宿屋での夜――。  
アルベルは妙な雰囲気を察して目を覚ました。  
カチャっという音がした瞬間に飛び起きる。  
相手の首をつかむのと、額に銃を突きつけられたのは同時だった。  
 
「ずいぶんなご挨拶ね、アルベル」  
「何の用だ」  
お互いに腕を伸ばしたまま会話する。  
ふ、と笑ってマリアが銃を下ろした。  
「ずいぶんうなされてたから、一発撃ち込んで起こしてあげようと思って」  
「阿呆。それじゃ永眠するだろうが」  
「私の裸でも夢に見てたのならいいけどね」  
「夢に見てうなされるような裸って…」  
腕組みをして考え込むアルベル。しばらくして、ぽんと手を打った。  
「ああそうか、貧にゅ…」  
ダンッ!という音がして花瓶が砕けた。煙を吹く銃を手に、マリアがにっこり笑う。  
「今何て言ったの? 正直に答えたらハチの巣にしてあげるわ」  
「いや、何でもない」  
マリアの目が笑っていないのに気づいて黙り込むアルベル。  
その眼前で、マリアはいきなり服を脱ぎだした。しかも鼻歌付き。  
口を開けて眺めるアルベルをよそに、真っ白なブラジャーとパンティだけになると、  
横に座って首に手を回した。  
 
「私を抱いていいわ。喜びなさい」  
「そういうことはアイツにでも言ってやれ、阿呆」  
 
じわっとマリアの目に涙が浮かんだ。  
「フェイトはあの胸が大きいだけが取り得の黒豆女といちゃいちゃしてるわよ!  
ここの壁は薄いから筒抜けなのよ!  
しかもあいつらはわざわざ壁際にベッドを移動させてヤってるのよ!  
何が『だめだよソフィア、そんなに大きな声出したらマリアに聞こえるだろ』  
『あ〜んマリアに聞こえちゃったらどうしよう〜』よ!  
絶対あいつらわざとやってるんだわ、ひどい、ひどすぎる」  
さすがのアルベルもその境遇には同情した。  
「クリフもいるだろう」  
「あの筋肉男はミラージュとヤってるわよ!  
さすが大人よね、シミュレーターも何もないのにお医者さんプレイよ。  
しかも勃起不全のチンケシーフと淫乱女医でソフトSMよ!  
もう私、何も信じられない!」  
アルベルに抱きついて泣き崩れるマリア。  
なんとなくあきらめの心境で、マリアを押し倒した。  
 
「最近溜まってたし、貧乳でもまぁいいか」  
「何か言った?」  
「いや何も」  
 
アルベルの好みではなかったがマリアのプロポーションは見事なものだった。  
下着を剥ぎ取って、足を開かせるとそこはすでに濡れすぎていた。  
「フェイトの声でオナニーしてたのか」  
「そうよ、それなのに黒豆のキンキン声で冷めちゃったの…あんっ」  
マリアの話など聞いていてもキリがないので、指を一本入れてみた。  
感度はいいようだ。  
 
「それにね、フェイトったら黒豆の名前ばかり呼ぶのよ、私という女がありながら!」  
「そうか」  
「おせち料理に入った黒豆って見たことある? 重箱に同化して見えないのよ。  
黒豆なんて結局その程度でしか…」  
「いいから黙れ阿呆!」  
 
一喝されてマリアの体がびくん、と跳ねた。  
「…ごめん。私…ショックで…私だけ一人ぼっちな気がして…」  
涙を流すマリア。おずおずとアルベルの首に手を回して囁く。  
「お願い、優しくして」  
 
ああ、と返事をしながら適当にマリアの胸を左手でこね回すように揉む。  
右手は中指を膣に挿入し、親指で肉豆を執拗に責める。  
面倒だからさっさと済ませたいのがバレバレだった。  
「あ…あん…んんっ…お願い、もう…」  
自慰で相当に高まっていたのだろうか。  
適当な愛撫にマリアは身をくねらせてアルベルを誘う。  
「行くぞ」  
剛直を取り出して一息に突きいれた。  
「ああん! いいッ! フェイト、フェイトぉ〜!」  
「お前なぁ…」  
 
一瞬萎えそうになったが、それでもなんとか踏ん張るアルベル。  
「フェイトすごいわ! あーもうダメ!」  
フェイトの名前を連呼しながら喘がれてもうれしくもなんともない。  
勝手に腰を動かしてマリアは先にイッてしまった。  
 
「俺に迫るより素直にアイツを誘惑すればいいものを…」  
独り言に反応して、呆けていたマリアが起き上がった。  
「そうね!」  
「ん? うわっ!」  
アルベルは思い切り突き飛ばされてよろめいた。  
「教えてくれてありがとう! 今度からあなたのこと、影でクソ虫なんて呼んだりしないわ!」  
「呼んでたのか!?」  
「ええ!」  
すばやく服を着たマリアは、両手を広げ、夢見るように一回転した。  
「うふふ、そうよね、あの黒豆のできそこないの頭に風穴でも開けてあげればいいんだわ。  
そしたらフェイトは私の魅力にメロメロね。ああダメよフェイト、今はクソ虫が見てるわ」  
自分で自分を抱きしめるようにして、なんだか呟いている。  
キラキラした満面の笑みは、アーリグリフ騎士団の忘年会で  
抱きついてきた女装ヴォックスをなんとなく思い出させるものだった。  
「あの時はぶん殴って用水路に放り込んだんだっけなぁ…」  
 
過去の悪夢を振り払っているうちにマリアはいなくなっていた。  
フェイトの元に走っていったのだろう。 

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