マリア=トレイターは、ネルが愛液の絡み付いた腕を彼女の唇に拭ってよこす刺  
激で気がついた。  
時間にすればほんの数秒程度だが、失神していたのである。  
例え原因が自分の与えた快感のせいだったとしても、目前で想い人が気絶して  
いるのは不安だったろう。彼女が気付いたのを認めて、ネル=ゼルファーの瞳が  
安堵で細められる。  
根拠もなく、寂しいから起こしてくれたのかも知れない…と考えてしまってか  
ら、マリアは一人で照れた。  
表情を隠すように相手の腕にしがみ付き、ネルの指を舌でこそいで自分が吹き  
出したものを全てなめとる。  
横顔を深紅の前髪の向こうから見つめているのを感じる。視線が肌にくすぐっ  
たい。  
見守られていると言う安心感と、自分の行動の卑猥さがブレンドされて、身体  
の中心に種火を灯す。  
しかしその火を燃えさからせてはいけない。自分は充分気持ちよくなったのだ  
から、今度は…ネルの番だから。  
マリアは延焼を食い止めるように、なめとった粘液をつばと一緒にごくりと飲  
みくだす。  
それを見たネルは満足そうな表情で体を起こす。同時にベッドが小さく揺れ  
た。  
「あ…ネル?」  
マリアは少し罪悪感を覚えていた、自分だけ達して終わってしまったことに。  
そんな不安を表情から読取れたのだろう、ネルは小さくかぶりを振った。  
「マリアが気持ちよくなってくれたから、あたしもうれしいよ」  
「でも…」  
自分だってネルが気持ちよくなるところが見たい、と言いたくて食い下がろう  
とする。  
愛されるだけじゃなくて愛したい。精神的にも、もちろん肉体的にも。彼女は  
自然にそう考えるようになっていた。  
 
どちらかが与えられっぱなしとか、反対に与え続けるとか、そう言うのは『愛  
し合う』と言うのとは少し違う…。  
ならば同時に愛しあえば良いと他人は(もしも、二人の関係を知ってしまった  
なら)言うだろう。  
しかし「マリアが気持ちよくなることに集中できないから」とネルに言われて  
仕方なく、最初はネルが愛撫してその後、攻守交代…という段取りがいつの間  
にか出来上がっていた。  
しかしこの二日程はネルが一方的にマリアを絶頂に突き上げてお終い…といっ  
た感じなのだ。  
『ネルはわたしの身体を知って効率良く快楽を与えてくれるのに、わたしはあ  
なたのコトを上手に愛せていないのね?』  
もしも口に出してそう訊ねたなら、彼女は「そんなワケないじゃないか」と笑  
うに決まっている。  
対等に分け合える自分でいたい。お互いを支え合える関係でいたい。…そのた  
めに何をすれば良いのか聞かなくても、黙って並んでいるだけで力になれる人  
間になろう…そんなふうに願っていたのに、それができない。  
結局は愛する人が近くにいても悩みが雲散霧消してくれるわけではないのだろ  
う。この世界の構造として、そのようにできているのかも知れない。  
とは言え自分を失う程に溺愛するのも違うと思う、お互いが居るから初めて愛  
し合えるのだもの。自分を無くしたら意味がないじゃない?…、そう考える事  
で少し強引に自分を納得させてみる。  
 
気がつけば、ネルはベッドの隅に腰掛けたままマリアの方を見て、クスクスと  
笑っている。  
マリアが考え事をしていると周囲は表情で判る…ということが最近分かったら  
しい。今まで悩みごとはデュプロの自室で人知れず抱えていたのだから、その  
点に誰も(もちろん自分自身も)気付かなかったのも仕方ないと言えばそれま  
でだが。  
「それで良いと思うけどね?…」  
ネルの台詞の『何』が『それで良い』のかの意味が判らなくて、マリアは思わ  
ず首を傾げる。  
鈍いね、と苦笑してネルは身体をひねると、マリアに向き直った。  
「対等になろうとか考えなくて良いんだよ、あたしは今のマリアが好きなんだ  
から。マリアはマリアのまま、そこに居てくれるだけで幸せなんだ」  
自分が説明させたも同然なのに、すっかり明文化されてしまうとまるで心の中  
まで見すかされていたようで増々恥ずかしくなる。  
とにかく抗議しなければ、とマリアが身体を起こした拍子に今まで相手の影に  
なって見えていなかった部屋の入口で、ドアを背にして立っている人影に気付  
く。  
「だれ?!」  
叫ぶとマリアは無意識に毛布を手繰り寄せ、体を隠した。  
ネルの方は悲鳴を聞くや否や、体を隠しもせず傍らの椅子に立て掛けた剣に飛  
びつく。  
莢から抜いた刃が月の光に煌めき、暗闇に一筋の歪んだ円弧を描いた。  
 
切っ先の向こうに見える人物。線の細い女性で、漆黒に近い灰色の髪は顔の両  
脇に束ねてたらしてあり、正面から見るとその房の長さはふぞろい。残りの髪  
は背にまわしてある。  
その正体に気付いて驚いたのはネルの方だ。  
「クレア!?」  
ゆっくりと蒼い月光の下へ歩み出てくるのは、確かにクレア=ラーズバードその  
人である。  
彼女の表情は苦悩と悲しみで眉間に深い筋を浮かべていた。  
しかし視線だけは真直ぐにネルの瞳にすえられている。  
「お幸せに…」  
消え入るような声で、しかし唐突にそう言うと次にマリアを見た。  
「…二人とも」  
いつの間にかクレアの掌中にはナイフが握られており、何のためらいも無く自  
らの首筋へと吸い込まれていく。  
現実よりも一瞬早く、マリアの脳裏に血だまりの中で息絶えるクレアの映像が  
閃いて、それを打ち消すように思わず目蓋をギュッと瞑った。  
しかし、いつまで経っても床に人が倒れる音は聞こえない。  
代わりにマリアの耳に飛び込んできたのは、半狂乱になって叫ぶクレアの声。  
「どうして!どうして止めるの?」  
そうっと瞳を上げると、ネルが刃物を奪い取って、そのまま壁に向けて投げ付  
けるところだった。  
ナイフは壁に突き刺さって『ビーン』と低い音を立てる。  
 
「離して!離してよ!」  
取り乱す女性の体を、ネルは無言のまま抱き締め続けた。  
やがてクレアは振りほどくのを諦めると、腕の中から相手の瞳を睨み付ける。  
「ココで死んだらあなたの心の中に永遠に残れる!…わたしはそんなことを考  
えるような汚い人間なのよ!」  
振りほどこうとする者と抑える者。二人の間に沈黙が流れた。  
マリアはすっかり驚いて、その様子を黙って見つめることしかできない。  
部屋の中には張り詰めた空気が充満し、緊張の糸が目の前に見えるよう。もし  
も指でつま弾けるならば『キン!キン!』と硬質な音を奏でるに違いない。  
他の二人の視線にさらされながら、ゆっくりとネルが口を開く。  
「でも…そんなトコもさ…」  
言葉を選んでいる様子の彼女の台詞の続きを、クレアとマリアが訝しむ。  
「…とても可愛いよ?」  
流石にその言葉は今の場面に相応しくない、とマリアは拍子抜けした。  
第一クレアは『可愛い』タイプというよりは、どちらかと言うと『きれい』と  
か『美人』という言葉の方が似合うと思われたからだ。  
しかし意外にもネルの選んだ言葉は効を奏したようで、それまで血の気を失っ  
ていたクレアの顔が、見る間に耳まで真っ赤に染まっていく。  
「そんな言葉で!…やさしくして、ごまかして!」  
言葉だけはまだ相手を責め立てるが、体からは抵抗の意志が消え失せていた。  
その様子を見たら、マリアは改めて二人の付き合いの長さを思い知る気がし  
て、ガックリと肩を落とした。  
 
ネルの方は、はにかむように目を伏せて腕の中の彼女と鼻同士を触れ合わせて  
いる。  
「死ぬ気なんてないクセに…強がっちゃってさ」  
その言葉を聞いたクレアが抗議の意思を露にし、再び身体を揺すり始める。  
しかし抱き締める腕には益々力がこめられ逃げられない。それが腹立たしく  
なって思わず相手の鼻っ柱に頭付きを食らわせた。  
「わたしだってクリムゾン・ブレイドの一員です!いつでも死ぬ覚悟くらい出  
来ています!」  
普段よりも数オクターブ高い声を張り上げる。  
相手の言葉を侮辱と受け止めて、叫ぶクレアの顔はまだ赤いままだ。  
「でも、少なくとも今、ココでじゃない…そうだろう?」  
ネルは鼻の奥がツーンとするのを摩ってこらえながら、穏やかに微笑んでみせ  
る。  
その様子を見てクレアは自分のしたことを思い知った。とたんに申し訳なさそ  
うな表情になる。  
「あんたとマリアって似てるんだよ…」  
ネルの吐いた台詞で室内が二人きりで無いことを、クレアに改めて思い出させ  
た。  
 
彼女は深紅の前髪の向こうから、そうっと上目遣いにこちらを見つめる。  
「皆が望むリーダーになろうと努力してる…でも頑張れば頑張るほど無理し  
ちゃってるみたいだね…」  
「似てるからって…」  
濃灰色の髪を揺らす女性は、横目でマリアをちらっと見てから、もう一度目の  
前の相手に視線を戻す。  
「それじゃぁ、わたしはどうなるの?」  
クレアの顔は破裂しそうなほど真っ赤になっているが、怒りの表情は吹き消さ  
れていた。  
「あんたは?あたしのコト、嫌いになったのかい?」  
ネルは卑怯を承知の上で、わざと質問に質問で返している。  
「意地の悪い物言いを…するのね…」  
言葉を失い、クレアは自分のつま先を見つめるしか無くなった。  
その瞳の裏側に過去を映している。  
好きだと恋人に伝える昔の自身を。欲望のままに身体を求めあうかつての二人  
の姿を。  
 
するとネルは、自分が残念そうな表情をしてるのが相手に見やすいように、  
ふっと顔を離した。  
「すっかり嫌われちまったね…」  
慌てて否定の意志を強調するために、クレアは追い掛けるように相手に詰め寄  
る。  
「だれも『嫌い』だなんて言って無いでしょう?」  
それを聞いてネルの口角が、にいっと上がる。  
「だったら、どうなんだい?」  
二人の間に再び流れる沈黙。  
クレアの腿の横に力なく垂れ下がった腕の先で、人差し指が空中を掻くように  
ぴくぴくと震えている。  
不意にマリアが座り直してベッドが軋んだ。クレアがその音を聞いて我にか  
えった。  
またもや二人の世界に没入していたことを知り、顔の火照りが増した気がす  
る。  
既にこれ以上ない程に赤面しているはずなのに。  
「…だったら?」  
改めて問いただすネルに、眉根を寄せて小声で抗議した。  
「人前で…言えるわけないじゃない」  
言われた方は『ふーん』と吐き捨てて、つまらなそうな表情で顔をマリアの方  
へ向け訊ねる。  
「マリアはあたしのコトどう思う?」  
問われた少女は、咳き込む時のように握りこぶしで口元を隠しながら、小さい  
声だがハッキリと答えた。  
「好き…大好きよ」  
ネルは向き直ると『ホラね』と言いたげににクレアを見つめる。  
 
降参したとばかりに深く息を吐いて、数歩の距離を一気に埋めて相手の胸に飛  
び込んだ。  
そのまま柔らかな膨らみの上に顔を埋め、相手から見えないように表情を隠  
す。  
「わたしだって…好き、です…」  
思わず丁寧な言葉遣いになった自分にますます恥じ入る。  
相手が黙って聞いていてくれたのがせめてもの救いだ。  
恥ずかしさを隠すために何か喋らねば、と考えた拍子に自分でも思いもよらな  
かった言葉が漏れてしまった。  
「でも、立場があるから…できるだけ、感情は押し殺して…」  
言い訳のように、独り言のように話しだす。  
これは懺悔だった。クレアはいつの間にか、今が全てを白状するのに良い機会  
だと思っていた。  
「なぜわたしが…部下を、皆を戦場に送らなきゃいけないんだろう…」  
泣き言のようだ…と心の奥底でもう一人の自分が冷たく呆れているのが判る  
が、すでに感情は押しとどめられなかった。  
心の奥をせき止めていた何かが失われ、考えるより先に言葉が紡がれていく。  
「失うのが怖かった…皆を…愛する人を…誰かを愛する心を、無くすのが怖  
かったの」  
 
かつてはお互いを世界よりも大切だと思い合っていたはずなのに、お互いを大  
切にする余りに祖国を守ることに気をとられた時期が長過ぎた。  
それがすれ違いを招き、すれ違ってでも思い人さえ無事で居られれば…と更に  
政(まつりごと)にのめり込む。それがさらなるすれ違いを呼ぶと知りなが  
ら。  
そこから先は言葉にならなかった。代わりにネルが口を開く。  
「だから…あたしを遠ざけてたのかい?」  
彼女の腕の中で、クレアの頭がコクコクとうなずいている。  
「そうすれば…もしもあたしが死んだとき…」  
抱きすくめられていた体が『死』という言葉に反応し、思いがけずビクッと震  
える。  
何度聞いても、何度報告を受けても慣れないその言葉。  
「…あたしが死んでも、あんたの心は痛まないって…そう言うのかい?」  
恐る恐る顔をあげると、ネルが少しだけ寂しげな笑顔を浮かべていた。  
「ごめんなさい…」  
謝るクレアへの答えの代わりとして、やさしく頭が撫でられていた。  
髪に触れられるのもそのままに顔を臥せると、視線の先にはネルの胸がむき出  
しのままそこにある。マリアとの情事の予熱を放ちながら。  
 
かつて貪りあうように重ねた肌がそこに…。  
不意に、二人きりの時はいつも優しく頭を撫でられながら寝入ったのを思い出  
す。  
記憶の中の二人と今の状況に戸惑い、そして目前の誘惑に憧憬と欲望を抱い  
た。  
今だ何者にも侵されたことが無いように、汚れのない肉の輝きを放つ肌色の膨  
らみ。  
桜色の頂きにそっと指を伸ばしてみる。ゆっくり、ゆっくりと。  
その仕種に期待が沸いたのか、触れる前からかすかにネルの呼吸のリズムが変  
わっていた。  
咎められないのを認めて、肌色と桜色の境界上でクレアの爪がクルクルと輪舞  
を演じる。  
「償いの…機会をわたしに…」  
つぶやきながら顎を上げ、相手の耳もとに囁いた。  
「いいでしょう?…」  
返事を待たずにネルの首に腕を回してベッドに背を向けると、導くように後ろ  
向きに歩き出す。  
キスしたり、はにかんだり、相手のキスから逃げてみたり。  
そんなことをくり返しながら、二人で一緒にベッドに近づいていく。  
圧倒されたマリアは二人を邪魔しないように隣の、部屋の奥側のベッドへと身  
を避けた。  
ネルがキスの合間に困ったような笑顔を向けてくる。  
マリアも少し困ったようにうなずいてみせた。  
 
クレアが誘うようにベッドへ背中から倒れていくと、その上に覆いかぶさるよ  
うにネルもベッドへ上がっていく。  
キスの雨を受けながら、彼女の胸の下でクレアは器用に防具を外す。続けて衣  
服を脱いで下着も取り払った。  
やがて裸身をさらけだすと相手の腰に手を回して入れ代わり、クレアが上に  
なって太ももの間で体を起こし、舌舐めずりをする。  
その様子を見つめるネルの瞳も、どこか期待で輝いているかのようだ。  
マリアは息苦しさを感じ、それが嫉妬だと理解する間もないままにそっと立ち  
上がった。  
蒼い髪が波打つ後ろ姿に、誘惑の呪文が投げかけられる。  
「行かないで下さい…そこで観ていて下さい」  
思い掛けないクレアの言葉に聞き間違いかと振り返ると、声の主は優しい表情  
でこちらを見ていた。  
「え?」  
理解できなかったわけではないが、突拍子もない誘いにマリアは思わず聞き返  
した。  
「今のわたしには…別に二人の仲を割くつもりはありません」  
床に視線を落とす彼女の横顔はどこかはかな気だ。音も立てずに濃灰色の髪が  
一房、頬にかかる。  
 
「そんなこと言われても…」  
どうしてもクレアの真意がつかめず、自分だけが何かとんでもない思い違いを  
していて、そのうち恥をかくのではないか…とさえ考え始めた。  
「ネルが…絶頂を迎えるところ…見たくありませんか?」  
そこまで聞いて自分の思い違いではないと確信できたが、申し出がとんでもな  
いことであることに変わりはない。  
ネルが気をやり、悦びに身体を震わせる。瞬間、体表を覆っていた汗が全身か  
ら飛び立つと月光の中にキラキラと煌めき、オーラのような輝きを全身にまと  
う…。思いがけずそんな様を頭の中で思い描いてしまった。  
自らの中で沸き立つ誘惑に喉を焦がされそうになりながら、飢えを飲み込むよ  
うにマリアは喉をゴクリと鳴らす。  
ネルも同じ気持ちなのかと気になって視線を向けて見ると、彼女は黙って小さ  
くうなずいた。  
「…わかったわ」  
意を決し自分の心を挫けさせないように言い放って、ベッドの上に座ると自分  
の両ヒザを抱える。  
クレアは満足そうにうなずいて、ネルの上に覆い被さっていった。  
息をするのも惜しむかのように、二人は唇を重ね舌をからめあう。  
下から伸びてきた手がクレアの頬にかかった髪を避ける。それを眺めるマリア  
の胸が締め付けられそうになった。  
 
粘膜をかき混ぜるような隠微な音が部屋に満ちていく。  
二人の身体の間ではネルの両の乳房を裾野からかき集めるように、それぞれ両  
手でクレアがわしづかみにする。  
「ぅあっ」  
期待とも悦びともとれるような艶を含んだ声が深紅の髪を持つ女の口から上  
がった。  
膨らみをこねるようにしながら、交互にねじるような動きを加えて胸全体を揉  
みしだく。  
乳房同士を押しつけしたり、絡ませようとする動きを加え、時には押しつぶす  
ように。  
クレアのその手付きは明らかに慣れている動きだが、マリアの目には少々乱暴  
に映った。  
「強がりは…ぅん!…ネルの方。…本当は…滅茶苦茶に…されたいクセにッ」  
誰に言い聞かせるでもなくクレアが囁いた。途切れがちの言葉がその手にこ  
もっている力の強さを思わせるが、ネルの口からは絶えず嬌声が上がってい  
る。  
漆黒の髪の乙女が恋人の胸の上で指を滑らせる。そのまま膨らみの頂きで震え  
る熟れた果実を、ねじ切らんとばかりに人さし指と親指の腹で『ぎゅうッ』と  
ねじりつぶした。  
「ッー!?」  
瞬間に声をあげる間もなくビクンとネルの身体が波を打つ。同時にボトボトっ  
と音を立てて股間からいくつもの雫が滴り落ちる。  
 
浮き上がった腰がベッドに沈む際に『ねちゃり』と粘液を含み重くなったシー  
ツの音が聞こえた。  
不意に自分の指先にも粘液が絡まっているのにマリアが気付いた。  
慌てて右手を目前に持ち上げると人さし指と中指が、月夜の中でもぬらぬらと  
淫猥な輝きを得ているのが分かった。  
「わたし…?」  
ネルが悶える姿を見ながら、無意識に股間をいじってしまっていた自分に驚  
く。  
その間ももう一方の手の指が肉の門戸の間で揺れ続けている。  
「…止まんない…」  
右手を股間に戻すと、中指が身体の再奥への通い道を当たり前のように進んで  
いった。  
『…自分でココを触るのは初めてなのに…』  
誰に教わるでもなくその部分は禁忌と認識しており、お風呂で外側を洗う時の  
他には、つい数日前まで直接触れられる事などなかった場所。  
その先でたどり着いたのは、ネルが心の底から欲しながらも、ついに崩さな  
かった肉の砦。  
それに穿たれた、かろうじて指一本入るのがやっとの抜け穴にマリアは指を添  
えた。いつもネルにされるように。  
ゆっくりと指を押し進め、その狭苦しい乙女のしるしをくぐらせると、己の内  
部は柔らかく思いのほか広い。  
この瞬間彼女は禁忌を破り、自らを慰める行為に堕落してしまったのだった。  
 
さて、今やベッドの上ではクレアが相手の左脚を自らの肩にかかげていた。  
左脚を持ち上げられ、右半身を下にしてネルは横たわっている。  
その下側になっている方の乳房をクレアが左手のひらで包むようにつかみ、親  
指と人さし指は相変わらず先端をこね廻している。  
そのまま上から被さってくる左の乳房をポンポンと弾ませていた。そのせいで  
『タム、タム』と規則的に肉を打つ音が聞こえる。  
一方、クレアの右手の方は抱えられた左脚の舌でネルの肉壷に突き立てられて  
いる。  
人さし指と中指を浅く挿入しながら、人さし指と親指、中指と薬指の間にそれ  
ぞれ肉厚な花びらを挟んでいる。  
手のひらを離してもひだが引き延ばされる分しか離れられず、指を押し入れて  
もひだを挟む他の指に邪魔されてさほど奥まで侵入できない。  
その焦れったさがネルの火照りに拍車をかけて粘液の分泌を促し、その粘液の  
響きがさらに呼び水となって強い刺激を求めた。  
カプ・カプ・カプ・カプと、溢れんばかりの蜜壷で水面を叩く音が無情に続  
く。  
入り口付近ばかりが刺激され、弄ばれる響きのみが心の奥で欲情に油を注ぐ。  
強い刺激を求めてネルが腰を揺すった途端に、ひだが滑って『プルン』とクレ  
アの指から弾け出た。  
 
クレアが逃げた肉を再び捉えようと手を添えると、手の甲を膣口に押し付ける  
形になった。  
ネルは身体の芯を押し上げるような圧力、決して激しく無く鈍い感覚がたまら  
なく好きだった。  
不意にため息まじりの、力が抜けたようなだらしない悲鳴が時間をかけてもれ  
ていく。  
「ンぁあぁあぁーっ…」  
同時にビクビクと内臓の痙攣が急激に増したのがクレアのこぶしにも伝わる。  
「まさか今の…イッたの?」  
中指でネルの秘肉の間をかき分けて、確かめるように愛液を自分の口に運んで  
味わった。  
達した女は力無く呼吸をくり返した。紅色の髪をまとった顔は横を向いてうな  
だれていて、視線だけが相手を見つめている。  
「今日は潮を噴かないのね…見られながらじゃ恥ずかしいの?」  
クレアは言いながら、ちらりとマリアの方を見る。  
そちらでは平静を装いながらオナニーに耽っている乙女が居た。  
食い入るようにネルの身体を見つめる瞳と、何よりもうっとりとした表情から  
それは判った。  
彼女は足の間に枕を挟んでいたのでその部分は見えないが、耳を澄ませばネル  
のとは違う粘液質の音がするはずだ。  
 
クレアはマリアからもソノ部分が見えるように体を避け、ネルの秘裂の合わせ  
目に親指を添える。  
瞬間、蒼い髪の少女は微かにアゴをあげて、滑稽なくらい大袈裟に唾を飲み下  
した。  
クレアが微笑みながらゆっくりと指の腹を押し付けるようにすると、深紅の陰  
毛の下から肉色の真珠があらわになる。  
充分に熟れて熱を持った肉の芽は外気に触れ、その温度差が与える刺激は持ち  
主の呼吸を止めかけた。  
その部分から目を離さないまま、マリアは己の肉豆の莢を剥いて同じ快楽を求  
めようとする。  
「くン!」  
慣れない刺激に蒼い髪が振り乱された。  
汗で額に張り付いた前髪の間からネルの真珠を見つめると、そこは鼓動に合わ  
せてトクン・トクンと脈打っている。  
やがて自分のモノも確認するように、マリアはそっと股間の芽を摘んでみた。  
「きゃうッ」  
強烈な感覚に襲われ一気に膣が収縮したと思った刹那、そこから吐き出された  
空気がひだを震わせた。  
室内に「ぶぅっ」という音が鳴り響く。  
そして沈黙。  
 
ネルとクレアが見つめる中でマリアの顔が理性を取り戻し、羞恥でみるみる赤  
く染まっていく。  
「いっ…今のはちがッ…違うのよ!」  
恥ずかしさで消えたくなる思いに襲われながら訴える。  
クレアは微笑んでうなずくと、一歩だけ床におりて彼女のいるベッドに移って  
きた。  
「判ってます。…そんなに恥ずかしがらないでください」  
ヒザを立てた姿勢で、向かい合う相手の瞳を覗き込む。  
「あんまり気持ちよくって…」  
言いながら、そっと右手をマリアの太ももの間に圧しあてた。  
「ココが鳴っちゃったんでしょう?」  
小振りな花びらを押し分け、愛液まみれですっかり侵入しやすくなったそこに  
中指を滑りこませる。  
そのまま小刻みに揺らしてやるとマリアは目蓋を堅く閉じて、与えられる快楽  
を受け入れた。  
 
ふと、入り口からさほど遠くないところに障壁の存在を探り当てる。それ以上  
の侵入を許さないように閉ざされた、乙女の砦を。  
クレアの瞳が少し開かれる、驚いたように。  
「大切に…愛されてるんですね?…」  
暗い欲望がその胸に去来し、思いがけず指に力がこもった。  
マリアの体の中心で、ひだがメリメリと押し伸ばされ、引きつっていく。  
「いっ…つっ」  
マリアが苦し気な声をあげ、とっさに相手の手首を掴んだ。  
クレアがハッと我に帰る。  
慌てて指を抜き去ると身体を離した。  
「ゴメンなさい…」  
ベッドからおりると悲しそうな一瞥をネルに向けてから、クレアは床に散ら  
ばった自分の衣服を拾い集める。  
「どうか私のことは、お気になさらないで…」  
わたしは捨てられるのだから、心の中で付け加える。罪を償うつもりだったの  
に、たった今罪を上塗りしてしまった嫉妬深い人間。  
 
心の中で自分を叱りつけながら作業を続けていると突然に腕をつかまれ、ハッ  
と顔をあげれば、クレアの目の前に深紅の髪で縁取られた顔があった。  
「バカだね…今夜は帰さないよ?」  
ネルは力任せに相手を抱き寄せて唇を奪う。  
クレアがギュッと目を瞑ると、その瞳から涙がこぼれてきた。  
彼女の手で包まれた頬に伝わる暖かさは、まるで自分を許してくれているよう  
でもあり…。  
やがて唇を離しクレアの頭を肩にのせると、ネルは今度はマリアに手招きをし  
た。  
「あたしのせいで二人が苦しむことなんてないんだ…」  
従順に近付いていき、クレアと同じようにその唇をネルに捧げる。  
時間をかけてゆっくりと味わった後で、もう一方の肩にマリアの頭を抱き寄せ  
る。  
「それに、あたしは欲張りだからね。どっちも手放すもんか!」  
ネルの腿の間で、クレアとマリアもそっと手を取り合った。  
まさに両手に華。満足そうにネルが呟く。  
「アペリスの名の下に…いや、太陽神アペリスのようにね」  
「…キザ」とクレア。  
「女ったらし…」とマリア。  
 
三人がそれぞれの胸の中で『一人よりも二人、二人よりも三人で支えあえれ  
ば、それはそれで幸せの形ではないか』と、異句同義に納得しようとしてい  
た。  
長かった夜も終わりが近付き、光明が差し始めた。その時…、  
「ひてッ、ひたい、アニふるんだい?(痛い、何するんだい?)」  
前触れもなく、クレアの指がネルの頬をきつくつねりあげていた。  
「そう言えば…」  
と言いながら濃灰色の髪で飾られた顔が、紅色の髪を持つ相手に近付いてい  
く。  
その様を横から眺めながら、マリアは『きれいな人』と素直に感心した。  
「アペリスの妻は『三人』おられるんだけど?」  
確かに、太陽神アペリスの妻はイリス・エレノア・パルミラの三柱の姉妹神で  
ある。  
「まさか、まだ他にも狙ってるコが居るわけじゃあ…ないわよね?」  
いたずらなのか本気なのか判らない笑顔。しかし指先だけは力を加えていく。  
「そこのところどうなのかしらね?わたしも聞かせて欲しいわ」  
クレアの言葉を聞いてマリアも加勢する。空いている方の頬をつねり上げた。  
俗に『仲直りエッチは燃える』らしいけど、今日のクレアを見たらそれは避け  
たい事のようにマリアには思えた。  
悪い芽は早めに摘んでおくに限る。いや、除草剤で雑草は根こそぎ…の方が良  
い例えかも知れない。  
堪えきれずに慌てて二人の手を振りほどくと、ネルは慌てて弁解した。  
「ばっ…バカなこと言うんじゃないよ!」  
責めるような目で二人を見比べ、自分の頬を癒そうとさすっている。  
目を細めてクレアが更に詰め寄った。  
「ファリンとかボーっとしてて、手篭めにしやすそうよね?」  
マリアも同調した。  
「タイネーブさんは?二人っきりで『特別訓練』とかしてるんじゃなくて?」  
 
ネルは呆れたように頭を垂れる。  
嫉妬は愛情の裏返し…とは言うものの、その切っ先は向けられずに済めばそう  
したい。  
身に覚えがないわけではないから、自分でもタチが悪いと思う。しかし今そん  
な事を幽かにでも匂わせたら最期、日が登る頃には領主屋敷の前に逆さ吊りの  
刑だ。それも全裸で。  
必死で満面の笑みを浮かべてやる。二枚目は辛いねぇ、と心の中では汗ダラダ  
ラだが。  
「二人ともただの部下だよ。何か仕掛けるわけがないだろう?」  
そこへ二人の声が重なった。  
「「前科があるから疑っているのよ!」」  
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【エピローグ?】  
「ハッ…クショッ!」  
バンデーン艦。捕虜用の独房の中。  
換気口を通して、隣の部屋から少女のくしゃみが聞こえてきた。  
ウトウトしかけていたロキシ=ラインゴッドは目をさまし、壁の向こう側の見え  
ざる相手に声をかける。  
「ソフィア君、大丈夫かね?」  
ごそごそと居住まいを正す音に続いて、ソフィア=エスティードの通りの良い声  
が聞こえてきた。  
「ゴメンなさい、大丈夫です。何か…急に寒気がして…」  
 
【終】 

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