「ふぅ、疲れた・・・」  
 
右手で汗を拭い、今まで使っていた修理道具を片付けながらレオンは呟いた。  
ちらっと腕の時計を見る、時間は既に夜の8時を過ぎていた。もう10時間以上作業をしていた事になる。  
毎日朝早く起きて一日中修理作業にあたっても一向に終わる気配が無い。明日も早起きして作業することを  
考えると嫌になってしまう。が、こればかりは仕方ない。修理できるのが自分とプリシスしかいないのだから。  
 
「喉渇いたな」  
片付けを終え、修理箇所に問題が無いことを確認したレオンは、冷蔵庫のある部屋に向かった。  
 
 
 
 
 
「あれ、何も無いじゃん」  
 
レオンは冷蔵庫の中身を探る。食べ物は十分にあるのだが飲み物が無い。  
ここは宇宙船な為に水道という物が存在しない。水の蓄えはあることにはあるが作業用だったり  
シャワーに利用したりするもので飲むにはいかなかった。  
地球みたいに近くにコンビニがあるわけでもないし、どうしたものかとレオンは困り果ててしまった。  
 
「何してんだ?」  
 
後ろから声がして、レオンは振り返る。  
ボーマン両手に瓶を持って立っていた。  
 
「いや、何か飲もうかなと思ってたんだけど。冷蔵庫に何も無いんだよね」  
呆れ顔でレオンはボーマンに向かって言った。  
 
「喉、渇いてんのか?」  
「まあね」  
 
「だったらこれでも飲むか」  
そう言ってボーマンは手に持っていた瓶の片方をレオンに見せ付ける。  
「それ何?」  
「酒」  
 
ボーマンは嬉しそうな顔をしながら戸棚からコップを二つ取り出した。  
 
「酒って・・・・・・僕は未成年なんだけど」  
嫌そうな顔をしているレオンを気にせずにボーマンはコップに瓶の中の液体を注ぎ始める。  
 
「いいじゃねぇかそんなの。俺なんか15ん時から飲んでいたぜ」  
ボーマンはけらけら笑いながら、レオンに液体が一杯に注がれているコップを渡した。  
レオンは仕方なくそれを受け取り、色の無い水のような液体をじっと見つめる。  
 
「喉渇いてんだろ?一杯位飲んでみ」  
ボーマンを見ると、既に彼の持っているコップの中身は半分も無かった。  
レオンは仕方なくコップを口に当て、液体を飲み込んだ。  
 
「あ、美味しい」  
一気に半分飲んだところでレオンはコップを口から放す。  
「ほう、酒の味が分かるとは。まだ14の癖にやるな」  
ボーマンが笑いながら言う。顔がすでに赤い、もう出来上がっているのか。  
 
レオンは無言で残りを一気に飲み干した。  
「もっと飲むか?」  
ボーマンが瓶をレオンに差し出す。  
「じゃあ、もらおうかな」  
「そうこなくっちゃ。まだまだあるから存分に飲んでもらって構わんぞ」  
そう言ってボーマンはレオンのコップに酒を注いだ。  
 
 
 
 
 
やがてどこからともなくセリーヌやノエル、アシュトンがやってきて小規模な宴会が始まっていた。  
 
 
最初に飲み始めてから2時間経った頃、プリシスが部屋に入ってきた。  
 
「・・・・・・何これ」  
 
プリシスの見た光景は、セリーヌに絡んでいるボーマン、樽について熱く語っているアシュトンとそれを  
聞いているのか聞いていないのかわからないがひたすら頷いているノエルと、一人でひたすら酒を飲んでいる  
レオンだった。  
 
「ちょっ、ボーマンやめてくださいな!」  
「いいじゃねえかちょっとくれぇよ」  
そう言ってボーマンはセリーヌの胸を鷲掴みする。  
慌ててプリシスがボーマンの頭をスリッパで叩いた。  
「このエロ親父が!ニーネさんに言い付けっぞ!」  
「げーっ!それだけは勘弁」  
「まったく・・・」  
 
プリシスは無我夢中に酒を飲み続けるレオンに近づいた。  
「ちょっとレオン、あんた未成年の癖に何飲んでんのよ!」  
プリシスはレオンの肩を叩く。振り返った彼の顔は赤い、かなり酔っ払っているようだ。  
「あー、プリシスも飲む?」  
「いらないわよ!」  
「あっそ・・・・・・あれ、もう入ってないし。ボーマンもう1本」  
レオンはそばにあったビンが空である事に気付き、ボーマンに催促する。  
 
「おいおい、ちょっと飲みすぎじゃねえか?流石にもう止めといたほうが」  
「あと一杯、あと一杯だけ」  
「ちょっと!明日も早く起きて作業しなきゃならないんだから、さっさと寝ろ!」  
 
 
プリシスはレオンの上着を掴み、彼を引きずって部屋を出た。  
 
 
プリシスはレオンを引きずったまま彼の部屋にたどり着いた。  
レオンをベッドに座らせる。彼は俯いたままぐったりしたように動かなかった。  
 
「つーか、大丈夫?お水持ってこようか、ってここじゃ無理なのよね・・・」  
プリシスは心配そうにレオンの隣に座り、顔を覗き込む。  
 
レオンもこっちを向き、じっと顔を見つめてきた。  
「何よ?」  
不思議そうにプリシスが尋ねる。  
 
「プリシスって、結構かわいい顔してるよね」  
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・今なんと?」  
突然のレオンの発言にプリシスは耳を疑った。  
レオンは顔色一つ変えずに、特に動揺したりもせずに真っ直ぐ言い放つ。  
「だから、プリシスはかわいいよねって」  
「・・・あんた本当に大丈夫?お酒飲みすぎだって」  
 
本来誰かにかわいいと言われるのは嬉しいのだが、何せ相手がいつも出てくる言葉が悪口ばっかりの  
レオンだし、酒を飲んでいるのであまり嬉しいとは思えなかった。しかし・・・  
 
「アシュトンがプリシスを好きになるのも無理は無いよね・・・・・・まあ、でも」  
 
 
 
「プリシスは僕のモノだけど」  
突然レオンの顔が急接近してきた。そして―――  
 
 
プリシスの唇に生暖かい感触が伝わった。  
 
 
「んっ・・・」  
瞳を閉じたレオンの顔が大きく写る。キスされている、と気付いた時にはもう遅かった。  
プリシスはそのままベッドで押し倒された。  
「っ・・・!」  
舌が進入してきた。自分のそれを絡み取られる。  
レオンが執拗に攻め立てて来る。プリシスは必死にもがくがレオンから逃れる事が出来ない。  
「っ・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」  
ようやくレオンから解放された。細い糸が二人の口の間に架かる。  
 
 
 
「何・・・すんのさ・・・いきなり・・・」  
 
涙目でプリシスはレオンを睨みつける、しかしレオンは表情一つ変えずにプリシスの両肩を抑えたまま  
彼女を見つめていた。  
「だってさ、プリシスはいつもクロードばっかり見ているじゃん」  
レオンの手が服の上からプリシスの胸を触る。  
 
「や・・・あっ・・・」  
「僕の気持ちも知らないでさ・・・クロード、クロードばっかり」  
 
レオンはお世辞にも豊かとは言えない胸をやさしく、感触を楽しむようになでる。  
 
「僕はプリシスが好きだ、だからこそ実力行使をしてでも僕のものにしたかった」  
レオンの手が胸から離れる。  
相変わらずレオンは無表情で見つめてくる、その緑の瞳にプリシスは恐怖を覚えた。  
 
レオンが自分のことをそんな風に想っていたなんて知らなかった。  
 
いつも悪口ばかり言ってくるレオン。  
自分がクロードやアシュトンと遊んでいるところ見てても表情一つ変えなかったレオンが―――  
 
 
 
 
 
突然部屋のドアが開いた。  
 
「レオン起きてる?ちょっとペンチを借りたいん・・・・・・だけど・・・」  
赤髪の女性、チサトが部屋に一歩踏み入れたところで固まってしまう。  
何せ目の前にはベッドの上でレオンとプリシスが怪しい体勢でいたのだから無理は無い。  
 
「チサ・・・・・・んっ!」  
プリシスはチサトに助けを求めようとしたが、レオンに口を塞がれてしまった。  
「チサト、これからいい所なんだから邪魔しないでよ」  
「えっ・・・・・・あ、ごめんなさいっ!」  
慌ててチサトはドアを閉め、パタパタと足音を立て逃げるように去っていった。  
 
 
 
「これからいい所って、何する気・・・」  
恐る恐るレオンに尋ねる。  
「決まってるじゃん、実力行使だよ」  
そう言ってレオンは初めて笑みを浮かべ、プリシスのズボンに手を掛けようとした。  
「ちょっ・・・やだ・・・・・・やめて・・・」  
プリシスは必死に抗うが、振り払うことが出来ない。レオンは意外に力が強いのだ。  
「こんな事・・・しなくても・・・あたしは・・・・・・」  
「・・・・・・」  
 
観念したプリシスは目を閉じた。レオンが自分にのしかかって来る。  
だがそれ以上の事は何も起こらなかった、ズボンを下ろされる気配も無かった。  
 
「あれ・・・」  
プリシスは目を開けるとすぐそばにレオンの顔があった。目を閉じてそのまま動かない。  
そのうち寝息が聞こえてきた。レオンはどうやら寝てしまったようだ。  
 
(そうだ、確かコイツ酔っ払っていたんだっけ)  
そうだよね、いつものレオンだったらこんなことしないもんね、とプリシスはちょっとほっとした。  
ふとレオンを見る。寝顔がかわいらしい、まだまだ子供だなとプリシスは微笑する。  
 
 
 
「プリシス」  
突然レオンの声が聞こえた。やばい、起きた?と思ったが、どうやら寝言のようだ。  
 
「またクロードへのデートの誘い断られたんだって?」  
(レオンの夢の中のあたしもクロードを追いかけているのか・・・)  
 
「まったく、いい加減無駄だって気付いたら?」  
(無駄だって事はわかっているわよ、でも・・・)  
 
「・・・何だよ、泣くこと無いじゃんか」  
(ちょっと、ホントのあたしはそんなに泣き虫じゃないよ!)  
 
「僕じゃ、ダメかな」  
(えっ・・・)  
 
「僕はクロードみたいにさ、カッコよくないし、頼りにならないかもしれないけど」  
(・・・・・・)  
 
「僕だったら君を幸せにする自信がある。君を泣かせたりはしない、絶対に」  
 
ふと、昔の事を思い出した。  
 
お互い機械に詳しいという事もあって、レオンと二人でいることが多かった。  
いつも悪口のオンパレード、時には殴り合いにも発展した。  
それでも、彼は自分から離れることは無かった。自分も彼から離れなかった。  
 
常にクロードを追いかけていたものの、少しずつレオンの事が気になり始めたのは事実だ。  
 
レオンは何だかんだいって、私のことを色々心配していてくれた。  
エクスペルが崩壊して父親がいなくなってしまったと知り、部屋で一人で泣いていた時に  
励ましてくれたのがレオンだった。まあ、結局彼も泣いてしまったのだけども。  
彼は本当は優しいのだ、ただ恥ずかしくて本音が言えないだけ。でもそれはプリシスも同じだった。  
 
 
 
プリシスはしばらくレオンを見つめていたが、やがてレオンの体を静かにずらして  
ベッドから立ち上がった。  
 
「僕だったら君を幸せにする自信がある。君を泣かせたりはしない、絶対に。か・・・  
 なかなかいいセリフじゃない。でも」  
 
再びレオンを見つめる。  
「その言葉、どうして素直に言えないかな〜」  
そう言って、プリシスは寝ているレオンの頬に軽く口付けをして、静かに部屋を出た。  
 
 
 
「レオンはカッコイイし、頼りになるよ。クロードの次に、だけど」  
 
 
翌朝、レオンは宇宙船の外で頭を抱えながらうずくまっていた。  
飲みすぎて二日酔いになったのもあるが、もっと重要な問題があった。  
 
朝起きて、顔を洗いに行ったらセリーヌに「ゆうべはおたのしみでしたわね」と声を掛けられ、  
「何の事だよ」と問いかけても「わかってるくせに」とはぐらかされた。  
さらにボーマンに会ったら「子供なのによくやるねえ」と笑われ、アシュトンに会ったら  
「呪ってやる・・・・・・」とか小声で言われる始末。僕が何をしたというのか。  
 
そう考えていた矢先にチサトがやってきて、全てを教えてもらい、驚愕した。  
 
 
(よりによってプリシスにそんなことを・・・・・・)  
 
 
まさか好きだった女の子に、酔っ払っていたとはいえいかがわしい行為に及んでいたなんて、  
なんて僕は最低な人間なんだ。と、  
レオンはずっと自己嫌悪に陥っていた。  
恐らく彼女は怒っているだろう、と言うか嫌われてもおかしくは無かった。  
 
そんなこんなでレオンは外でずっと落ち込んでいたのだった。  
 
ふと背後から足音が聞こえてきた。誰かが来たのだろうがレオンは振り向かない。  
今は誰とも話したくなかった。  
 
 
ぽん、と後ろから肩を叩かれる。レオンは一人にしてくれと言おうと思って背後の人物を睨みつけた。  
しかしその人物を見てレオンは思わずたじろいでしまう。  
 
 
「レオン、何やってんの?」  
そこにはポニーテールを揺らしている少女、プリシスが立っていた。  
 
「いや・・・その・・・・・・」  
レオンは動揺して上手く喋れない。  
「そんなトコにいないで作業はじめるよ!二日酔いらしいけどそんな言い訳許さないからね。  
 ハイ、これ」  
そう言ってプリシスは修理道具を差し出す。  
 
 
「ところでさ、レオン」  
プリシスは微笑みながらレオンに言う。  
「何か私に言いたい事があるんじゃない?」  
 
その一言を聞いてレオンは思わず顔が引きつってしまう。  
おそらくこれは昨日の事を指しているのだろう。  
プリシスの顔は笑っていたが、実際は怒っているに違いない。  
 
「昨日は、ごめん。何か酔っ払った勢いで変なことしたみたいで・・・」  
流石に謝っても無理だと思ったが、一応言葉に出した。  
だが、プリシスの反応は予想外のものだった。  
 
「あ・・・。別に気にしてないよ、うん。大丈夫」  
笑ったままプリシスは答える。  
「って、そういうことじゃなくてぇ・・・・・・。まぁいいや、さっさと作業始めようか」  
 
 
 
プリシスが期待していたのはレオンの本音だったが、訳が判らないという様な表情をしている彼を見て  
それを今聞くのは無理だと悟った。  
 
いつかはハッキリと言ってね、待ってるから。と彼に聞こえないように小さな声で呟いた。  
 
 
 
 
 
「あ、それと」  
宇宙船内に入ろうとしたプリシスは突然振り返り、レオンの耳元で囁いた。  
 
「昨日の落とし前、後できっちりつけてもらうからね。覚悟しときなさいよ〜」  
「なっ、さっき気にしてないって言ったじゃないか!」  
「あっれ〜、そんなこと言ったっけな〜」  
 
唖然として突っ立っているレオンを尻目に、プリシスは宇宙船に向かって走っていった。  
 
 
 
【END】  
 

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