ブレアと名乗った女が去ってから、アルベルはしばし茫然として  
いた。「でーたを組み替える」とやらいうよく分からないブレアの  
行動の結果、アルベルの体はすっかり別のものに変わってしまった  
………。  
「クソが」  
 刀を何度か振ってみて、アルベルは毒づいた。手の大きさが変わ  
ったせいか、馴染んでいたはずの柄の感触が気になる。  
 そして毒づいた自分の声も変わってしまっていることに憂鬱にな  
った。  
「面白いことになったな」  
 老竜は楽しげに笑っている。  
「うるせぇ、阿呆」  
 アルベルは苛立たしげに刀を構え、壁に向かう。  
「空破斬!」  
 また壁に新しい傷が増えた。砕けた壁を見、少しは安堵する。違  
和感は残るが、戦えないほどではないようだ。  
「あまり我の棲家を壊してくれるな」  
 
「知るか」  
 アルベルは靴を脱ぎ、臑当ても取ってしまった。サイズが変わっ  
て身に着けていられなかったのである。続けて変に隙間が開いてし  
まった肩当てを外した。腕が細くなったため左手の鉄甲も外そうと  
思ったが、慣れた腕の重さが変わるとバランスが狂いそうだった。  
きつく締めなおしてみたが、どうも具合が悪かった。  
「ち、これは直すしかないな」  
 このままでは、闘気を用いた技は使えそうにない。アルベルはバ  
ニラの工房に行くことにした。そして歩き出してから、また一つ違  
和感を覚えた。  
「………」  
 アルベルは少し迷ったが結局、腰から脚にかけて開くスリットか  
ら指を入れ、サイズの合わなくなった下着を脱いだ。  
「………ここには魔物やら竜やらしかいねぇしな………気にするこ  
たぁねぇか。さて行くか」  
 竜室を去ろうとするアルベルにクロセルが問うた。  
「どこへ行く、娘」  
 三秒ほどかかってアルベルは、自分が娘呼ばわりされたことに気  
づき、頬に朱を昇らせて振り返った。  
「マーチラビットのガキの工房に行くんだよ。俺がどこに行くかが  
てめぇに関係あるのか?」  
 クロセルは低く笑った。  
「………行ってくるがよい。火傷をせぬようにな」  
 そう言ってクロセルは、アルベルの素足を眺めた。  
「俺がそんなヘマをするかよ。溶岩洞の中はもう知り尽くしてる」  
 答えながらもアルベルは、クロセルが何やら優しい言葉をかけて  
くることが気になった。老竜は、アルベルが何をしようが何処へ行  
こうが、気にしていなかったはずなのだが。  
 
 クロセルの笑いが低い地鳴りのように響く。  
「溶岩洞の外へは出ぬようにな」  
「は? 何言ってやがる」  
 アルベルは老竜との会話が面倒になり、背を向けて出て行った。  
「もっとも、あの姿では外へは出られまいがな。それが分かってい  
ないなら、無知にもほどがあろうというもの」  
 侯爵級の竜は独り呟き、出て行ったアルベルの姿を思い出す。  
 もともと細身だった体は、細いというより華奢になってしまって  
いた。そして灯火に映える滑らかな肌。柔らかそうな唇。すらりと  
伸びる細い手と脚。それから………  
 竜は本来、金銀財宝を奪うだけでなく、女性を連れ去る性質があ  
る。アルベルはクロセルのことなど構わずに、目の前で好きなよう  
にふるまっていたが、竜はその体を舐めるような視線で見つめてい  
たのだった。ためらいがちに下着を脱ぎ捨てたあたりで、老竜の心  
はすでに決まってしまった。  
「そそるな」  
 アルベルを愛しむことを思いながら、クロセルは目を閉じた。  
 
 訪問者を迎えた溶岩洞の中の工房で、マーチラビットの青年は長  
い耳をゆらした。  
「お姉さん、誰? ひょっとしてアルベルさんのお姉さんか妹さ  
ん?」  
「本人だ」  
「え?」  
 アルベルは事情を投げやりに説明した。  
「ふーん。変わったことが起こったもんだね。大変だったでしょ」  
 バニラの言葉にアルベルは頷く。  
「ああ。ナリが小さくなってしまったから視界が変わるわ、間合い  
が分からなくなりそうになるわで厄介だったな。もっとも所詮はク  
ソ虫どもだ、俺にかなうわけがなかったがな」  
 いつも通りに溶岩洞の中の魔物たちを蹴散らしてやってきたこと  
を言い、アルベルは椅子に腰掛け、鼻で笑った。  
「確かにそういう大変さは分かるけど、それ以外のことは気になら  
ないの?」  
「気になるに決まってるだろうが阿呆。身の回りのものが全部体に  
合わないんだ。服は後回しでいいが、義手と靴と防具をさっさと直  
してくれ」  
「後回しって………それもものすごくやばいと思うんだけど」  
 バニラはさっきから目のやり場に困っていた。  
 アルベルの胸を覆う布の端は引っ張られて結ばれており、小ぶり  
だが形良く膨らんだラインやら先端の乳首がはっきり分かる。腰は  
さらに細くなってしまい、腰紐を締めても布が滑り落ちそうになっ  
ている。かろうじて腰骨のあたりで止まっているという有様だ。さ  
らに前部に切れ込みが入っているため、普通に立っていても下腹部  
のあたりまで見えてしまいそうだった。  
 
 以前でも妖しい風体といえばそうだったが、かろうじて、「バサ  
ラ」「傾き者」といった風狂の徒の好む服装の範疇に留まっている  
と言えなくもなかった。だが今のアルベルの服装は、それを完全に  
突き抜けてしまっている。服を着ているというより、裸体に布を結  
んでみたという印象だった。いや、見る者によっては裸よりも扇情  
的に映るだろう。  
 そしてアルベルが腰掛けるとき無造作に服の端を整えたために、  
一瞬だがスリットが開いてしまった。バニラは綺麗に生え揃った栗  
色の茂みやら、ひきしまった尻やらをすっかり見てしまった………。  
「アルベルさん………まずその服から何とかしようね」  
 言いながらバニラは見てしまったものを脳裏から追い払おうとし  
たが、焼きついて離れそうになかった。それどころか、茂みの向こ  
うに隠されているはずの、見ることができなかった柔らかな割れ目  
を妄想してしまう。  
「何言ってやがる。義手と靴が真っ先に決まってるだろうが」  
 アルベルは不満そうだ。バニラはため息をついた。  
「あとそれから、立ち居振る舞いにも気をつけた方がいいよ」  
 アルベルは眉を寄せて首を傾げている。バニラの言っていること  
が本当に分かっていないのだ。アルベルは少し考えたが結局分から  
ず、苛々として言った。  
「分からんことをごちゃごちゃとうるせぇ奴だな。貴様がやってく  
れないならここを降りてカルサアかペターニの工房の奴らに頼むま  
でだ」  
 バニラはまん丸な目を大きくして、ブルブルと首を振った。  
「その格好で街に行くなんて絶対ダメ! 危険すぎるよ」  
「あぁ? 俺が神殿の魔物やら山道のドラゴンどもに遅れを取るわ  
けがねぇだろう」  
「そういう危険じゃないよっ!」  
 
 バニラはどなり、そしてうなだれた。  
「分かったよ、仕事は引き受ける。まずは靴からにするね。ただし  
溶岩洞から出たらだめだよっ」  
 アルベルは老竜の言葉を思い出した。  
「どうなってんだ。貴様もクロセルと同じことを言う………」  
「同じことって、ひょっとしてあの方もここから出るなって仰った  
の?」  
「ああ」  
 バニラは哀れむ目をアルベルに向けた。  
「アルベルさんは、きっともう目をつけられちゃったんだね」  
 バニラはぴょこんとアルベルの側に寄った。  
「できるだけここでゆっくりしていくといいよ。時間の問題だろう  
けど」  
(ヤられちゃうのはね)  
 バニラは最後の一言は口に出さずに心の中に止め、アルベルを見  
上げる。  
(きれいな顔してるなあ)  
 以前はその整った顔は、その小馬鹿にした態度と相まって見る者  
を不愉快にさせ、低く凄む声は対峙する者を威圧した。しかし今は  
美しい娘が莫連を気取っているようで、何かかわいらしい。「阿  
呆」「クソ虫」と連呼する口調は以前と変わっていないのに、心地  
よいアルトの声で言われると印象が変わった。  
 アルベルは前髪を払い、バニラを見下ろす。  
「俺はゆっくりするのはごめんだ。急いで仕事にかかれ、阿呆」  
 バニラはアルベルに小突かれるまで、澄んだ琥珀の眼差しにみと  
れていた。 
 
 ウォルターからアルベルが姿をくらましたことを聞き、フェイトたちはウル  
ザ溶岩洞へと向かった。  
 竜室で刀をふるうアルベルを見て、フェイトたちは絶句する。  
「アルベル………だよな?」  
 フェイトが言うとアルベルは鼻を鳴らした。  
「フン。俺にきまっているだろうが。多少見てくれは違っているがな」  
 フェイトは頭に手をやる。  
「違いすぎだよ………なんでこんなことに?」  
 アルベルはブレアなる女性のことを言い、いきさつを語った。ブレアの名を  
聞いて、フェイトたちの表情は暗くなった。  
「あの人、協力とか言ってる裏でこんな楽しい………じゃなかった、こんな困  
ったことしてたんだ」  
 げんなりするフェイトの隣で、クリフが口笛を吹いた。  
「しっかしすげぇ格好だなオイ。誘ってんのか?」  
 アルベルはバニラに直してもらった義手と靴は身につけていたが、他はその  
ままだった。しなやかな白い肢体を申し訳程度に隠した姿は、フェイトとクリ  
フの劣情を刺激した。  
 
「えっと………アルベルちゃん、でいいんだよね?」  
 スフレがアルベルに歩み寄り、服の裾をぺらりと持ち上げた。  
「やっぱりノーパンだあ。こんな大胆な格好してるんなら、せめてパンツはい  
た方がいいよ。それとも見て欲しいからこうしてるの? アルベルちゃん」  
 中身を見られてしまったアルベルは、耳まで赤くなった。バニラの忠告に従  
わなかったことを後悔するが、もう遅い。  
「んなはずねぇだろうが! 何てことしやがるんだ、このガキ!」  
 クリフは親指を立てた。  
「スフレ、よくやった。おいしすぎるぜ………」  
「クリフ、てめぇ………」  
 アルベルはクリフに詰め寄った。クリフは大声で笑った。  
「いやぁ、いいモン見せてもらった」  
 激昂したアルベルがクリフに突きを見舞おうとすると、竜室が耳をつんざく  
ほどの音に包まれた。  
 
 怒りの咆哮とともに、クロセルは瞳を真紅に光らせて、フェイトたちに近づ  
く。  
「我の宝物に触れるな」  
「ホウモツ………?」  
 フェイトがクロセルの言葉を繰り返す。  
 それまで沈黙していたマリアが口を開いた。  
「竜っていうのは宝物の番をしているものよね。金銀財宝とか………綺麗な女  
の人とかね」  
 フェイトは頷く。  
「あぁなるほど。よく分かったよ」  
 アルベルは「綺麗な女の人」というのが自分のことだとようやく理解し、叫  
んだ。  
「納得するな、阿呆!!」  
 クリフがアルベルの肩に手を回す。  
「今のお前は、極上の部類に入る美人だぜ」  
 クロセルが再び咆える。  
「触れるなと言ったぞ。我の警告を無視したのだ、相応の報いを受けてもらう  
ぞ」  
 老竜は悔しそうに言う。  
「我もまだ触れておらんというのに、この不届き者どもが!」  
 
 クリフはにやにやと笑う。  
「おいおい、人間の女は人間の男のものだろうが。ドラゴンの傍に置いておく  
なんざ、もったいないぜ」  
 フェイトはクリフに注意する。  
「あまり挑発するなよ」  
 クリフはにやけている。  
「あのドラゴン、相当頭に血が上ってるぜ。こんなコトしたらどう反応するか  
な?」  
 クリフはアルベルを抱きしめると、すばやく唇を重ねた。アルベルはもがき、  
クリフから逃れようとする。クリフは残念そうにアルベルを解放した。  
 クロセルの咆哮は、もはや絶叫だった。  
「愚か者め、死ぬがいい!」  
 鋭い爪がクリフを襲う。  
「ひでぇ大振りだな」  
 クリフは余裕で避けた。しかし爪の周りに発生していた衝撃波に当たってし  
まった。  
「うおおおおおお!」  
 精神を手ひどく痛めつけられ、クリフはあっけなく気絶した。  
「馬鹿ね。鼻の下伸ばしてるからよ」  
 マリアは呆れ、フェイトとスフレに鋭い視線を向ける。  
「みんな、やるわよ!」  
 フェイトとスフレが応じる。  
「仕方ないね」  
「あたしもがんばる」  
 マリアはクロセルとの間合いを測りながら銃口を向ける。フェイトとスフレ  
は竜の元へと走った。 
 
 不敵な笑みを口元にうかべ、マリアはクロセルに言う。  
「前に私たちに痛めつけられたのを忘れちゃったのかしら? ねぇ侯爵閣  
下?」  
 翼を広げて舞い上がるクロセルの大音声が降りてくる。  
「小娘よ、我が貴様らに負けたのは事実だ。しかし我も自ら省み、我が慢心を  
改めたのだ」  
「ふぅん。じゃあもう自分を『偉大』だなんて言わないのね」  
「無論。ゆえに我に油断はない。今度は貴様らが負ける番だ」  
 はばたきが竜室内の空気を乱し、マリアの青髪が流れた。  
 竜の作り出す風にケープを乗せ、指先まで愛らしくポーズを取りながら、ス  
フレが言う。  
「三対一っていうのは卑怯じゃないの? あたし一人で戦っちゃダメ?」  
 これが老竜の気に障った。  
「我に独り対するか。愚かさもここに極まれり」  
 スフレは身軽な体を一回転させる。  
「だってあたし、一対一の戦いの方が得意だし………」  
 スフレの能力を知るフェイトとマリアは顔を見合わせる。  
「マリア、どうする? スフレは打たれ弱いから僕は心配だよ」  
「私は、一人舞台を呑気に見学する気にはなれないわね」  
「あのなぁ………。まぁ、一対一に反対って点では、意見は同じってことだ  
ね」  
 フェイトたちのやりとりにスフレは頬をふくらませる。  
「んもうっ。心配性なんだからぁ」  
 軽やかにステップを踏みながら、スフレは宙に身を躍らせる。  
「えーい、行くよ、クロセルちゃんっ」  
 
 ベルベイズ人の血の為せる、人間離れした跳躍力にクロセルは目をみはる。  
翼が振動し、スフレに打ちかかる。が、鋭利な凶器と化した翼は、スフレの子  
供じみた体から紙一重離れてすり抜けた。  
 宙に足場があるかのようにスフレの体が踊り、ケープがゆらゆらと揺れる。  
小さな体が上下に一回転し、肘と膝が老竜を打った。  
 精神までも侵食する一撃に、クロセルは動揺した。床に降り立って楽しげに  
ステップを踏む少女を憎らしげに凝視する。  
「クロセル、僕を忘れてやしないかい?」  
 青白い軌跡を描く剣先がクロセルをえぐった。  
「ヴァーティカル・エアレイド!」  
 青髪の青年の剣にひるむクロセルを、褐色の少女の突きが無数に襲う。  
「パパパ・スプラッシューぅ!」  
 マリアは薄く笑っている。  
「つまらないわ。私が手を出す暇もないじゃない」  
 
 アルベルは、竜と三人の戦いをぼんやりと見ていた。戦いになると血が騒ぐ  
はずなのだが、今は全くその気になれない。というより、どちらの味方もした  
くなかった。  
 アルベルの足元では、クリフが気絶したままで転がっている。放っておこう  
としたが、戦いの巻き添えを食う可能性を思えば哀れだ。アルベルはクリフを  
ひきずって、戦いから遠ざけようとした。  
「ち………重てぇ………」  
 鍛え抜かれた肉体は相当の重量がある。アルベルは悪態をつくと、リザレク  
トボトルの封を開けてクリフに飲ませた。  
「助かったぜ………」  
 目覚めたクリフは満面の笑みを浮かべ、アルベルの腰に手を回そうとした。  
 アルベルはもはや容赦しなかった。義手から闘気が竜の形となって噴出する。  
「いい加減にしやがれ、阿呆が!」  
 全て命中するまでもなく、二、三の闘気攻撃を受けただけでクリフは再び気  
絶した。  
「クソ虫が。そこで永遠に寝てろ」  
 クリフの肩のあたりを靴先で小突くと、アルベルは老竜たちの方を振り返っ  
た。  
 
 クロセルは、マリアの放ったエネルギー弾にはまって痙攣していた。フェイ  
トとスフレは遠慮なく、竜の巨体をいたぶっていた。  
「またもや負ける………か。屈辱だ」  
 竜は床にへたばり、悲しそうに呟く。  
「じゃあクロセル、アルベルは僕らが連れて行くよ」  
 青髪の青年の言葉に、クロセルは嘆息した。  
「敗れたからには宝物は引き渡さねばならぬ。しかし惜しい………」  
「お前の分も大事にするさ」  
 フェイトの言うことも慰めにはならず、クロセルはうなだれる。  
 フェイトは剣を収めて言った。  
「クロセル、向こうの宝物庫を借りるよ」  
「好きにするがいい」  
 竜はそっぽを向いた。竜の落ち込みようが気になり、スフレはクロセルの隣  
に座り込んだ。  
 マリアがフェイトを見つめる。  
「あらさっそくかしら? 気が早いわね」  
「だって、あんなのを見せつけられたらね………君は不満かい?」  
 フェイトは照れている。マリアはくすくすと笑った。  
「私は構わないわよ」  
 マリアの言葉にフェイトは安心し、アルベルを呼んだ。  
「アルベル、ちょっといいかい? 向こうの部屋で話をしたいんだけど」  
「他の奴に聞かれたくない話なんだな? ゆっくり聞かせてもらおう」  
 自分の身に迫っていることなど想像もつかず、フェイトに誘われたアルベル  
は、竜室につながる宝物庫の一つに歩いていった。  
 
「で、何の話だ?」  
 アルベルはフェイトに尋ねる。密室でフェイトと二人きりということの危険  
を、アルベルは全く分かっていなかった。  
「それはね………」  
 フェイトはアルベルを素早く壁に押しつけた。アルベルの内腿をなで、下半  
身を露出させる。アルベルはとっさに手で茂みのあたりを隠そうとする。が、  
手首をフェイトにつかまれ、手をはがされる。  
 背から首にかけてぞくりと何かが走り抜け、アルベルは身を震わせた。フェ  
イトがアルベルの柔らかな肉の襞に指を這わせていた。慣れない感覚に、アル  
ベルは身をよじった。声を漏らしそうになるのを必死に耐える。  
 アルベルは肩でフェイトを押し、フェイトと壁の間から抜け出した。フェイ  
トはふっと笑い、自分の身に着けているものを手早く脱ぎ捨てていく。  
「お前、俺を抱く気か………?」  
 フェイトの意図にようやく気づいたアルベルは、引き締まった青年の体を前  
に、愕然として問いかける。  
 
「もちろんそうだけど?」  
 フェイトはアルベルの頬をなで、唇に自分の唇をあてた。そのまま舌を割り  
込ませようとする。アルベルは唇を結んで抵抗したが、股間の割れ目を優しく  
なぞられて一瞬力が抜けた隙に、フェイトの舌の侵入を許してしまった。その  
ままずるすると腰を落とし、フェイトに押し倒される姿勢になる。  
 アルベルは、口腔内の感触を楽しむフェイトの舌を押し返そうとする。結果、  
舌は絡み合って濃厚な口づけを交わすことになった。  
 フェイトはアルベルの脚を開かせ、指先を熱くなり始めた割れ目に滑り込ま  
せる。  
「あ、何か引っかかる感じがするね」  
 フェイトは指をそっと動かした。  
「処女みたいだね。これじゃ、急にやったら辛そうだな」  
 フェイトの親指が、割れ目の端の小さな突起にそっと触れる。アルベルはと  
うとう耐え切れずに声をあげた。  
「ぁぁっ、よせ………フェイト、やめてくれ」  
 フェイトはにこりと微笑む。  
「あまり痛まないように、びしょびしょになるまで濡らしてから、してあげる  
よ」  
 
 アルベルの頭の中がぼんやりする。体内で燻火が静かに燃えているようで、  
肌も吐く息も熱い。ひどくもどかしい気がした。もどかしさの理由は、体が更  
なる快楽を求めているためだと気づく。  
 アルベルの胸を覆う布は首の方に押し上げられて、白い小さな乳房が露にな  
っている。フェイトはアルベルの体のあちこちに口づけている。茂みの奥の割  
れ目はフェイトの指が入ったままだった。ときどき小さな突起に指を滑らせな  
がら、狭い内部を押し広げるように少しずつ動かしている。裂け目からは透明  
な液体が流れ出しており、くちゅくちゅと音をたてていた。  
「だいぶ濡れてきたみたいだけど、気持ちいい?」  
 アルベルは答えない。  
「返事してよ」  
 フェイトの舌が細い首を舐める。そして耳朶を唇ではさみ、耳の穴を舌先が  
つついた。  
 アルベルは小さな悲鳴をあげた。切れ切れに細い声で言う。  
「ぁぅっ、気持ち………い………」  
 確かにひどく心地よかった。しかし以前の体が知り、求めていたものとは何  
かが異なる。快楽はゆっくり、じわりじわりと広がるようだ。似ているようで  
違う感覚に、アルベルは怯えていた。  
 
「そろそろいれていい?」  
 栗色の茂みの奥の感触を確かめながら、フェイトが尋ねる。  
 アルベルはフェイトの物が膨れ上がっているのを見た。手を伸ばして触れる  
と弾む熱い感触が返ってくる。これで刺し貫かれたらと思うと、快楽の予感に  
体の芯がさらに熱くなる。  
 しかしアルベルは首を横に振った。体はフェイトの物が欲しいとしきりに訴  
えたが、欲望に虚勢が勝った。  
「やめろ………今………お前が入ってきたら………俺はきっとイっちまう」  
 乱れる呼吸の中から、アルベルは必死に言いつのる。  
「そうなったら………俺が俺じゃなくなりそうだ………」  
 アルベルの興味は戦うことだけだった。そのため体が女性になってしまって  
も、気になるのは自分が戦えるかどうかだけだった。以前フェイトが気になっ  
ていたのは、自分とは全く違う強さを身につけ、それでいて自分より強い相手  
だったからだ。  
 このままフェイトに抱かれて快楽の絶頂に達してしまえば、フェイトに対し  
て以前のように接することは無理だと思える。強さを追う以外の理由でフェイ  
トを求める自分を想像すると、ぞっとした。  
「怖いの?」  
 緑の目が優しく問いかける。アルベルは頷いた。  
 フェイトはアルベルの額と頬にそっと口づけた。  
「大丈夫、お前はお前だよ。少し変わるだけだ」  
 フェイトの物が濡れた肉襞に押し当てられ、アルベルは抵抗の意思を失った。  
 
 柔らかな肉を押し分け、フェイトの物がアルベルの中にゆっくりおさまって  
いく。破瓜の痛みはほとんどなく、体の隙間が埋まった充足感に喘いでしまう。  
 フェイトが低くうめいた。  
「………うっ、すごいな。締まるっていうより、吸いついてくるみたいだ。ち  
ょっと動いたらすぐに我慢できなくなりそうだよ」  
 顔をしかめ、ゆっくりと腰を動かしながらフェイトは尋ねる。  
「アルベル、痛くないかい?」  
 アルベルはもう返事ができる状態ではなかった。どうしようもなく切なくな  
り、ため息を何度も吐いた。フェイトを受け入れている奥から何かがせりあが  
ってくる感触がし、目を固く閉じると、頬に涙が一筋流れた。  
 熱を持った器官がひくひくと震え、体が浮遊するような気がする。快感が全  
身に押し寄せる。何も考えられないほどの強烈な悦びの中、甘く長く尾を引く  
声でフェイトの名を呼ぶと、アルベルは気を失ってしまった。  
 
 フェイトはアルベルを抱き上げて戻った。竜室の中ではマリアが待っていた。  
「どうだった?」  
 フェイトは爽やかに笑って答える。  
「完全に手つかずってやつだね。アッチの方は本当に何も分かってないんだ。  
一つ一つ目覚めさせることを思うと楽しみだな」  
 マリアはくすりと笑った。  
「ときどきは私の方にもよこしてちょうだいね。独り占めはずるいわよ」  
「毎晩ネルさんたちと楽しんでてまだ足りないのかい?」  
「あたり前でしょ」  
 マリアはアルベルの湿った前髪をなで、白いあごをもちあげるとキスを一つ  
した。それからアルベルの服の裾をめくった。  
「あら………」  
 赤く充血した襞の奥から白い筋が太ももに流れているのを眺めて、マリアは  
意外そうな顔をする。  
「いつもは外に出してばかりなのに、珍しいわね」  
 フェイトは赤面した。  
「面目ないね。あんまり気持ちよかったんでつい失敗しちゃったんだ」  
「よっぽどよかったみたいねぇ………」  
 マリアはアルベルの肉の裂け目を広げると、指を差し入れ、中から掻き出す  
ように動かした。意識のないアルベルの体がぴくりと震える。愛液と、フェイ  
トの白い液がマリアの指にからむ。  
「私には一度も中に出してくれたことがないのに………」  
 マリアの瞳が青く燃えている。相棒の嫉妬にフェイトは肩をすくめた。  
「いつかたっぷり出してあげるよ」  
「期待してるわ」  
 マリアの表情がやわらぎ、二人は笑いあった。  
 
 老竜は恨めしげにフェイトとマリアを眺めている。  
「我の宝物があのような小僧どもに奪われてしまうとは」  
「んもう、いつまでもウジウジしてない、ほら元気出して。あたしの踊りをタ  
ダでサービスしてあげるから」  
 褐色の肌の少女のケープが翻り、床に円陣が浮かびあがった。  
「………姿見えざる戦乙女たちよ、あたしの大切な友達に、わずかなる勇気与  
えたまえ! シャイニングダンス!」  
 スフレのケープがひらひらと舞う。あふれる金色の光の中、クロセルは咆え  
た。  
「踊り子よ、素晴らしいぞ。力がみなぎってくるわ。小僧、小娘、もう一度か  
かってくるがよい!」  
 スフレの踵がトントンとリズムを刻む。  
「ほめてくれてありがとう! んじゃもひとつサービス! あたしも一緒にフ  
ェイトちゃんたちと戦っちゃうよ」  
 剣呑な気配を感じ、フェイトはアルベルを床に寝かせ、剣を抜いた。マリア  
も銃を抜く。  
 青髪の二人が向かった先では、スフレが構えている。踊り出す前のポーズに  
も見えるが、隙がない。  
「いっつもいっつもいっつも子供扱いして! 自分たちばっかりキモチいいこ  
として! ずるいよフェイトちゃんにマリアちゃん。覚悟してよね!」  
 スフレの隣では、老竜が深く息を吸い込んでいる。竜の魔力のこもる咆哮と  
ともに、次の戦いは始まった。  

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