服の生地越しからでも伝わって来る…(あたたかい…)   
 
肌の温もりがこれ程までに温かく感じられるのは、外気が冷たい所為でも、  
人肌が恋しい所為でも無いと思う…。  
 
抱き合っているのが彼女だから……。そう、愛しいクレアだからだと感じた。  
 
楡の木の側でクレアと抱き合う。  
彼女は今、自分の腕の中で安らぎを求めていた。  
励まし合い、互いに同じ道を歩んで来た仲だが、思い起こせば、こうして一方的に頼られたのは  
たぶん、これが初めての事かも知れない。  
 
人に頼られる。 それも、自分が勝手に恋焦がれている『想い人』に……その事が  
狂おしいまでに、心と感情を昂ぶらせた。  
その感情の潮流に流れるままに身を任せ、抱きしめている腕に力を込めてみる。  
クレアが痛がらない様に様子を伺い、細心の注意を払って少しずつ…。  
彼女と重なり触れ合っている身体の部分に、抱き寄せた分だけ確かな質感と感触が返って来る。  
クレアが腕の中で微かに動く。と、その度に彼女の『生』が直に自分の身体に伝わり、  
それが喜びの感情へと変わって行った。  
 
さり気無くクレアの呼吸とタイミングを合わせ、同調させてみる。  
彼女が息を吸う……自分も吸う。  
彼女が息を吐く……自分も吐き出す。  
その行為を何度か繰り返す。特に深い意味の有る事では無い…。  
だが、そうする事により、クレアのとの『何か』と少しでも近付け、想いを共有出来る気がした。  
ドキドキと更に鼓動が高まる。  
心なしか、彼女の心音も高まっている気がした。  
 
月並みな考えだが、この時が永遠に続けばいいのにと願った。  
いっその事、このままクレアと溶け合い、ひとつの『塊』になりたいとさえ思った。  
そうすれば、いつも一緒に居られる。ずっと一緒に。  
一緒に悩み。  
一緒に笑い。  
一緒に怒り。  
一緒に悲しみ。  
一緒に眠り。そして、同じ夢を一緒に見る。  
日が昇り、沈み、次の朝日が昇っても同じ事を繰り返す。  
が、決して退屈で怠慢な日常にはならないと思う。彼女と一緒なら。  
そして、そんな日々に感謝し、僅かな喜びも一緒に噛み締めながら行けるだろう。  
根拠は無い…だけど、そう信じている自分がそこに居た。  
永遠に…ずっと…ずっと。平穏で、大切で、何ににも替え難い大切な二人だけの日々。  
クレアが居てくれたら、そこが自分の『求めている場所』になる。  
他人から見ればささやかで小さな望みでも、自分にはそれが掛け替えの無い、真理ともいえた。  
 
そんな平穏を望む心の片隅で、認めたくは無いが全く逆の感情がどす黒くドロドロと  
渦を巻いているのを感じる。  
実のところ、それを押さえ込むのに、かなりの神経と労力を要した。とても厄介な存在。  
 
クレアを…そして、今の関係さえも全て打ち壊してしまいそうな程の破壊の感情。  
 
『クレアの肉体を貪り尽くす……力に任せて、全て…』  
 
彼女の意思に構わず強引に押し倒し、衣服を全て剥ぎ取る。  
露になった裸体に舌を這わせ、全てを舐める…綺麗なところも、汚いところも全て…。  
そして、クレアの肉体に自分の想いの全てをぶつける。精が尽きるまで休む事無く…。  
拒絶しょうが、泣き喚こうが関係無い。  
自分とクレアの力差なら、それが充分可能な筈だ。  
 
それは感情では無い…と、自分で否定する。それは純粋な程汚らわしい  
『欲望』そのものだと。  
おそらくそんな事態に陥ってしまって、その時自分に良心が欠片でも残っていたら、  
迷わず舌を噛んで命を絶つ事を選択すると思う。  
 
手折りたく無いから…自分の側で慎ましくも力強く咲く『クレア』と云う花を…。  
 
自分はその花の側に居る庭師でいい…泥にまみれ、クレアにあたる日を遮るものから身を呈して守り、  
時折、愛情という、水を注ぎ見守る庭師で…。  
それでいい……。  
それで…。  
 
「ありがとう…ネル」クレアは落ち着きを取り戻したのか、そう言葉にすると  
にっこり微笑み、ネルの身体から離れて行った。  
「あっ…」ネルは彼女を追う様に手を伸ばした…が、すぐにその手を引き戻した。  
 
そう…。  
望んでいた『永遠』の時間が終ったのだと、自覚して。  
 
「じゃあ、戻りましょうか…」風で少し乱れた髪を手でゆっくりと撫でながら、クレアは  
ネルを静かに促した。  
「そうだね…」夢からまだ覚めやらぬ感情に鞭を打ち、ネルは親友に頷き歩き出した。  
 
凍てつく寒さが身に染みる…。つい先程離れたばかりなのに、クレアの温もりが既に恋しかった。  
(ばかだな…私は…)盛り上がっていたのは、自分一人だけ…。  
クレアにとって先程までの抱擁は、偶然で有り、只の気まぐれでしか無い。  
現に今、ネルの先を進んで歩いているクレアは……。  
 
「…クレア?」先を行くクレアの様子が少しおかしい事に気が付く。  
ふらふらと、定まらない足取り…。  
「大丈夫かい?」頼り無げな彼女が心配になり、思わず声を掛ける。  
「えっ?」ネルの声に振り向くクレア。  
(………)暗がりで良く確認出来ないが、妙にトロンとした表情をし、頬が赤くなっているように見える。  
「大丈夫?…熱でも有るのかい?」庭師としては、花の健康状態が心配なところだった。  
 
もっとも、他者を心配する余裕は、今のネルにはそれ程無いのだが……。  
と、云うのも、クレアとの抱擁で身体に火が付いてしまい、大変な状態だったからだ。  
平静を装ってはいるものの、花芯は疼き、液が膣壁から滲み出ている始末だった。  
正直なところ、歩くのさえおぼつかない。  
力の入らない足に言う事聞かせるのがやっと………そこまで考え、ネルは、ハッとした。  
(まさか……)目の前のクレアを見る…ふらふらと今にも倒れそうな彼女を…。  
(もしかして…クレアも…)自分と同じ状態ではないのか?  
そう思うのは、自分の勝手で希望的な推測を多量に含んだ考えかも知れない。  
だけど…。  
 
「ええ…平気ですよ」クレアは殊更大袈裟にポーズまで作り、良好な状態をアピールする。  
(…無理をしてるな)いつも彼女が必要以上に明るく振る舞う時は、何かを隠している  
時だった。  
現に今でさえ、生まれたての仔犬のように、ふるふると足が小刻みに震えている。  
(大丈夫な筈が無い…)  
 
「………」どうしたものかと思う…。  
感じているのかい?…とも直接聞けないし、間違っていたらそれこそ取り返しがつかない。  
どうすればいいのか……。  
(それに…)知ったところでどうなるのだろうか?  
そして、その事実と向き合った時、自分はどう行動すればいいのか…。  
ネルの思考の棚に、次々と難題が積み上げられて行く。  
 
「じゃあ、私はメアリーを待たせてますので……」  
「えっ?」クレアの言葉で、思案に暮れている顔を上げる。そして、辺りを見渡した。  
ネルが考え込んでいる間に、村の仮の『作戦本部』前まで来ていた。  
「あっ…」せっかくの二人きりの時間だったというのに、勿体無い事をしてしまった…。  
が、後悔しても時間は巻き戻せない…。  
「クレア…」呼ぶ声が僅かに上ずる。  
扉のノブに手を掛けていたクレアが、「えっ?」と振り返る。  
「あっ…あの……」少しの間 「……がんばって」考えた末に出た言葉がこれか…と、  
ネルは自身の肩を落とした。  
(一体、何をがんばるのか…)と。  
それでもクレアは、こくりと頷いて微笑んだ。  
「それでは…」再び頷き、扉を開けると中へと入って行く。  
 
外に一人取り残されるネル。  
「はぁっ…」と、深い溜息。  
自分は何をしてるのだろうと、考え込む。  
一個人としての意思や理想を持ち、身体だって成熟している立派な大人が…いや、それだけでは無い  
シーハ―ツという、一国の要職の任に就き、多くの部下を従えている自分が、  
彼女の…クレアの前では、落ち着きの無い小さな子供みたいになってしまう。  
 
「……あっ」クレアとのやり取りという峠を越え、少し落ち着いたのか、『あの』感覚が  
じわじわとぶり返す。  
それもかなり危険な状況だった。  
慌てて扉に駆け寄り開くと、音を経てずに廊下を走る。  
自分に用意された部屋は階段を上がって、すぐの左側の部屋だった。  
階段を再び素早く移動…その身のこなしは流石は『隠密』と、いったところだった。  
そして、割り当てられた自分の部屋の中へ…。  
 
パタン……。静かに扉を閉める。  
と、同時にネルの内腿の付け根から、ぞわぞわと小さい虫が這い降りて行く様な  
感触が伝わった。  
 
(……危なかった)  
確認しなくても、自分の太腿を這う物が何で有るかは理解出来た。  
それは、下着の生地から吸収の許容を超えて溢れ出した、ネルの『秘液』だった。  
 
「はぁっ…」っと、深く艶の有る安堵の溜息をつく。  
後少し早かったら、クレアの前で淫液を滴らせていたかも知れない…。  
そんな無様な姿を親友に見られたら、一体どうなっていたのか?  
考えただけでも、背筋が寒くなる。  
自分の身体ながら、『感じ易い』この体質には、いつも迷惑を掛けられっ放しだった。  
幾度となくクレアの前で、今回の様なピンチを迎えた事かと、いまいましさと  
不甲斐なさを心の中に募らせた。  
 
この部屋に来るまでに無理をした所為か、急に足の力が抜ける…。  
 
ふらふらと、病人の様なおぼつかない足取りで、部屋の中を数歩進んだ。  
そして、目的のベッドまで辿り着くと、そのままの姿勢で前のめりに倒れ込んだ。  
どこか古く頼り無げなそれが、小さく軋んだ音を経て、ネルの身体を  
優しく受け止める。  
 
(……お日さまの匂いだ)綺麗に洗われたシーツから、日に干した時の独特の  
香りが漂っている。  
嫌いな匂いでは無い…むしろ、自然と純朴さを感じさせる好みの香りだった。  
ネルは、この香りを嗅ぐと不思議と、自分の小さい頃の事を思い出した。  
 
(あっ…!)  
慌てて、『ある事』に気が付き、下半身を浮かせる。  
自分の下着は今、『蜜』が溢れ落ちる程に、濡れていたのだ…。  
こんな状態でベッドに横たわっていたら、シーツに怪しいシミを作ってしまう。  
腰を浮かせたまま、恐る恐る右手を下着へと持って行った。  
ちゅっ……。  
そこに触れた瞬間。粘り気の有るネルの液によって、下着と肌の間に閉じ込められていた  
空気が、湿った音を経てて逃げて行った。  
「んっ…」今回の濡れ具合も相当なもののようだ。触れた生地の表面から、ヌメヌメと水分が滲み出し、  
指先全体を汚した。  
 
(…いつもこんな感じだから)黒い下着しか履けないのだ…。  
全くもって、難儀な身体だ…と、自分の事ながら呆れ果てる。  
出来れば下着ぐらい、女の嗜みとして自由に選びたものだが、それは叶わない  
事とネルは自覚し、諦めている。  
こんなに濡れ易い体質の自分が、白い下着を着けたらどうなる事か、試さないまでも  
容易に想像が出来たからだ。  
だから、黒い厚手の下着はいつも手放せなかった。  
 
ブーツを脱ぎ、濡れた下着をベッドの上で器用に脱ぐ。  
両手でサイドを摘み、腰をくねらせ踝まで降ろすと、先に右足、そして左足と  
引き抜いた。  
液の染み込んだ下着は…当然の事だが、液を含んだ分だけ重さを増していた。  
つい何時もの癖で濡れたその下着を、自分の鼻先へと持って行く。と、鼻を鳴らし匂いを嗅ぎ始める。  
自分の匂いをどう表現すればいいのか解らない。軽い生臭さと、微かにする尿の匂い…。  
はっ、と自分のしている、はしたない行為に気付く。  
「………」濡れた『それ』のやり場に困り、ネルは床へと放り捨てる。  
 
べチョ…  
 
液を含んだ下着が、まるで踏み付けられた『蛙』の様な無様な音を経て、床へと広がり落ちた。  
と同時に、含まれていた水分が床へと飛散する。  
 
「はぁっ…」再び溜息。大の字に寝そべり、静かに目を閉じる。  
本当は汚れた身体を綺麗に洗いたい所だが、こんな深夜では叶わない贅沢だろうと諦める。  
 
「んっ…」下着を脱いだはいいが、秘肉の奥から新たに液が滲み出てくる感触がした。  
流れ落ちないように、慌てて手を花芯へと伸ばした。  
余り濃くない髪の毛と同じ色の赤い陰毛が、粘液を纏わり付かせ、束になって固まり、  
張り付いている。  
その感触を掌で感じ、指を秘所へと宛がう。  
指の到着と同時に待っていたかの様に、膣口からトロリと液が流れ出す。  
それを掬い取ると、手持ち無沙汰に指先を擦り合わせ弄び始める。  
粘液を得て滑らかになった指の動きに併せて、クチュクチュと小さな音が聞こえて来る。  
 
そろそろ『月のもの』が来る筈なのだが、この時期にしては珍しい程に  
溢れ出ている液は粘り気が有り、ネルの指に絡み付いた。  
 
(…ずれ込んでるのかな)大事な任務が控えて居るというのに、支障をきたさなければいいが…。  
 
「ふっ…」ふいに笑いが込み上げて来る。こんな時にまでも、任務の事を考える  
自分が可笑しく思えたからだ。  
もっとも、これはある程度意識しての事なのだが……。  
そうでもして思考を別の話題にすり替えないと、また『あの事』を思い出してしまう。  
 
『あの事』とは、先程別れたばかりのクレアについての事だった。  
成り行きとはいえ、自分はクレアを抱きしめた…。  
肌の温もり、そして微かに香るクレアの甘く、とろけるような匂い。  
彼女の心音。  
夢でも妄想でも無い、現実の感触。  
あの時、自分の求めていた全てのものが、手の中に有った。  
 
(……ばか)話題をはぐらかすどころか、全てを思い出してしまった……。  
明日に備え、少しぐらい身体を休めようかと思っていたのだが、どうやら無理のようだ。  
そんな事を許してくれない程、肉体が熱く火照り出し、ネルの思考さえも鈍らせ始めていた。  
 
息苦しさと共に、全身が柔らかい鳥の羽毛で撫でられるような、ゾワゾワとした感触に襲われる。  
ネルはその感覚に抗わずに身と心を委ね、秘所の肉筋に沿って左手の中指の腹を使い往復させた。  
「んっ……」自分でわざとじらし、時折、肉壁を避けるようにゆっくりと動かす。  
その動きに併せ、性感が緩やかに。そして、確実に高まっていく。  
「んっ…んっ…」  
余った右手で服の上から胸を揉んでみる…。  
「くっ…んんっ……」服の上からでも起立し、硬くなった乳首の形が良く判る。  
その様は早く自分に触れて欲しい、摘んで欲しいと、浅ましくも自己主張している様だった。  
だが、敢えてお預けをさせ、胸全体を円を描くように、ゆっくりと動かす。  
「はぁっ……」搾り出すかのように、充足の吐息を漏らし悦に浸る。  
 
「クレア……」当然考える事は愛しく、大切な女性(ひと)の事……彼女に関する記憶を搾り出す。  
 
万人を包み込む優しく、憂いを帯びた笑顔。  
艶やかで癖の無い、絹糸のような肌触りの銀色の髪。  
碧水のように清く透き通った瞳は、汚がれたものさえ浄化させる錯覚さえ覚えさせる。  
小さく可憐な桜色の花弁を思わせる唇。  
そして、その唇から紡ぎ出される声は、川のせせらぎにも似た安らぎを与えてくれる。  
白くきめ細やかな肌は、新雪のように汚れなく、触れれば陶酔の世界へと優しく誘なってくれる。  
 
挙げ出したら切りが無い…それに、全てを言葉では言い表せる自信は自分には無かった…。  
浅い表現で、彼女を語れるものでは無かったから…。  
 
「……クレア」声が微かに震え、上気した頬を大粒の涙が伝わり落ちた。  
悲しいからでは無く、 切なかった…。  
 
人を好きになると云う事。  
それは人として自然の成り行きともいうべき、当然に行われる行為なのだろう。  
だけども何故、当然で有るべきそれが、こうも切なく心を苦しくさせるのか…。  
身を切り裂かれるような想い……求めれば求める程、その感覚は心の中で大きく脹らみ、  
自身に重く圧し掛かる。  
でもたぶん、それが無ければ淋しくて、更に辛く孤独な思いをすると思う。  
 
その苦しみが女同士という、神の定めた理に背いた恋に身を焦がしている、  
自分に対しての『贖罪』なのかとも思った。  
 
女同士の恋…確かにそうだけど、それは自分にとっては少し違うかも知れない。  
 
以前その事について、悩み、考えた事が有った。  
幾度となく思考は堂々巡りを繰り返し、無為ともいえる時間と日々が過ぎて行った。  
そして、苦労の末やっとひとつの答えに辿り着いた。  
その回答が頭の中に浮んだ時。それが余りにも単純過ぎて拍子抜けしてしまい、  
悩んでいた愚かな自分に対し、笑わずにはいられなかった。  
 
自分は、女性が好きなのでは無い。  
 
クレアが好きなのだと。  
そして、そのクレアが偶然女性であっただけなのだと…。  
 
そう、『自分はクレアという、個人が好きなのだ』  
愛すべき者が出来て、結果として今の状況が出来上がった…それだけの事。  
他人が聞けば、自分を取り繕った詭弁と言われるかも知れない…でも、何を言われても、  
自分にとってはそれが『全て』で、変え様の無い『事実』なのだ。  
 
だが、正直それでも時々迷いが生じる時が有る……特にクレア本人を前にした時、その仕草や  
物腰から、同性という事を嫌という程見せ付けられ、背徳感に苛まれた。  
その結果、『事実』として導き出した自分の答えと向き合えず、再び悩んだ。  
そんな日々を何度も繰り返し、今日の自分に至っている。  
切ない…とても……だけどクレアを想い、好意を寄せて居る時の自分は、一番素直だと思った。  
だから、好きでいる事は否定しない。自分らしいとさえ感じているから。  
 
秘所に這わせている指に強弱をつけてみる…。  
自分の身体だけに、感じる場所は心得ている。だが、その感じる部位は敢えて緩やかな指使いで  
さらりと流す。  
その方が無理に刺激するよりも感じる。自分はそういう性質だと理解していた…。  
焦らした指の動きに合わせて、まるで糸に攣られたように陰部が痙攣を起こし、面白い様に反応する。  
桜色で少し充血した肉壁の一部が、ピクピクと蠢いたかと思うと、全体がプルプルと震え、淫液を吐き出す。  
その様はまるで、ひとつの自我を持つ、『生物』のような錯覚を思わせた。  
「んっ…んんっ…」  
自分の指でこんなに感じるのであれば、これがクレアの指の場合には、どんな感じだろうか。  
快楽と喜びで、狂い死にしてしまうだろうか?  
 
想像してみる……白く、そして、細く長いクレアの指。  
彼女が少し息を荒げ、その指で肉のカーテンをゆっくりと開く…。  
「んっ……」想像と同じように、ネルは自らの指で花芯を人差し指と薬指で左右に押し開いた。  
と、同時に興奮し、充血した肉襞がパックリと口を開き外気に晒される。  
「くっ…んっ……」  
ここを見たクレアはどんな表情をするだろうか…。  
この切なくも、羞恥で溢れた自分の想いを受け入れ、共有してくれるだろうか?  
 
『ネル……とても綺麗よ…私に全てを見せて…』彼女の声が聞こえて来る。  
驚き、辺りを見渡す……。  
しん、と静まり返っている部屋の中。自分以外に気配は無く、  
当然ながらクレアの姿も無い。  
 
どうやら幻聴のようだった…。  
再びゆっくりと目を閉じ、想いを噛み締める…(ありがとう…クレア)  
自分が望んでいた言葉が聞けた…幻聴でも構わない。……そう、今は…。  
くいっ、と腰を浮かせ、股間を見せつける様に突き出す。(私の全てを見ておくれ…)  
液でほぐれた膣口に二本の指先を潜り込ませると、左右に力いっぱい広げる。  
 
じゅっ……。  
 
粘液で張り付き合っていた膣壁が、糸を引き分断され、中の柔肉が外気に曝け出される。  
と、同時に膣内に溜め込まれていた愛液が大量に流れ出し、内腿を伝わり流れ落ちて行く。  
「んあっ…!…」一際大きな喘ぎ声が漏れ、慌ててそれを飲み込む。  
下の階には空想では無い、実際のクレアが居る……声を聞かれたら、大変な事になってしまう。  
首に巻かれているマフラーをたくし上げ、口に含むと、キュッと噛み締める。  
これで少しは声が殺される筈…。  
再び膣口の指に意識を集中させる。今度は右手も使い自身を責め立ててみる。  
広げられた肉洞の入り口付近を人差し指と中指を使い、ゆっくりと馴染ませる様に  
捏ね回す。  
「んっ…んんっ…」身体がビクビクと痙攣し、浮かせていた腰が耐え切れずに、ベッドに沈み込む。  
「…ふっ…ふっん…」指の動きを止め、荒れた呼吸を整える。  
そして、再び指を動かす。  
右手の人差し指で尿道口を広げるように擦り、左手の人差し指と中指を膣口周辺で遊ばせる。  
「うんんっ……」右手を上下運動。左手を円運動。それぞれ違う部位に併せて動きを加える。  
 
季節は冬。  
部屋の中には暖炉があり、準備もしっかりとして有ったので、後は火を点けるだけとなっていた。  
だが、駆け込んでベッドに倒れ込んでしまった状況なので、そのまま火も付けずに放置されている。  
従って部屋の中も外気程では無いが、吐く息が白くなる程の寒さであった。  
だというのに、額から汗が滲み出て来る程熱かった…。  
額だけでは無い、全身…特に股の部分は愛液が溢れ出している事も手伝ってか、蒸れて  
湯気すら出ているのかと思われる程、熱を帯びている。  
 
震える手で規則正しい運動を繰り返す。  
「んっ…くうんっ……」押し殺した自分の喘ぎ声。その声で更に淫らな気分になり、性感が  
高まって行った。  
「んふっ!!」尿意を催してしまい、思わず尿道を刺激していた指を止めた。  
このまま刺激し続けていると、粗相をしてしまう……。  
快楽で鈍った思考では有ったが、流石にそれはまずいと云う判断を下した。  
 
ゆっくりと閉じていた目を開ける…明りの無い暗がりの部屋が、どこか現実から  
思考を引き離している様に思え、今のこの状況を夢の中の出来事にすら感じさせていた。  
 
「ふぅ…」一際大きく息を吐き出す。と、右手で胸の上を覆う服の生地を中心へと寄せる。  
寄せた生地が上手い具合に胸の谷間ではまり、隆起した双丘が戻ろうとするそれを押し返す。  
後は胸に直接触れている生地を残すのみ…ゆっくりとそれを下へとずり下げる……。  
そこだけが違う感触で有る事を主張するかの様に、伏せたお椀型の乳房がぷるぷると震え、  
視界に飛び込んで来る。  
一呼吸置いて胸には触れずに、再び右手を股間へと運ぶ。  
そして、溢れた愛液を指で秘部から掬い取ると、再び胸の位置まで液がこぼれぬ様にゆっくりと持って行く。  
そして、その愛液で濡れた指先を、痛い程に張り詰めている、桜色の乳首の上でピタリと止めた。  
と、愛液が指先の一点に寄り集まって来る……その雫が重力に耐え切れず、ぽたりぽたりと、  
起立した乳頭へと滴り落ちた。  
「んっ…」それを合図に自分の指先を『刷毛』代わりに、乳首を中心として愛液を胸全体に塗りつける。  
途中、液が足りなくなれば、股間から補充し、満遍なく塗布して行く。  
塗り付けた愛液が、体温で温められ何ともいえぬ匂いを放つ…。  
深く息を吸い、それを鼻腔へと送り続けた。  
 
左手の指の動きを再開させる…膣口を先程の様に捏ね回し、浅く…指の一つ目の関節まで  
潜り込ませる。  
「んっ…ふぅ…」埋め込んだ人差し指と中指を波立たせる様に蠢かせ、少しずつ…少しずつ…  
ゆっくりと肉洞の深部を目指し、沈み込ませた。  
「ふっ…んんっ…」指が膣内に沈み込む度に、痺れた感覚が股間から全身へと伝わる。  
この感覚は何度も経験している筈なのだが、不安と期待が常に沸き起こり、不思議と  
新鮮な気持ちにさせられた。  
 
ぷぷっ…。  
差し入れた指に押され、肉洞を震わせて空気が逃げて行く…。  
少々恥かしい感じもしたが、快楽に後押しされた今の状況ならば余り問題では無かった。  
 
柔肉の抵抗を常に受け、それでも尚、肉洞の先を目標に指を沈み込ませる。  
「ふっんんっ…」  
とても不思議な感じがする…。  
指の神経は膣肉のとろける様な感触を捉え。そして、膣の方は指の事を侵入して来た  
『異物』と捉えている。  
責める側と責められる側。今自分は、違う感触を同時に味わっているのだ…。  
 
異物が根元まで埋め込まれた…。  
「んふっ…」安堵の吐息を漏らし、一息つく。  
 
ぞわぞわとした感触が膣内で沸き起こる…。  
意志とは関係無く、侵入して来た異物を歓迎して、肉襞が必要以上に絡んでまとわり付き、  
更に奥へ、奥へと導いているのだ。  
「……」何て、いやらしい身体だろうか…自分の身体ながら、そう感じずには居られなかった。  
浅ましく…そして、貪欲だ。  
 
はやる肉襞の動きに逆らい、指をゆっくりと動かしてみる…。同時に愛液を塗りつけて  
準備していた胸も責めたてる。  
乳首を指で押し込み、そのままの状態でグリグリと動かす。硬いしこりと、元に戻ろうと  
必死に抵抗をする感触が指先に伝わる。  
「んっ…」  
指を離すと、指の圧力に屈していた頂きが、ムクムクと回復して先程以上に硬さを増した。  
それをすかさず指で摘み上げ、引っ張り上げ、クリクリと指を擦り合わせる様に動かした。  
「んっ…ふっ…んっ……」  
指の動きに併せ、肉襞も活発に蠢く。  
肛門の括約筋に力を入れる…と、膣壁がキュッと窄まり、指の締め付けが更に強くなる。  
「んんっ…!!」  
絡みつくねっとりとした肉の感触。その感触に逆らう様に、指を一気に膣口まで引き抜く。  
「…!!」その勢いで、絡んでいた襞さえも引き摺り出てしまうのでは無いか…という程の  
痛みに近い、強烈な刺激が沸き起こった。  
ビクンと、大きく身体が仰け反り、内腿の筋肉がピクピクと激しく痙攣を起こす。  
(…もう…だめぇ……)焦らしていたのもここまでが限界の様だった。  
乾き、極度の空腹を迎えている肉体が、快楽という養分を欲し、必死に哀願をしている。  
その願いに応える様に、引き抜いた時と同じ速度と要領で、指を膣内に埋め込む。  
じゅぷ…!!  
「んんんっ…!」指の埋没と共に愛液が迸り、周囲に飛散する。  
たった一度の強い出し入れ…その動作で、思考の中の何かが外れた。  
いや、ここまで焦らし、想いを募らせた事が、せき止められていた性欲への呼び水となってしまい  
いとも容易く理性を押し流してしまったのかも知れない。  
 
ぷっ…ちゅぷっ…ぷっ……にゅぷっ…。  
「んんっ…んくっ…ふうっんんっ…!!」  
次第に早くなる指の動き…。  
小刻みに揺れる身体の振動を受けたベッドが、ギシギシと小さく、一定の音を立てて部屋の  
中に木霊する。  
爪先がピンと真っ直ぐに伸び、綺麗に敷かれたシーツを引っ張って大きなシワを作った。  
「んっ!んっ!んっ!んんんっ―――〜!!」  
 
―来る。  
そう感じ取り、更に指のピストン運動を早める。  
じゅっちゅちゅっくぴゅっじゅぷっ…。股間から発せられる淫らな音から間隔が無くなり、  
続けざまに鳴り響く。  
膣壁がキュッと窄まる。そして、全身が浮遊感にも似た感じに包まれた。  
見開かれた目が虚空を泳ぎ、視界がチカチカと明滅を繰り返す。  
「んあ゛―――――〜っ!!」ビクビクと一際大きく身体を震わし、全ての肉体と意識を  
沸き起こっている感覚に預け…登りつめる。  
何と表現すればいいのか判らない。一言で表現するのなら、そう…『白』だった。  
意識も、思考も全て白く塗り付けられた感覚だ…。  
 
大きな波が次第に引いて行く…快楽を共に引き連れて…。  
そして、いつも残されるのは、憔悴した肉体。そして、虚しさと自分に対しての嫌悪に  
満ちた心のみだった…。  
 
だが………(まだ…まだだ…)このままでは終わらせられない。  
絶頂を迎え、興奮も冷めやらない身体をうつ伏せにし、膝を曲げると尻だけキュッと、持ち上げる。  
股間は元より、その周辺や太腿まで、愛液でべっとりと粘ついて居る状態だった。  
尻を持ち上げた事により、膣口を頂きとし、高い所から低い所へ……愛液が林立する陰毛を抜け、  
へその方へと伝わり落ちて行く。  
衣服を脱いでいない為、その流れた液が服の生地へと染み込んで行った。  
 
身体の前の方から、痺れた感覚を残している右手を回し、両足へと割り込ませる。  
そして、肉の土手をゆっくり擦った。  
「んっ…」  
咥えたままで、唾液でベトベトになってしまったマフラーの生地を、左手で纏め上げると、  
口内へと含ませた。  
「ふっ…」鼻腔から荒い息が漏れる。  
左手を右手側とは逆の背中の方から回す……白く、大きな尻肉を撫でる様に通過し、割れ込んでいる  
中央の谷へとゆっくり滑り込ませた。  
指の先には、先程から期待で打ち震えて、ひくひくと痙攣している『肛門』が有る。  
人差し指を使い、その周辺を緩急を付けて円を描く様に撫で上げる。  
「んんんっ…!!」  
…恥かしくて人には言えないが、自分は肛門を弄られると異常に感じる。  
いつその事に気が付いたのかは忘れてしまった…だが、いつの間にかここを弄るのが習慣と  
なってしまっていた。  
一本一本の肛門のシワを確認するように指で広げてみる…。  
それと同時に膣口に…今度は遠慮無しに指を挿入する。  
「んんっ…ふっ……」  
良く解れた肉襞が再び侵入して来た、無遠慮なそれを手放しで歓迎する。  
歓迎に応え、指先を挿入したままの状態で、くっ、と曲げ挨拶を送る。  
「ふぅんっ…」  
肛門で遊ばせていた指を性器周辺に持って行く。そして、溢れる愛液をたっぷり塗りつけ、再び肛門へ…。  
そして、先程と同じ様に指を蠢かせ、肛門に塗りつけた。  
肉の蕾は特に丁寧に…排泄の器官であるそれに、指をこじ入れようというのだ…。  
 
人差し指を蕾に押し当て、蠢かせる。ドキドキと、期待が脹らむ。  
そして、少しづつ…指を埋め込んで行く。  
「くっ…」  
蕾の肉穴は、膣のそれと比べるまでも無く、キツく、侵入を拒んで来た。  
少し強引に押し込まなければ、その弾力で押し返されそうだった。  
だが、慎重に行わないと、その先に在る肉洞の粘膜は非常に柔らかく、傷つき易い。  
力強く…そして、慎重に…だ。  
 
膣内の指の動きにも変化を付けてみる。  
螺旋を描く様に指をうねらせ、膣道の中程…少しカーブを描いている位置まで引き上げる。  
そこで指を腹側に曲げ、肉壁の一点に意識をに定め、刺激する。  
「ふぅうぅっ……」くすぐる様に上下に…「くうぅっ…んんっ!」  
ここが膣壁で一番感じる場所…。  
だから、丁寧に優しく…。  
「んんっ」  
 
快楽に見を委ねている間に、肛門が根元まで指を飲み込んでいた。  
指の根元は相変わらずの、きつい締め付けだったが、その先の空間は結構広く、  
指先が自由に動かせた。  
「ふっ…ふぅんっ…」中で蠢かせる。  
膣内の指もその動きに併せ、再び奥へと押し込んだ。  
(今度は…大丈夫だろうか……)  
先程気をやったばかりで、こうしてすぐに始めたのは、一種の『罪滅ぼし』の様なものだった。  
快楽に溺れ、大切なものをおざなりにしてしまった、自分…。  
絶頂を迎え、醒めて行く意識の中でその事に気が付いたのだ。  
 
(…クレア)そう…愛しいクレア。  
彼女を置き去りにして、自分は気をやってしまった。  
(今度は…一緒に……)  
その想いを胸に、膣内と肛門に埋め込んだ指を動かす。  
「んんんっ…」  
指を交互に動かす。膣の指を引き抜くと同時に、肛門の指を深く押し込んだ。  
今度は逆。  
肛門指を引き抜くと、膣の指を深く差し込む。  
「んっ…んっ…」交互に…次第に早く。昂ぶりと想いに任せ指を動かす。  
「くうっん…ふっ…んんっふっ!!」  
ちゅぷっ…ちゅぷっ…。さっき、あれ程愛液が出たというのに、まだ溢れ出す。  
濡れて、ぬめ光る肌の上を再び流れて行く。  
「んんっんんんっ!」二回目という事も有り、意外にも波が早く訪れる。  
埋め込んだ両方の指を中で合わせる様に擦る。  
肉壁を通して、互いの指の動きが伝わる。  
「…っ――――――〜!!!」  
 
意識が再び白く塗り固められる……白く…だか、その先に何かが見えた。  
 
(…クレア)  
それは、彼女の姿…優しく…美しく……。  
とても大切な彼女の…。  
 
そして……意識が白く、塗り固められた。  
 
……音も無く部屋の扉が開く。  
開け放たれた扉の隙間から、廊下を照らしている蝋燭の薄明かりが差し込む。  
その明りを遮る様に人影が伸びた。  
影の主は注意を払いながら、部屋の中の様子を伺った。  
部屋の中で動く気配が無い事を確認すると、扉の隙間から顔を覗かせ、部屋全体を見渡した。  
 
ベッドに眠るこの部屋の赤い髪の利用者の姿を確認し、落ち着いたのか、胸を撫で下ろす。  
そして、音を立てずに部屋へと足を踏み入れた。  
ゆっくりと、一歩ずつ…好奇心に背中を押され、静かな寝息を立てているその者のへと  
向かい歩みを進める。  
 
が、この時点で『訪問者』は、眠る彼女の事を過小評価いている事に気が付かないで居た。  
眠る彼女=ネル・ゼルファーは、部屋の扉が開いた時点で気配を察知し、『訪問者』の存在を  
を捉えていた。  
彼女は隠密…それも、シーハ―ツで頂点に立つ『クリムゾンブレイド』だ。  
 
だが、今眠る姿は偽りでは無く、寝息も演技のものでは無かった…。  
『訪問者』の気を察知した時、隠密という殻をいつもの様に無意識で脱ぎ、  
一人の只の人間で、『女』で有る事を選択したからだ。  
『訪問者』が…『彼女』がネルにとって特別な存在だったからこそ、無防備に  
眠り続ける事が出来た。  
 
『訪問者』は、ベッドの前でピタリと止まり、ネルの身体を頭の上から爪先まで、食い入る様に見詰めた。  
そして、コクリと唾を飲み込む。  
 
先程の絶頂の後、3回果てたネル…さすがに疲れ果て、いつしかそのまま眠りに就いてしまっていた。  
当然ながら、服を着替える時間も身体を拭く間も無かった。  
だから、ネルの今の状況は、とても他人に見せられるものでは無かった。  
陰部や胸は曝け出され、愛液も飛び散るままの姿だった。  
 
艶かしくも、妖しいその姿…。  
一目だけ寝顔を見ようと訪れたのだが…コクリと再び口内に溜まった唾を飲み込む。  
が。  
大きく首を左右に振る、これでは『夜這』だと、沸き立つ欲情を否定した。  
 
だが…自分が望んだものが目の前に在る……心では否定しても、身体に言う事を聞かせるのは  
困難に近かった。  
いつもの様に肉体に火が灯り燻り出した。その熱が花芯を疼かせ、潤いの液を滴らせる。  
(………)こんなにはしたない自分をネルは軽蔑するだろうか…いつもこの状況に陥ると  
そう感じていた。  
こんなに感じ易い自分の身体を呪いながら…。  
 
(少しだけなら…)そう思い、震える右手を曝け出されている、ネルの性器へと伸ばした。  
罪悪感が、チクチクと心を突付き、伸ばしていた右手を振るえる左手が制した。  
(うっ……)感情が昂ぶり、頬を涙が伝わり落ちて行く……悲しく…そして、辛い。  
想いを寄せている、『愛しい人』が側に居るというのに、どうしてこんなにも、辛く、悲しいのか…。  
この切ない想いと、『あの』時交わした事を、全て打ち明けられたらどんなに楽な事だろうか…。  
 
でも、それは叶わない事…何故なら今の状況を望んだのは…。  
 
じっと、ネルの寝顔を見詰める。  
穏やかで、優しく、それでいて力強さを滲み出している…。  
 
(私の全て…貴方が望んだのなら、私はその側で咲く、名も無き小さな花でいい…)  
そう…例え見向きをされなくても、側で咲いていたい…。  
いつまでも、ずっと……。  
ずっと…。  
 
俯き、項垂れた視線の先に、何かが入った…。  
床に転がり落ちている『それ』が妙に気になり、屈んで指で摘み上げる。  
(…これは!)それは、ネルが脱ぎ捨てた、汚れた『下着』だった。  
(はぁっ……)ドクドクと心音が高まる…いけないとは思いながらも、震える両手でそれを  
ゆっくりと広げた。  
広げたと同時に、どろりと指に粘り気の有る液が纏わり付く。  
それが何なのかは、もちろん理解出来た。  
理解すると同時に、液の付いた指先が自分の口内へと押し込まれていた。  
(はぁっ……)ゾクゾクと全身が、思わぬ収穫に喜び、打ち震える。  
霞みの掛かった意識が、更に供物を求め、辛辣な指示を送って来た。  
だが、それに逆らわずに心の中で頷くと、下着の…それも直接性器に触れていた部分の布地を  
口に含んだ。  
味は…先程の愛液よりも濃密な感じがする。  
それを全て嘗め尽くしたい衝動に駆られ、舌先を窄めると下着の生地に這わせた。  
 
「んっ…」喜びで思わず声が漏れる。  
慌てて眠るネルの方を見た……静かな寝息が聞こえる。  
ほっ、と胸を撫でおろし、震える足で立ち上がる。  
 
(ごめんなさい…)こんな事をしに来たのでは無かったのに…。  
いつもは平静を装っているのだが、ネルの事に関してはその枠組みから外れる…。  
ゆっくりと目を閉じる。  
 
(でも…これだけは許してね……)そう心で告げると、再びネルに近付いた。  
そして、静かに眠るネルの顔に自分の顔を近づけて行く……。  
 
お互いの唇が重なり合う……。  
時間にして僅かな、瞬間ともいえる時間。触れるか、触れないかの軽い口付けだった…。  
 
「んっ…」その感触に反応してなのか、唇を離したと同時にネルが寝返りを打った。  
『訪問者』は目が覚めたのかと驚き、暫く見詰めたが、再び静かな寝息が聞こえ、心を落ち着かせた。  
 
(おやすみなさい…愛しい人…)震える足で、音を立てずにゆっくりと離れる。  
一度ネルの方を見ると、銀髪をなびかせ『訪問者』は部屋を後にした。  
 
 
ネルはその日、不思議な夢を見た…懐かしく…そして、暖かい…夢。  
だけど、朝日が昇り、目が覚めると同時に……それを忘れてしまった……。  
 
 
『クリムゾンブレイド』(番外編その3,5) END 

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