  
エクスペルが崩壊したと知らされ、呆然としていた皆を笑顔で励ましていた癖に、隠れて一人で泣いていた彼女。  
そんな彼女を、いつも僕は傍で見ていた。  
 
―――――――――――  
 
 
 
二人の関係は進展しないまま、時間だけが過ぎていった。  
エルネストとオペラは無事救出する事が出来た。しかし彼等の乗っていた宇宙船は大破し  
使い物にならなくて、おまけにプリシスの宇宙船も部品が足りなくなり修理が出来なくなってしまったので  
この星からの脱出はまだ時間がかかりそうだった。  
 
 
 
「レオン」  
宇宙船で暇を持て余していたレオンに、プリシスが突然声を掛けてきた。  
「何さ」  
「今から旅に出ない?」  
「はい?」  
突拍子も無いプリシスの発言に、レオンは目を丸くした。  
 
「だってさ〜、今まであたし達全然外に出ないで作業ばっかしてたからこの星の事全然知らないじゃん。  
 だから冒険すんの。どうせ暇なんでしょ、一緒に行こうよ〜」  
確かに、ずっと修理作業ばかりだったので、レオンもこの星の事がよくわかっていなかった。  
しかし、正直言って外に出るのは面倒臭かった。  
「でも僕は、宇宙船の留守番をしておかないと。皆出払ってるし」  
レオンはもっともらしい言い訳をする。  
「おいおい、エルネストを忘れちゃいかんよ」  
プリシスに言われてレオンはエルネストの存在を思い出した。  
エルネストとは1週間程前に合流したのだが、彼は「足腰に負担がかかるから」という  
親父臭い理由でずっとこの宇宙船に滞在していたのだ。  
「だからさ、ここの事はエルネストに任せて、ね」  
レオンはいきなりプリシスに腕を引っ張られる。  
「わかったよ・・・。行けばいいんだろ、行けば」  
プリシスの強引な説得に観念したレオンは、大人しく彼女についていく事にした。  
 
 
 
 
 
――――――――――  
 
プリシスがクロード一筋だというのは、最初から知っていたし。特に気にしてはいなかった。  
ただ馬鹿だなあ、とだけ思っていた。クロードにはレナがいる。何で無駄な事するんだろうって。  
でも、よく考えてみれば、僕のこの気持ちも無駄なのかもしれない。  
プリシスが、自分より年下の癖に生意気で、口が悪く、無愛想な男を好きになるとは思わなかった。  
 
「風がきもちいーね」  
プリシス達はバニスシティと呼ばれる町にやってきた。  
海が近く潮の香りがするこの町は、建物の殆んどが石造りで所々に露店のテントがある。  
歩いているとしきりに商人から声を掛けられてうっとおしいが、それだけ交易が栄えている、という事なのだろう。  
 
「ねっ、あれ食べようよ」  
レオンはプリシスが眺めている露店に近づいた。  
甘い匂いの漂うその露店は、どうやらクレープ屋らしい。  
「でも、僕はお金持ってないよ」  
「大丈夫、あたし持ってるから」  
そう言うとプリシスは露店の主人に元気良く声を掛けた。  
「おにーさん、チョコクレープ2個ちょ〜だい」  
「あいよ、240フォルだ」  
プリシスはポケットから財布を取り出し主人にお代を渡した。どうやら本当にお金を持っているようだ。  
大方、セリーヌあたりから貰ったのだろう。  
 
「お待たせ、チョコクレープだ」  
しばらくして、プリシスは主人から出来立てのクレープを渡された。  
「はいよ、レオン」  
レオンはプリシスからそのクレープを突きつけられた。  
「あ、ありがと」  
正直なところレオンは甘い物は好きではなかったが、お代を払ってしまったし、それに  
折角プリシスが買ってくれたのだから素直に貰う事にした。  
 
 
 
「おいし〜ね、コレ」  
二人はチョコクレープを食べながら大通りを歩く。  
 
(何だか、デートみたいだな)  
 
隣の幸せそうな表情をしているプリシスを観ながら、レオンはそう考えた。  
 
レオンがプリシスと二人で出かけるのはこれが初めてだった。  
地球ではレオンとレナとプリシスの三人で暮らしており、レナは軍の任務の関係上家に帰ってこない日が多かった為  
レオンにとって色々とチャンスがあった。  
しかし、レオンは研究が忙しくてそれ所ではなかった。朝早くに出かけて夜遅くに帰る日々が続いていたからだ。  
プリシスも学校に行っているので、一緒に住んでいるといっても一緒に居る事は殆んど無かった。  
 
(ここでの冒険が終わって、地球に戻ったら、また忙しくなるな・・・)  
 
 
せめて地球に戻るまでに、何とかこの想いをプリシスに伝えなければ。  
レオンはそう心に決めていた。  
 
 
 
 
 
――――――――――  
 
いつも僕は、プリシスにだけは、本音が言えなかった。自分の気持ちを伝えられなかった。  
毎日のように喧嘩ばっかりで、「あんたなんか大っ嫌い!」と何回言われた事か。  
ムキになって自分も、本当は言いたくないのに「お前なんか大嫌いだ!」と返していた。  
素直になれない自分の性格を恨めしく思った。  
 
 
馬鹿だよなぁ、本当に。プリシスも、僕も・・・。  
 
 
この星には多くの魔物が存在している。  
しかし、二年前に全宇宙崩壊の危機を救ったレオンの敵では無かった。  
 
「アイスニードル!」  
 
レオンの手から氷の刃が放たれ、大きなカブトムシの姿をした魔物の体に突き刺さる。  
魔物は叫び声を上げ、そのまま絶命した。  
 
「おみごと」  
後ろでレオンの戦いを見ていただけのプリシスが拍手する。  
「いや、お前も戦えよ」  
レオンはプリシスを睨みつける。  
「だって、あたし何も武器持って無いし」  
プリシスは両手を広げながら言った。  
プリシスの武器といえば無人くんなのだが、彼(彼女?)は連れて来ていない。  
そもそもここは危ない所なのだから、護身用に何か持って来るべきだと思うのだが。  
「ま、あんたがいるから大丈夫だって」  
プリシスには危機感ってものが無いのか?とレオンはあきれた。  
 
バニスシティを巡った後、二人は大きな森にやってきた。  
ここは恐らく以前にボーマン達が迷った所だろう、鬱蒼としていて気味が悪い。  
「なんか神秘的だよねここ、未開の大地って感じで」  
「はあ、そうですか」  
木々の間を通り抜けるのではなく、木を乗り越えていくという形で歩かなければいけない状況に  
うんざりしているレオンとは対照的に、プリシスは鼻歌を歌いながら陽気に突き進んでいく。  
いつ魔物に襲われるか分からないのに、レオンより前を歩いていた。  
つくづく、プリシスには危機感が無いなとレオンは思った。  
 
「ガァァァッ!」  
案の定、先ほどと同じ姿をした魔物がプリシスの脇に襲い掛かってきた。  
「ブラックセイバー!」  
咄嗟にレオンは闇の刃を魔物に向けて放った。  
魔物は真っ二つに引き裂かれ、その場に崩れるように倒れた。  
「げっ」  
それと同時に傍の木がぐらぐらと揺れ始めた。どうやら今の紋章術で木も一緒に切り裂いてしまったようだ。  
「うわぉ」  
プリシスの方に向かって木が倒れる。  
「危ない!」  
レオンは声を出すと同時にプリシスを突き飛ばした。  
 
 
 
「いたたた・・・」  
「大丈夫?」  
プリシスは突き飛ばされた時に地面に頭を軽くぶつけてしまったものの、  
レオンのおかげで何とか木に潰されずに済んだ。  
 
「あたしは大丈夫だけど・・・」  
プリシスの声にレオンはほっと安堵のため息を吐く。  
 
ふと、レオンは顔に柔らかい何かが当たっている事に気付いた。  
レオンはプリシスが木に潰されそうになったので、彼女を突き飛ばし、覆いかぶさるように倒れた。  
とすると、レオンが顔を埋めているのは、プリシスの体だ。  
 
「つーか、いつまでそーしているのよ、このエロガキ!」  
プリシスに怒鳴られて慌ててレオンは顔をあげる。そしてとんでもない事に気付いた。  
丁度プリシスの胸の谷間に顔を埋めていたという事に。  
 
「・・・っ!仕方ないだろ、プリシスが危なかったんだから!」  
「それにしちゃあ乗っかってる時間が長かったじゃん。あたしのセクシーなバストの感触がそんなに良かったのかしら」  
「なっ!誰がプリシスの貧相な胸に興味あるか!」  
「言ったわね!このエロガキめ!」  
 
またレオンは本音が言えなかった。まあ「もっと顔を埋めていたい」という本音を言った所で  
もっと酷い状況になるのは目に見えているが。  
 
「元はと言えば、プリシスが武器を持ってないのに勝手に前を歩くから・・・」  
そういった後に、レオンの頭によからぬ考えがよぎった。  
 
今レオンはプリシスの上に乗っかっている状態だ。  
プリシスは何も武器を持っていない、丸腰である。  
そして、この森には二人以外に人はいない。即ち――  
 
(何を考えているんだ僕は!)  
 
邪な妄想を消そうとレオンは頭を左右に振る。  
 
「どうしたの?」  
突然黙り込み、いきなり頭を振り出したレオンをプリシスは不思議そうに見つめる。  
「あ、いや、何でもないよ」  
声を掛けられてレオンハッと我に帰った。  
「もしかして、何かエッチな事考えたんじゃないでしょ〜ねぇ」  
プリシスがニヤッと笑いながら言った。  
「っ!!!」  
ものの見事に考えを見透かされて、レオンは思わず驚愕してしまった。  
 
 
「へっ・・・図星?」  
プリシスも驚いた表情をする。  
冗談で言ったのが、まさか本当の事だとは思わなかった。  
 
 
暫く沈黙の空気が流れる。  
レオンはレオンで、プリシスに何と言ったらいいのか分からず、  
プリシスはプリシスで、どうリアクションしたらいいのか分からなかった。  
 
 
「ま、まあ・・・レオンも男の子だからこの状況でそーいう考えが浮かぶのも仕方無いと思うけどぉ・・・」  
何とかこの気まずい状況を打破しようと、プリシスは苦笑いで言った。  
普通だとここでレオンは「お前なんかに対してそんな考えをするわけ無いだろ」と反論するのだが、  
レオンはただ申し訳なさそうな目でプリシスを見つめたまま黙っていた。  
 
 
「・・・ごめん」  
「いや、謝られても困る」  
そしてまた沈黙。  
 
ここで魔物でも現れてくれれば何も無かったかの様にやり過ごせそうだが、  
こういうときに限ってやって来ないものである。  
 
 
――――――――――  
 
何をやっているんだろう、僕は  
 
いっその事、堂々と告白して楽になってしまえ。  
あっさり断られたっていいじゃないか。想いを閉じ込めたままでいるのは嫌だろ?  
でも、僕は今の関係で十分満足している。この関係が崩れるのは嫌だ。  
だけど、その関係だって長く続くわけじゃない。もし、クロードとレナが別れたら?  
アシュトンがプリシスに猛アタックしてきたら?地球でプリシスの前にカッコイイ男が現れたら?  
 
いい加減に素直になれ、ありのままの自分を、想いを伝えるんだ。  
 
――――――――――  
 
 
 
レオンはいきなりプリシスの肩を強く掴んだ。  
 
「プリシス!」  
そして怒鳴り声のように叫んだ。  
「何よ、いきなり大きな声で・・・」  
 
真っ直ぐ、プリシスを見つめる。  
 
「プリシス、僕は」  
「何?」  
「僕は・・・」  
 
目を瞑り、ごくりと唾を飲み込む。  
そして全身全霊を、全ての想いを込めて、言い放った。  
 
「僕は、プリシスが、好きだ」  
 
驚いたのはプリシスではなくレオンだった。  
何せ告白を終えたら、目の前の彼女が大笑いを始めたのだから。  
 
「なっ、何が可笑しいんだよ!人が真面目に告白したのに・・・」  
「あはははっ・・・。ごめんごめん、レオンがあまりにもマジだったからつい・・・」  
プリシスの笑いがようやく収まる。  
目の前の人間に好きだと告白されたのに、驚かずに何故か笑う彼女の神経が理解できなかった。  
それとも、やはり僕をその程度にしか見ていないと言う事なのだろうか。とレオンは項垂れてる。  
 
 
 
レオン本人は知らないが、以前にレオンは寝言でプリシスに告白していた。そしてプリシスもそれを知っていた。  
だからこそ、真面目に自分に対して想いを告げた彼が可笑しくて仕方なく、プリシスは笑ってしまったのである。  
そして、いつかこの事実を話したらレオンがどんな表情をするのかを考えると尚更笑いが止まらなかった。  
 
 
 
「何しょぼ〜んとしてるのよ」  
猫耳を垂らしながら俯いているレオンを見て、またプリシスは笑った。  
 
「だって、プリシスは僕の事をどうも思ってないんだろ・・・」  
「そんなことないよ」  
 
え?とレオンが言い掛けた途端、プリシスに体をぐいっと引き寄せられた。  
そして瞬間、互いの唇が重なり合った。  
 
キスするのは二回目だが、最初の感触を知らないレオンは初めての唇の温もりに頭が真っ白になった。  
暫くこの体勢が続いたが、ハッと我に帰ったレオンが慌てて顔を離した。  
 
 
「プリシス、これは・・・っ!」  
「好きでもない人にこんな事すると思う?」  
プリシスは相変わらずにやけた表情のままだった。  
 
 
「でも、プリシスはクロードが好きだったんじゃ・・・」  
「昔はね。でも今は違う。今は本当にレオンの事が好きだよ」  
プリシスの表情が真剣なものに変わった。  
 
「プリシス・・・」  
二人は真っ直ぐに見つめあう。  
黙ったまま、折り重なったまま、胸がドキドキしたまま、ずっと互いの澄んだ瞳を見続けた。  
 
 
 
そして、レオンの手がプリシスの服にかかった。  
 
「スト〜ップ!」  
いきなり、プリシスはレオンの鼻を掴んだ。  
「なっ・・・!」  
いい雰囲気を遮られて、レオンは不満そうにプリシスを睨みつけた。  
 
「こーゆーの、レオンにはまだ早いと思う」  
レオンの体を押しのけ、プリシスは自分の体を起こした。  
 
「何でだよ」  
「だって、レオンはまだ子供だし〜」  
子供、と言われてレオンはムッとする。  
 
「僕はもう大人だ!だから・・・別に、いいじゃないか」  
「な〜に言ってんの、14はまだまだお子様よ」  
「だけど・・・っ」  
「あたしはもう18だからいいけど、あんたはまだダメ。青少年のみだらな行為は許しませんっ!」  
生徒を諭す先生よろしくプリシスは言い放った。  
 
 
 
「おおっと!もうこんな時間じゃん。さっさと帰らないと怒られちゃうよ」  
腕時計を見ながらプリシスは呟く。  
そしてレオンの反応を待たずにテレポーターのスイッチを押した。  
 
 
「ただいま〜」  
宇宙船に戻ってきたプリシスは、丁度テレポーターのある部屋にいたボーマンに元気良く声を掛ける。  
 
「よう、デートは楽しかったか?」  
「ま〜ね」  
ボーマンの冷やかしを軽く受け流して、プリシスは部屋を出て行った。  
 
「結構いい感じじゃないか」  
ボーマンはテレポーターの前で佇んでいるレオンの肩を叩いた。  
が、レオンの返事は無く、静かに俯いていた。  
 
「どうした?元気無いな」  
ボーマンはレオンを不思議そうに見つめた。  
レオンはそれを無視するかの様に黙って部屋を出て行こうとする。  
「おいおい、本当にどうしたんだよ」  
部屋のドアに手を掛けたところで、レオンはようやく、小さな声で呟いた。  
 
「僕はもう、子供なんかじゃない」  
 
そして、部屋を出た。  
 
 
 
「なんなんだ、あいつは」  
一人取り残されたボーマンは、訳が判らず呆然と立ち尽くしていた。  
 

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