ペターニの中央広場。  
そこに聳え立つ大きな教会の前で一人の少女が座っていた。  
きょろきょろと忙しそうにあたりを見渡している。  
どうやら人を探しているらしいが、ここはペターニの中央広場。  
昼間の人通りと言ったらハンパではない。その中から目的の一人を探すのは難しいのだが。  
「まだかなぁ…フェイト…。」  
ボソりと広場の喧騒で消え入りそうな声で待ち人の名を呼ぶ少女。  
ハァ、と肩を落として溜め息をついた。  
ふとその少女の肩に伸びる手。  
その手は少女の肩を軽くトントン、と叩いた。  
「やぁ、ソフィア。待ったかい?」  
「あ……。」  
その手の持ち主は少女の――ソフィアの探していた人物であった。  
「フェイト!…もう、ずいぶん待ってたんだよ?」  
「あぁ。ゴメン。人が随分並んでてさ…それより、ホラ。」  
フェイトは綺麗な紙で食べやすいように包まれたアップルパイを袋から出して見せた。  
ホカホカと湯気が立っている。どうやら焼きたてらしい。  
リンゴの甘酸っぱい匂いと、焼けた生地の匂いが鼻をくすぐった。  
 
ペターニの中央広場の真中に店を構える「ギガントドライブ」のアップルパイは甘くて有名だった。  
各地のグルメは、このアップルパイを食べるだけにこのペターニまで足を運ぶ事も少なくないらしい。  
「どうだい?美味しそうだろ?長い時間並んだ甲斐あって――」  
きゅるるるる…。  
気の抜けるような音がフェイトの耳に入る。  
ソフィアは顔を赤くしてお腹を押さえた。  
彼女のお腹の虫の鳴き声だった。  
「うぅ…フェイトがずっと待たせるからぁ…。」  
フェイトはその様子を見てクスクスと笑った。  
「ハハハ、ゴメンゴメン。じゃあ、早く宿に戻って一緒に食べよう。」  
「うん!」  
ソフィアは大きく頷くとフェイトの手を握った。  
二人は宿に向かって歩き出す。  
「でも、ホントもう待たせすぎよぅ…。もっと早く帰ってきて欲しかったなぁ。」  
「仕方ないだろ?今日は人が多かったんだよ。それに、そんなに食い意地張ったら太るぞ?」  
「あっ!それ失礼だよー。」  
「ハハ、冗談だよ。」  
手を繋いで楽しそうに話す二人。  
それは何処の誰が見ても恋人以外の何者でもなかった。  
 
「でさ、丁度僕の番で売り切れちゃって、クリフの分が無いんだよ。だからアイツには内緒で――あ…。」  
ふと、フェイトの足が止まる。顔も前を向いたまま止まったままだ。  
「え?どうしたのフェイト――あ…。」  
「……………。」  
フェイトの数メートル先には仲間の一人である、マリアが立っていた。  
無表情のままソフィアとフェイトを眺めている。  
――否。眺めているというより睨んでいる、という方が自然か。  
その目は何処か軽蔑するような…というより、非難するようなとても冷たい目だ。  
「や、やぁマリア。散歩?」  
フェイトがいつものように平常を装って声を掛ける。  
その間に繋いでいた手を急いで離した。  
「あ、そ、そうだマリアさん!美味しいアップルパイをフェイトが買ってきてくれたんです!だから一緒に――」  
「私、急いでるから――。気持ちだけ貰っておくわ。」  
「え?でも……。」  
ソフィアの言葉が続かぬ前に、マリアは二人の脇を通って足早に立ち去ろうとした。  
「ちょっ…!マリア!」  
フェイトが振り返って呼び止めたが、彼女はすでにペターニの人ごみの中に消えていた。  
 
フェイトはソフィアとアップルパイを食べ、ひとしきり話した後、部屋に戻った。  
窓の外を見ると、もう太陽が山の向こう側へ沈みかけていた。雑談が長くなってしまった事が良く判る。  
正直、疲れた。  
首元に手を当てコキコキと関節を鳴らしながらドアを開けると、綺麗に敷かれた純白のシーツと、ふかふかの上布団が目に入った。  
見るだけで眠くなったフェイトはそのベッドの上にドサッと倒れるように寝転ぶ。  
「はぁ……。」  
溜め息。  
今朝のマリアのあの目が脳裏にに浮かぶ。  
何故あんな目で自分が見られなくちゃいけないのか。全く判らない。  
自分は悪い事はしていない。ただソフィアと――自分の好きな人と歩いていただけだ。  
それなのに、何故…。  
(まさか、マリアは僕の事……。)  
とも、考えてみるが、さすがにソレはないだろう、と首を振る。  
こういう事は大抵自分の恥ずかしい思い込みで終わってしまう。  
きっと、彼女の機嫌が丁度悪かった時に会ってしまったんだろう。きっとそうだ。  
 
そんなときだった。  
―――コンコン。  
「フェイト、居る?入っていいかしら?」  
その声にフェイトなビクりと体を震えさせる。  
マリアだ。  
「………あ、あぁ…いいよ。どうぞ。」  
居留守、というのも考えたが、くどいようだが自分は悪い事をした覚えは無い。  
別に後ろめたい事をしたワケでもなし、そんな事する必要もないと思った。  
「な、何か僕に用?」  
「えぇ、ちょっと大切な話があって…。」  
「えっ…!?」  
フェイトはドキっとする。心臓が飛び出しそうになった。  
大切な話…それって告白じゃ?やっぱりマリアは僕のことが…。  
色んな考えが、瞬時にフェイトの頭の中を縦横無尽に飛び交う。  
「フェイト…。」  
「な、何?」  
「その…今朝、街中ですれ違った時…睨んじゃったでしょ?  
 あのとき、機嫌が悪かったのよ。私。」  
「え?」  
「悪気は無かったんだけど……。気を悪くしたのなら謝るわ。…ゴメンなさい。  
 これ、お詫びに、と思って持ってきたんだけど……。」  
マリアは片手に持っていた小さな箱を開けて、彼女の言うお詫びの品であるケーキを取り出した。  
 
(…やっぱり勘違いだった…。)  
先ほどの考えと全く同じ。恥ずかしい思い込み、まさにそれだ。  
冷静に考えてみれば、あのお堅いマリアが自分の事など好きになるわけがない。  
ホント、バカだ。  
想像を越えて勝手な妄想を抱いていた自分が恥ずかしい。  
まぁ、「好きだ」と言われていたとしたら余計困ってはいただろうが。これはこれで良かったのかもしれない。  
フェイトは大きな溜め息をついた。  
「…いらないの?ケーキ。」  
「…ぇ?」  
フェイトが顔を上げると自分の様子を訝しげに見つめるマリアの姿があった。  
「ケーキよ。  
ホラ、折角買ってきたんだから食べなさい?美味しいわよ。」  
「う、うん。…勿論頂くよ。」  
フェイトは皿に乗ったケーキをひざの上に置くと、  
傍に添えられていたフォークを手にとり、ケーキの端っこを取って口に運んだ。  
ほんのり甘く、そしてスポンジのふわふわした食感が口の中に広がった。  
 
その直後だった。  
ビリビリと舌のしびれるような感触が口の中で充満し、同時に頭がボーっとしてくる。  
異常な味に気がつき、口をおさえている間にも視野が狭くなってきた。  
明らかに異常なもの――恐らくは薬物が混入されている。しかも、強力な。  
フェイトは思わず立ち上がった。  
「ぅ!…マ、マリア!これ…何……か入……って――。」  
ドサッ…。  
言葉を言い終えることなく、フェイトは力なくカクン、と膝を折りフローリングの床に倒れた。  
「…ゴメンなさい。少しの間、眠ってもらうわ。」  
聞こえているハズもない相手に言葉を投げかけるマリア。  
この異常な事態に反して、彼女の顔は不敵な笑みを浮かべていた。 
 
「ぅ……ん……。」  
フェイトがまぶたを開けると、目にぼやけた天井が映った。  
背中がふわふわする。どうやら自分はベッドに寝転んでいるらしい。  
部屋は、暗い。窓から射す月の光だけが部屋を照らしているだけである。  
(…寝てしまったのか?)  
だが、ベッドに寝た覚えがない。  
(き、記憶を整理してみよう。僕は宿に戻った後ソフィアとアップルパイを食べて、  
 その後は二人でずっと喋ってて、部屋に戻って、それから――)  
「……ぴちゃ…ちゅ……にちゃ……。」  
妙な音が聞こえる。その音の出元を見ようと、フェイトは顔だけ起こした。  
だが、そこで繰り広げられている光景を見てフェイトは驚き目を丸くする。  
そこには一糸まとわぬ姿のマリアが自分のモノを一生懸命舐めているのだ。  
「…ちゅぱ…んっ…あ、フェイト…。目を覚ましたのね。」  
「なっ…!マリアッ!何やってるんだよ!」  
「…何って…判るでしょ?…ぺろっ…」  
「わ、判るって……うぅっ…!」  
ペニスの裏スジを這う舌の感触にフェイトは身を震わせて悶える。  
 
「フェイト、感じてくれてるのね…。ちゅぱっ…ぺろ…。  
 んんっ…嬉しいわ。」  
「何言ってるんだよっ!今すぐこんなことやめ――え?」  
手でマリアを払いのけようとしたが、その払いのけようとした手がピクりとも動かなかった。  
手が、まるで枷をつけられているかのように、重い。  
ならば足で、と思って動かそうと試みたが、足も同じく全く動かなかった。  
「抵抗しようとしても無駄よ。さっきのケーキに薬を混ぜておいたの。  
意識や感覚はあっても、数時間は動けないわ。」  
マリアがクス、と含み笑いを漏らす。  
「な、何のつもりでこんなコトを…。うっ…くぅ……」  
手で上下にペニスをシゴき上げながら、舌で亀頭に舌を這わせる。  
つつつ…と、舌が動く感触にフェイトはうめき声をあげた。  
「…どう?…気持ちいい?…貴方の為に、練習してたのよ。ずっと…。んっ…じゅぽっ…」  
鈴口を舌の先端でチロチロと刺激したと思ったら、次は喉の奥までくわえ込むディープスロート。  
時間が経つにつれ、ジュボ、ジュボ、と水っぽい、淫猥な音が大きくなっていく。  
フェイトが感じるたびにマリアも息を荒くした。  
 
「くはぁっ…!マリア、もう、ダメだッ!い、イクッ!」  
その声と共にマリアの口の中でフェイトのモノが脈動を始めた。  
「まだダメよ。」  
「ぅあっ…!な…え?」  
ペニスの根元を握られ、射精を抑えられたフェイトは顔をしかめる。  
一度噴出しそうになった物が収まった事を確認すると、マリアはそのペニスの勢いが失われないよう、  
かつイってしまわないようにとゆっくりとしたペースで手で上下運動を繰り返した。  
「さっき貴方…やめろっていったでしょ?だから仕方なくやめたのよ。  
 私、貴方には無理矢理したくないから。」  
「な…そんな……くっ…。」  
マリアが手の動きを少しだけ速める。  
「ああッ!マ、マリアッ…!出――。」  
「ダメ。」  
またも、器用にフェイトのペニスの根元を掴み、射精を妨げるマリア。  
フェイトの息は荒くなり、額には汗が浮いている。  
例えるなら地獄。イこうにもイケない、まさにヘビの生殺し状態のフェイトは苦悶に顔を歪めた。  
マリアもそんなフェイトの様子を見て興奮を隠し切れないのか、左手が秘所に伸びている。  
 
「マ、マリア…。頼む。もうやめてくれないか、こんな事……。」  
「だからやめてるでしょ。」  
「そ、そうじゃなくて、その……。」  
「何?」  
フェイトは顔を赤くして、マリアと目を合わせないようにそっぽを向く。  
マリアも勿論『何?』と尋ねてはいたものの、フェイトが言いたい事は分かっていた。  
『そうやって止めるのをやめてくれ』と言いたいらしい。  
「はっきり言わないと分からないわよ。ほらほらぁ。」  
「うぅッ…はぁっ……!」  
数秒だけ手を激しく上下させ、止める。  
「言わないとずっとこのままよ?ほらほら、言いなさい。言ったら楽に――」  
「分かった!言う!言うよ!  
お願いだからイかせてくれ!もうイきたくてしょうがないんだ!」  
マリアの口がニヤリと笑う。  
「じゃあイかせてあげる。」  
「………ぅう……。」  
大声で叫んでしまった。負けてしまった。  
望んでもいないハズだった性行為。興奮などするはずがない。  
例え仮にどんなに気持ちよくっても、心まで気持ちよくなることはない。そう思っていた。  
なのに今はどうだろう。  
性欲に心まで支配された結果、あんな恥ずかしい言葉を吐いてしまった自分が情けない。  
今も、『楽になれる。やっとイける』と、頭の何処かで期待している自分がある。  
涙が溢れてきた。涙を拭おうにも手は薬で動かなくなっていた。  
 
「…じゃあ、早く……。」  
「でも条件があるわ。」  
「え?」  
フェイトは不平の声を上げる。  
何だ、イかせてくれるんじゃないのか?  
自然とそのような言葉が浮かんでくる。  
「…条件って……。」  
「『僕はマリアが好きだ。愛してるマリアにイかせてほしい』って言うのよ。」  
「……!」  
さきほどまで性欲に支配されていた理性がふと戻ってくる。  
『僕はマリアが好きだ』  
ダメだ。そんな事言えるワケがない。例え言えても、それは偽り。  
なぜなら、自分は――。  
「ソフィアが好きなんだ。僕は…。」  
フェイトがボソりと呟き、そして続ける。  
「…やっぱりもういいよ。やめてくれ。  
 僕はソフィアが好きなんだ。ソフィア以外の事は考えられない。」  
マリアも刺激する手を止め、彼の言葉を聞き入っている。  
さらにフェイトは続けた。  
「もちろん、マリアも嫌いじゃない。大好きさ。  
 でも…そーいう…恋愛や性の対象には見れないよ。」  
 
ボソリボソリと外で鳴くフクロウの声にかき消されそうなほど小さい声で話すフェイト。  
例えウソでも、それだけは言えなかった。ソフィアを除いて他の女が好き、などとは、とても。  
自分の中で燃えていた男の本能が、どんどん冷めていくのが分かった。  
「今日のことは絶対に誰にも言わない。だから、もう部屋から出てってくれ…。」  
「知ってたわよ。そんな事。」  
「……え?」  
フェイトは驚き目を見開く。  
「知らなかったらこんなことするはずないじゃない。」  
「……じゃ、じゃあ…何故」  
マリアは顔を俯かせた。  
「……私、ずっと前から知ってたの。貴方がソフィアの事好きだって…。」  
「………。」  
「町に着いて休憩しようって時は、今日みたいにずっとソフィアと一緒…。  
楽しそうにお話して、一緒に店を見て回って…。」  
「あ、あれは――。」  
「私に言ってくれたことある?『町、一緒に見て回ろう』って!?」  
マリアの双眸から涙が一筋、月光が反射し光って流れ落ちた。  
「勿論、私だってはじめの内は諦めようと思ったわ。  
 …でもね、無理だったのよ。貴方が、半端に優しくしてくれるから…。  
 彼女に――ソフィアにあげるハズの愛情を、少しだけ私に分けてくれるから……。」  
マリアの声は震えていた。  
 
いつもの気丈な振る舞いの、気の強い彼女とは思えない。ましてや、一組織のリーダーとも見えない。  
フェイトの目には、何処にでも居る少女にしか見えなかった。  
「……マリア……。」  
「……勝ち目なんて無かったのよ。  
 私、ソフィアより料理だって下手だし、胸だって無いし…。  
でも、貴方が好きで好きで堪らない。私のものにしたかった!  
……だから、仕方なかったのよ。こうするしか。」  
マリアは涙を拭って、ベッドに上がった。  
そして、フェイトの頬に軽くキスをする。  
「……ゴメンなさい、フェイト。」  
「いや、僕の方こそゴメン。  
 何て言ったらいいのか分からないけど…その――」  
「…私、もう…止まれないみたい。」  
「……ぇ?」  
マリアはそれだけ言うとフェイトのペニスの方へ向き直った。  
ぎゅ、と萎えかけた茎を握り、先端に舌を這わせる。  
「くっ…!マ、マリア!」  
「ぴちゃっ…ぺろっ…くちゃ…」  
唾を垂らしてローションのようにして、ペニスをしごきたてる。  
先ほどの行為の余韻がまだ残っていたのか、フェイトのモノはすぐに元気を取り戻した。  
 
「ぅっ…!や、やめてくれマリア!」  
「………。」  
マリアは無言でフェイトの腰の上にまたがり、右手でフェイトのペニスを秘所にあてがった。  
マリアの陰部はすでに湿り気を帯び、透明の液を滴らせている。  
「マ、マリア……っ!」  
「いくわよ?」  
マリアはそのままフェイトのモノのが自分の中に入るように、ゆっくりと腰を降ろした。騎乗位である。  
フェイトのペニスが、マリアの陰部にゆっくりと埋没していく。  
きつい締め付けと、膣内の暖かい感触に、フェイトは息を漏らした。  
「くっ…キツ……。マ、マリア、今ならまだ…」  
そして――。  
ブチブチッ。  
「くぅぁ…い、痛ぁ……。」  
歯を食いしばり、処女膜を破られた苦痛に顔を歪めるマリア。  
フェイトのペニスを伝って、血と愛液が混ざったモノが滴り落ちる。  
「んっ……クッ……ど、どう?フェイト…。私の中……。」  
「……うぅ…はぁ……くっ…ああぁ……。  
 マ、マリア…。お願いだから抜いてくれ…。ホント、ヤバ――。」  
マリアの処女特有の締め付けにフェイトのモノが膣内でさらに大きくなる。  
マリアは苦しそうに、だが嬉しそうに微笑を浮べた。  
 
「…気持ちいいのね。よかった…。じゃ、動くから…。」  
フェイトは薬で動けないので自分で動くしかない。  
おそらく大変痛いんだろうが、彼女はゆっくりと腰を上下し始めた。  
「んんっ…!くはぁっ……ど、どう?フェイトぉ…?」  
「…ああぁっ…!…ふぁっ…!マリア…抜いて…」  
「…あぅっ…んぅ…分かってるわ。いっぱいヌイてあげるわ。好きなだけ…。」  
「ち、違……。」  
フェイトの胸板に手を置いて、腰を振りつづけるマリア。  
ぐちゃ、ぐちゃ、と卑猥な音が部屋の中で響く。  
「ああああっ!く……気持ちよすぎ…る……」  
「ぅんんっ…わ、私も…少しずつ良くなってきた……っ」  
薬が切れかけているのか、大の字に開かれたフェイトの手が、キリキリとベッドのシーツを掴んでいる。  
マリアはそれを見逃さなかった。  
「…もう、時間が無いみたいだから…。すぐ、終わらせるわね。」  
「え?時間って……うあああッ!」  
マリアは急に激しく腰を動かし始めた。  
パチン、パチン、と肌がぶつかり合う音が部屋中に響き渡る。  
マリアもまだ痛むのか、片目を瞑りながら行為に没頭した。  
 
「ぁああッ!も、もう、ダメだッ…!!退いてくれ!じゃないと、中に――。」  
「んくっ…!だ、出して!そのまま!私の中に!」  
「くあああッ!もう…。マリアぁぁッ!」  
「はぁぁぁっ…。フェイトのが、中で……。」  
フェイトのペニスが一際マリアの中で大きくなると、その先端から白濁液がほとばしる。  
精を膣内に受けたマリアも、体の仰け反らせて、ビクン、ビクンと痙攣した。  
「んふぅ……。これで…フェイトは私のもの……。」  
マリアの不敵な笑みがフェイトの瞳に映る。  
それを最後に、彼の視界は暗くフェードアウトしていった。  
 
「……うわああッ!!」  
ガタンッ!  
「痛ッ…!」  
いきなりの落下。  
クラクラする頭を上げてみると、目に映ったのはワックスで綺麗に磨かれた木のフローリング。  
体を起こすと、そこは宿の自分の部屋だった。  
後ろを見ると、シーツが丸まってグシャグシャになり、掛け布団が下に落ちてしまっているベッドが。  
どうやら、ベッドから落ちてしまったらしい。  
――チュンチュン。  
窓の外では朝を祝福するように、小鳥達がさえずっていた。  
「……夢?」  
思い出すだけで頭が痛くなる。  
昨日の、あのおぞましい事件はただの悪夢なのか。  
「…ハァ、ただの夢か…。よかった。」  
フェイトは安堵の溜め息を漏らす。  
――そうだ。冷静になって考えてみればあんなことあるわけがない。  
よりにもよって、あのマリアが、だ。  
全くもってタチの悪い悪夢である。  
「…フェイトー!朝ご飯だよー!」  
廊下からソフィアの声が聞こえる。  
どうやら宿が用意してくれた朝食が出来たらしい。  
前にもこの宿に泊まったコトはあるのだが、その時の朝食は格別だった。  
その時の味を思い出して、ぎゅるる、とフェイトの腹が反応する。 
 
「あぁ!分かった、今行く――…ゲ…。」  
フェイトは立ち上がる時に、股間に違和感を覚えた。  
何かベタベタする――この感触は、まさか。  
「…………。」  
フェイトはおそるおそるトランクスの中を覗き込む。  
「……やっちゃった。」  
溜め息。  
案の定、フェイトのパンツは濡れていた。おもらしではない、アレで。  
まぁ、あんな夢を見てしまったワケで。出てない方が可笑しい。  
…それにしても、リアルな夢だった。――いや、そうじゃなくて。  
「ソフィア、先言っててくれ!すぐ着替えるから…。」  
ソフィアは、うん、と返事して走っていった。  
そんなソフィアをドアの向こうから見送ったフェイトは、  
しぶしぶ、自分の荷物から新しいトランクスを取り出した。  
「ったく…この頃抜いてなかったからなぁ…。」  
がくっ、と肩を落とすフェイト。  
「また、新しいのを一着買うか。」  
今日はテンションが上がりそうもない…。  
 
――バタン。  
「ふぅ…最悪だ…。」  
とりあえずみんなにバレないようにあのトランクスを処分しなくては。  
クリフあたりに見つかったらただ事じゃすまない。  
間違って部屋に入られぬようにカギを掛けて、宿の食堂に向かって歩き出そうとするその時だった。  
「……あ…フェイト…。」  
眠そうな顔をした少女。  
フェイトは心臓が飛び出そうな程大きく鼓動を打った。  
マリアだ。  
「お、おはっ…おはよう、マリア。」  
あんな夢を見た後だ。何となく顔があわせ辛い。  
勿論、自分の夢の内容など、彼女が知る由も無いのだが…。  
「…何かヘンよ?貴方…。」  
「い、いや、別に…。」  
訝しげにフェイトを見つめるマリア。  
「…ま、いいわ。ところで、昨日の話なんだけど……。」  
「えッ!?」  
ビクンッ、と体全体が震える。  
やっぱり夢じゃなかったのか。だとしたら、大変な事をしてしまった。  
 
(あの時僕はマリアの中に――。)  
最悪のヴィジョンが頭の中に次々と浮かんでくる。  
自然にフェイトの額には汗が浮いてきた。  
「…ホラ、その…ゴメン。  
 街中で、私…貴方の事睨んじゃったでしょ?あの時、機嫌が悪くて…。」  
「……え?」  
――じゃなかった。  
本日2度目…否、三度目か。大きな安堵の溜め息をつくフェイト。  
「ちょっと、町でヘンなオヤジに絡まれてイライラしてて…ってどうかした?」  
「え?あ、いいや!何でもないよ、何でも!」  
フェイトはアハハ、と乾いた笑いを浮べた。  
『機嫌が悪くて睨んだ』とは遠い夢の何処かで聞いたような話だが、それは敢えて考えないでおく。  
「それで…お詫びに、と思ってケーキ買ってきたんだけど――」  
「いい、いらないッ!」  
「え?」  
手に持っていた袋からケーキの入った箱を取り出すところでマリアの動作は止まる。  
「…あ、その…僕、今ダイエットしててさ…。」  
マリアは目を細くして、疑わしげにフェイトを見たが、その後すぐにケーキを袋の中に仕舞った。  
「ダイエット…ね。なら仕方ないわ。」  
「あぁ、ゴメンな……。」  
もう、ケーキはこりごりだ。出来れば、見たくもない。  
数ヶ月の間、ケーキは食べられないな、とフェイトは溜め息をついた。  
 
「それじゃ、もう御飯できてるみたいだから…私はもう行くわよ?」  
それだけ言うと、マリアは一度あくびをしたあと寝起きで重い足を引きずって食堂へ向かった。  
「……やっぱ、夢か。……だよな。」  
フェイトはこくん、と頷き一人で納得した。  
 
 
 
そして時は流れ……。  
 
フェイト達は創造主、ルシファーを破り、世界は危機を脱した。  
晴れて、フェイト達の住む、かつてエターナルスフィアと呼ばれていた世界は自由となった。  
 
何も無い草原。  
ルシファーを倒した後、フェイト達はそこに立っていた。  
 
「…ねぇ、フェイト。これから、どうする?」  
ソフィアが尋ねる。  
「…僕かい?僕は…どうしようかな。君と…静かなところで、二人で暮らしたい。  
 小さな星でさ、小さな家を立てて、子供つくって、小さな家族で幸せに暮らすんだ。」  
「え…それって…。」  
ソフィアが顔を赤くする。  
「ハハ、まだまだ先の話だけどさ。いつか…そうしよう。」  
「……うん!」  
二人は同時に照れ笑いを浮べた。  
 
「おーい、シャトルが来たぞー!」  
遠くでクリフの声が聞こえる。  
彼の通信機から発されていた救難信号が、近くを通っていたシャトルに傍受されたらしい。  
「ほら、シャトルが来たみたいだ。さぁ、帰ろう。」  
「うん。」  
ソフィアは大きく頷くと、シャトルに向かって走って行った。  
自分は仲間のみんなが乗った後、最後にシャトルに乗り込むつもりである。  
皆の背中を見届けた後、自分もシャトルに近づこうと歩を進めた。その時。  
「フェイト。」  
呼び止められる。  
振り返ると、そこにはマリアが立っていた。  
「え?マリア、どうかした?」  
「え、えっと…こんな所で言うのもなんだけど、とっても重要な話なの。」  
俯き加減に言うマリア。  
「何だい?僕で良ければ相談に乗るよ。」  
「ほら、あの時の夜、覚えてる?ペターニの…。」  
「…?」  
フェイトは耳を疑った。  
「それで、その…―――ちゃったの。」  
「…え?な、何て?聞こえない――」  
「出来ちゃったの。貴方の子供が。」  
「―――――え?」  
 
〜fin〜 

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