「よく施術なんて不安定な物に頼れるわよね、私はパスよ、パス」  
 
初めてメリルと会った時、これだけ言われた。  
恐らく彼女はその事は覚えていないだろう。  
 
今でこそ、クリエイターとスポンサーという関係に在るが・・・  
彼女は僕には興味を抱いてはくれない。  
 
見てほしい。触れてほしい。聞かせてほしい。愛してほしい。  
 
全ての君の感情を受けとめたい。  
それは叶わぬ夢なのだろう。  
そう、思っていた在る日の事だ。  
 
たまには一人一人自由行動をしようというクリフの提案に、皆賛成した。  
アッという間に一人になって、思い浮かんだ"やりたい事"。  
それは―――  
 
「あら、フェイトじゃない。この工房に顔出すなんて珍しいわね」  
彼女が僕に真っ先に気付いて、軽く手を振る。  
「やっほー、元気してたー?」  
「おおっ、早速ワシの発明品を披露せねば!!」  
「ゲッ!またツバ飛ばさないでよっ!!」  
この三人のこのやり取りも、イザーク完成の時以来見ていなかった。  
アーリグリフの工房には土地柄か、滅多に足を運ばないからだ。  
 
その為僕という来訪者をいささか驚いたような視線で見る三人。  
一方イザークはというと僕に気付かぬまま作業に没頭していた。  
 
「はは、相変わらずだね皆・・・安心したよ、うん」  
「それで、何かあったの?」  
「あ、うん。作業の捗り具合をこの目で確かめたくてね」  
 
本当は、君に会いにきたんだと言いたいけど言えない。  
言ったところで、何も変わらないだろうから。  
それよりも、今のこの関係すらも崩れてしまう事が嫌だ。  
『何か無いと来たらいけないのか』と思ってしまうのも嫌だ。  
なんだかんだと理由をつけて、言う勇気がない事を隠しているのも嫌だ。  
そうやって、自己嫌悪に陥っている。  
 
「んー?・・・そうじゃなくて、何かあったんじゃない?」  
ただそこに居る知人を心配しただけなのだろう、彼女にとって。  
それでも十分過ぎる程に嬉しいのだが―――  
 
「大丈夫、心配要らないよ」  
「そうは見えないんだよね。・・・バニラ、さっきのアイデアテキストに纏めといて」  
「うん、分かった。納期近いし、早めに帰ってきてよ」  
 
さあ、と促されるままに酒場へと出向く。  
土地柄か、酒のあるこの場所は自然と活気づいている。  
子供も大人も関係無しに酒を飲むのがこの場所だ。  
「フェイト、何があったのか教えてくれない?このままじゃ私気になって仕事も手につきそうもないのよね」  
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」  
「ちょっと待って、ええと―――」  
メリルもやはりここに来たからにはと、酒を頼む。  
無論元々この極寒の地の産まれではないし、配属されるまで飲んだ事はない。  
その為子供が飲む度数が非常に低い、殆どジュースのようなものだ。  
「僕は・・・」  
フェイトに到っては酒など飲んだ事がなく、何を注文すればいいのか分からなかった。  
が。  
「これでいいんじゃない?」  
勝手に頼まれてしまった。  
しかも現地の人しか飲まないようなキツイ酒だ。  
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」  
「え・・・これって」  
「だって、"ヘベレケ"になりでもしなきゃ教えてくれないでしょ?とにかく、付き合いなさいよね」  
いや、それ以前にダウンしそうなんだけど・・・と、告げてももう遅い。  
「ブルーベリィアンバーエール、アーリグリフ特産ウォッカ"バンディット"お待たせしました」  
 
・・・キャンセルって出来ないんだろうか。  
彼女は多少なりとも飲んだことがあるだけあって、特に違和感なくグラスの液体を飲みこんでいく。  
マズイ。  
これは・・・正直飲める自信がゼロに近い。  
でも拒むと彼女の気持ちを台無しに―――  
 
「ここは覚悟を決めなきゃ―――!!」  
ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ・・・  
「って、そんなにいっぺんに飲むと―――――!!」  
 
一撃必殺、即暗転。  
 
暗闇の中に、一筋の光が差し込む。  
意識が徐々にはっきりして、何があったのかを思い起こす。  
ああ、なんて浅はかな行いだったのだろうか。  
こうなると分かっていたはずなのに。  
・・・結局、あの後どうなったんだ?  
線だった光が、次第に視界全部に広がり―――  
 
何度か見た覚えのある天井。  
そしてこの寒さと、窓の外の景色。  
アーリグリフの宿屋だ。  
何故僕はこんな所に居るんだろう?  
メリルが―――彼女が運んでくれたのか?  
彼女は何処にいるんだ?  
疑問符ばかりが浮かび上がる。  
部屋の中には作られて間も無いのか温かいスープが置いてあるだけ。  
だが当人の姿は何処にも見当たらない。  
外は久方振りの吹雪だ。  
宿屋から出たとは考えにくいのだが。  
 
気になった。とにかく一言礼も言いたかった。  
立ち上がる。ぐらりと視界が泳ぎ、膝を抑えて無理矢理態勢を維持した。  
ゆっくりゆっくりと歩を進め、階段を降りる。  
他の客が数人暖炉の前で固まっていた。  
「あ、あの・・・」  
メリルの事を尋ねようと声を出した矢先、暖炉に固まっていた客達が一斉にフェイトに視線を向ける。  
そしてやはり一斉に声を投げかけてきた。  
「やっと起きたかこのガキっ・・・何度起こしたと思ってやがる!?」  
「あのお嬢ちゃん、"仲間"に迷惑掛けてられないからってこの吹雪の中ファクトリーへ向ったんだよ!!」  
「早く追っかけてやりなよ、私等じゃファクトリーの位置が分からなくてさ―――」  
言葉は途中で聞こえなくなった。それはそうだ。  
僕は聞いてる途中で吹雪の中に飛び出したのだから。  
 
全然前が見えない。  
こんなんじゃ、ファクトリーの場所を知ってても迷ってしまうかもしれない。  
微かに見えた家路の壁伝いに歩く。  
まさか何処かで行き倒れにでもなっていないだろうか?  
そんな不安が頭を過ぎり、恐怖した。  
 
 
 
何とかファクトリーに辿りついた。  
近くをきっちり見渡しながら歩いてきたが、彼女らしき影は見当たらなかった。  
 
ガチャリ。  
ドアを開け、中の喧騒を期待して―――  
 
「あれ?フェイト。メリルは一緒じゃないんだねぇ?」  
 
バニラの発したその言葉に、淡い期待はすぐさま打ち砕かれた。  
ガチャッ。  
乱暴にファクトリーの扉を閉め、バニラの問いかける声を無視して走る。  
 
見逃したのか、迷ったのか。  
どちらにせよ、最悪のパターンに変わりはなかった。  
吹雪は更に強まっていく。  
立っている事さえままならない程に。  
更に身体が頭からぐらつく。  
急に走った所為か、また気分が悪くなった。  
 
殆ど這うような形で、白く染まったアーリグリフを掻き分けていく。  
 
見つからない。  
見つからない。  
見つからない。  
 
駄目だ駄目だ駄目だ!!  
こんな事で諦めてどうする!!  
彼女は―――メリルは、この中でまだ苦しんでるかもしれないんだぞ!?  
まだ雪を掻く力は残っているだろう!?  
まだ雪を踏み拉く力は残っているだろう!?  
まだ、まだ―――!!  
 
 
 
北に、南に、東に、西に。  
とにかく、行けるところは全て行った。  
アーリグリフの中はもう捜し尽くした。  
 
・・・待てよ。  
アーリグリフの中は・・・!?  
 
「もしかしたら!!」  
最後の希望のヒト欠片を追い求めて、東へ向った。  
橋の上は最早雪しかなかった。  
くっきりと見えるはずの二つの柱は、その姿さえ望めない。  
 
しかし、はっきりと見えた。  
一人の、人間の身体。  
雪に横たわる身体が。  
 
「メリルっ!?しっかりしろっ!!」  
パンッ、と思いきり頬を叩く。  
 
―――身体が冷たい。  
とにかく、アーリグリフへ戻らないと!!  
 
メリルを抱えて、一歩一歩歩を進める。  
微かにだが、息はしている。  
顔の横にきている彼女の唇から、弱弱しい息遣いが感じられる。  
 
「せき・・・にん、あるの、私・・・帰らな、きゃ」  
掠れた声で彼女は言う。  
自覚はしてないようだった。  
「がんばら・・・ないと、契や、くが・・・き、られちゃぅ・・・」  
 
 
 
「フェイ・・・トと、会えなく・・・なる、じゃなぃ・・・の」  
彼女が本気なのか、冗談なのかはこの時のフェイトには判断がつかなかったが―――  
 
残ったエネルギーを掻き集め、絶対に死なせるものかと奮起させるには十分過ぎるコトバだった。 
 
暗闇の中に、一筋の光が差し込む。  
意識が徐々にはっきりして、何があったのかを思い起こす。  
・・・この前と同じだ。早く目を覚ましてくれ。  
彼女がどうなったのか、一刻も早く―――――!!  
 
 
 
何度か見た覚えのある天井。この寒さと、窓の外の景色。  
そして、横にはメリルの寝顔。  
雪の中で見た彼女と比べると、血色もいい。そっと頬に触れても、温もりを感じられる。  
 
それを知った瞬間にどっと疲れが出た感じがした。  
代わりに、何物にも代えられない大切な物を守る事が出来た。  
十分だった。  
「目、覚めたんだね」  
メリルは・・・彼女は小さくガッツポーズしてた僕に、後ろから声を掛けた。  
「え・・・起きてた?」  
コクリ、とゆっくり頷いた。  
さっき頬に触れた事について何か言われるかと思い、打って変わって胸がバクバクした。  
 
「助けてくれて、ありがと」  
そんな事は全く気にも留めていないといった様子で―――  
 
彼女は僕とそっと口付けを交わした  
 
この時がずっとずっと続けばいいのにと、一瞬そんな馬鹿な事を考えた。  
唇は当然のように離れ、メリルはベッドから降りた。  
 
「私は"命を助けてくれたお礼"ってだけで、こんな事しないからね」  
するり。  
彼女の纏っていた衣服が床へと滑り落ちる。  
 
何をするつもりなのかは、一応は分かった。  
「・・・いいのかい?」  
その姿のまま僕の身体の上に乗りかかってくる。  
「いいもなにも、フェイトじゃなきゃイヤなの」  
そしてもう一度、長い長いキスをする。  
 
今度は時間が止まったんじゃないかと思える程の時間、そうしていた。  
「・・・んっ!?」  
と思いきや、彼女は舌を入れてきた。  
歯も舌も何もかもすべて愛でるように舐め、一通り舐め終わると唇を放した。  
さすがに酸素が欲しくなり息継ぎをする。  
 
「ん・・・はぁ、はぁ・・・まさか舌入れてくるとは思わなかったな」  
「幻滅した?」  
「全然気にしてないよ。・・・でも何処で覚えたんだい?今の」  
メリルは少しコトバに詰まった。  
聞くべきじゃなかったか、と僕は後悔した。  
けど彼女は笑った。  
「昔さ、施術の研究してる人と付き合ってたのよ。その時に色々教えてもらってね、  
 最初物凄く仲が悪くてね、"ペターニの科学力は世界一ィィィ!!"とか"その言葉宣戦布告と判断する!当方に施術の用意あり!"って、よく言い合いしてたっけ」  
そこから彼氏彼女の関係に発展するまでどんな経緯があったのか小一時間程問い詰めたくなったが、  
一応真面目な話なのでやめておいた。  
 
「その後お互いに良い点悪い点を施術と科学、同時に扱う事で補えるんじゃないかって思ったんだけど・・・  
 彼がその実験中事故を起こして―――彼を失った事もショックだったけど施術と科学は相容れない物なんだなって再認識して、  
 それからかな、余計に研究に熱が入ってね。計算し尽くされた物をどんな事してでも完成させたくなったの」  
 
それが施術アレルギーの原因か。  
「でも、人間関係だけは駄目ね。計算なんて出来ないもの。特に―――好きな人への対応の仕方なんて、全然」  
 
「ごめん、悪い事聞いちゃったね」  
メリルは慌てて首を横に振り、気にする必要ないよ、と言った。  
 
「彼には良い思い出を貰ったけど、それ以上はもうどうしても貰えないから。  
 振り切るものは振り切らないと、前に進めないじゃない?」  
「強いな、メリルは」  
率直に思った事を口に出した。  
僕は父さんや母さんと別れた時・・・廻りの事を全く考えずに勝手に動こうとした。  
肉親が危険な目にあっているなら助けに行くというのは当然のことだけど、  
それがスフレやソフィアを巻き添えにするという事を全く理解していなかった。  
 
「そうでもないかな。だって、振り切ろうって決心したのは・・・フェイトに会ってからなんだからね?」  
え?  
「忘れてるよね、いや・・・覚えてないって言った方がいいのかな。フェイトとは契約前に一度会ってるの」  
 
―――あ。  
"よく施術なんて不安定な物に頼れるわよね、私はパスよ、パス"  
 
「最初は何の事はないタダの"お喋り"だと思ってたんだけど・・・  
 今になって思うの。何故ペターニであんな事をよく知りもしない人に言ったんだろうって」  
 
ペターニの街に初めて訪れたあの日、僕は集合時間まで街中を歩き回った。  
ギルドに登録して、酒場に行ってそして―――メリルと出会った。  
ただ、この街の事やアーリグリフの事、つまるところとにかく情報源が欲しかったのだ。  
それなのに、彼女は『自分の事』を話した。  
それが妙に心に残り、契約出来ると分かった時には驚いたものだ。  
工具セットを渡した時の喜びようを見て、胸が高鳴ったのも覚えている。  
恋を自覚したのはその時だ。  
 
「フェイトが初めて私の前に来るちょっと前に、テレグラフから連絡があってね。  
 先にフェイトの事を知っちゃったの」  
 
 
 
(・・・似てる)  
 
偶然だろう、と思った。  
外見とかそういう単純な物じゃなくて、もっと分かり難い何か―――  
頭の中に靄が掛かってて、それ以上は分からなかった。  
分からないならそのままにしておきたくない、もし彼がクリエイターならきっと何時か会えるだろう。  
そんな風に考えていた傍から、貴方が私に声を掛けた。  
じっと、真っ直ぐに、フェイトは私を見据えた。  
 
ああ、そうか。私は彼のこの瞳に―――  
この純粋な瞳に―――物事を真っ直ぐ見据える瞳に、彼を見たのだ。 
 
「ほんっと、冗談みたいな理由よ。なんてことはない、ただ引き摺られてただけ」  
そう、最初は彼と一緒に居られるようだったから。  
"本人"には目を向けず、"彼"を追っていた。強くなんかないの。  
それでも、"彼"が霞んでしまう程に私を夢中にさせたのは、あの二人の事もあったかもしれない。  
 
「メリルはさー、何でフェイトの所で働く気になったのー?」  
「そりゃ儂も聞きたかった事じゃ、気になるのぅ」  
初めて仕事を始めた時、バニラとデジソンが視線を向けぬまま作業に没頭する私に声を投げかけて来た。  
「丁度欲しかった工具セットをくれたからね」  
嘘ではない。だが、100%真実かと言えば嘘だ。  
確かにそれはあったが、二割方占めていた程度だろう。  
見抜いていたのか、同僚は不服そうだった。  
「それだけー?」  
「それだけで見知らぬ男に手を貸すとは思えんがのぅ」  
確かに。アニスは限定ドルフィン、ミスティは魂玉石、マユに到っては癒しネコ。  
リジェールがゴールデンカレー、エリザとアクアは生活資金。  
生活資金組は分かる。そりゃあ、背に腹は変えられぬ状況だったのだから。  
ミスティはとても大切な物だから、と今でも部屋に置いてあるようだった。  
リジェールは・・・その場で食べてしまったみたいだけど(ただ欲求に負けただけなのだろう)、  
納得いかないのがアニスとマユ。そして、私自身。  
その程度の事で力を貸す気には到底なれないと思っていた。  
けど、もし―――ソレ以外の要因があったとしたら。  
 
「フェイトさん・・・素敵ですね」  
工房内で、マユとアニスが話している所をいけないと思いつつも盗み聞きしてしまった。  
「アニスさんもそう思います?」  
「ええ。廻りにはソフィアさんやマリアさんも居ますし、フェイトさんが如何思ってるのか聞けないですけど・・・」  
「廻りに居るから絶対そうとは限らないじゃないですから!私だって負けてられません!」  
「さ、何時までも話してないで作業をしましょう。フェイトさんの為です」  
残酷な会話だと思った。その時思ったの。  
「ただ工具を貰っただけでついてきたなら、残酷だなんて思わないよね」  
負けたくないって嫉妬心が少なからず在ったんだろう、って。  
 
「でも今は違うから。フェイトと"彼"は違う。フェイトはフェイトだもんね」  
「それが分かるんだから、やっぱりメリルは強いよ」  
違う。  
それに気付けたのは、フェイトのお蔭。  
街の外に一歩出ればそこはもう地獄。  
その地獄を悠々と進み化物を退治して、疲れているにも関わらず会いに来てくれた。  
それはただ作業の進み具合を確認に、とかその程度の事なのかもしれないと思ったけど、  
それでも私は嬉しかった。  
 
―――彼とは、違う。  
彼は、私の事なんか放って研究に没頭したもの。  
そしてそのまま・・・  
「強くなれるのは、フェイトのお蔭。だから、ね―――」  
 
「もっともっと、私を強くして・・・お願い」  
 
 
した事はある。彼女はそう言っていたけれど、メリルは思いの他緊張しているようだった。  
だがそれは僕も同じ事。  
 
「あのさ、一応僕は初めてだから・・・間違ってたら教えてくれる?」  
一瞬、彼女は呆気に取られたようだった。  
・・・そりゃ僕だって健全な男だし、誰かとしたかったさ。  
けどソフィアはずっと知ってる所為か、そういう対象に見れなかったんだ。  
他に仲が良い娘を作れなかった僕の責任でもあるんだろうけどさ。  
 
・・・確か、ここに入れるんだったと思うんだけど。  
昔見たそのテの本の内容を思い出しながら、彼女の秘所へと手を伸ばし、自分のソレの狙いを定める。  
「出来れば、最初からそこじゃなくて胸とかからが・・・いいかな」  
「・・・ごめんなさい」  
「何で謝るの?」  
「いや・・・さ、なんか、もう」  
言葉になりません。何度謝っても足りません。本当にごめんなさい。  
「別に気にしてないから・・・ね?」  
軽く胸を擦り、揉み解し、先の突起を弄ぶ。  
彼女の口からは普段、強い意志の篭った言葉が紡がれる。  
だが、今はそれが影すらも見せない。  
目の前に居る少女の、何としおらしいことか。  
「可愛いな」  
「ど、どうしたの?急に・・・」  
「いつものメリルを見てると、想像もつかないからさ。あのメリルが―――」  
 
「僕の前で裸になって、恥ずかしそうにしてる」  
綺麗と張った乳房と上向いた乳首を弄りながら、耳元で囁く。  
恥じらう姿が見たかった。  
さっきから、胸の奥がうるさいくらいに鳴っているから。  
「私あんまり他人に弱い所とか見せないようにしてるの」  
「僕にだけ弱い所を見せてくれればいいさ」  
「うん、そのつもりだから・・・」  
 
数分、彼女にとっては退屈だろう時間だが、反応を見ながらコツを掴もうとしていた。  
ただもっともらしい事をするだけでは、普通以上の快楽は与えられないと。  
そういう事も同時に感じていて。外的要因が他にも必要なのだろう。  
例えば羞恥心、例えば嫌悪感、例えば背徳。  
さっきから高鳴る鼓動に忠実に、単純に恥じらう姿を見ようとするなら。  
それは羞恥心を煽る事と変わりがなくて。  
「じゃあ・・・そうだな―――」  
 
 
 
「フェイト・・・幾ら外が吹雪でも―――誰かに見られたら恥ずかしいじゃないっ・・・!!」  
アーリグリフの宿屋、二階の窓。  
普段誰も見ないし、外が吹雪であれば尚更そんな所は見ないものだが、  
窓に張り付いた状態で行為をしていた。  
「いいじゃないか、見てもらえばさ。僕にはまだメリルを悦ばせられるだけの技術もないし、  
 それなら別の部分で気持ち良くなってもらわないと、申し訳無いし」  
「だからって、こんな―――ん、はぁっ」  
(私、感じてる。見られそうだから―――?)  
明らかに自分の体温が上がってるのに気付いた。  
ただ、手で軽く臍の辺りを撫でられただけだというのに、その状況が過剰に興奮させて声を漏らしてしまう。  
フェイトが身体中に口付けをする。  
首に、肩に、乳房に、唇に、背中に、臍に。  
寄り掛かっての行為なのでそれ以上は出来ないものの、たったそれだけで熱くなる。  
「もう、大丈夫だから。入れていいよ」  
違う。  
"入れていい"というのは建前で。"入れてほしい"んだ。  
触れなくとも、液体が伝って落ちるのが理解出来た。  
見られる、という事などこの際どうでもよくなっていた。  
そしてそのまま後ろから、いきり立ったモノを丁寧に宛がい挿入する。  
 
「く・・・ぅっ」  
多少窮屈そうだとは思った。  
窓に顔も胸も押し当てて、正に"見せるように"しているから。  
ただの一度のピストンだけで、ぎしりと窓枠がしなる。  
「凄いな・・・メリルの中、暖かくてぬるぬるしてる」  
初めて味わう女性の中。  
酔って狂って、快楽を貪りたいという思いに駆られる自分が居る。  
「色んな・・・んっ!ところ、突いて・・・ゆっくり、慌てずに・・・はぁんっ!!」  
 
雪の降り注ぐ風景をバックに、数分間行為に没頭した。  
 
そして一区切り。  
「ごめん、メリル。僕もう・・・」  
「うん、私も暫くシてなかったから、一緒に―――!!」  
 
何度か出し入れした後、メリルと口付けを交わしながら一際強く腰を打ちつける。  
刹那、メリルの膣でペニスが脈動し、白い液体を奥へ吐き出した。  
 
と、同時に。  
ガタンッ!!  
「きゃぁっ!?」  
「うわぁっ!!!」  
 
・・・同時に窓の鍵が壊れ、メリルの半身が外に投げ出されかける。  
そして下に居た方々が悲鳴を聞きつけ―――  
 
「どうした若いの!!・・・・・・・・・あ」  
「メリル、あぶな・・・・・・・・・あ」  
「なんとか大丈夫、フェイ・・・・・・ト・・・」  
目を見合わせる。  
身体中の血の気が引くのを感じた。  
 
「・・・これは・・・本当に若いねぇ、私達じゃ今じゃこうはいかないもんだよ・・・」  
「本当ですなぁ・・・昔は儂も若い女子を・・・」  
「目の保養じゃ目の保養じゃ・・・ありがたやありがたや」  
 
「でッ・・・でッ・・・・・・出て行きなさいよっ!!あんた達ぃー――――――っ!!!!」  
 
雪の降り頻る街、アーリグリフ。絶叫の後、暫くして平手打ちの音が響く。  
 
翌日。  
「おう、フェイト。お前昨日何処に・・・なんだその顔の跡は?」  
「・・・聞かないでくれるかな、クリフ」  
 
「だからあんな所でするのはよそうって言ったのに・・・っ!!」  
不機嫌ではあったが、それの代償は得た。  
「あれ・・・メリルー、何?その首飾りぃ」  
「ほほぅ・・・お嬢もとうとう女に目覚め・・・おごぶっ!!」  
 
デジソンの顔面は裏拳によって潰された。多少形が変わってしまうことだろう。  
仕方ないなぁ、といった風にデジソンの後始末をするバニラはすれ違いざま、メリルに改めて問う。  
「言いたくないならいいけどさぁ、教えてくれると嬉しいなぁ」  
「・・・恥ずかしい思いさせられた慰謝料よ」  
それと―――  
「何か身につけてれば、何時も傍に居てくれてる気がするから」  
首飾りに優しく触れながら、呟いた。  
今日も明日も明後日も、あの時と同じ雪の降る日。 

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