「お腹空いた」  
ペターニの宿で休んでいた時、唐突に部屋を尋ねてきたリジェール。  
その第一声に絶句する男性陣。  
無論女性陣は別の部屋である。  
正気に戻った彼等は口々に好き勝手な事を言い出す。  
「…いきなり俺達の居る部屋に来たと思ったらそれか」  
「まあリジェールさんらしいといえばらしいですけど」  
「第一お前の担当はカルサアだろうが。何でここに居やがるんだ阿呆」  
「うひょー、誰かと思えばメラオイラの好みなお姉さまじゃんよー!  
 オイラを!オイラを是非食べておくれよー!」  
「んな事言ってると本当に食われかねないぜ」  
「リジェールさんだもんなぁ」  
「料理人だったらテメェの飯くらいテメェで用意しやがれ」  
「オ、オイラちょっと揚げ物にされたり焼かれたりは嫌だなぁ…」  
リジェールを目の前にして、マシンガントークを繰り広げる男達。  
男達の喋りを遮るようにして、彼女は。  
「っていうよりねー…男分が不足してきたの」  
一拍置いて、恐る恐るフェイトは聞く。  
「男分?」  
「うん、男分」  
さらりと答えるリジェール。  
クエスチョンマークを浮かべたアルベルが率直にまた聞く。  
「それは糖分とか塩分みたいなものか?」  
「そう。真面目に仕事してると減ってくるのー。  
 男分が足りなくなると、欲求不満から集中力・思考力の低下が引き起こされまーす」  
最早手遅れかとも思いながらも、フェイトは最後の質問を。  
 
「男分は…男に含まれてるんですか?」  
「当たり前だのクラッカー」  
寒っ。  
っていうか古っ。  
何時の時代だ、それ。  
それ以前に何故貴方は地球のネタを知っているのか。  
「たッ、大変だッッ!リジェールさんがッリジェールさんがもう駄目だッッ!」  
「お、お姉さま〜!しっかりしてほしいジャンよー!!」  
>フェイトは おかしくなってしまった  
>ロジャーは おかしくなってしまった  
「っつーかお前等も落ち着け。その反応じゃゲームも違う」  
騒がしい二人の頭を軽くぶつけ、正気に戻す。  
少し血が出てる気もするが気にしない。  
「そーゆーわけで……男分補給を希望するのです、サー」  
「うん、まあソフィアともマンネリだし僕はいいんだけど」  
>ふぇいと は服を脱ぎ捨てた!  
>りじぇる はうっとりしている!  
「フェイト…既にやる気満々かよ…」  
一般人に比べ大きいとはいえないがそれでも標準クラスのそれは、  
最早手の施しようがないほどに痛く大きく膨れ上がっていた。  
「まあ俺も暫くファリンとご無沙汰だったからな…」  
>あるべる は服を(略  
「アルベル、お前もか!!」  
「いや〜、オイラも昨日ネルお姉様が相手してくんなくってさぁ〜」  
>ろじゃー は(r  
ロジャーのソレはヤバかった。  
対艦ミサイルというか、トマホークというか、ICBMというか。  
な、なんだってー!!買カ ΩΩ  
そんな声が聞こえるような爆弾発言+巨大さ。  
「…ネルさんがたまに泊まってる宿に来ると思ったらそういう事だったのか」  
ぶっちゃけありえない。  
 
そして脱いでないのはクリフだけ。  
他の男達は最早ラスボスを目の前にしたウォーリアと化していた。  
現時点で一番冷静なのがクリフという事実。  
「あ"ー……まあ俺も確かに此の頃ミラージュとシてねーけどよー…流石に5Pはな…」  
「据え膳食わぬは男の恥、だろ?クリフ」  
「…いや、俺は止めとくぜ。見つかったら今度ばかりはミラージュやマリアにリンチ食らってもおかしくねぇからよ」  
元、とはいえリーダーだった者としてのプライドとか、  
そういう物が彼を引きとめたらしい。  
そのまま返事を聞かずに部屋を出る。  
 
「嬉しいですね、クリフ」  
ドアを閉めた途端、聞き慣れた声が聞こえた。  
「うおっ!?…ミラージュ、お前盗み聞きしてたのかよ…」  
自分が話に出した相手。  
そりゃあ驚くというものであるが。  
「どんな理由にしても、目の前の物に目が眩まないでいてくれたのは、  
 それなりに嬉しいものですよ。別に怒ってはいません」  
「あー……まあ、その、なんだ……」  
怒ってはいないとは言っても、  
ミラージュ自体が感情の起伏が見え難い相手だったし、油断出来なかった。  
「本当に嬉しいんですよ?」  
「あ、おい…ッ」  
人目もはばからず、ミラージュはクリフに口付けた。  
離れると、間に唾の糸がひく。  
2、3秒程のものであったが、昂ぶらせるには十分なものだった。  
「…ったく、どうなっても知らねぇぞ」  
「そう簡単に壊れるような身体してません。貴方の好きにして結構ですよ…クリフ」  
 
翌日。  
クリフ以外の男連中の目を覚ます気配がなく、  
仕方なしにマリアとソフィアが起こしに行く。  
ドアをノックするも、返事がない。  
「フェイト、いい加減起きなさい!」  
ドンドンと強く叩くが、それでも返事はない。  
「何やってるんだろうね、フェイト達」  
「……覚悟しておいた方がいいかもしれないわよ」  
「え?」  
第六感とか、女の勘とか、虫の知らせとか、そんな類の物。  
世界の危機よりも在る意味もっと強く感じられる嫌な予感。  
それはマリアの中に痛い程に湧きあがってきていた。  
「…開けるわよ」  
「は、はい…」  
ドアを開けた瞬間、むわっと嫌な熱気と性臭が身体に纏わりつく。  
そして目に飛び込む阿鼻叫喚の絵図。  
"枯れ果てていた"。  
既に居るはずのリジェールは姿を消しており、後には男の残骸が残っていた。  
「……………世界を救う勇者、ペターニの宿に死す…か」  
「しかも腹上死ですか………」  
正確には、死んではいなかったのだが。  
マリアとソフィアは、静かに、そして怒りをこめて武器を手にしていた。  
「塵ね」  
「塵ですね」  
数十秒後、ペターニの宿は跡形もなく吹き飛んでしまった。  
 
宿・その他絵画等修理代・賠償金 総計-1857500フォル也。  
勿論支払いはクリフを除いた男達につけられたものである。 

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