それは、穏やかな昼過ぎぐらいの時間に起こった。  
 
 
「・・・・・ちょっと・・・・ウソでしょ・・・。」  
 
シーハーツ国内でも有数の大規模商業交易都市であるペターニ。この町の中のとある民宿で、  
青い長髪をなびかせたクォークのリーダーであるマリアの舌打ちと呟きが静かに響いた。  
宿の予約をしようとしていたのだが、彼女には珍しく何かミスをしたらしい。  
パーティーの所持品等を入れてある共同管理の袋の中をゴソゴソと探しているか、探し物が見つからないのか  
彼女の顔色には焦りが出ていた。  
 
「どうか・・・・したんですか・・・・・?」  
 
傍にいたソフィアが、そんなマリアの様子を見てたずねる。  
だがマリアはその問いには答えず、ただひたすら袋の中のモノをかき回して探し物を探していたが  
数十秒後になってその手は止まった。  
手が止まったのでソフィアはどうしたのだろうと思いマリアの顔を覗き込んでみると、そこにあった  
彼女の顔は、普段の冷静さからは想像し難い程の焦りの色が浮かび、額からは汗が滝のように  
にじみ出ていた。  
 
「・・・・・・・・・ソフィア。」  
 
「は、はい?」  
 
唐突にマリアの口から出てきた自分の名前に対し、ソフィアは少し動揺しながらも返事する。  
マリアは袋を床に置くと、ソフィアに向きなおしソフィアの両肩に自分の両手をポンと置いた。  
 
「ソフィア、落ち着いて聞いてちょうだい・・・。実は今、物凄く大変な事実が発覚したの。」  
 
「な・・・なんですか?その事実って・・・。」  
 
かなり真剣なマリアの眼差しにソフィアは思わず圧倒されて唾をゴクリと飲み、一体マリアが  
何を言い出すのかを待った。  
そして、マリアの口が開かれる。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サイフ落としたわ。」  
 
 
 
 
 
 
          *      *      *      *  
 
 
 
 
 
「・・・・・で、落としちゃったお金は・・・全部で100万フォル・・・どうするん・・・  
ですか・・・?」  
 
数十分後、ペターニの中心にある中央広場に設置されているベンチの一つに座りながら、今後の  
対策について協議しているマリアとソフィアの二人がいた。  
 
「・・・とにかく、今後のことを考えて、当面の宿代と食費だけでも最低限確保しないとマズいわね。  
 とにかく方法を考えないと・・・。」  
 
そう腕組みをしながら呟くマリア。だが、なかなかいい案が浮かんでこないのか、数分間ぐらい  
様子を見ても、マリアは頭の中で何かが閃いたような素振りは見せず、ずっと思考中ポーズのままで  
時間だけがむなしく過ぎていく。  
そんな時間の流れを嫌に思ったのか、早く事を進めようとソフィアが口を開いた。  
 
「・・マリアさん、さっきから思ってたんですけど、フェイト達に事情を話して協力をあお」  
 
「ダメッ!!!!!それだけは絶ッ対にやめて!!!!!」  
 
ソフィアの言葉が終わらぬうちに、マリアがソフィアの肩を両手で掴みながら彼女の言葉をさえぎる。  
 
「考えてもみて!今回の失態は私が原因で起こったのよ!それなのに、いくら仲間とはいえ、私の  
 失態を数人で尻拭いしてもらうなんて私のプライドが許さないわ!!それに、自分で落とし前  
 つけるから手伝わなくていいと言わなくても、仲間思いの彼らなら断っても手伝うに決まってるわ!  
 私は自分でやったことの責任は自分で取りたいの!分かる!?」  
 
「は、はい・・・!」  
 
かなり真剣な目つきで訴えられたソフィアは、思わずその気迫に首をコクコクと縦に振ってしまう。  
それを確認したマリアは両手をソフィアの肩から下ろすと、今度はソフィアに問いかけてきた。  
 
「ふぅ・・ところで、何かいい案ないかしら?フェイト達にもバレずに、短時間で大金を稼ぐ方法が  
 いいんだけど・・・。」  
 
「う・・うーん・・・・なんでしょうね・・・?」  
 
ソフィアも方法なるものを考えるが、短時間で仲間にバレずに大金を稼ぐ方法など、そう簡単に思い  
浮かぶのはムリというものだった。  
 
「・・・・・・・・そうだわ。」  
 
ふいに、マリアの頭の上でマメ電球が光った。そうしてマリアはおもむろに通信機を取り出すと、  
どこかに重力通信を掛け始める。  
 
「??」  
 
当然、ソフィアはどこに掛けるのかが分からない。まさかクォークの影響力を利用して誰かに借金でも  
無理に頼むのだろうか。いや、借金なんてしようものなら、明細書や関係者確認のメールとかが届いて、  
絶対フェイト達にバレる。ではどうするのか。それを聞こうとした時、重力通信を掛けた先の相手が出たのか、  
マリアが通信機を耳にあてながら話し始めた。  
 
 
 
「あ、もしもし、○×さんのお宅ですか?私、連邦警察宇宙交通管理局のフィッターと申しますが、  
 実はこの度おたくの娘さんが乗った宇宙船がムーンベースの第3船着場付近で他の宇宙船と衝突事故を起こされまして、  
 たまたま相手の宇宙船に乗っていた妊婦の方がショックで流産されてしまったんですよ。  
 相手側は法廷沙汰も辞さないと激怒しておりまして、どうか事を穏便に収めるためにも  
 今すぐ指定口座の方に示談金として100万フォルほど・・・」  
 
 
バキャッ!  
 
 
ものすごく鈍い音が響いた。凶悪なまでにひねりまがった鉄パイプを持ったソフィアが、まるで飛んできた  
野球ボールを打つような感じで鉄パイプを勢いよく振り、次の瞬間には通信をしていたマリアは通信機ごと  
宙を浮き、ベンチから10メートルぐらいの所にまで吹っ飛ばされていた。  
殴られたマリアは顔を引きつらせながら抗議する。  
 
「ちょっと!!何するのよ!?いまの調子でいけば大金ゲットできたのにっ!」  
 
「クォークのリーダーともあろう人がなに振り込め詐欺なんかやってるんですかっ!!しかもクリフさんの  
 名前まで使って!!犯罪ですよ!?」  
 
「なに甘ったれたこと言ってるのよ!!犯罪だろうが合法だろうが、こうでもしなきゃ短期間で稼げないの!!  
 それに世の中は食うか食われるかの弱肉強食なのよっ!!騙される方が悪いに決まってるじゃない!!」  
 
「なに訳わかんないこと言ってんですか!!そんなこと言ってると、フェイト達にお金落としたこと言いますよ!?」  
 
ここで初めてマリアの自己中心的極まりない反論がピタリとやみ、彼女の額を一筋の汗がスーッと流れって  
いったのが分かった。  
 
「・・・・わかったわ、別の方法でいくわよ。」  
 
そしてあっさり別の方向への転換を認める。どうやら本当に他人に尻拭いしてもらうのが、生来から持ち合わせてる  
責任感や変なプライドが許さないらしい。  
マリアは取り合えず衝撃で乱れた髪と服装を整えると、ふと目に入った、町の角にあった無料配布のアルバイトの  
求人情報を手にしてまたベンチの方へと戻ってきた。  
 
「え?・・・アルバイトするんですか?」  
 
ソフィアが不思議そうに尋ねる。アルバイトでは、マリアが言うような短時間で大金を稼ぐなどということは  
ほぼ不可能である。時間をかけてコツコツやるのであるのであれば大金入手は可能だが、それだと短時間でという  
条件に当てはまらなくなる。  
 
「一応目を通しておきたいの。もしかしたら、なんかあるかもしれないでしょ?」  
 
そう言いながらマリアはパラパラとページを捲りながら、時間的にも金額的にも好条件なモノを探し出し始めていた。  
だがそう簡単にはやはり見つからないのか、10分ぐらいたっても未だにマリアはページを捲り続けている。  
やがて、流れる時間にじれったさを感じたソフィアが他の方法を探さないかと言おうとしたその時だった。  
 
「・・・・・・・あったわ・・!!」  
 
「え!?」  
 
あまりにも予想外のマリアの返事に、思わずソフィアはマリアが目に留めている記事の部分にみを乗り出して見入って  
しまう。そして見たと同時に、ソフィアの顔には困惑の色が一気に広がった。  
 
「え・・!?この・・バイトって・・・・。」  
 
「どう?時間的にも金額的にも申し分ないわ」  
 
マリアが誇らしげに言う。確かに金額・時間の条件はマリアの理想に当てはまっているが、職の内容が内容だけに  
ソフィアはうろたえた。  
 
「け・・・けど、いいんですか?この仕事って・・・」  
 
「いいのよ、目的のためには躊躇なんてしてられないわ!今から採用面接受けにいくから、あなたも身元保証人として  
 来てしょうだい!」  
 
「ええ!?い、今ですか・・・って、ちょっと待って・・!!」  
 
だがマリアはソフィアの抵抗には耳も貸さずにソフィアの腕をガッチリと掴むと、そのままズルズルと引きずった状態で  
目的のバイト先へと行くべく、大通りの人並みに姿を消していった。  
 
 
 
 
 
 
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