春、それは新しい出会いの季節。
ここムーンベース第一大学病院は騒がしかった。
ぴんぽんぱんぽーん。
「あー、あー、アローッアローッ聞こえますかーッ!大学教授の皆様コンニチワーッアローッ!」
「本日は晴天なりー。キテ○ツおやつ何処なりかー?」
早速本日付けで受付嬢となった女性、ウェルチが暴走していた。
変な放送の流れる中、逆に迎え入れる側―――
医大生でありロキシ院長の息子フェイトは自分の職場である内科へと向かっていた。
「聴いた事無い声だったなぁ…でも今時コロ○ケはないだろうと思うけど(初日からクビになったりするんじゃないか…今の人)」
「あ、フェイトー!」
後ろから呼び止められ振り向くと、
幼馴染であり看護学生のソフィアが手を振っていた。
「ソフィア、ここは一応病院なんだからあんまり大きな声を出さないでくれよ」
「ごめんね。今日学校の方がお休みだから手伝いに来たの」
彼女は暇が出来ては手伝いにくる。
病院というのは人手が足りているという事は殆どない為、
非常に有り難い存在であった。
「そうか、じゃあ―――」
「うん、何時もの通り小児科だから終わったら御飯でも食べに行こうね」
毎度毎度こうして下から見上げられる時はドキッとしてしまう。
ただ、幼馴染という壁は予想以上に大きくぶ厚くティーゲルの88mmですらも撃ち抜けそうにはない。
そもそもその感情が恋愛のそれとは違うという認識があった所為なのだが。
「んー?どうしたの?顔赤いよ?」
「あ、うん。ちょっと熱っぽくてさ」
「医者の不養生かぁ」
「そんな大袈裟な物じゃないって」
言えるはずがない。
こんな往来…というかの病院の通路で"ソフィアが可愛かったから"なんて。
第一そんな事言ったら―――
「あ、もうこんな時間……じゃ、行ってくるね。フェイトも頑張ってー」
「ああ、ソフィアもね」
彼女は小走りで去っていく。
そしてそれを見て、自分も時間がない事を思い出し彼女以上のスピードで院内を駆け抜けるのだった。
「おッ…遅く、なりました……っ」
結局少し遅れてしまった。
一応先輩なのに情けない所を見せたなと自分の愚かさを悔やむ。
「フェイト先生…正式な医師でないとはいえ彼等の先輩なんですからしっかりしてください」
「す、すみません」
婦長のミラージュさんから呆れたような声でお叱りを受ける。
謝るしかなかった。
くすくすと笑う声が研修生達から漏れているのが分かる。
顔から火が出そうだった。
しかし仕事はしなきゃならない。
彼等にここの説明を―――そう思い顔を上げた時、ふと目に入った一人の研修生。
感情の揺れを欠片も見せぬ、そしてフェイトと同じ蒼い髪の女性。
凛とした顔立ちとその様子から酷く無愛想な人なのかという認識ができた。
「見苦しい所を見せてごめんなさい、僕はフェイト=ラインゴット。
貴方達の指導医は別に居るのですが、今日は出払っていますので僕が進行させていただきます。
当第一内科で研修を行う者は四名―――」
一人一人名前を読み上げていく。
そして最後に。
「マリア=トレイター」
「はい」
あの女性。
初めて聴いた彼女の声は、凄く綺麗だった。
一通り説明するべき事は説明し終わって、
フェイトは彼と彼女等に一人一人受け持ちの患者を振り分けていく。
「マリアさん、ですね。貴方には―――」
「マリア、で結構です。先輩といえど気を遣うのも遣われるのも慣れていませんので。
貴方も医大生だというのなら余計に」
「ああ、分かった。じゃあマリア、君の受け持ちはここに居る患者さんだ。
病状が芳しくないらしくて、ペターニ総合病院からここに転送されてきたんだ」
一つの部屋に案内する。
寝ているのはソフィアとうり二つの少女。
「あ、先生。おはようございます」
そしてその横で看病していた男性が会釈する。
「彼女、落ち着いているみたいだね」
「ええ、暫くは発作もないだろうと看護婦さんに」
「良かった。それじゃ紹介するよ、彼女が君が担当する患者でアミーナさん。
一緒に居る彼はディオンさん、彼女の恋人さ。で、ディオンさん。
こちらの女性が今日からアミーナさんを担当するマリア先生です」
マリアを紹介した時、彼女ははにかみながらも笑顔を見せた。
「宜しくお願いします、何かあったらいつでも言ってくださいね」
さっきまでと全然違う、自然な態度。
今日会ったばかりなのに妙に新鮮に感じられた。