「・・・起きろ、糞虫」  
顔面を思いっきり踏みつける。  
 
「う・・・ぐっ、誰・・・だ、貴様ァッ!!」  
死にかけと見せかけて反撃か。  
フン、下らん。  
「所詮糞虫は糞虫か。アイツ等程度も倒せない、不意打ちも当てられないじゃ生きていても仕方ないな」  
近くに転がっていた兵士の剣を一本持ち。  
「え、あっ!?アルベル様ッ!?待ってくださ―――」  
 
 
 
ぐちゃっ。  
 
それを額に生やしてやった。  
「お似合いだ糞虫。脳ミソぶちまけて寝てろ」  
 
 
オブジェを思いきり蹴飛ばして、闘技場から去っていく。  
「副団長が居ないとなると、また厄介事を押しつけられかねんな。どうするか・・・」  
 
その頃フェイト達は救出が成功した事をクレアに知らせる為にアーリアへと向っていた。  
そう時間も経っていないので、修練場がまだ見えないこともない距離しか歩いていない。  
「敵一匹一匹相手にしてたら日が暮れちまうぜ?無視して行く方がいいだろ?」  
「ああ、でもタイネーブさん達かなり痛めつけられてるし無理は―――」  
「しっ・・・静かに。誰か居る」  
 
またアーリグリフの兵士が追い掛けてきたのかと、タイネーブとファリンを囲むようにして陣形を組む。  
「ほう、危険察知だけは優秀なようだな」  
 
岩の陰から出てきたそいつは―――  
 
「アルベル=ノックス・・・!?」  
「本当なら貴様等糞虫なんぞ相手にもしたくないが―――事情が変わった。  
 そこの女二人、どちらかを寄越せ。大人しく従えばよし。拒めば殺す」  
 
「なんだとテメェ・・・うぐっ!?」  
クリフはすかさず食って掛かったが、あっという間に足に一撃食らう。  
血がつぅっと足を伝い地面を汚す。  
「くぅ・・・っ!ナメやがってぇっ!!」  
「話にならん。女を置いて出直せ。どうやら、俺を満足させるだけの資質はあるようだからな。  
 強くなったらまた相手してやる」  
また殴りかかろうとするクリフを、ファリンが後ろから制止した。  
 
「待ってください、私が・・・行きますからぁ」  
「冗談じゃない!折角ここまできて―――!!」  
 
フェイトが憤りをぶつけるように、ファリンに怒鳴る。  
ビクッと驚くも、意見は変えないようだった。  
 
「安心しろ。殺すつもりはない。拷問もなしだ」  
 
「・・・分かった。この場は引き渡す」  
「ネルさん・・・!?」  
クリフもフェイトも、納得出来ないような表情でネルを見る。  
 
「理由は分からないけど、アルベル=ノックスは本気みたいだからね。  
 ・・・ここで全員死んだら助けられるものも助けられなくなる」  
「くっ・・・だけど・・・っ!」  
 
決まりだな、とアルベルはファリンに近付き、手を引く。  
「その程度の怪我なら大した事はない。さっさと歩け、阿呆」  
「それじゃあ・・・皆さん、またですぅ・・・」  
 
クリフは力の限り、地面を殴った。  
「ごめんね、ファリン。必ず迎えに行くから」  
自分の無力さを呪った。  
 
カルサア修練場に戻ってきた二人は三階へ向う。  
ファリンが断続的な身体の痛みに耐え切れず蹲る事もあったが、  
その度アルベルは起き上がるのを待った。  
起こそうとはしなかった。  
 
「アルベル様・・・どうしたんですかこの人!?」  
「何処かの糞虫が下らん事をやった所為だ。マユ・・・だったか。貴様、食事を作るのが一段落したら手当してやれ」  
「は、はいっ!それじゃあ御姉さん・・・ちょっと待っててくださいねっ!」  
 
食堂に連れて来られたファリンは、アーリグリフ兵が食事を取っているのを部屋の端で見ていた。  
連れてきたアルベル本人はマユに用件を話すと何処かへ行ってしまった。  
 
見張りも特についているわけじゃない。  
逃げられない事もない。  
だがここまで待遇に差があるのが気になり、ファリンは動かなかった。  
マユの手当を受けている間も、何故ここに連れてきたのかを考えていた。  
「マユさぁん、アルベルさんは何で私をここに連れてきたんですかぁ?」  
知っているわけはない、とは思いつつも尋ねてみる。  
すると意外な言葉が帰ってきた。  
 
「シェルビー様が反乱を起こした時にやり口の汚さに腹を立てて、  
 咄嗟にアルベル様を庇った、という風に私は聞いてますよー。  
 シーハーツにもいい人って居るんですね、ちょっと見直しました」  
庇った?  
私が?  
アルベルさんを?  
何故?  
敵なのに?  
 
・・・どうしてそんな話になってるんでしょうかぁ?  
そう問いたくもなったが、得策じゃあない。  
その話が嘘というのがわかって、また面倒な事になるのも―――  
 
「あはは、そうなんですよぉ」  
「あ、そういえばお名前聞いてませんでしたねー」  
「あー、すっかり忘れてましたねぇ、私はファリンって言いますぅ〜」  
 
暫くマユと他愛もない事で笑い合っていた。  
そのうちマユの母らしき人に呼ばれて「ごめんね、ちょっと行ってきますっ」と仕事場へと戻った。  
 
と、今度はアーリグリフの兵隊が近付いてきて。  
「そこの姉ちゃん、団長を助けてくれたんだって?」  
「え?あ、はい!そうですよぉ〜」  
一人一人その兜を脱ぎ、笑いかけてくる。  
「いやー、シーハーツの人間なんて王様手にかけようとする糞野郎ばかりだと思ってたよ」  
「ほんとだよな、シェルビーが団長になんてなったら俺軍辞めてるってーの」  
 
アーリグリフ軍の兵を殺すのに、躊躇いはなかった。  
敵である以上は、倒すしかない。話し合いなんてもってのほかだ。  
攻めてきたのはアーリグリフ軍なのだから。  
 
でも、こうして見ると―――  
アーリグリフ軍もシーハーツ軍も  
中はこんなにも温かくて  
 
「お、おい・・・姉ちゃん?」  
「ほぇ・・・?」  
「何で泣いてんだ?何か気に障る事言っちまったか?」  
 
頬を伝う涙。  
私は彼等の家族から、大切な人を奪っていたのだと。  
 
戦争だから仕方がなかったと、一言で解決出来る程安易でもなく。  
私が殺した兵の家族にしてみれば、どんな理由があろうと私は仇。  
そして、その考え方はシーハーツもアーリグリフも一緒。  
 
そう、ただひたすら私欲の為に戦争をしたがる人を発端として、  
そこから怨恨の連鎖が起きている。  
悪いのは『国』でなく『発端』なのだと。  
 
 
 
「治療は受けたのか」  
稽古場で刀を振るっているアルベルに近付くと、振り向きもせずそう聞かれる。  
「はい、大丈夫ですよぉ」  
「それならいい。あのままだと何かと差し支える」  
 
「ところで、アルベルさんは何で私を連れてきたんですかぁ?」  
「人手が足りなかっただけだ。"漆黒"に巣食う糞虫共を一掃し、流れた噂を上手く操作してやれば、  
 居場所にも不自由はない。・・・これは"命令"だ。貴様を"漆黒"副団長に命ずる。  
 ヴォックスの野郎が文句垂れるだろうが、俺の騎士団の中に口出しはさせん」  
 
多分、アルベルは本当にただそれだけの理由でここに連れてきたんだろうと思う。  
でもそれ以上に、今まで見えていなかったものが見えた気がして、嬉しくなった。  
 
「ありがとうございまぁす」  
「あん?何で礼なんか言うんだ?」  
「えへへ、何でもないですよぅ」 
 
数日後、アーリグリフの密偵からシーハーツが新兵器を開発する為に銅を奪いに来るという情報が舞い込んできた。  
当然、ファリンの元にもその情報は届いていて―――  
 
「サンダーアロー・・・ですねぇ。完成させるとこっちの人も沢山死んじゃいますからぁ・・・」  
「・・・おい、聞いてるか阿呆」  
「は、はぃ?」  
「元仲間だろうと容赦するな。素振りを見せれば後ろから斬られても文句は言えん」  
「分かってますよぉ」  
 
この地位に就いて(就かされて)からというもの、アーリグリフの兵もシーハーツの兵も出来る限り死なないようにと、  
極力戦闘行為は避けるように指示を与えてきた。(勿論後々の作戦が有利になるようにという名目上、実際成果を挙げられるようにしなければならないが)  
ただ今回の任務は恐らく―――ネル達が来る。  
大勢死人が出る事は間違いない。  
なら取る行動は一つ。  
 
 
 
「・・・変だな」  
鉱山の入り口に到着したネル達一行。  
現状を見る限り、という狭い範囲の話だったが正直にそう思った。  
なにせ、兵隊を集めているという情報が入っているにも関わらず、見張りの一人すらも居ないのだから。  
 
「罠・・・でしょうか」  
「だろうね。どっちにしろ、入るしかないけどさ」  
 
「敢えて見張りを置かず出てくるであろうこの場所で総力戦、か」  
鉱山の中に通じている線路の先、微かに光が動いて見えた。  
「第一陣は出口に展開、第二陣・第三陣は右上方、左上方にてそれぞれ待機、第四陣は鉱山の入り口から彼等の後を追ってくださぁい」  
前門の虎、後門の狼。  
ただ、ファリンは信じていた。  
一点突破してくれればこちらの被害も最小限、そして素振りも見せずに逃がす事が出来る。  
彼等になら、それが出来ると。  
 
「何をしているの?早く積み込んで」  
「ですが、外に―――」  
「外に何が―――ッ!?」  
 
彼等からすれば、脅威だったであろう。  
「お久し振りですぅ」  
「ファリン―――何故、ここに!?」  
「何故って、銅を奪われない為ですよぅ〜」  
彼女が敵に廻ってしまったという事実。  
それは、優秀な作戦参謀を与えてしまったという事で。  
 
ザザザザッ。  
フェイト達の後ろから、兵士が恐らく二十人強、歩み寄ってくる。  
出口の外には、ファリンと一緒にぐるりと外を囲む歩兵。  
そして空中にはエアードラゴンに乗った兵隊がざっと十数騎。  
 
「くっ・・・こりゃあ、完全にハメられたかッ!?」  
「ファリン・・・アンタ、本気かい?」  
にっこりと。  
何時ものように、あの頃のように笑顔を。  
 
「当たり前じゃないですかぁ」  
腕を挙げ、振り下ろす。一斉に兵達が襲いかかって―――  
 
案の定戦闘が始まった。  
今まで味方だった彼等の戦力はある程度把握し、常に一人に4,5人で当たるように指示を出した。  
これならいくら腕が良かろうと、なかなか捌ききれはしないはずと踏んだのだ。  
 
「フェイトっ・・・銅とアンタ達だけでも脱出しなっ!!」  
「無理ですっ!こんな大人数の中を突っ切るなんて―――!!」  
「クソッ・・・一点突破しかねぇかっ!俺達で道を開ける!その間に馬車を通せッ!」  
 
「銅だけは取られては駄目ですっ!!銅を死守してくださいっ!!  
 敵が逃げても追わないで、とにかく銅をッ!!」  
 
一瞬、強烈な違和感を覚えた。  
ファリンがサンダーアローの事を知っているからこれ程までに阻止しようとしているというのは分かる。  
分かるが、敵が逃げても追うなというのは―――  
 
・・・まさか。  
 
ファリンはただ、誰も死なせないようにしているだけ?  
 
「悔しいけど、撤退するよっ!!」  
ネルがそう叫んだ。  
「マジかよっ!ここまで来て逃げんのかっ!?」  
「銅ならまた取りに来ればいい!けどここでアンタ達が死んだら意味ないだろう!?」  
 
戦いながらネル達は散々議論していたが、結局やむを得ずといった形で撤退していった。  
兵隊の波から抜け出す寸前、タイネーブがこちらを寂しそうに見ていた。  
 
 
 
姿が見えなくなると、兵達はおおいに湧き、勝利は目前だと喜んだ。  
 
が、しかし―――  
 
 
 
「アルベルさぁん・・・少し休みましょうよぉ〜」  
「触るな、阿呆ッ・・・!!」  
どうやら、彼等―――フェイト一行に敗北したらしかった。  
修練場に帰ってきてからというもの、休み無しに稽古をしていた。  
食事も、水分補給ですらもせず、彼是四時間休みなしだ。  
マユが作ってくれた特製料理を食べるように言うが、聞く耳は持たず。  
ただただひたすら、普段使わない両手用の大剣を一本ずつ持って。  
それを普通よりも巨大なスケアクロウに打ちこみ続ける。  
 
歯茎から血が零れていた。  
悔しくて悔しくて、悔しくて堪らずに。  
そしてそれにすら気付かない程集中して。  
 
ドンッ!「あんな糞虫共に負けるだと!?」  
 
ドンッ!!「この俺が、負けるだとっ!?」  
 
ドンッ!!!「そんな事が・・・そんな事がッ!!」  
 
「あってたまるかァ―――ッ!!」  
ドオォォォォンッ!!!!  
 
怒りをぶつけられたそれは無残にも根元から折れ、そして地響きを起こす。  
「無理、しないでくださいよぉ」  
無言のまま、声の主・・・ファリンを見る。  
 
「身体壊しちゃったらリベンジも出来ませんからぁ〜・・・でしょ?」  
あはは、とまた何時ものように能天気に笑う。  
何時ものアルベルなら「阿呆」と罵ったろう。  
「・・・悪かった、ファリン」  
「あ・・・あれぇ?"阿呆"って言わないんですかぁ〜?」  
「あん?言って欲しいのか?」  
「そういうわけじゃありませんけどぉ〜・・・」  
「じゃあ"ファリン"でも構わんだろうが」  
 
悪くはないと思っている。けど、なんだか違和感がある。  
認めてもらったからそう呼ばれたというより、自分を卑下しているから―――  
「自信なくさないでくださいね〜?やっぱり、私なんかより凄く強いですし〜・・・」  
「阿呆。貴様に負ける程弱くない」  
「そうそうっ、それでこそアルベルさんですよぉ〜」  
いいようにノセられてる気がしてきた。  
そう、アルベルは思ったが―――  
認めたくはないがココロモチ元気付けられたのも事実だ。  
「次は―――絶対に勝つ」  
 
アーリグリフとシーハーツ。  
両国の決戦の日はアルベルは部隊に参加しないと前日になって言ってきた。  
理由を問いただす為彼の部屋に向う。  
ドアをノックし、入室許可を待たず入ってアルベルを呆れさせたが、  
そんな事は今はどうでもよかった。  
 
「何故ですか〜?きっとフェイトさん達出てきますよぉ。リベンジのチャンスじゃないですかぁ」  
「・・・悔しいが、今の俺では奴等に勝てん。暫く修行に行く。部隊は・・・貴様に任せる」  
一時の沈黙。  
「私に・・・ですかぁ?」  
「ああ。お前は実際評判は悪くない。兵からも異論は出ない」  
「ですけど、そのぉ〜・・・」  
「元仲間と戦うのが嫌か」  
 
ファリンは黙り込んでしまう。  
「貴様が何の為に逃げ出さず任務を全うしているのかは知らんが・・・そんな半端な気持ちで居るなら、俺の前に二度と顔を見せるな」  
そう言うと、さっさと出ていけと手で追い払った。  
そしてファリンも、黙ったまま部屋を出ていく。  
言いたい事を言えないままに。  
 
「団長、ちょっとお話が」  
漆黒の団員が一人入れ替わりに入ってくる。  
出ていくファリンを気にしながら。  
「あん?何か用か?」  
「姉さんと一番仲が良いのって団長ですよね?」  
呆気に取られた。  
突然神妙な顔つきで入ってきたかと思えば、そんな事を聞くか?普通。  
「下らん事を聞くな、殴るぞ阿呆。それだけなら帰れ」  
「いや、真面目な話なんですよ。実は―――」  
 
「あの阿呆が風呂の時何時も泣きじゃくってる?」  
アルベルは普段、一番最後に風呂に入る為誰かと一緒に入るという事がない。  
それ故、気付かなかった事だ。  
「正直想像つかん」  
無意識の内に出ていた感想。  
団員は、無言のまま頷き同意した。  
「ええ、私達も最初は信じられなかったんですよ。あの人が泣くなんて有り得ない、って。  
 出てきたら出てきたでケロっとしてるんですが、目がやっぱり赤くなってたり―――」  
 
夜。  
ファリンはもう一度、ノックをした。  
 
「明日は戦争だろう・・・何故ここに来る?この阿呆が」  
明らかにイラついているのが見てとれる。  
 
「私、鉱山で銅を守っていた時も震えてたんですよ〜・・・  
 それが本気の戦争になるだなんて考えただけでも寒気がするんです、だから―――」  
 
 
 
「お願いです、私に勇気をください」  
 
ファリンの、特徴的な間延びした言葉遣い。  
それがこの時だけ完全に消え、妙に大人びた(元々大人なのだが)言い方をされたからか、よく耳に響いた。  
 
 
 
「傷の舐め合いか。下らん。下らんが―――」  
 
「借りくらいは返す」  
 
外は暗い。  
これ以上無い程に暗い。  
明日は決戦の日。  
昂ぶるココロを食らい尽くすように、空は漆黒に染まる。  
自らの属する隊の名の本来の意味。  
押し潰されそうにもなる。  
 
「傷だらけだな」  
ファリンの生まれたままの姿を見て、ポツリと呟く。  
身体中に色々な形で残った武勲。  
男にしてみれば、それはそのままの意味で受け取れたかもしれないが。  
 
「嫌ですかぁ〜・・・?」  
「阿呆。嫌なら抱こうとも思わん」  
「嬉しいコト言ってくれますねぇ〜」  
「フン、下らん事言っている暇があったら始めるぞ。貴様には時間がないだろう」  
ファリンを押し倒して、乳房を愛撫する。  
その間中、ずっと目についていた。  
 
傷だらけの胸。  
傷だらけの腕。  
傷だらけの足。  
 
そして真新しい傷が数箇所、数十箇所と。  
 
「もう終わった事ですから気にしなくていいですよぉ〜」  
「フン、あの糞虫が勝手にやった事だ。気に病むつもりもない」  
 
中には、まだカサブタがなく傷口が露出しているのもあった。  
連日の稽古で剥がれてしまったのかもしれない。  
 
痛がるのは分かっていたが、乳房に添えていた手を止め、傷口を舐めた。  
「ひゃぅ・・・!な、なにするんですかぁ〜・・・?」  
「言ったはずだ。傷の舐め合いだと」  
「そ、そういう意味じゃないんじゃないですかぁ〜?」  
「知らん。好きにさせろ」  
 
アルベルは好き勝手にする。  
誰の言う事も聞かない。  
無論、自分が正しいと思った事であれば、実行はするものの、  
「他人に諂う」という感情は持ち合わせていない。  
 
これも全て自分の意思で、自分の為にやっている事だと。  
 
そうだ、俺は―――――  
今はファリンを手に入れたい。  
俺の傍に置いておきたい。  
俺の物にしたい。  
ただそれだけだ。  
 
同情したわけじゃねぇ。  
いや、こうする事こそがこの阿呆にとっては同情なのかもしれねぇ。  
 
だが―――そうだ。  
俺がどう思ってるか、だ。  
俺が同情のつもりでしていなければいい。  
それだけの話だったな、今更考えることでもねぇか。  
 
「阿呆。股開け・・・そのままじゃ何も出来んだろうが」  
「ごめんなさいですぅ〜・・・」  
 
何かを躊躇っているように見えた。  
覚悟を決めたはずなのに、と自分自身を罵倒するように目の前の女は涙していた。  
 
そこには・・・  
 
「・・・あの糞虫共が」  
 
股の間に、特殊な塗料を用いているのだろう。  
 
"Fuck me!!" "Please your cock!!"  
 
 
 
そう書かれていた。  
必死に擦って落とそうとしたのか、酷く傷ついてもいた。  
こいつが泣いていたのは、これの所為か。  
 
「こうなるなら見せなきゃ駄目だって、分かってたんですけど・・・けどぉ・・・」  
 
何も言わないまま、気にする素振りを見せぬように続けた。  
考えたくなかった。  
ファリンがどんな仕打ちを受けたのかという事。  
そして恐らくは、まだ漆黒の中に一緒になってヤった下衆が居るだろうという事。  
 
「ん・・・はぁ、ひゃぅっ・・・」  
優しい愛撫に敏感な反応を見せる。  
甘い吐息、恍惚とした囁き、普段味合わぬ体温。  
 
自分の中の欲求を推し進めていく。  
「はぁ・・・ん、アルベルさんも、一緒に―――」  
 
私はもう大丈夫だからとファリンはアルベルを立たせ、ある程度いきり立ったそれに口をつけた。  
丹念に舌を這わせるが、何処か拙い。  
「んっ・・・うぅん、んむぅ・・・」  
 
だが、普段とのギャップの激しさがその拙さを埋め合わせた。  
 
「もういい。・・・お前の方も大丈夫だろう?」  
足の指をスリットにそって滑らせると、すぐに喘ぎが漏れた。  
 
「聞くまでもねぇか」 
 
ファリンの両足を開き、自分自身のそれを強引に沈めて行く。  
「ん、はぁぁっ・・・!!い・・・っ!!」  
どちらかというと苦しみと取れる声。  
そして表情。  
 
「我慢しろ。もたもたしている暇なんかねぇだろうが」  
 
唇を噛み締め、耐えている。  
それを無駄にしない為に、多少早めに腰を動かした。  
それ以上に、この状況に対しての純粋な興奮もあったのだが、認めなかった。  
 
ファリンを起こし、抱きかかえてベッドの端に座る。  
一瞬浮き上がり、そして突き刺さる。  
生まれ育った星の重力で身を抉られる。  
 
次第に、次第にではあったが、痛みよりも味わった事のない何か・・・  
要は"気持ち良い"という感覚を得つつあった。  
アルベルの行為はお世辞にも優しいとは言えないのだが。  
声にも同じく、嬌声が混じる。  
 
「アルベルさんっ・・・あぅっ、ひゃぅっ!アルベルさぁんっ!!」  
無意識の内に、男の名を叫んだ。  
肩に回した両腕にも、ぎゅうっと力がこもる。  
 
大丈夫、愛しい人はここにいる。  
だから何も怖いことなんてないんだから。  
 
「ひぃ・・・ああっ、もう、ダメですぅっ・・・!」  
突かれ、抉られ、掻き回されて。  
どうしようもない程の、今までなかった感覚が身体中を支配する。  
互いに慣れていなかった為か、果てるまでにあまり時間は掛からなかった。  
 
「はぁん!イっ・・・イキますぅっ!!」  
「くぅっ・・・!!」  
 
この時、半ば強引に唇を奪った。  
一瞬驚いて目を見開いたが、初めて味わう本物の絶頂に恍惚し、受け入れた。  
そのままアルベルのものから熱い液体が注ぎ込まれる。  
中で幾度となく脈打ち、やがてそれも沈静化していく。  
引きぬかれたそれを、ファリンは口に銜えて尿道を吸う。  
残っていた白濁液が舌に絡む。  
 
「はい、綺麗になりましたよぉ〜」  
口を離して、持ち主の横に寝そべる。  
何時までも感じていたい甘美な時。  
ふと、頭の中を過ぎる考え。  
 
私は元凶―――ヴォックスを倒すことで、シーハーツ軍へと戻るつもりにしている。  
受け入れてくれるかどうかはともかくとして、それが正しい道だと信じている。  
けれど、それは幾人もの人を裏切る事にも繋がる。  
 
アルベルさんも例外ではなくて。  
この幸せをくれた、アルベルさんでさえも。  
 
「泣くな阿呆。泣くのは全部終わってからだろうが」  
 
 
 
そう  
 
涙が頬を伝うのは  
 
貴方と離別しなければならない事を 改めて理解したから  
 
「泣かせてください、この涙は―――今日というこの日が、幸せだった事の証ですから」  
 
 
 
翌日。  
 
「やはり、貴様は奴等のスパイだったというわけか。無理矢理にでも始末すべきだったが、構わん。  
 貴様程度、私の手で葬れぬはずがない」  
 
ヴォックスの前に相対する。  
強い。  
生きた心地がしない。  
 
でも絶対に生きて帰る。  
そう決めた。  
あの人に、会う為に―――  
 
数分後、星の船が飛来し無情にも兵達の命を根こそぎ奪い尽くした。  
ヴォックスでさえも例外ではなかった。  
 
 
 
カルサア修練場。  
慣れ親しんだその地に近付く一つの影。  
赤い液体を滴らせ、ゆっくりと一歩ずつ歩を進めていく。  
 
「あと、少しでっ―――アルベル・・・さんに、会えますぅ・・・また、私の・・・事、阿呆って―――」  
 
 
 
赤い光。  
そして暗転。  
 
真に無情だったといえるだろう。  
星の船は、感情を見せる事なくその影を撃ち貫いた。  
 
 
 
「死にに行けなんて、命令してねぇっ・・・この、阿呆っ!!」  
そして更に数分後、傍らに立つ男。  
「認めねぇ、俺は―――認めねぇぞおおおおおおおおおぉぉっ!!!」  
 
あの時のように、男は力の限り叫んだ。 

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